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ハート探偵  作者: 住伏暗
高1編
17/38

第17話 サルベージ阻止

 きつい表現あります(性差別、性の話、暴力とかです)。余裕ある時に読んでくれたら嬉しいです。


 カナデさんを傷付けたハヤシが落としたのは、スマホじゃなくてハートコントローラーだった。それを拾い上げた蒼男を見て奴は、


「おいてめぇ、それは俺のだよ。返せよ」

「お前の? お前は一体…」


 蒼男と話して背を向けてる奴に、わたしは襲いかかる。しかし、またも鋸で防がれた。


「うおっ! 油断も隙もねぇな、化け物が!!」

「化け物で結構よ。友達(だち)を守れるならね!」


 こいつに化け物と呼ばれるのは二度目だ。にしても面倒な武器を持ってるな。その鋸は刃が大きいし、硬い。


「アン、こいつは誰……? このハートコントローラーは、こいつの持ってる物か…?」


 蒼男からの問いかけにわたしは、


「わたしの友達を傷付けたくず!」


 と答えた。教室の中から、


「住伏くん—————!!」

「大丈夫ー!?」


 ミカさんとレイナさんが声を掛けてきた。


「あぁ! 今悪い奴と戦ってるから、出てくんな!」


 ハンカチで傷口抑えてるカナデさんが目に入る。あのハンカチ、洗っても血が取れないのかな…。場違いにそんなことを思った。痛いだろうな。すぐにあの男倒すからな。

 蒼男が教室の中を見て、


「友達ってあの人たちか! ”ハート業界”の事件に巻き込むわけに行かないし、戦うなら時計台で…!」

「いいよ、すぐ終わらすから。お前、教室に入ってあの人たち守ってて」


 蒼男にお願いすると、彼は面食らった様子だった。


「えっ、守るって…、オレでいいの!?」

「戦うのがわたしだからよ。急いで!」

「わ、分かった…!」


 わたしに急かされて、彼は教室に入っていこうとした。よし、あの人たちのことは蒼男に任せられる。そう思った矢先のことだった。

 わたしの首に、鋸の刃が飛んできた。ざくっ!!


「うっ……!!」

「住伏くん!!」


 あ、危ねぇ…。咄嗟に左腕で防御しなかったら、やられてた………。それほど勢いのある刃だった。衝撃で三メートルほど弾かれたわたし。

 そして奴は、背後から蒼男に近付き、


「”揺鋸削(シーソーカンナ)”!!」


 彼を斬った。彼の背中を刃で擦り、木を平らに整えるカンナのように。


「……!! ———!」


 痛かったようだ。蒼男が転倒し、その手に持っていたハートコントローラーが落ちた。拾おうとする彼の頭を、ぐしゃっと奴は踏んだ。


「うぁっ…!!」

「返せって言ってんだろうが。ハートコントローラー!!」


 そのまま足でぐりぐりする。しかし彼は、


「嫌だ! 絶対返さねぇ!!」


 と譲ろうとしない。


「アンがお前のこと、悪い奴って言ってたぞ…! アンの友達を傷付けるような奴に、こいつは渡さねぇ!!」


 コントローラーを取ろうとするが、もう少しの所で手が届かない。やばい、あのままじゃ蒼男が殺されちゃう…。


「痛ってぇ…、蒼男……助けないと」


 左腕斬られて痛いのを我慢しながら、わたしは奴に攻撃する隙を探していた。その時だった。

 すっ…と、カナデさんが奴の奪おうとしてたコントローラーを両手で拾い上げたのだ。


「! あの人…」


 奴が標的を、カナデさんに変えた。彼女に鋸の刃を向ける。


「おいカナデちゃん。悪い事はしない。そのスマホを俺に渡せ」

「——、………」


 脅されても首を横に振って、渡そうとしない。ぶるぶると震えて、涙目になりながら。あの人、蒼男を助けたんだ…。今のハヤシにとって、一番の標的はコントローラーを持ってる人間だから。


「そうか。渡さないのか……。なら、仕方ねぇな」


 奴が彼女の頭上に、鋸を構えた。それを見てレイナさんとミカさんが慌てて、


「ま、待って!! 渡す…渡すから! この子を切るのはやめて!!」

「そうよ! まずはその物騒な物を下げてよ!!」


 と止めに入った。この人たち………。

 だが奴は、


「男の邪魔をする女が、生きてていいと思うのか?」


 と聞く耳を持たない。そしてカナデさんのことを狙って、刃を振り落とす。


「裁きだ!!」

「馬鹿! やめろ…!!」


 蒼男が倒れたまま叫んでる。カナデさんを助けなきゃ。間に合うかな…。


「めっちゃ真剣、血に染まった赤刃(あかは)()…、」


 彼女の元へ走る。地面を蹴り、彼女の前に立って、


「り!!」


 ばしっ!! と両手のひらで、鋸の先端を挟み込んだ。


「住伏くん!」

「今の内に逃げて!! こいつはあんたらの敵よ!」


 これ手を放したら、わたしの頭にぶっ刺さるやつだな。どうしよう……。


「わたしはお前を倒すまで、絶対に死なねぇ。だからわたしが死ぬまでは、この人たちには何もすんな」


 奴に命令しながら、わたしは考えた。そうだ、横に流せばいいんだ! そう考えて、掴んだ腕ごと左に刃を流した。

 奴がつまらなそうな表情で言った。


「女のために自分が犠牲になろうとは……、男らしくねぇな」

「女を捨てるのが男らしさなら要らないわよ!」


 あっかんべーして、返してやったわ。さっきからこの男、女を見下す発言が目立つわ。男が女の人に、悪口言っちゃいけないのにね。


「そのスマホ、こっちに投げて!」


 カナデさんに呼びかける。


「早く!」

「え…。……うん」


 カナデさんから奴のコントローラーを受け取る。


「これを返してほしいなら、わたしを殺しな」

「ふん。お前を殺したら、次はカナデちゃんだ! 女の分際で男の俺を馬鹿にしたこと、絶対に許さねぇぞ!!」


 もう一度、ハンマーを構える。許さないのはこっちよ。カナデさんを怖い目に遭わして。

 するとそこに、覚えのある声が聞こえた。


「やめて! ハヤシさん!!」


 来たのは、あの白い髪の女の人だった。ハヤシって男に裏切られたっていう女の人。


「ば…馬鹿! ヨツハちゃん、来ちゃダメって言ったのに…!」


 蒼男が彼女を見る。ミカさんが、


「誰……?」


 と呟いた。


「蒼男の身包み剥がした人だよ」

「え!? あの子が……?」

「今そんなのどうでもいいわよ」


 あのヨツハさんって人、奴のことをハヤシさんと呼んだ。


「っていうか…、ハヤシって……」


 蒼男も気付いて、はっとした。わたしも、もしかしてと思ってたけど。やっぱりそうだったか。


「ま……まさかお前が…? ヨツハちゃんを捨てた…!?」


 戦慄の表情で、よろよろと立ち上がりながら問う。


「んんー?」


 言葉を濁すハヤシにヨツハさんは、


「もうこれ以上…、誰も傷付けないで!! ハヤシさん!!」

「……何しに来たんだ、ヨツハちゃん? 病院はちゃんと探したのかい。堕ろせと言ったはずだが…」


 彼女の目に涙が滲む。おそらく今の奴は、彼女の思ってた奴とは違うんだろうな。この四か月くらい見てきた、優しい『ハヤシさん』とは。


「こいつ…!! おい逃げろヨツハちゃん! こいつはオレたちを殺そうとしてる男だぞ!! ここにいたら、キミも巻き込まれるよ!!」


 状況を理解して、蒼男は彼女に呼びかける。しかし、


「嫌です!!」


 と彼女は拒んだ。


「蒼田さんは、私のために戦うって言ってくれました。なのに私だけ逃げるのは嫌…!!」

「…! ちょっ、待って…!!」


 彼の制止も聞かずに、ハヤシの前に詰め寄る。


「ハヤシさん。私は、あなたの言う通りにするわ。子どもを堕ろせと言うのなら、ちゃんと堕ろします」

「おい……、ヨツハちゃん…!」

「私のことを殺したって構わない。あなたに何を言われても、私は従うわ。だから…、この人たちを殺すのはやめて!! お願い!!」


 しかし彼女の文字通り懸命の訴えは、届かなかった。


「悪いけどヨツハちゃん。お前が俺のために何をしようが、こいつらを見逃す理由にはならないんだよ」


 まぁ、そりゃそうだろうな…。全く取り合わない。


「当たり前過ぎるからだ。女が男に従うのは、この人間社会の真理なんだよ。お前は俺に取り引きを持ち掛けようとしてるが、一つ勘違いしてねぇか?

 俺はお前も、お前の子供も殺すし、俺に盾突いたこいつらも全員殺す!!」


 ハッハッハ! と笑う奴に、彼女はなおも頼み込む。


「だ、ダメ! 死ぬのは私だけで……!!」

「私だけ、だと…?」


 奴が揚げ足を取るように、


「お前その腹の中の子供を殺すって、今俺に約束したんじゃねぇか…」


 そう彼女の元で、ボソッと呟いた。それにたまらず彼女は、腹を抑えて泣いた。


「お前が殺すんだ。子供も、友達も、どっちもなぁ…」


 そう言う奴の口角は上がって、歯が出ていた。

 外道……。


「やめろてめぇ!! …ゲホッ! …言うなそれを…!!」

「んー? 事実を言っただけだぞ?」


 蒼男が奴に向かっていこうとする。だけど、


「うっ…!!」


 その場に倒れてしまう。


「くっそ…。痛くて、動けねぇよ……!」


 悔しさに両手の拳を地面に叩きつける。背中からは大出血だ。さっき鋸で削られたのが、効いてるんだ。


「ヨツハちゃんは……! 全部守ろうとしてんだぞ!! …オレたちのことも、子どもの命も……!! それを…!」

「プッ…」

「お前のことが、ほんとに好きだったんだぞ…!!」

「ははは…! 確かにヨツハは、俺によく靡いてくれた。ハートコントローラーで操ってたとはいえ、予想外な程にな。手を出すまでもすぐだったさ」


 奴が出した『ハートコントローラー』ってワードに、


「…っ、え…………」


 蒼男が、ぞっとしたように青ざめる。一つの可能性に思い当たったように。まさか、ハートコントローラーは…そんなことまで……?


「……?」


 何のことか分からずにいるヨツハさんに奴は、


「フッ、まだ分からないのかよヨツハちゃん!」


 とおどけながら話しはじめる。


「いいかい? あの真っ黒な目をした化け物のようなチビが持ってる、スマホのような物を見るんだ。本体に『HEART CONTROLLER』と書かれているだろ?」


 あの男、コントローラーのことをヨツハさんにバラす気だ。まぁ…もうすでに操られてるんなら、止めた所で手遅れか……。


「ハート…何?」

「さぁ…何だろ……」


 レイナさんたちも聞こうとしてるな。じゃあ一応、


「おい、危ないから教室のドア閉めときなさいよ」

「へ?」


 ピシャッと扉を閉めて遮音する。


「あ———!! ちょっと住伏くんー!!」

 怒ってドアを叩くミカさんを、レイナさんがなだめてる。悪いわね。


「終わったら開けるよ」


 できれば知らない方がいいの、こっち側の世界は。関わるといろいろと面倒だから。


「お前は、人の心を操る道具によって操られていたんだよ」


 わたしが左手に握っているハートコントローラーを指して、奴はヨツハさんに告げた。


「心…?」

「お前が俺を好きになったのはお前自身の想いじゃない。俺がハートコントローラーで、そう仕向けたからさ」

「……えっ…?」


 ハートコントローラーは人の心を操る道具だけど、他人に恋愛感情を持たせることもできるのか? ヨツハさんは信じない。


「う…………嘘よ。私は本気でハヤシさん……、あなたのことが好きだった! これは私自身の気持ちよ!!」

「思い出してみろ。お前が初めて俺を好きになった時、そこに明確な理由はあったか?」

「理由……? ………」


 彼女が黙るのは、なぜ好きになったか分からないから。なのだろうか。


「性格が優しいから? 顔がタイプだから? いいや、理由なんて無かっただろう? なのにお前は、何故か俺を好きになった。

 俺がお前の心に『伊藤速志を好き』になるように、プログラムしたからさ。一度では効果はなかったが、何度も何度も繰り返しな。その内にお前の心は俺を好きと勘違いし、中身の無い好意を俺に寄せ…、俺に告白した。そして俺たちは付き合うことになって………。フフッ」


 流暢に説明する奴を見て、彼女もやっと悟ったようだ。ヨツハさんがハヤシに恋をしたのは、ハヤシにコントローラーで操られたからなんだ。そうして彼女は子どもを持ち、最終的には奴に捨てられた。

 そしてそれを知った今の彼女は、絶望に呑み込まれていた。


「どうして……そんなことを……」


 涙ながらに問いかけると奴は、


「好きだからだよ。お前のことが…」


 にやりと頬を釣り上げて、彼女の耳元で囁いた。その狂気と甘さを含んだ声に、彼女はその場に崩れた。


「この四か月間、俺への奉仕お疲れ様。さぁ、もう終わりにしよう」


 そう鋸の刃を上に向けた。そこに、


「ハヤシイイイイイィィ――――!!」


 剣を持った蒼男が、ハヤシに飛びかかった。


「蒼田さん!!」

「ほう…剣か」

「このバネ付きの剣、”神勝(カミマサ)”で切り裂いてやる!!」


 普段のおちゃらけ、びびりなのが嘘みたいだ。蒼神は今キレてる。彼が持ってる武器は、刃が三重に分かれた長い剣。RPGで、主人公の勇者が持ってそうな。


「”神斬(バウンド・スラッシュ)”!!」


 ぶんっとハヤシの胸を狙って水平に剣を振るが、射程から出ることで避けられてしまった。そして体がボロボロの彼は、剣を落として倒れた。


「ぶっ…!」

「お前の相手は後回しだ。まずは…………、ヨツハちゃん。お前の子供からだ」


 座り込んでるヨツハさんの前に、奴も座る。そして、


「…おい待て!! やめろ!!」

「俺の子供、掘り出してやるよ。”去命実(サルベージ)”!!」


 彼女の腹に鋸を突っ込もうとする。子どもごと殺そうと。


「待てやめろ!! 頼むから…、ヨツハちゃんを殺さないでくれぇ!!」


 動けないまま蒼男は、必死に頼み込む。

 隙あり! わたしは動いた。

 地面を蹴ってジャンプ。天井を蹴る。そのまま奴の頭へダイブして、ハンマーを叩き込んだ。


「がはっ………!」


 鋸は彼女の腹に当たる前に、床に落ちた。


「子どもの命を決めるのは、お前じゃないわ」

「………てめぇ」


 子どもが生きるか死ぬか。決めるのはヨツハさんよ。結果的に彼女を助けたわたしに蒼男は、


「あ……ありがとう………!!」


 血の混ざった声で、わたしに言った。だって、


「いや、あんたが必死だったから…」


 今の行動は、ただ何となくでそうしただけ。信念とか関係なく何となくでやったことに、お礼なんていらないわ。わたしは基本的に、友達以外の人は助けないんだから。


 次回は3月2日(日)更新予定です。

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