第17話 サルベージ阻止
きつい表現あります(性差別、性の話、暴力とかです)。余裕ある時に読んでくれたら嬉しいです。
カナデさんを傷付けたハヤシが落としたのは、スマホじゃなくてハートコントローラーだった。それを拾い上げた蒼男を見て奴は、
「おいてめぇ、それは俺のだよ。返せよ」
「お前の? お前は一体…」
蒼男と話して背を向けてる奴に、わたしは襲いかかる。しかし、またも鋸で防がれた。
「うおっ! 油断も隙もねぇな、化け物が!!」
「化け物で結構よ。友達を守れるならね!」
こいつに化け物と呼ばれるのは二度目だ。にしても面倒な武器を持ってるな。その鋸は刃が大きいし、硬い。
「アン、こいつは誰……? このハートコントローラーは、こいつの持ってる物か…?」
蒼男からの問いかけにわたしは、
「わたしの友達を傷付けたくず!」
と答えた。教室の中から、
「住伏くん—————!!」
「大丈夫ー!?」
ミカさんとレイナさんが声を掛けてきた。
「あぁ! 今悪い奴と戦ってるから、出てくんな!」
ハンカチで傷口抑えてるカナデさんが目に入る。あのハンカチ、洗っても血が取れないのかな…。場違いにそんなことを思った。痛いだろうな。すぐにあの男倒すからな。
蒼男が教室の中を見て、
「友達ってあの人たちか! ”ハート業界”の事件に巻き込むわけに行かないし、戦うなら時計台で…!」
「いいよ、すぐ終わらすから。お前、教室に入ってあの人たち守ってて」
蒼男にお願いすると、彼は面食らった様子だった。
「えっ、守るって…、オレでいいの!?」
「戦うのがわたしだからよ。急いで!」
「わ、分かった…!」
わたしに急かされて、彼は教室に入っていこうとした。よし、あの人たちのことは蒼男に任せられる。そう思った矢先のことだった。
わたしの首に、鋸の刃が飛んできた。ざくっ!!
「うっ……!!」
「住伏くん!!」
あ、危ねぇ…。咄嗟に左腕で防御しなかったら、やられてた………。それほど勢いのある刃だった。衝撃で三メートルほど弾かれたわたし。
そして奴は、背後から蒼男に近付き、
「”揺鋸削”!!」
彼を斬った。彼の背中を刃で擦り、木を平らに整えるカンナのように。
「……!! ———!」
痛かったようだ。蒼男が転倒し、その手に持っていたハートコントローラーが落ちた。拾おうとする彼の頭を、ぐしゃっと奴は踏んだ。
「うぁっ…!!」
「返せって言ってんだろうが。ハートコントローラー!!」
そのまま足でぐりぐりする。しかし彼は、
「嫌だ! 絶対返さねぇ!!」
と譲ろうとしない。
「アンがお前のこと、悪い奴って言ってたぞ…! アンの友達を傷付けるような奴に、こいつは渡さねぇ!!」
コントローラーを取ろうとするが、もう少しの所で手が届かない。やばい、あのままじゃ蒼男が殺されちゃう…。
「痛ってぇ…、蒼男……助けないと」
左腕斬られて痛いのを我慢しながら、わたしは奴に攻撃する隙を探していた。その時だった。
すっ…と、カナデさんが奴の奪おうとしてたコントローラーを両手で拾い上げたのだ。
「! あの人…」
奴が標的を、カナデさんに変えた。彼女に鋸の刃を向ける。
「おいカナデちゃん。悪い事はしない。そのスマホを俺に渡せ」
「——、………」
脅されても首を横に振って、渡そうとしない。ぶるぶると震えて、涙目になりながら。あの人、蒼男を助けたんだ…。今のハヤシにとって、一番の標的はコントローラーを持ってる人間だから。
「そうか。渡さないのか……。なら、仕方ねぇな」
奴が彼女の頭上に、鋸を構えた。それを見てレイナさんとミカさんが慌てて、
「ま、待って!! 渡す…渡すから! この子を切るのはやめて!!」
「そうよ! まずはその物騒な物を下げてよ!!」
と止めに入った。この人たち………。
だが奴は、
「男の邪魔をする女が、生きてていいと思うのか?」
と聞く耳を持たない。そしてカナデさんのことを狙って、刃を振り落とす。
「裁きだ!!」
「馬鹿! やめろ…!!」
蒼男が倒れたまま叫んでる。カナデさんを助けなきゃ。間に合うかな…。
「めっちゃ真剣、血に染まった赤刃取…、」
彼女の元へ走る。地面を蹴り、彼女の前に立って、
「り!!」
ばしっ!! と両手のひらで、鋸の先端を挟み込んだ。
「住伏くん!」
「今の内に逃げて!! こいつはあんたらの敵よ!」
これ手を放したら、わたしの頭にぶっ刺さるやつだな。どうしよう……。
「わたしはお前を倒すまで、絶対に死なねぇ。だからわたしが死ぬまでは、この人たちには何もすんな」
奴に命令しながら、わたしは考えた。そうだ、横に流せばいいんだ! そう考えて、掴んだ腕ごと左に刃を流した。
奴がつまらなそうな表情で言った。
「女のために自分が犠牲になろうとは……、男らしくねぇな」
「女を捨てるのが男らしさなら要らないわよ!」
あっかんべーして、返してやったわ。さっきからこの男、女を見下す発言が目立つわ。男が女の人に、悪口言っちゃいけないのにね。
「そのスマホ、こっちに投げて!」
カナデさんに呼びかける。
「早く!」
「え…。……うん」
カナデさんから奴のコントローラーを受け取る。
「これを返してほしいなら、わたしを殺しな」
「ふん。お前を殺したら、次はカナデちゃんだ! 女の分際で男の俺を馬鹿にしたこと、絶対に許さねぇぞ!!」
もう一度、ハンマーを構える。許さないのはこっちよ。カナデさんを怖い目に遭わして。
するとそこに、覚えのある声が聞こえた。
「やめて! ハヤシさん!!」
来たのは、あの白い髪の女の人だった。ハヤシって男に裏切られたっていう女の人。
「ば…馬鹿! ヨツハちゃん、来ちゃダメって言ったのに…!」
蒼男が彼女を見る。ミカさんが、
「誰……?」
と呟いた。
「蒼男の身包み剥がした人だよ」
「え!? あの子が……?」
「今そんなのどうでもいいわよ」
あのヨツハさんって人、奴のことをハヤシさんと呼んだ。
「っていうか…、ハヤシって……」
蒼男も気付いて、はっとした。わたしも、もしかしてと思ってたけど。やっぱりそうだったか。
「ま……まさかお前が…? ヨツハちゃんを捨てた…!?」
戦慄の表情で、よろよろと立ち上がりながら問う。
「んんー?」
言葉を濁すハヤシにヨツハさんは、
「もうこれ以上…、誰も傷付けないで!! ハヤシさん!!」
「……何しに来たんだ、ヨツハちゃん? 病院はちゃんと探したのかい。堕ろせと言ったはずだが…」
彼女の目に涙が滲む。おそらく今の奴は、彼女の思ってた奴とは違うんだろうな。この四か月くらい見てきた、優しい『ハヤシさん』とは。
「こいつ…!! おい逃げろヨツハちゃん! こいつはオレたちを殺そうとしてる男だぞ!! ここにいたら、キミも巻き込まれるよ!!」
状況を理解して、蒼男は彼女に呼びかける。しかし、
「嫌です!!」
と彼女は拒んだ。
「蒼田さんは、私のために戦うって言ってくれました。なのに私だけ逃げるのは嫌…!!」
「…! ちょっ、待って…!!」
彼の制止も聞かずに、ハヤシの前に詰め寄る。
「ハヤシさん。私は、あなたの言う通りにするわ。子どもを堕ろせと言うのなら、ちゃんと堕ろします」
「おい……、ヨツハちゃん…!」
「私のことを殺したって構わない。あなたに何を言われても、私は従うわ。だから…、この人たちを殺すのはやめて!! お願い!!」
しかし彼女の文字通り懸命の訴えは、届かなかった。
「悪いけどヨツハちゃん。お前が俺のために何をしようが、こいつらを見逃す理由にはならないんだよ」
まぁ、そりゃそうだろうな…。全く取り合わない。
「当たり前過ぎるからだ。女が男に従うのは、この人間社会の真理なんだよ。お前は俺に取り引きを持ち掛けようとしてるが、一つ勘違いしてねぇか?
俺はお前も、お前の子供も殺すし、俺に盾突いたこいつらも全員殺す!!」
ハッハッハ! と笑う奴に、彼女はなおも頼み込む。
「だ、ダメ! 死ぬのは私だけで……!!」
「私だけ、だと…?」
奴が揚げ足を取るように、
「お前その腹の中の子供を殺すって、今俺に約束したんじゃねぇか…」
そう彼女の元で、ボソッと呟いた。それにたまらず彼女は、腹を抑えて泣いた。
「お前が殺すんだ。子供も、友達も、どっちもなぁ…」
そう言う奴の口角は上がって、歯が出ていた。
外道……。
「やめろてめぇ!! …ゲホッ! …言うなそれを…!!」
「んー? 事実を言っただけだぞ?」
蒼男が奴に向かっていこうとする。だけど、
「うっ…!!」
その場に倒れてしまう。
「くっそ…。痛くて、動けねぇよ……!」
悔しさに両手の拳を地面に叩きつける。背中からは大出血だ。さっき鋸で削られたのが、効いてるんだ。
「ヨツハちゃんは……! 全部守ろうとしてんだぞ!! …オレたちのことも、子どもの命も……!! それを…!」
「プッ…」
「お前のことが、ほんとに好きだったんだぞ…!!」
「ははは…! 確かにヨツハは、俺によく靡いてくれた。ハートコントローラーで操ってたとはいえ、予想外な程にな。手を出すまでもすぐだったさ」
奴が出した『ハートコントローラー』ってワードに、
「…っ、え…………」
蒼男が、ぞっとしたように青ざめる。一つの可能性に思い当たったように。まさか、ハートコントローラーは…そんなことまで……?
「……?」
何のことか分からずにいるヨツハさんに奴は、
「フッ、まだ分からないのかよヨツハちゃん!」
とおどけながら話しはじめる。
「いいかい? あの真っ黒な目をした化け物のようなチビが持ってる、スマホのような物を見るんだ。本体に『HEART CONTROLLER』と書かれているだろ?」
あの男、コントローラーのことをヨツハさんにバラす気だ。まぁ…もうすでに操られてるんなら、止めた所で手遅れか……。
「ハート…何?」
「さぁ…何だろ……」
レイナさんたちも聞こうとしてるな。じゃあ一応、
「おい、危ないから教室のドア閉めときなさいよ」
「へ?」
ピシャッと扉を閉めて遮音する。
「あ———!! ちょっと住伏くんー!!」
怒ってドアを叩くミカさんを、レイナさんがなだめてる。悪いわね。
「終わったら開けるよ」
できれば知らない方がいいの、こっち側の世界は。関わるといろいろと面倒だから。
「お前は、人の心を操る道具によって操られていたんだよ」
わたしが左手に握っているハートコントローラーを指して、奴はヨツハさんに告げた。
「心…?」
「お前が俺を好きになったのはお前自身の想いじゃない。俺がハートコントローラーで、そう仕向けたからさ」
「……えっ…?」
ハートコントローラーは人の心を操る道具だけど、他人に恋愛感情を持たせることもできるのか? ヨツハさんは信じない。
「う…………嘘よ。私は本気でハヤシさん……、あなたのことが好きだった! これは私自身の気持ちよ!!」
「思い出してみろ。お前が初めて俺を好きになった時、そこに明確な理由はあったか?」
「理由……? ………」
彼女が黙るのは、なぜ好きになったか分からないから。なのだろうか。
「性格が優しいから? 顔がタイプだから? いいや、理由なんて無かっただろう? なのにお前は、何故か俺を好きになった。
俺がお前の心に『伊藤速志を好き』になるように、プログラムしたからさ。一度では効果はなかったが、何度も何度も繰り返しな。その内にお前の心は俺を好きと勘違いし、中身の無い好意を俺に寄せ…、俺に告白した。そして俺たちは付き合うことになって………。フフッ」
流暢に説明する奴を見て、彼女もやっと悟ったようだ。ヨツハさんがハヤシに恋をしたのは、ハヤシにコントローラーで操られたからなんだ。そうして彼女は子どもを持ち、最終的には奴に捨てられた。
そしてそれを知った今の彼女は、絶望に呑み込まれていた。
「どうして……そんなことを……」
涙ながらに問いかけると奴は、
「好きだからだよ。お前のことが…」
にやりと頬を釣り上げて、彼女の耳元で囁いた。その狂気と甘さを含んだ声に、彼女はその場に崩れた。
「この四か月間、俺への奉仕お疲れ様。さぁ、もう終わりにしよう」
そう鋸の刃を上に向けた。そこに、
「ハヤシイイイイイィィ――――!!」
剣を持った蒼男が、ハヤシに飛びかかった。
「蒼田さん!!」
「ほう…剣か」
「このバネ付きの剣、”神勝”で切り裂いてやる!!」
普段のおちゃらけ、びびりなのが嘘みたいだ。蒼神は今キレてる。彼が持ってる武器は、刃が三重に分かれた長い剣。RPGで、主人公の勇者が持ってそうな。
「”神斬”!!」
ぶんっとハヤシの胸を狙って水平に剣を振るが、射程から出ることで避けられてしまった。そして体がボロボロの彼は、剣を落として倒れた。
「ぶっ…!」
「お前の相手は後回しだ。まずは…………、ヨツハちゃん。お前の子供からだ」
座り込んでるヨツハさんの前に、奴も座る。そして、
「…おい待て!! やめろ!!」
「俺の子供、掘り出してやるよ。”去命実”!!」
彼女の腹に鋸を突っ込もうとする。子どもごと殺そうと。
「待てやめろ!! 頼むから…、ヨツハちゃんを殺さないでくれぇ!!」
動けないまま蒼男は、必死に頼み込む。
隙あり! わたしは動いた。
地面を蹴ってジャンプ。天井を蹴る。そのまま奴の頭へダイブして、ハンマーを叩き込んだ。
「がはっ………!」
鋸は彼女の腹に当たる前に、床に落ちた。
「子どもの命を決めるのは、お前じゃないわ」
「………てめぇ」
子どもが生きるか死ぬか。決めるのはヨツハさんよ。結果的に彼女を助けたわたしに蒼男は、
「あ……ありがとう………!!」
血の混ざった声で、わたしに言った。だって、
「いや、あんたが必死だったから…」
今の行動は、ただ何となくでそうしただけ。信念とか関係なく何となくでやったことに、お礼なんていらないわ。わたしは基本的に、友達以外の人は助けないんだから。
次回は3月2日(日)更新予定です。




