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ハート探偵  作者: 住伏暗
15/32

第15話 白い髪の女の人


 2022年8月22日(月)


 夏休みも終盤。今日も今日とて、文化祭準備の手伝いに出てるわたし。その途中、


「好きな人?」

「うん! 住伏くんにはそういう気になる人とか、いるでありますか…? もぐもぐ……」


 お前には好きな人がいるかって質問。もぐもぐと、おにぎりを頬張るミカさんに聞かれた。


「やめなさいよミカちゃん。そういうの聞くもんじゃないわよ」


 今日はレイナさんも来てるわ。


「なんでそんなことをわたしに…」

「うちは高校生だから、恋のお話は大好きであります♫」

「何その感覚、分かんないんだけど…」


 他人の恋の話に目をキラキラさせる気持ちは、理解に苦しみますが……。ふむ、好きな人ね。


「いたわよ。昔だけど」

「え、ほんと!? だれだい!?」


 レイナさんがこっちに食いついてくる。


「近いわよ。食いつきすぎよ…」


 結局レイナさんも興味あるみたいよ。するとミカさんが、


「うちかな…」

「違うわよ」


 ずーんと落ち込むミカさんをレイナさんがなぐさめてる。肩をぽんと叩いて。


「中学で同じクラスだった人よ。中学出てから会ってないけど」

「どんな子?」

「そりゃあもう、わたしなんかよりもず――っと………まぁ、分かんないけど」

「あ、分かんないんだ…」


 あの人のこと知ってるような言い方するんじゃないわよ。自分で自分に思った。でもほんとに知らないもの、あの人のこと。


「はぁー、会いたいなぁ……。でも会えないわ」

「え、どうして…?」


 へこんでたミカさんが聞いてきた。


「わたしがその人に悪口言ったせいで、会えなくなったのよ。まぁ、多分元気だとは思うけどね。あの人友達いっぱいいるし、それに………先生だっているし」


 わたしは答えた。でもこれ、二人にはよく分からない話だな…。要するに最近会えてないよってことだけど。すると誰かにぽんと肩を叩かれた。見るとミカさんが、


「………」

「いやいや、憐れみの目で見るのやめなさいよ! かえって傷付くわよ!」


 失恋の話なんて、するもんじゃないなぁ。聞いてきたの、この人たちだけど。



 別にそんな気ぃ使ってくれなくて良かったのに。そんなこと考えながら自販機にジュースを買いに行った帰り。教室に戻ろうと中庭を歩いてると、


「ね、ね、ね。カナデちゃん」


 と、甘ったるい男の声が聞こえた。何だと思ったら、


「ね、ね、ね。カナデちゃん。今日空いてる? 遊ぼうよ」


 にやついた男が、女の人にナンパをしている最中だった。背が高くて、髪を後ろで二つ括りにしている男。どこかで見たような……。

 誘われてる側の人、わたしと同じクラスの人だ。あの静かな人。わたしは喋ったことないけど、前に見たことあるから。

 無視して何も言わずに行こうとする彼女にそいつは、


「ねぇ、待ってよ」


 と乱暴に手を掴んだ。そして、


「俺と一緒に来いよ」


 と言った。その様子たるや、筆舌しがたい気持ち悪さだった。わたしはそのナンパ男の右腕をハンマーで叩き落とした。スコーンと、彼女の手から引きはがす。


「ぎゃああ~~~!! 手が…手がぁ~~~!! うあぁあああ~~~~!!」

「男が女の人びびらしてんじゃねぇよ。大丈夫、あんた?」


 男が絶叫した。その後わたしを見たそいつは、


「くっ、化け物!! チッ、邪魔が入った…!」


 化け物って言われて思い出した。この男、前にわたしをいじめてきた奴だ。目が真っ黒だからって。ナンパなんかする奴だったのか、最悪…。


「お前もこの女を狙ってるのか化け物が! だが、次は必ずカナデちゃんを落とすからな!! 覚悟しろぉ~~~~~~!!」


 わたしに指を差して言った後、そいつは走って逃げていった。


「逃げた…。何なのあの男……」


 彼女のこと、『この女』なんて言ってたし。なんて考えてると彼女が、


「ありがとう」


 ぺこりと頭を下げてきた。


「え、あぁ…。気にしないでよ。女の人をいじめる男は嫌いなのよ」


 なんだ、こんないい人なんだ。そう思った。ありがとうって言ってくれるし。話したことなかったから、分かんなかったけど。


「ごめん、変なこと言われてたよね。わたしが出てきたせいで」

「うん、大丈夫」


 首をゆっくり横に振りながら答える彼女。よくよく話を聞くと、


「えっ、二か月も前からぁ!?」


 それほどの長い期間、彼女は何度も言い寄られてるらしい。6月の下旬から目を付けられて。夏休みからは、どんどん執拗になってると。


「度重なるナンパですか……。あんな気持ち悪い男から」

「うん…」

「それは…、嫌ね。絶対」


 ——次は必ずカナデちゃんを落とすからな!!


 そんなことほざいてたの、思い出したらイラついてきた…!


「わたしがぶっ飛ばしてこようか、あのナンパ男! 殺人術持ってんのよわたし!」


 ハンマーを手に叩いてカンカンと鳴らす。だけど彼女は、


「あっ、いや、大丈夫……!」


 と止めてきた。あわてた様子で。


「なんでさ! あんな奴放っといたら、何されるか分かんないわよ!?」


 少し考え込んだ後で彼女は、


「先生に相談してみる…!」


 笑顔を作って、そう言った。


「……そう?」


 平和主義なのね、カナデさんは。



 この前出会った、蒼神(あおがみ)って人。あの暑苦しくてびびりな、”ハート犯罪者”。わたしは蒼男(あおお)って呼んでるんだけど。どうしてそんな話をするかというと……。

 昼の一時頃。わたしが教室でまた準備の手伝いをしてたら、


「ぎゃあ———————!!」


 と彼の叫び声が、聞こえたんだ。体育館の裏辺りから。


「たった今、誰かの悲鳴が聞こえなかったかい…?」


 ミカさんが言うから、


「したわよ。わたしの知り合いの」

「え…」

「殺人鬼の手に落ちたのかしら。蒼男の奴、家族を救う前に殉職か…」

「冗談に聞こえないわよ! 大丈夫なの!?」


 レイナさんに怒られたから、わたしは彼の様子を見に行った。そしたら体育館裏で、彼は倒れていた。

 パンツ一丁で。


「………なんで…?」


 ぐーすかと、いびきかいて寝てる。こいつ、こんな趣味が………? だとしたらわたしは、こいつと縁を切らねばならないが…。


「その方が悪いのです」


 誰かが話しかけてきた。白い髪をした女の人が、わたしたちの前にいた。地べたに体育座りして、蒼男を眺めてる。


「え…、どなた……?」


 コミュ症のわたしは、この状況に困り果てた。



「どうして、彼の身包みを剥がしたの?」


 わたしが聞くと彼女は、


「何の面識もないその方が、私に話しかけてきたからです。ナンパかと思いました」


 とのことだった。蒼男は自分から服を脱ぎ捨てたのではないらしい。


「しかしあんた、何もパンツ一枚にすることないじゃないの…。で、なんで寝てるのこいつは」

「それは分かりません。急に悲鳴を上げたと思ったら、気絶してしまいました…」


 とりあえずまず、このバカを起こして話を聞いてみよう。カッターシャツの中に隠し持ってるハンマーを取り出して、


「おい。蒼男。起きろ。おい。起きろ。おい」


 ゴンゴンと鼻を殴る。すると、


「痛っ、あがっ…、ふがっ!!」


 鼻血を出して起き上がった。よかった、目ぇ覚まして…。彼の語る所によると、


「で、身包み剥がされて…。そう! その後その人が、めっちゃ怖い顔で見てきたの!! 蛇に睨まれたような気がして、そのまま気絶しちゃったんだ!」


 何だ、そんなことか。


「この人びびりだから。あんたの凍るような目つきが怖すぎて、気絶したんだって」


 彼女に説明する。蒼男がびびるのは分かるわ。彼女が今、実際に凍るような目つきをしているからよ。


「じゃあお前はこの人が泣いてるから心配して声掛けて…、その結果服を引っぺがされたのか。面白いわね」

「そうそう! そういうことだな!」


 そう。蒼男がこの人を見つけた時、泣いてたらしい。それで彼は面識もないけど話しかけたようだ。


「キミ、名前は? 何か悩んでるなら、力になるぜオレら」

「ら……?」


 彼は真面目だな。ついさっき会ったばかりの人に対してこれだ。なんかわたしも巻き込まれてるのが納得いかないけど。それに対して彼女は静かに、そして冷たく、


「なら…。全部話すから、何もできないって分かったら立ち去ってください」


 そう前置きした上で、話しはじめる。


「私、車輪(しゃりん)四葉(ヨツハ)です。三年生です」

「あっ、オレ蒼男だよ! ヨツハちゃんか…」


 彼女はふーっと息を吐き淡々と、


「三年生になったばかりの4月。私に好きな人ができました。同じクラスの、ハヤシさんという方です。私なんかよりもずっと明るくて、優しくて。私が彼に想いを伝えたら、それを受け止めてくれて…。私たちは付き合うことになりました」


 何だ、恋愛の話か……。わたしには無縁だな。


「一緒に映画を観に行ったり、手料理を食べてくれたり……。私が風邪を引いた時には、家に来て一緒に居てくれました。何より、『キミを一生大切にするよ』と言ってくれた。それが一番嬉しかったです。

 そして昨日、私は自分が妊娠したことを知りました。彼との間に、赤ちゃんが生まれたんです。それを彼に打ち明けたら…」


 あぁ。何となく、話の結末が分かったわ。


「振られました。今朝のことでした」


 やっぱりね。蒼男は驚いてるようだけど、そりゃあそうなるわよ。胡散臭い男と付き合ったら。


「『ごめん。他に好きな子ができたから』って。それと………」


 少し息を詰まらせるように黙った後、


「『堕ろせ』と…! そう言われました……!!」


 泣きながら言った。そんな彼女を見て蒼男は、


「男が女の人を弄ぶなんて…!!」


 と怒りをあらわにした。


「…、……!!」

「……ヨツハちゃん」


 彼女が泣き続ける中、わたしは……、


「だぁあああ、負けたあ———!!」

「何やってんだよお前はぁ!!」


 ビデオゲームをしてた。蒼男には顔を殴られた。


「なんか、見たことない攻撃が出てきて、それくらって負けた…」

「知らないよ! ちゃんと話聞けよお前!!」

「だって、わたしには関係ないもん………」


 わたしと蒼男が言い合ってると、ゴゴゴ…と後ろから気配がした。


「何よ……」

「んっ…?」

「真面目に聞く気がないなら………!」


 彼女がすごく悔しそうな顔して、


「関わらないでくださあい!!」

「えっ、ちょ…うわぁああ!!」


 と、蒼男をボコボコにした上で服を引っぺがした。

 たまらず逃げ出して、蒼男は壁に隠れてこっそり彼女の様子を見ていた。彼女は一人で泣いているわ。


「あの人…」

「あんた、服着なさいよ」


 わたしは子どもを持ったことないし、振られたこともないから。あの人の気持ちは分からないわ。怖い、悔しい、悲しい、寂しい………。でも、それってただの想像。

 わたしは、一年空組の教室に戻ることにした。特に、わたしのやることもなさそうだったから。


 次回は2月16日(日)更新予定です。

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