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ハート探偵  作者: 住伏暗
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第12話 心臓破壊


 クラナリの攻撃の途中、わたしをかばってくれたのはキョウ男だった。体の至る所から、血が出ている。奴が止まるまでずっと、わたしを守って黙って耐えてた。


「キョウ……!! なんで…」


 なんでこんなことしたの? とか、今言ってられないわ。


「おいエンマくん! こいつを治療してくれ!!」


 わたしはエンマくんに頼んだ。彼、医者だったよね。


「は、はい! もちろん!!」

「こいつ、わたしを守ってくれたの! 体中斬られてる…、絶対治して!! 友達(だち)なの!!」


 駆け寄ったエンマくんがキョウを担ごうとするが、持ち上がらない。エンマくんも、クラナリにやられた傷が応えてるのかな。


「ぐぎぎぎぎ…!! あれ……?」


 彼が苦戦してるのを見かねて若亭が、


「自亭が連れてくよ。この下の階で治療するぞ」


 と声を掛けた。


「で、でもワカバさん背中の怪我が…」

「なおったよ。お前、救急箱持ってこい」

「は……、はい!」


 若亭が連れて行くみたいだ。ここから離れて、安全な所でキョウを治療するんだ。


「き…気にするなよ…。住伏くん……」


 え、キョウ…? 彼がわたしに何か言ってる。


「これは…オレがお前を傷付けた……せめてもの、罪滅ぼし…。まぁ、これで許せとは、言えないが…」


 こいつ、まだわたしを蹴ったこと引きずってるのか。


「馬鹿! あれはあいつが操ってたんだ。ハートコントローラーの話したろ! お前がやったことじゃない!」

「…それでも、割り切れないもの…よ。友達を傷付けるのは、それだけの罪…。お前、分かるだろ……」


 あーそうか…。納得した。確かにわたしもその立場なら、そう考えるか……。けじめとか言って、ここに彼を連れてきたわたしが悪いわ。


「悪かった。もう、お前に助けられるようなヘマしないよ」


 友達に守られるなんて、”ハート探偵”として失格。ちゃんとけじめ付けないと…。


「おのれ…。あのクソメガネのせいで、チビメガネを殺し損ねた!! 目障りな…。どいつもこいつも、他人の為に死にたがりやがって……」


 クラナリがキレてる。


「まず貴様らから片付けてやるよ!!」

「ギャ―――!! こっちに来るぅー!!」


 あの野郎、キョウたちの方に向かってる。止めてやる……!


「お前の相手はわたしだ!!」


 もうこいつらに手ぇ出させねぇからな!


「殺人術、”心臓(ハート)”…、」

「だ、ダメですアンさぁん!!」

「さっきと同じ技って、お前学習能力ないのか住伏亭!! その技はもう見切られてんだぞ!」


 分かってるよ、それくらい…。さっきは棘グローブで防がれた。


「くそが。”針地獄(ハリジゴク)”!!」


 棘グローブでガード。やっぱり、胸の前に構えた。


「や、やっぱり”針地獄(ハリジゴク)”…! アンさん危ない!!」

「何が殺人術だ!! くだらねぇ殺人ごっこはやめろイラつくなぁ!! その技はもう効かねぇんだよ!! 貴様のようなチビが……! 最強の不良の俺様に勝てるって本気で思ってんのか!? 舐めるなよ!!」


 こういう時はな、突き破ればいいんだよ。


「”破壊(バースト)”オォオオ―――――!!」


 針の山に、右腕をグサッと突っ込む。さっきよりも勢いを付けて、力強く。


「痛ぁあい!! と……棘ごと殴ったぁ!?」


 もっと強く、深く……。押し込め! ぶっ刺せ! 右手ー!!


「っ!! ぐあ…!! こいつ…!!」


 よし、刺さってる。奴の胸に。


「うっ!!」


 奴が退いた。わたしの手からも、血がぶしゅーっと。


「あたたたたたた!! ふーっ、ふ———っ!!」

「棘越しにパンチを押し込み、逆に俺様に棘を喰らわすとは……、気合いだけは一人前のようだな…」


 奴が笑った。多分こっから、もっと本気で殺しに来るぞ。あいつらを逃がさなきゃ。


「行け、三人とも!」

「は、はい! アンさん、あんな外道なんかに負けるな!!」

「うん」


 分かってるよ、エンマくん。


「住伏亭、そいつは捕まえるから、死体はここに残しておけよ!」

「あぁ。行け」


 若亭も、分かってるって。


「住伏くん、……これを…」


 逃げる前に、キョウがわたしにある物を渡してきた。それは、


「あっ、ハンマー…」


 そうだった。持ってきてくれてたのね。


「ありがとう。あいつ、叩き潰すわ」

「おう…!」


 三人が時計台の階段を降りていって、展望台は二人だけになった。

 わたしがハンマーを持つとクラナリが、


「随分とささやかな武器だな」

「そう?」


 子馬鹿にするように言ってきた。わたしの武器はこれだ。ティッシュ箱ほどの大きさの鉄の塊に持ち手が付いた、これをハンマーと言う。結構重いのよ。これをいつでも使えるように、わたしは学校の靴箱に置いてたの。


「それで俺様の棘グローブを破るつもりか?」

「うん」


 確か、さっきあいつが出した技は…。


「”針地獄(ハリジゴク)”出せ」

「何?」

「ぶち抜いてやるから」


 ところが奴は、わたしの煽りには応じない。


「なぁに、その必要はねぇよ。貴様はその工事道具を使うまでもなく……、」


 奴がわたしに、狂気の目を向けた。そして、


「死んじまうからさ!!」


 狩りをする獣のように、走りはじめた。


「”(ハリ)超特急(エクスプレス)特別便(ファストグレード)”!!」

「…、またあれだ……」


 あの技か。目で追えないほどのスピードで走り回って、斬りまくるやつ。


「体のどこから切り落とされるか、分からない恐怖に怯えながら死ね!!」


 今、右腕を斬って通ったな。どこにいるのか、どの方向から来るか掴めない。なら……。


「スピン!!」


 ぐるぐるぐるぐるぐるぐる!! ハンマー投げの要領で、ハンマーを軸にして回るわたし。


「来い! どこから来ても、どつき倒す!!」


 回転速度を上げて、上げて。当たれ、クラナリに!


「プレェス!!」


 横腹が、棘にぶつかる感触がした。奴に当たった。よし、そのまま押せー! 棘の刺さった横腹に体重をかける。


「ぐぁあっ!!」


 棘が食い込んだらしいな。奴が血を出しながら弾け飛んだ。そのまま地面に倒れた。今のうちにとどめ!!


「お前がどんな過去持ってようと、関係ねぇんだからな! わたしの友達(だち)いじめる奴は許さん!!」

「くっ…!!」


 ジャンプして、奴の頭に向かって……、


「”心上(ブレーン)”、」


 急降下しながら、ハンマーを振り下ろす。


「”降り(ダウン)”!!」


 どすぅん!! と、床にめり込むほどの威力で叩きつけた。


「…が…!! あっ…………!」


 頭を潰した。白目をむいて血を吐いてる。その後気絶した。どうやら…、わたしが勝ったようね。


「はぁ…、はぁ……」


 疲れた……。血もいっぱい出たし…。まぁでも、とにかく勝ったわ。これで気がすっきりした! さてと……、


「キョウは大丈夫かしら…。なわけないか。生きてるかな…」


 わたしがキョウたちの様子を見に行くために展望台を降りようとすると、そこの階段から、


「おい住伏亭!」


 と呼ばれた。若亭が、戻ってきていた。


「若亭! ちょうどいいとこに来たわね」

「勝ったのか、クラナリに…」

「あぁ。ちょうど今ね」


 気になってたことを聞いてみる。


「キョウは?」

「あぁ、お前の友達なら今、引内亭から手当てを受けてる所だ。治るんだと」


 それ聞いてほっとした。体から力が抜けてくー…。


「あ———なんだそうか…。よかったぜー。ふ———————…」


 床に座り込んで、息を吐いた。


「わたしの友達(だち)には、死なれたら困るからな…」

「…そんなに友達が大事か?」

「えぇ。”ハート探偵”ですもの」


 友達くらい守らなきゃ、”ハート探偵”にはなれないわ。


「若亭は友達より、正義の方が大事なのねぇ。”ハート警察”の人ってかわいそ」

「頭割るぞお前。それより早くあいつの身柄を、」


 若亭が奴を捕えようとした。だがそこで、


「俺様が負けるわけねえ!!」


 展望台に広がる、乱暴な叫び声。振り返ると、倒したはずのクラナリがまた立ち上がっていた。といってもその体はもうふらふら。生気がなくて、戦える状態ではなさそうだ。


「俺様はまだ負けちゃいねえ!! 俺様が腕っぷし最強だ!! 腕っぷしでこの世を支配すると、そう誓ったのだァ!!」

「クラナリ……。まだ息があるか」


 焦る若亭。まだ立ち上がるとはな。ハンマーで頭を砕かれたのに。腕っぷしに妙にプライドを持ってる、面倒な奴だこいつは。


「誰よりも苦しみ、負ける屈辱を知り…!! 誰よりも努力を重ねてきた!! 俺様がこんなチビに負けることなど、あってはならないことだァ!! 貴様をぶっ殺す!! ”(ハリ)ィ”!!」


 目の焦点が合わないまま棘を持って暴れようとした、次の瞬間。


「よいしょ—————————!!」


 と大きく叫んで、奴は万歳した。


「………なんだと…!?」


 そのまま止まった。両手を上げたまま、攻撃を仕掛けてこない。


「な、なんだこれは…動かねぇ!! 手が……両手が上げっぱなしになって動かねぇ!! これは…!」


 若亭が、ハートコントローラーを奴に向けていた。悪魔のような笑顔を作って彼は、


「残念だったな」


 と奴に告げた。


「お前が引内亭にやったことを、自亭はお前にやっただけだ」


 若亭がコントローラーで、奴に天突き体操をさせてるんだ。おそらく、その態勢のまま動かないようにプログラムしてる。


「き、貴様かハート(ジャック)ゥ!! 卑怯なことを…!」

「卑怯もクソもあるか。てめぇはもう住伏亭に負けてんだ」


 腕っぷしで勝った方は、負けた方をいじめてもいい。それが奴の語ったルールだった。つまり、ハートコントローラーでいじめてもいいってわけだ。わたしたち、一応そのルールを破ってはいないわ。


「さすがハートコントローラー使いね。とどめはわたしが!」


 今度こそ心もろとも砕いてやるわ。


「落ちろクラナリ。”心臓(ハート)”……、」

「な、やめろ! やめやめ馬鹿! 馬鹿やめほんとに、あぁああぁうおおおおおお!!」


 ”ハート探偵”流・殺人術とハンマーの破壊力を合わせた、敵のプライドも身体も破壊するフィニッシュ技よ。ハンマーを思いっきり振り被って、動けない奴の心臓に、


「”破壊(バースト)”!!」


 ぶつけてぶっ飛ばす!

 吹き飛ばされた奴の体は柵を越えて、時計台の外に。そのまま気絶した状態で、下の海へと落ちていったのだった。

 今度こそ、わたしの勝ちだ。


 次回は1月26日(日)更新予定です。

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