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ハート探偵  作者: 住伏暗
高1編
10/38

第10話 けじめ


 五分経って、キョウ男にかけられたハートコントローラーの効果は解除された。その瞬間ぴたっと彼はわたしを石で刺すのをやめて、その後青ざめた。


「おい! しっかりしろ!! 住伏くん!!」

「うるさいなぁ。心配性だな、お前…」


 この程度の怪我で、死ぬわけでもないわ。鍛えてるから。


「なんでお前、わたしに気付いたの?」

「そのハート形の寝癖は、住伏くんしかいないだろ! お前、なんでオレにやり返さなかったんだよ!! オレはお前を傷付けたんだぞ!?」


 わたしは髪の毛が、ハートを描くように跳ねている。その髪型を見て、気付かれたか…。


「お前がわたしに、友達と言ったことがあった。友達(だち)は殴らないってので、わたしはやってるんで……」

「んなこと言ってる場合か! 馬鹿かお前は!!」


 なんか、めっちゃ怒られてるな。わたし、何もしてないぞ?


「くっそ、あの時急に住伏くんを痛めつけたくなった…。どうして……!」


 キョウ男の奴、文字通り頭を抱えてら。まぁそりゃそうだわな。自分の友達を蹴って、切って、そうしたくなった理由は分からない。自分どうかしたのかって、考えるのが普通。


「ワカバさん!! しっかりしてください!」

「馬鹿、騒ぐな。お前の蹴りなんざで死にゃしないよ。まぁあの不良にやられた所は、結構効いてるが…」


 どうやら、あの二人も生きてるらしい。


「私は……! 自分を助けてくれた恩人を…、苦しませてしまった…!!」


 エンマくんもかなり堪えてるようだ。


「うわぁぁああぁ私は最低だぁ——!! 私なんて死んだ方がいい!! いない方がいい———!! あぁあぁぁ!!」


 泣き叫んで地面に頭を打ちつける彼。若亭が怒る。


「馬鹿やめねぇか! てめぇが生きても死んでも何も変わんねぇよ!!」


 キョウ男とエンマくん。この二人がそれぞれ友達を傷付けた理由を、本人たちは知らない。自分がおかしくなったのかと、きっと不安でいっぱいだ。もう、言っちゃった方がいいんだろうか。そう考えてわたしが、


「気にすることはないわよ、エンマくん。あんたもキョウ男も、わたしたちを攻撃するように操られてたんだから」


 そう言うと、二人とも「えっ?」となった。ぽかんと。


「住伏亭…!」

「いやぁ、こいつらには多分隠しても無駄だよ。若亭、コントローラーを出せ」


 ハートコントローラーのことを周りの人に口走んなって、先生から何度も言われたな。ハートコントローラーは誰にもバレずに人を操れる道具。”ハート業界”は平気で人を殺す奴らの社会だから、そこに友達を巻き込んじゃいけねぇって。

 若亭が出したそのスマホのような物を指して、


「これ、ハートコントローラーって物でね。人の心にプログラムを送信して、その通りに動かす。要するに、人を操れる道具だよ」


 やっぱり初めて見た人は驚くんだ。キョウ男とエンマくんの顔色を見て思う。確かに、わたしもそうだったわ。ハートコントローラーなんて物、最初は信じられなかった。さらに、


「何の前触れもなく何かをしたくなるのは、このコントローラーのせい。服脱いで体操したり、友達を蹴ったりね。あの不良も、これと同じ物を持ってたでしょ」


 と説明する。


「そ…そんな物が…? 本当ですか?」

「信じられないかもしれないけど、あんたらが今体験したこと。だから、気に病むことはないのよ。何をしたのも、ハートコントローラーのプログラムによるものだから」


 しかしそれを聞いてもなお、キョウ男は不満そうにしている。


「だが、それでもオレが君を痛めつけたことに変わりはない……。どうけじめを付ければいいのか………」


 真面目ね、キョウ男は。それなら…、


「ふーん。じゃあ、わたしと一緒に来るか? あの不良をぶっ飛ばしに!」

「え?」


 目を丸くするキョウ男。


「か、勝てるんですか!? アンさん、あの人に…!!」

「分からん。ただあいつは、わたしの友達に悪い事したんだ…。痛い目遭わせなきゃ、気が済まねぇ!」


 キョウ男は戸惑ったように黙ってる。迷ってるのかい?


「友達を傷付けた、お前のけじめを付けるんでしょ! 来なさいよ!」

「無茶ですよアンさん!! あのクラナリって人はすごく強くて、しかも人の心を操るなんて…! 強すぎます!! ぶっ飛ばすなんて絶対に無理ですよ!!」


 エンマくんがわたしの肩をぶんぶんと揺らして、そう言ってくる。しかしキョウ男は、


「……行こう!」

「よし、決まり! じゃあ行こう」


 彼は来るって。わたしを傷付けたことに、けじめを付けるんだって。じゃあ、あのクラナリって不良に仕返しに行こう。


「それじゃあ自亭も」

「おいおい、若亭は無理しない方がいいわよ…」


 重傷な彼をわたしが止めてると、エンマくんが、


「ま、待ってください! それなら私も行きます! ワカバさんを傷付けたけじめを付けなきゃ…!! でもその前に手当てを…!!」


 言われて改めて見てみると、確かにみんな怪我してるわ。ボロボロだ。


「確かにそうねぇ」


 先に絆創膏とか、貼った方がいいか。


「保健室に行くかい? って言っても、住伏くんとか病院行かねぇと…」


 わたしたちが話してるとエンマくんは、


「いえ。私は、医者ですから!」

「え」


 そう言った。き……、聞いてないぞ? そんなこと。



 校舎の玄関、靴箱の前で。


「痛たたたたてて! 沁みる、沁みる!!」

「我慢してください。手首に傷が…!」


 傷口を消毒される。それで色々すれば……、


「おーすげ——! 怪我なおったー!!」

「バカ、これくらいで治ったわけねぇよ」

「えぇ、あくまでも応急処置です。戦いが終わったら、うちの病院に来てください。ちゃんと治療しますから!」

「そうなのかー。ありがとう」


 どうやらエンマくんは、医者としての腕があるらしい。唐突にそんなことを言われてびっくりしたけど、わたしたちの傷に処置をしてくれた。


「靴箱に医療道具を置いてて良かったです…」

「引内亭のママ、医者だったのか。知らなかった」

「はい。母から医術を教えてもらって、私もある程度なら使えるんです」


 若亭と彼の会話。あまり聞いてて良い気分はしないわ。どうやら母親さんはちゃんと生きてるようだが……。

 キョウ男が彼の救急箱を見て、


「しかしこんな物をよく、学校の靴箱に入れてたもんだね…」

「私はよく人に殴られて、怪我をするので…。医療道具はすぐ使える場所に常に置いてるんです」

「あぁ。納得…」


 確かにこの人じゃガーゼやら包帯やら、いくらあっても足りなそうだものね。日常的に誰かしらに殴られてるらしいから。


「まぁでもキョウ男さんは軽傷なので、あとは安静にしていれば大丈夫ですよ!」

「そうか、ありがとう。キョウだ」

「尤も今から、更なる大怪我をするかもしれねぇが…。……どうした?」


 エンマくんが、明後日の方向を見てぼーっとしている。何か考えてるみたいだった。ん、何だ?


「…どれだけ医術を身に着けても、治せない怪我もあるんですよ……」


 何かを語り出した。


「何だ?」

「心の傷です」


 そう言いながら、すっごく空しい顔をしてるな。この人。


「なぁ、あんたのママさんってもしかして」

「えぇ、そうです…。心に怪我を負ったんです」


 …。この人、やっぱり。さらに続ける。


「私には兄がいたらしいのですが、私が物心つく前に自殺したらしくて…。母はそれで、慢性的に心を病んでるんです……。医者は体は治せるけど、心を元気にさせることはできない。心を病んだ人を、医者は救えないんです………」


 愚かですよね…。と。引内家の長男の自殺。その話なら、わたしも知ってる。なんたって、その自殺の原因になったのは………。


「私の…、ママなのに……」

「行くわよ」


 わたしはべしっと、彼の背中を叩いてやった。


「痛ぁっ! ちょっと、傷が開いたじゃないですかぁ!!」

「元気になったわね。行こう」

「いや! 痛くて動けないです!! 血ぃ出たし!!」


 じゃあ、クラナリにリベンジに行くぞー!!


「お前が一番病んでるじゃないの」


 わたしが言ったことの意味、分かったらしい。彼は元気になった。


「待って、この傷だけ閉じてから! ちょっと待ってくださいってば!! アンさん! ワカバさん!」


 彼はわたしたちに、自分の家の病院に来いって言ってるが…。この人の母親さんには会いたくないなぁ………。住伏家の子どもとして、合わす顔がないからな。

 奴の所に向かうために、歩き出したわたしたち。だがその前に…、


「見つけたぞ!! ハート(ジャック)たちよ!!」


 聞き覚えのある威圧的な声が、玄関に轟いた。そう、奴が現れたのだ。


「く…、く……、」


 そこに立っていたのは、両手に棘の手袋を付けて臨戦態勢のクラナリだった。


「クラナリぃ~~~~~~~!?」


 エンマくんがびびって叫んでるわ。


「屍が見つからなかったんでな。改めて始末しに来てやった。ハートコントローラーは、誰にも知られることのない完全犯罪ツールだ。それを知った貴様らを、生かしてはおけんのだ……」


 わたしたちの口を封じに来たのか。


「何より”ハート業界”という裏社会の存在が、世間にバレてはならない。その原因となった者は、」

「消される。”ハート業界”の創設者、ゲイテによってな。それにびびって自亭たちに加え、引内亭たちをも殺しに来たってわけか」

「ぎゃ———ぎゃ————!!」

「相手の方から来た……」

「何びびってるのよ。探す手間が省けたわよ」


 どのみち倒すつもりの相手よ。向こうから来てくれたのは、ありがたいことだわ。


「ではまずはお友達から……、消してゆこうか」


 光を反射させて、ギラッと光る棘の塊。


「俺様の腕っぷしの前に、ひれ伏せぇ!!」

「げ…!」


 グローブを振りかざして、奴はキョウ男に向かってきた。彼が『終わった!!』って顔する。ここが、わたしの出番…!!

 その顔を狙う棘を、わたしは回し蹴りで止める。


「わたしの友達(だち)に、そんなもん向けんな」

「ほぉ…。足で受けるとは、中々の物だな。俺様の棘グローブを……」


 今度はもう、負けないわよ。この学校の中で、思いっきり悪い奴をぶっ飛ばせる場所。そんなの一つしかないわ。


「場所を時計台に変えようぜ。あそこなら、そう人目に付かないと聞いたわ」



 学校の外れにある時計台。その最上階にある、展望スペース。わたしは来るの二度目だけど、キョウ男は初めてのようだ。


「この時計台、中に入れるなんて知らなかった…」

「えぇ。わたしも前に悪い奴に、ここに連れてこられてね。あまり人が来ない場所みたいよ」


 この学校に入ったばっかの頃にね。さてと。


「ここなら、お前は存分にぶっ飛ばせる」

「…確かに。”ハート業界”の者同士が決闘する場としては、悪くねぇな」


 やっぱり悪い奴はこういう場所、気に入るみたいね。にぎやかな学校を見下ろせる、直径五メートルほどの四角い無機質な空間。


「ぎゃぁあ—————!! 何なんですかここぉ! 校舎の屋上の倍くらい高いですよ!?」

「時計台の最上階展望台だ」

「海に囲まれてますし、落ちたら一たまりもないですよあぁああぁあー!!」


 エンマくんが真っ青になって泣き叫んでる。高い所苦手…? そんな彼に対して若亭は、


「うるせぇな。じゃ落ちなきゃいいだろ」

「エンマくん……、高所恐怖症か…」


 キョウ男が言うには恐怖症。高所恐怖症ね。まぁわたしも、あまり高い所は好きではないが……。


「だってこんな薄い柵一枚飛び越えたら、海に真っ逆さまですよぉ!!」

「じゃあここでじっとしてろ。自亭があいつを倒してやるから」


 戦おうとする若亭にキョウ男が、


「若亭くん、背中の怪我大丈夫かい…?」


 と心配している。


「あぁ、なおった」

「治るか! エンマくんがしてくれたのは応急処置だけだぞ!!」


 まぁ、治ってるわけはないか。


「”ハート犯罪者”がいるんだ。自亭はそれを捕まえるのが仕事」


 手ぇパキパキ言わせて、気合い満点のようだが……。


「その前に若亭」

「何だ?」


 ちょっとわたし、彼にやっとかないといけないこと…あるのよね。


 次回は1月12日(日)更新予定です。

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