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今日は愛人のところ? じゃあ夕飯いらないね  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
復讐編(夫視点メイン)

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復讐②

「みーきーっ!」


 繁華街の中心から少し外れた細道にて。

 ご機嫌な笑顔で手を振りながら駆け寄ってくる忠に、派手な金髪をくるくると巻いた女性はぎょっとして、きょろきょろと周囲を見回した後、鬼の形相で忠を睨んだ。

 その表情に忠が驚いて足を止めると、しっしっと手を払う仕草をして、再び周囲を警戒してから、近くのホテルへ入っていった。


 忠はそれを見送って、ぽりぽりと頭をかいて腕時計を見た。

 五分、十分。しっかり時間が経ったのを確認して、忠も先ほどの女性と同じホテルに入る。


 慣れたように部屋へと向かい、スマホから連絡を入れると、扉が内側から開く。

 迎え入れた相手に笑顔を向けて、忠は部屋へと入った。




「で、何なのよ最初のアレ」


 一通り楽しんだ後。ベッドに転がったまま、忠の不倫相手――美紀(みき)は、半眼でそう問いかけた。


「ああ、そうだ。聞いてくれよ! 俺たち、もうこそこそ会う必要ないんだぜ」


 さも喜ばしいことのように告げる忠に、美紀は声を荒げた。


「ちょっと、まさか離婚とかしてないでしょうね!? やめてよ、アタシあんたとは完全に遊びなんだから」

「わーかってるよ。そうじゃなくてさ。嫁が、いくらでも不倫していーって」

「はぁ……?」


 胡乱な美紀に、忠はオープンマリッジのことを説明した。


「ふぅん……。ああ、今はそんなのあるんだ。へぇ」


 スマホで検索しながら、美紀は呟いた。


「でもそれ、大丈夫なの? 奥さん、本当に納得してるの?」

「向こうから言ってきたんだぜ。それに、ちゃんと契約書だって書いたんだから! 絶対大丈夫だって」

「絶対、ね」


 疑わし気な美紀に、忠は不機嫌そうに顔を歪めた。なんだ、てっきり喜んでくれると思ったのに。

 気の削がれた忠は、舌打ちして仰向けに転がった。


「まぁとにかくさー。今後は、時間ずらして待ち合わせしたりとか、家や会社から遠い場所で会ったりとか、連絡の履歴逐一消したりとか、そういうことぜーんぶ気にしなくていいわけ。だって嫁公認だからな!」


 能天気な忠の言葉に、美紀は溜息を吐いた。


「あのね、あんたはそれで良くても、アタシは良くないんだけど。あんたといるところを知り合いに見られたら、結局アタシの方は不倫してるって叩かれるのよ?」

「えぇー? 言えばいいじゃん、許可取ってるって」

「ばか、そんなのわざわざ説明できるわけないでしょ。そういうのはね、いつの間にか広まってるもんなの」

「あーそう」


 煩わしさから解放されると思ったのに、否定的な美紀に忠は不貞腐れた。

 結局、美紀とは今後もそれなりに気をつけて会うことになった。

 別にいいか。今後は美紀に拘らなくても、誰とでも遊べるのだから。

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