05 ミサキ、異世界で幸せになる。最終話
「城に転移する?」
「それもいいかも知れないな。ベルトール、先に戻る」
「解りました」
額を合わせて、ウカの待つ部屋へと転移する。
「おかえりなさいませ」
とウカが迎えてくれて、シューデンは父王に面会の依頼を頼んだ。
父王から直ぐに会うと返答があり、私はシューデンと手を繋いで、王の前へと連れて行かれた。
「心の準備が出来ていないんだけど・・・」
「大丈夫。半身を引き離させる者はいないから」
「そうなの?」
「半身だと証明する方法はあるの?」
「測定器があるから心配要らないよ」
王の執務室なのだろうか?
二十畳くらいの室内に書類がいくつか山になっていてそこに埋もれるように、シューデンを渋く大人にした雰囲気の人がいた。
シューデンの将来を思い描いて、うっとりとしてしまう。
ソファーに座るように勧められて、腰を下ろす。
陛下もソファーに腰を下ろし、お茶とお菓子が用意され、室内には、王と私達と、王の執事のような立ち位置に立った人の四人だけになった。
「隣国に行って半身を見つけてくるとは思わなかったぞ」
「私も驚きました。それも聖女様ですからね」
「まだあの国は聖女召喚をしていたんだな」
父王は溜息を一つ吐いた。
「そのようです。紹介させていただきますね。彼女はミサキ・タケナカ。聖女召喚で異世界から召喚された聖女です」
「聖女様が半身か。凄い相手だな」
「はじめましてミサキ・タケナカです。よろしくお願いします」
たわいない話をしていると部屋がノックされ、男の人が石板を持って入ってきた。
見ると、正三角形が知恵の輪のような絵が描かれていて、その知恵の輪は離れられないようにと感じる描かれ方をしていた。
「わたくしは魔法庁の長官をさせていただいています、バッシュ・エンドと申します」
「ミサキ・タケナカです。よろしくお願いします」
「石板に二人で手を乗せていただけますか?」
言われたとおりに石板に手を置くと、石板に書かれた図形が立体となり上へ上へと伸びていった。
天井に当たって、上に伸びなくなると、室内のあらゆる場所をうねって交わった三角の図形が這い回った。
室内が三角の図形に埋め尽くされ、どこにも伸びることができなくなって、少し開いた窓の隙間から外へと伸びていった。
「手を離して下さい。いままで半身と言ってもここまで相性のいい半身を見たことがありません・・・。お二人が揃うと、出来ないことはなにもないのかも知れません」
陛下も、その後ろに立っている人も驚いて居るようで、かく云う私とシューデンも驚いていた。
私の驚きは無知の為だったけれど。
私がこの世界に聖女召喚された時からの話を全て陛下達へと話して聞かせた。
実際の年齢も話し、この体が誰のものかも解らないことまで、全てを話した。
そして、ずっとセインエリザートが信じられなかったことまでも話した。
バッシュが「確証はありませんが、ミサキ様の体は元の世界にあるのだと思います」
と言った。
「多分、亡くなられたのではないかと思います。こちらの世界で、半身に引かれて、それに釣り合う体が生成されたのだと思います」
「生成・・・まともな人間の体なんでしょうか?」
「詳しくは調べてみないことには解りませんが、聖女であることと、半身がいることを考えても間違いなく普通の体と変わりないと思います。その年令になっているのは半身に合わせた結果かも知れません」
「あの、私、向こうで着ていた服を着ていたのですが、向こうでは全裸で死んでいると言うことでしょうか?」
それはちょっと嫌だと思って聞いてみた。
「それは解りませんが、必要な衣服として、体が作られたのと同様に衣装も生成されたのかもしれません」
「そう思うほうが心安らかで居られますので、そう思うことにしておきます」
生成されたのなら、子供のサイズで作られていたと思うのだ。
シューデンが私の肩を抱き寄せてくれる。
「シューデン・・・私、ほんとに四十五歳なんだけど・・・私でいい?」
「ミサキがいいよ」と言って髪に口づけてくれた。
陛下がゴホンッと空咳をして「シューデンとミサキの心が決まったら結婚をしなければならないな」
「結婚ですか?!」
驚いて尋ねる。誰も私には回答をくれない。
「そうですね、まず、婚約だけでも先にしておかないと・・・」
「弟のバルクのところに養女として引き受けてもらうか?」
私の質問や意見は聞かれないまま話は進んでいく。
それがちっとも嫌じゃなかったのはどうしてだろうと不思議に思った。
セインエリザート国ではあれほど嫌だったのに。
「結婚かぁ〜〜〜・・・」
陛下達がシューデンと私を婚約させるために話し合っている時、私とシューデンも話し合っていた。
シューデンは私のことなのに、私の意見を無視したように話が進んでいくことに引け目を感じていたようで、何度か謝られた。
「シューデン、本当に不思議なんだけどシューデンと結婚するために必要なことならば、ちっとも嫌じゃないの。シューデンが王子様なのだから、私に立場が必要なのも理解できているよ」
「ありがとう、そう言ってもらえてホッとした。あまりにも皆、ミサキの気持ちの確認を取らないから私の方が不安になってしまったよ」
「私こそありがとう。凄く嬉しいわ。私はまず教会に行ってこの国を守る祈りを捧げたいの」
「いいのかい?」
「ええ。私が祈りたいの。それでできれば・・・他の国にも行って他の国でも祈りたいの」
「そうだね。どこかだけで祈るのは弱いところに魔物が向かうから良くないね」
「でね、私達、転移出来るじゃない?」
「うん」
「私達が馬車でのんびり旅している暇は無いと思うのよ」
特に私の貴族教育に時間が必要!!
「そう・・・だね」
「シューデンが知っている人に各方面に行ってもらって、到着した頃に私達が転移して、そこで祈って、また別のところに転移して祈る・・・それを繰り返したら最短で各国に祈りが届けられると思うの」
「なるほど」
「そんな風に予定を立ててみてくれないかな?」
「解った。話してみるよ」
「それと聞いていなかったんだけど、セインエリザートではどうだったの?」
「う〜〜ん・・・不愉快だったよ。私が誘拐したと決めつけてたからね。まぁ、ほんとに誘拐していたしね」
私はクスクス笑う。
「でも、ミサキの姿はどこにもないし、私を犯人だと決めつけようがなくて、結局帰国を許すほかなかったんだよ」
「あの国はこの先どうなると思う?」
「また聖女召喚をするんじゃないか?」
「それはなんとしても阻止しなければならないわ。これ以上被害者を増やしたくない」
「私はこの世界の人間だから正直、複雑だよ」
「どういう事?」
私はシューデンに視線を合わせる。
「聖女がやってこなくなったら、この世界は滅んでしまうかもしれない」
「そう、ね・・・」
でも、私や沢渡円さんのような被害者を出したくはなかった。
四十五歳の私はでもこの世界に連れてこられて不安で仕方なかった。誰も知り合いが居ないことに、助けてと言えないことが本当に怖かった。
シューデンに出会うまで・・・。
私は翌日から教会でこの世界の魔物を駆逐するように祈りを捧げた。
魔物が力を弱め、平民でも退治できるほど弱くなるように祈り続ける。
その傍ら、私に戸籍が与えられ、陛下の弟のバルク・アウロイの養女になった。
最低限の貴族の常識を色々な人に教えられ「貴族らしい笑顔を表面に貼り付けるにはまだまだですね」と言われている頃、聖女を待ち焦がれている国々へと先発隊が出発した。
近くの国から順番に向かい、教会で聖女の祈りを捧げる。
魔物達が力を弱めるように、出来るなら死滅するように強く祈る。
一週間ほど祈って、次の国へと転移する。
五カ国程回った頃、魔物が弱っていることが報告されてきた。
騎士達が魔物に囲まれても怪我すること無く、退治することが可能になっていると報告があった。
私はその報告を聞いて、調子づいて各国の教会で祈りを捧げる。
今いる魔物以外生まれてこないようにと。
今いる魔物がいなくなってしまえと。
淀んだ場所を聖なる魔法で清めていく。
セインエリザート国以外の国を回り終えた。
私はセインエリザートだけを守っている結界を叩き壊して、セインエリザートも他国と同じように祈った。
だた、セインエリザートの国には入らなかった。
出してもらえなくなったら嫌だから。
私が本気で嫌がると、もしかしたらシューデンも引きずられて、魔力を全開放してしまうかもしれない。
この大陸には魔物がいなくなった。
セインエリザートの外側に淀んでいる場所があったが、それらは清めた。
セインエリザートが日に日に力を失っていく。
でも魔物の数は日に日に減っているのに、弱っていくのは私には不思議で仕方なかった。
国内から祈っていないので、国内は聖なる力が届いていないのだろうか?
そのせいなのか、セインエリザートはまた聖女召喚の儀を執り行った。
それは私には、良く解ってしまった。
新たな聖女召喚に引っ張り出されたのが私だったから。
聖女召喚の魔法陣の中に、十六歳の姿の私が立つ。
「愚かなことを・・・!!」
「成功だっ!!」
そう喜んでいるところに私は、聖女召喚の義に必要な魔法陣を復元できないように壊し、必要な書物、全てを破壊し尽くした。
「聖女様、何をなさるのですか?!」
私の年齢が上がっているせいなのか、私がミサキだと誰も気が付かない。
私は二度と聖女召喚ができないように人の記憶も操作した。
「ルカ、スルツ、あなた達本当にこの国は最低ね。聖女がこの世界にいるのにまた聖女召喚をするなんて」
「まさか・・・ミサキ?!」
「正解。もう、聖女は必要ないでしょう?魔物もいないのに、聖女を呼んで何をさせたいの?」
「聖女がいないと、この国は立ちいかないんだっ!」
「それはここに住まう人間がなんとかすることであって、聖女になんとかしてもらうようなことではないわ。もう魔物すら居ないのに!!聖女召喚をしても、私が生きている間は私が呼び出されることになるみたいね。でも、もう、聖女召喚はできないわ。書物は全て燃え上がってしまったし、ここに描かれていた魔法陣は私が壊したわ。人の記憶だけはどうなるかは解らないけど、それも壊したつもり。私、言ったわよね。聖女召喚は誘拐だって。二度としないで」
私はシューデンの気配を手繰ってシューデンの元へと転移しようとして、念のために、この王宮の書類の全てを燃やし尽くしてから転移した。
シューデンは心配そうに私を待っていた。
「ちょっと、聖女召喚に引っ張られちゃった」
「セインエリザートかっ!!」
「もう、心配は要らないわ。あの国はきっと、そのうち崩壊すると思うわ」
「何をしてきたんだい?」
「ちょっと本や、書類の全てを燃やしてきたの」
「契約書のたぐいもかい?」
「紙の類は全てと指定したから多分ね。石板とかに残っていたらちょっと困っちゃうかな」
私が貴族としてそれなりに見えるようになった頃、私は十八歳になり、シューデンと結婚することになった。
沢山の人に祝われ、私はそのお返しにこの世界の皆の幸せを祈る。
天から美しい黄金色のキラキラした魔力が降り注いだ。