表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

04 ミサキ魂の半身に出会う。

 城の警備が強化され、一週間が経つと、隣国のガンドールと言う国から百人くらいが訪問してきた。

 私は自室の窓からそれをただ眺めているだけ。

 参加はさせてもらえないらしい。


 隣国の前に聖女を出したくないのか、ガンドールの人達がいる間は大人しくしていて欲しいとお願いされていた。


 私は日常を何も変えず、本を読み、時折散歩して、一日一日を過ごした。

 遠くからかすかに優美な音楽が聞こえる中、城の誰も彼もが浮かれていた。

 ナイカが「今日はダンスパーティーなのですよ」と教えてくれた。


 私はお子様タイムに眠りにつくから「おやすみ」と言ってベッドに潜り込んだ。

 ナイカが退室して、誰もいなくなってから、部屋を抜け出し、遠目からダンスパーティーの様子を見に行った。


 ほんのちょっとした好奇心だった。

 あわよくば、隣国の誰かと話せるのではないかと考えて。

 隣国から見たこの国のことを知りたかった。

 助けてくれと言うけれど、一体何から助ければいいのかさっぱり解らない。



 そっと覗くと、色とりどりのドレスに身を包んだ女性達、艶やかな笑い声、この国とは違う衣装を身につけた人達。

 あの人達がガンドール国の人達なのだときらびやかな世界を眺めていた。

 その中の誰かと視線が合った。


 体に雷が落ちたような衝撃を受けた。

 決して恋に落ちたとかそういうことではない。と思う。

 けれど失われた自分を見つけたような感じがして体が震えてその人の下に走り寄りたい衝動を必死で抑えていた。

 相手も同じように感じたのか、周りに声を掛けてから、私の方に走ってくる。


 私はその相手に抱き上げられるままになり、言葉もなく抱きしめられ、私も抱きついた。


 何この感情?!

 安心?!もうこれで大丈夫。そんな感情が湧き上がってくる。

 もうこの人から離れられない。

 私にとってこの人といることは自然で、私を抱きしめているこの人にとってもきっとそうであるはずだ。


 年の頃は十四〜五歳。黄色人種のような肌の色。髪は薄い紫で、瞳の色は虹色のように輝いていた。

 あまりにも綺麗で、私は手を彼の目の方へ伸ばすと、クスと笑われて、私の手を避けもせず受け入れた。


「僕達、一緒に居るべきだと思わない?」

「ええ、そう思うわ・・・どうしてそんな風に思うのかしら?」

 その理由が解らない。だけど、一緒に居るべきだと強く感じてしまう。


「それは魂の半身だからだよ。君の名前は?私はシューデン・ガンドール」

「国の名前を持つってことは、ガンドール国の王族なの?」

「そうだよ。第三王子だ」


「第三王子・・・。私はミサキ・タケナカ・・・」

「もしかして聖女召喚でこの国に呼ばれた聖女様なのかな?」

「どうして知っているの?」

「どうして解らないと思うんだい?この国は有名なんだよ。自分たちさえ良ければ他国がどうなろうが気にもしないんだ」


「やっぱりそうなのね・・・」

 私の表情に陰りが出たのに気がついたのか、少し明るい声で私を誘ってくれた。

「私の部屋に来ないかい?」

「ええ、行くわ」


 早まるなと頭のどこかで思ったけれど、彼は間違いなく私の半身だと受け入れてしまっていた。


 シューデンの部屋は私の部屋とは反対方向にあって、私とは交わらないように細心の注意を払われていることに気がついた。


 シューデンは私に手ずからお茶を入れてくれて、彼が一口飲み、私に差し出した。

「毒の心配なんてしていないのに」

「だけど初めての邂逅だからね」

「ありがとう」

 シューデンが口をつけたお茶に私も口をつけた。

 内心、馬鹿みたいに間接キス?!とかいい年して思ってしまった。


 シューデンが私の額に額を当ててもいいか聞いてきて、私は頷いた。

 額をくっつけた途端、私の癒しの力が溢れ出し、私の記憶に聖女召喚の真実の姿を見せられた。

 それが本当だという証拠はどこにもない。けれど、私は信じてしまっていた。


「この国は腐っているのね・・・」

「そう、と言うのかも知れないね」

「私をこの国から連れ出せる?」

「少し窮屈な思いをするかも知れないけれど・・・」

「かまわないわ」

「なら、直ぐに行こう」


「待って、私の世界から持ってきた荷物だけは取りに行きたいの」

「解った。では取りに行こう。ミサキの部屋を思い浮かべて」

 額を合わせたまま私の部屋を思い浮かべる。

 ナイカは私が眠っていると思っているから居ない。


 私とシューデンは、私の部屋に立っていた。

 私はそれに驚くでもなく、当然のこととして受け入れている。二人の力を合わせたら何でもできるのだとそんな風に感じた。


 私は急いで自分の荷物とパジャマをカバンに詰め込んで、写本した前の聖女の日記もカバンに入れた。

 シューデンはソファーにゆったりと腰掛けていて、私はシューデンの隣に座った。

 

 また額を合わせて、手をつなぐとお茶を一緒に飲んでいた部屋ではない、知らない部屋に立っていた。


「ここは私が与えられた寝室なんだ。パーティーが終わるまで、この部屋で待っていてくれる?」

「解ったわ」

 シューデンがベルを鳴らすと二十歳くらいの男の人が入ってくる。


「ベルトール、私の半身だ。暫く匿っていてくれ」

 ベルトールは息を呑み「かしこまりました」と言った。


 シューデンはパーティーに戻り、私は一時間ほど早くシューデンに会いたいと考えながら、大人しく待っているとシューデンは帰って来るなり私を抱きしめてくれた。

「遅くなってごめんね」

 私はクスリと笑い「いい子で待っていたよ」と伝えた。

「急ごう」


 また私達は額を合わせて、シューデンが望む場所へと連れて行かれる。

「ここは私の国。私の離宮の一室だよ」

「ガンドール国っていうこと?」


「そうだよ。私がこの国に戻ってくるまで、暫く窮屈な思いをするだろうけど、我慢してね。王族としての仕事を終わらせたら直ぐに戻ってくるから」

「解ったわ」


 シューデンがベルを鳴らすと、不審げな顔をしてメイドらしき女性が一人、入ってきた。

「シューデン様!!どうされたのですか?」

「半身が見つかったんだ」

 メイドは一瞬目を見開いてから、蕩けるような笑顔をした。


「それはおめでとうございます!!」

「だけどちょっと曰くのある人物なんだ。私が帰ってくるまで隠していて欲しい」

「かしこまりました。お任せください」

「頼んだよ」


「ミサキ、今度は一緒に移動するのではなくて、私だけをセインエリザートの城の私の部屋に送ることを考えてくれる?」

「解ったわ」


「お土産を沢山用意して帰ってくるよ」

「いい子にしているわ。でも早く帰ってきてね」

 額を合わせると、シューデンだけが私の目の前からいなくなった。


「はじめまして、私はシューデン様のメイドの一人でウカと申します」

「私はミサキ・タケナカです。お世話になります」

「至らぬことがあるかと思いますが、何でもおっしゃってください」


「ありがとうございます。私、初めて力を使って疲れてしまって、取り敢えず眠ってもいいですか?」

 凄く優しくて綺麗な笑顔を向けられて、私はカバンからパジャマを取り出して着替えて、ベッドへと潜り込んだ。

 残念ながらシューデンの匂いはしなかった。



 シューデンと額を合わせて知ったこと。

 セインエリザートははるか昔に聖女召喚を繰り返していて、聖女を自国のみに取り込み他国が困っていても助けたりせず、自国を守ることだけに力を尽くした。


 国を守るものとしては当たり前のことなのかもしれないけれど、セインエリザートは他国のことは一切考えていなかった。

 セインエリザートが強化されたら、行き場を失う魔物達は進む方向を変えて、他国へと向かっていく。

 セインエリザートの周辺国こそ守ってあげなければならなかった。


 セインエリザート以外の国は魔物に襲われ酷い惨状で、魔物に追いやられて住む場所がなくなり、魔物に襲われて沢山の人が死んでいく。

 その中でセインエリザートだけが何の苦労もなく、富を得ていった。


 沢渡円さんの日記に『聖女召喚に関して書かれているものを一つでも多く消失させたい』と書かれていて、それを実行していたのだろう。けれど全てを処分しきれなくて、今回の聖女召喚が行われて私が呼ばれてしまった。

 せっかく沢渡円さんが自分のような不幸な聖女召喚をされないように頑張ってくれたのに、私は呼ばれてしまった。

 

 私がいなくなってセインエリザートがどうなるのかは解らないけれど、私はセインエリザートを助けたいとは思えなかった。


 シューデンの言うことが正しいのかどうか、本当のところは解らない。

 けれど私が頼るべきはシューデンだと本能が感じてしまうのだからどうしようもない。

 それは騙されたって後悔はしない。

 悪い恋に落ちたような気分だった。

 たとえ、シューデンが悪人だったとしても私は受け入れてしまう・・・。

 私は、私を戒めて、冷静になるように言い聞かせたけれど、それは何の効果もなかった。


 

 翌朝、ウカが洗顔の用意を持ってきてくれて、朝食の準備を整えてくれる。

 ここでも同じように、日本の洋食の朝食メニューと何ら変わりなかった。

「昼食は楽しみにしていてくださいね。この国は海が直ぐ側にあるので、魚が食べられるんですよ」

「魚が?!」


「はい。お好みの食べ方がありますか?」

「ここの料理が解らないから、おまかせします。いずれ、食べたい料理方法を伝えるかも知れません」

「はい。かしこまりました。昼食前にミサキ様の採寸をさせていただきたいのですが」

「採寸?」


「はい。夜会用のドレスと、日常に着るワンピースをお作りしなければなりません」

「解りました」

「作りたいデザインが有りましたら、こちらに紙とペンを置いておきますので、デザインされてみてはいかがですか?」


「ありがとう。取り敢えず着るものもこの国に合わせたものを着るわ。それから時間が余って仕方がないので、魔法に関する本とこの国で伝えられているセインエリザートの歴史の本があれば、それを読んでみたいのだけど・・・」

「かしこまりました。本はいい時間つぶしになりますね。直ぐにお持ちいたします」


 私は異世界転移して初めて一人で、息の詰まらない食事をすることが出来た。



 後二〜三日でシューデンが帰ってくると教えられた日、ウカが「いくら半身とはいえ、シューデン様に付いて来ようと思えましたね?」と聞かれた。


 私も「実はちょっと浅はかだったと思っている」と答えると、ウカは楽しそうに笑った。

「半身って聞くのだけど、それは何なのかしら?」

「ああ、説明をしていませんでしたね。ちょっとお待ち下さいね」


 ウカは暫く部屋から出ていくと、一冊の本を持ってきた。

 高学年向けの絵本に近い本で、図解付きで丁寧に説明されていた。


 半身は嫌でも惹かれ合う、魂の片割れ。

 一生涯の内に出会える人は十%にも満たない。

 出会ってしまうと、物理的にも精神的にも、離れることは出来なくて、同性なら親友に、異性なら、半数以上が婚姻すると書かれていた。


 片側が持つ知識や記憶は両方が持つことになり、いい面も悪い面も互いに受け止められる相手だと説明されている。

 一人では出来なかった魔法も、二人揃うと使えるようになる。


 シューデンを待っている間に私は最上級の魔法も使えるようになっていた。

 攻撃魔法は流石に試すことは出来なくて、イメージトレーニングだけだけど、なぜか使える自信があった。

 もしかしたらシューデンが使えるのかもしれない。

 だから私も使えると思い込んでいるだけなのかもしれなかった。



 予定していたよりシューデンの帰りが遅くなっていて、私はシューデンが心配でならなかった。

 ウカが窓の外を指差し「前から五台目がシューデン様の馬車ですよ」と教えてくれた。

 

 私は矢も盾もたまらず「ちょっと行ってくる」と言って、シューデンを思い浮かべると私はシューデンの膝の上にいた。


 シューデンは蕩けるような笑顔で私を見て「迎えに来てくれたのかい?」と言った。

「会いたくて・・・」

「私は元気だよ」

「嫌な思いしなかった?」


「多少はね。聖女を盗んだんだから、それくらいは甘んじて受けるよ」

「お帰りなさい」

「ただいま。長く待たせてしまってごめんね」


 私は本当の十歳の子供のような仕草で首を振った。

 シューデンの膝の上だったと思い出して、膝から降りようとしたら、シューデンは私を抱きしめて、離してくれなかった。

「重くない?」

「羽より軽いよ」

 そう言って額にキスをしてくれた。

次話、最終話。26日20時UP予定です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新いつも楽しみにしてます 先代聖女の沢渡円さんの高潔すぎる決断と行動は悲しいことに実を結ばなかったけど完全には無駄ではなかったのが現状という訳ですね うーん切ないが読み物としてはオモロす…
[気になる点] 拉致国家は魔物の餌場にしよう。滅んだほうが当事者以外全員幸せになれるだろうし
2023/12/25 12:23 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ