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02 聖女の力は間違いなく持っているみたい。

 ボールが落ちるまで十分位かかり、その間皆ボールをただ眺めていて、誰も口を開かなかった。

 これってどういうことなのかな?このひとたちの反応からしても、異常事態なのは間違いないよね?

 普通は直ぐに落ちるか何かが、正しい反応ってことだよね?

 私の異常性が示されたってことかしら?

 ボールがゆっくり落下を始め、お皿の上にそっと降りた。

 この場にいた全員の詰めていた息を吐き出す音が聞こえた。


 スルツがドアの外に声を掛け、暫くするとお茶の準備がされた。

 各々お茶を飲み、立っている人達には手渡されていた。

 私は匂いをかぎ、紅茶だと見当をつけ口をつけた。

 間違いなく呑んだことがない、上等な紅茶だった。

 レモンが欲しい。

 入れたら勿体ない?!


「説明していただきたいのですが」

「そうですな。その道具は魔力量と魔力の種類を測るものです」

 そう言って話し始めた知らない人が皿に手を置いた。

「これでもかなり魔力が高い方なのですが」

 ボールはゆっくり上昇し、五十cm位の高さで止まり薄い緑に光った後、濃い赤に光って手を離すとボールはストンと落ちた。


 ボールが浮く以外、私と違うよね・・・。

「普通はこんな風になります。球体がずっと上空で止まっていたり、癒しが降り注いだりすることはありませんし、手を離した途端球体は重さで落下します」

 陶器もボールも割れないのかちょっと気になった。


「私は想定外ということですか」

「規格外、という事になりますか・・・。普通なら魔力を認識できると思うのですが、認識できないと言われるし・・・どうしたものか」

「魔力の扱いを覚えることから始めてもらうしかないんじゃないか」


「どうして私がそんな事をしなきゃならないの?」

「どうしてって・・・」

「だって、私魔力使えなくても困らないのに何故そんな事をしなきゃならないのかわからない」

 室内の人々がうめき声を上げた。


「今、この世界は魔物が溢れかえり、皆苦しんでいます。是非、聖女様の力で助けてください」

「何故私がそんなことしなきゃいけないの?ってさっきから言ってるんだけど・・・それが楽しいことなのか、苦しいことなのかもわからないし、私がやりたいことではないわ」


「そんな、聖女様は我らを見捨てるのか?」

「私、聖女じゃないって何度も言いませんでしったっけ?助けなければいけない理由がどこかにありましたっけ?」

「いえ、魔力測定で聖女であると証明されました」

「そう、ならあなた達は私を聖女と思えばいいわ。でも私は聖女じゃないもの。誘拐した人達を助けなきゃいけない理由なんてないわ」


 また唸り声が聞こえる。

「私の望みは帰ることだけ。名も知らない人達を助けるなんてこと、私はしないわ。それをして私に何の得があるっていうの?」


 ルカがはっとしたように顔を上げた。

「そう言えば自己紹介すらしていなかったよね」

 ルカが掌を上に向け、後から来た人を差し示した。

「我が国の王であられるアイエス二十三世」

 二十三世って凄くない?


 ちょっと背が高いけど小太りのおじさんを宰相のエオア。

 背は低く細身の三十代後半の人が魔法師団長でカナカ。

 肉厚でガッシリした筋肉命!みたいな人が軍務大臣ポール。


 と次々に紹介されたが、役職名も聞いたことがなければ名前もカタカナばかりで覚えきれない。

 さぁ、これで助けられるだろうと言うような顔をしてスルツが私の顔を見る。


「こちらの感覚で言うと私の名前はミサキ・タケナカです」

 さぁ、私を家に返してという顔でスルツを見返す。

 正しく私の意を汲み取ったのか目をそらされた。


「取り敢えずすることもないんだし、魔法の訓練だけしてみれば」と魔法師団長が軽く言った。

「そうだね。この世界で生きていくためには魔法が使えるのと使えないのとでは生き残れる確率が違うよ」

 ルカも頷きながら話した。


 一旦、そういうことにしようとバラバラと席を立っていった。

「ごめんね。皆、仕事もあるしね」

 スルツと魔法師団長のカナカが部屋に残る。  後、立っていた人も。


「手に触れてもいいかな?」

「嫌だと言いたいところですが・・・どうぞ」

 私より体温の低い手に触れられ一瞬ビクッとなる。

「魔力を流してみるので、なにか感じられないか手に意識を持っていってくれる?」

 頷き、手に意識を向ける。


 カナカの手の温度より温かいものが流れ込んでくる。

「暖かいものを感じます」

「それが魔力です」

 その温かいものが入ってきて体の中を流れていく。

 流れてくるけど私の中にはこの温かいものはない。断言できる。


「カナカさんの魔力?は感じられますが私の中には無いようです」

「え?」

「カナカさんの魔力?が体を巡るのは分かりますが、空洞の中を流れていくような感じです」


「反対の手も触らせてね」

 カナカの魔力が全身をめぐり、反対の手から抜けていく。

「本当だ。戻ってきたのは私の魔力だ。だが少し変質している・・・?」

 スルツが「どういう事?」とカナカに聞いているがカナカもよくわからないようで首を捻るばかりだった。


 結局私はどこに住むのかもわからないまま、元の部屋に戻された。

 なし崩しにこのままここにいることになるのかな?

 ナイカに私が持っていたものを返してもらい、一応スマホの電波状況を見る。勿論電波はない。カバンに入れていた腕時計をはめるがブカブカで手を下ろしたら落ちてしまう。


 カバンの中に入れてある先の細いピンセットでバンドの位置を調整してはめる。

 時計はこれでよし。スマホをソーラー電池で充電をするために窓辺に置く。

 ナイカは私のしている事を不思議そうに見ているが何も言わない。

 手帳を取り出し、昨日の夜からのことを箇条書きにして書き留めておく。


 パジャマの脇の部分を切って今の大きさに合わせて小さく縫って欲しいとナイカに頼むと快く了承してくれた。

 体に合わせた衣装をしつらえ始めていると言うので簡単なワンピースにして欲しいと頼んだ。

 ここのようなヒラヒラフリフリはとてもじゃないが着ていられない。御年四十五歳である。


 若いっていいわね〜腰の痛みもなくなったし。

 それにしてもこの外見、どうなっているんだろう?

 この世界に合わせて変質したとか?一番ありそう?

 黒髪茶色の目の方が目立ちそうだものね。


 私の無意識の願いで若返ったとか?

 それか、この体でないと聖なる力が使えない?

 答えのない考え事をしていた時、スルツがやって来た。

 話をしてもいいかと聞いてくるのでかまわないと返した。


「どうしても僕達を助けるのは嫌?」

「ストレートにきましたね。嫌というか、なぜしなきゃいけないのかわからないというのが正解でしょうか。助けてくれと言うけれど、あなた達が言っていることが正しいとは限らないじゃない。嘘かもしれないし、私腹を肥やすためだけに言っているのかもしれないし」


「そうだね。納得できたら助けてくれるのかな?」

「その見返りは?ここか、教会に閉じ込めるのでしょう?」

「そんなことはしないよ!」


「わからないじゃない。私に判断できることは無理やりここに連れてこられたことと、あなた達があなた達の言い分で助けろと言っているだけだもの。助けた後はどうなるの?用済みで放り出される?監禁される?殺される?私にはわからないことばかりだわ」


「僕達を信じられない?」

「どこに信じられるところがあるというの?当然でしょう」

「困ったな」

「あなた以上に私の方が困っているわ。私には知っている人も頼りになる人も、生活するためのお金もないんだもの」


「そう、だね。本当に申し訳ない。でも、君の不利益になることは決してしないよ」

「言うのは簡単ね。言うだけなら私でもできそうだわ」

 私が頑固なのか?話は交わらないままその日は終わった。


 翌日、カナカが部屋に走り込んできた。

「聖女様の力のことが少し分かったよ」

 目の下には隈ができ、顔色も昨日より悪い。

「この本を見て」

 差し出された本の文字が読めるのか一瞬気になったが、自国の文字と同じように、スラスラと読むことが出来た。



 ・聖女の魔力は普通の魔力とは違い、体内には無いと思われる。

 ・周りにある魔力を吸い取って体内で変換して放出していると思われる。

 ・聖女の魔力は無尽蔵にあったと思われる。


 そう書かれていた。

「思われるばかりですね」

「まぁ、そうだね」

「魔力を放とうとしてみてくれる?」

「放つ・・・?呪文とかあるんですか?」


「決まったものはないけど、癒しの場合だと、この者を癒し給えとかじゃないかな?」

「この者を癒し給え」

 キラキラとした光がカナカの上に降り注ぐ。

 目に見えて顔色が良くなり、目の下の隈が消える。


「凄いねっ!疲れが取れたよ」

 カナカがズボンをまくりあげる。

「傷がなくなっているよ!!古い傷も癒してしまうのか!!疲れたとか、疲労感とかある?」

 テンション高く詰め寄られ、思わず体を引いてしまう。


「いえ、なにも変わりはありません」

「凄いね!!他の癒しを見たことあるけど精々切り傷が治るくらいで古傷が治るなんてことはなかったよ」

「そうですか」

「あっ、そうだ。僕達には読めないんだけど、聖女様なら読めるかも」


 一冊に紐でまとめられた紙束が差し出される。

 表紙に『人の言うことを甘い言葉を信じず、自分の目で確かめなさい』と日本語で書かれていた。

「ここには図書館ってあります?」

「勿論あるよ」


「私は図書館に行ってもいいですか?」

「えっ?いいと思うけど・・・部屋から出たら駄目とか言われてるのかい?」

「いえ、何も。してもいいことも悪いことも何も言われていません」

「そうなのかい?じゃぁ、聞いてくるよ」

「お願いします」


 渡されたノートに視線を落とす。一枚目をめくるとそこには『聖女として召喚されたあなたへ』と始まり、紙束の主、沢渡円さんは千九百八十一年から召喚されたと書かれていた。

 伝承なくらい古い話じゃないの?


 とても大切なことが色々と書かれていた。

 ナイカに頼んで書き写すための紙があるか聞くと持ってきてくれた。

 一字一句間違えないように書き写し、数ページ進んだ所でカナカが図書館に行ってもいいと教えてくれた。


「図書館に行くかい?」

「さっき借りた紙束、暫く借りていていいですか?」

「いいよ。僕達には読めないし」

「ありがとうございます。なんて書かれているのか気にならないんですか?」

「気になるよ。教えてくれる?」


「読んでみないと判断できません」

「ん〜前にいた聖女様と思われる方は私達に読まれたくなかったから我々の読めない言語で書いたんだと思うんだよね」

「そう・・ですね」

「知りたいけど、知られたくないと聖女が考えて言語の違う言葉で書いたなら、知らないほうがいいかなとも思う」

「そうですか」

 引き出しの中に入れて、図書館へ連れて行ってもらう。


「魔法の初級編っていう感じの本、ありますか?」

 カナカに差し出された本を私は読み進めた。

 読み終わると司書の方に次に読むべき本を出してもらい読む。

 美咲の体とは違うからなのか、乾いたスポンジが水を吸い取るように知識が吸収され、記憶していく。


「聖女様、夕食の時間になります」

 ナイカに言われ本から目を放す。

「この本って部屋に持ち帰れますか?」

「勿論です。聖女様」



 夕食は王様、王妃、ルカ、ルスツ、私が着ているドレスの元の持ち主のマリー、マリーの従者だというオルタが一緒だった。

 上辺だけの他愛もない話を私以外がして、時折話を振られるが、短い言葉だけの返事にとどめている。


 仲良くなったら頼みごとも断りにくくなる。

 そういう私の頑なな態度が雰囲気を悪くするのだろう。

 皆気詰まりだった。

「あの、私、明日から部屋で食事をとりたいと思うのですが」

 王族一家が慌てて食事くらいは一緒に取ろうと何度も言う。

 わかったと返事してまた黙々と手を動かした。



 何日か前からマリーとオルタが部屋へ遊びに来るが、私と仲良くなるというミッションは全く成功していない。

 見た目十歳でも中身は四十五歳なんだから子供と一緒に遊べるわけがない。

 人選を大きく間違っている。

 全員の食事が終わったことを確認して私から話しかける。



 夕食の後、アイエス二十三世に私は話しかけた。

「なにか困っていることはないかな?」

「困っていることだらけです。この先どうなるのかもわかりませんし、助けてくれと言われましたが、私には助ける手段と方法がわかりません。万が一助けたとして助けた後の私はどうなるんでしょうか?不要になると殺されるのですか?」


「殺すなんてとんでもない!!我々は聖女様の力で魔を祓って欲しいと思っている。望んでいるのはそれだけなのだ。それ以外は自由にしてもらってもかまわない」

「自由というのは何もなく放り出されるということでしょうか?」


 慌てて首を振り、アイエス二十三世は話す。

「そんなことはしない。王宮に住み続けてもらってもいいし、教会に移ってもらってもかまわない。他に住みたいところがあるのなら、そこで暮らしていけるように手配する。君の望むようにすると約束するよ」


「わかりました。助ける方法とは?」

「教会の大聖堂に行ってもらってそこで毎日祈りを捧げてもらいたいんだ」

「毎日・・・どれくらいの時間、どれくらいの期間なんですか?」


「正直、わからないとしか言いようがない。聖女様の力の大きさにもよるし、世界の様子にもよるので期限はわからない」

「なるほど。祈りの言葉はわかっているのですか?」

「それはわかっている。というか、言葉は必要ないと言うか・・・聖女が守りたいと思って力を注いでくれたら、それが守りになるんだ」


「この国では口約束が最も重要視されていますか?」

「重要視?」

「はい。口で言ったことは絶対破ってはいけない等の誓約がありますか?それとも書類に書かれたことが絶対ですか?それ以外の方法があるのですか?」


「それは、書類の契約もあるし、魔法の契約もあるよ」

「魔法の契約とは?」

「魔法を使って契約するんだ。その内容によって罰の重さも色々変わってくる」


「そうですか。貨幣価値はどうなっていますか?」

 そこからはアイエス二十三世の側についている人が答える。


「銅貨から始まり十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚でプラチナ一枚、プラチナ十枚で白金板貨一枚となる。後、それぞれの国の刻印が押された金の延べ棒一本が金貨五百枚となる物もある。市場では出回ったりしないけど」


「明日、銅貨十枚と銀貨一枚、金貨一枚をもらえませんか?そして市場に連れて行ってください。買い物がしてみたいです」


「明日は急すぎるので調整のために少し時間をいただけますか?」

「それは構いませんが、内緒でコソッと行きたいです」

「考えてみるよ」

「お願いします」

次回22日UP予定です。

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[気になる点] >千九百八十一年 ここは1981年でもいいと思う
[良い点] 正論突きつける幼女、ステキです。 [気になる点] プラチナと白金は現実世界では同じものですよ… 貨幣価値が違う意味がわかりません(*‘ω‘ *)? 異世界では違うものなのでしょうか…
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