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聖女召喚の儀という幼女誘拐  作者: 瀬崎遊


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01 45歳の幼女誘拐

 浴室で髪を洗う度に何本もの髪が流れていく。

 抜けているのか切れているのか?

 母が似合わないパーマをかけていた理由が解る歳になってしまった。

 髪の量が減って、その上、髪だけが痩せていくのだ。

 洗髪する度に泣きたくなる。

 

 見下ろした体は立派な三段腹。

 肉体労働をしているのに、体重は増えていく。


 体を拭いてパジャマを着る。

 レモン水で乾いた喉を潤して一息つく。

「ふぅー」

 私もパーマかけたほうがいいかな?まだ大丈夫?

 どっちみち帽子かぶるし・・・。

 

 竹中美咲四十五歳、十六歳で結婚して三年で別れてそれからずっと独り身。だから学歴は中卒。子供でもいれば救いだったのかも知れないけれど、死産だった。あの時なんで結婚したんだろう?

 中卒のため、事務仕事にはつけなくて、肉体労働しかない。

 スーパーのパートですら雇ってもらえない。

 配送の仕事で、重い荷物が腰に来る今日この頃。

「このまま体にきつい仕事して、独りで死んでいくのかな〜?」

 ワンルームのベッドの上に寝転んでスマホをいじっていた。


 天井から何かキラキラとした光が落ちてきて何?とスマホから視線を外し、とっさにその光から逃れようと体を転がしベッドから落ちる。

 体の下にはいつも持ち歩く鞄があり、硬い部分がお腹に当たり痛かった。

 痛っーいっ!!

 キラキラとした光はベッドの上に降り注いでいたのに、私を追ってきたのかベッド下の私に降り注いだ。


 私はとっさにカバンを掴む。信じられないことに、目の前の景色がフローリングではない冷たい床の感触にかわり、周りを見回すと知らない人が私を取り囲んでいた。


「きゃぁーーーーーーーーーーーーー!!!」


 私の叫び声に、一瞬静かになるが「おおーーっ」とか「成功だ」とか四方から聞こえてくる。

 何?慌てて上半身を起こすと肩からパジャマがずり落ちた。手にはカバンとスマホ。


 え?何?ずり落ちたパジャマを押さえようと上げた手が目に入る。

 パジャマの袖がぶらんと揺れる。

 え?何?嘘?手が凄くちっさくなっている?!

 パジャマの袖をまくりあげてみると、大きさが十歳くらいになっている?!


 状況が分からず、内心パニックになっているところに、何人もの人が一斉に私に近寄ってきて怖い。

 喋っている言葉は理解できたが日本語でないことだけははっきりしていた。

 なんで言葉が解るの?


 一つの手が差し出される。持っていたスマホを置いてみた。

 その手の人が苦笑して「お手をどうぞ」と言った。

 でも手を取って立ち上がったらズボンが脱げてしまう。


 今の状況が全く理解できなかった。

 私がスマホを渡した以外の反応がなくて周りがだんだん静かになる。

 静かになってから「ここはどこですか?」と聞いた。


「ここはセインエリザート国です。聖女様」

「せい、じょさま?」

「このような幼い子が本当に聖女なのか?」

 一人が言い出すと周りにいる人が口々に話しだした。


 何を聞かれても静かになるまで私は口を開かなかった。

 それを察した一人が「静かにしろ」と周りを(たしな)めた。

 手を差し出した人が「大丈夫ですか」と問いかけてきたので答えた。

「大丈夫だけど、理解できない」


「あなたは我々の召喚の儀で召喚させていただいた聖女様でございます」

「しょうかんのぎ?なにそれ?違います。私は聖女ではありません」

「聖女様以外召喚できないので、貴方が聖女様で間違いありません」


 これってどういう事?せいじょしょうかんって何よ?まさか聖女?召喚?

「ひとまず、お部屋へ参りましょう」

「部屋?」

「ご用意させていただいています」

「私を家に帰してください」

「申し訳ありません。帰ることは難しいかと」


「誘拐って事ですか?」

 回りが動きを止め、シーンとした。

 私の見た目は今は小さい。

「幼女誘拐ですよね?この国は誘拐は合法なのですか?」

「いや」「違います」「聖女召喚です」

 色々言葉が聞こえたが相手にしていられない。

「幼女誘拐以外ないでしょう?帰してください」


 そう、私は本気で泣き出してしまった。

 だってキャパ越えてる。意味が分かんない。

 四十越えた女を泣かすとしつこいんだからね。


 男性ばかりに囲まれていたが、私が泣き出したことで女性が呼ばれ私の前に跪いた。

「聖女様、申し訳ありません」

 抱き上げてくれて背中をトントンしてくれる。

 勿論、ズボンは脱げ落ちた。

 私は仕事の疲れもあって、そのまま泣き寝入りしてしまった。



 目を開けたらすっんごい男前が私を覗きこんでいた。

「あっ、目が覚めたよ」

 バタバタと走り寄る音が聞こえる。

 目の前のハンサムが信じられなくて手をのばす。

 ハンサムは理解したのか顔を近づけてくる。

 ペシペシと頬を触ると本物だった。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっーーーーー」

 ハンサムが私の叫び声に驚いて数歩下がると、昨日抱き上げてくれた女の人がいた。

 はっと思い出した。

「幼女誘拐」

「ち、違います」


「あなた達がどんな綺麗な言葉を使おうが、私からしたら本人の了承なしに連れ去ったら誘拐でしょう。幼女ですから本人の了承があったとしても連れて行ったら犯罪者です」

「・・・確かに・・・」


 この国でも無断で子供を連れ去ったら誘拐で間違いないようだ。ちょっと安心した。

 お母さん、お父さんと嘘泣きしてやろうと思った時に十五歳くらいの美少年に頬を突かれた。

「ちっさい割に言うことしっかりしているね」

 うわぁー・・・好みど真ん中のちょっと冷たそうな美少年。アイドルだったら推してたかも。


「誘拐犯の子供?子供を子供で懐柔しようと?」

「この子見た目と中身違うんじゃない?着ていた物もも大人サイズだったし」

 手鏡が差し出され自分の顔を見る。

 何じゃこらーーーっ!!

 金髪碧眼やがな。どうなってんの?


「ほら、凄く驚いてる。見た目と中身が違っているよ」

「もう一人犠牲者がいるって事?」

 私が慌てて聞くと、誘拐犯の子どもは小さく頷いた。


「・・・・・・そうかもしれない」

「私の体をもつ子はどうなってるの?」

「・・・・・・わからない」

「無責任なっ!」

 あれ?ここに来た時に着ていたパジャマは私のだった。

 黙っておこう。


「誘拐犯の子供、私の体の中にいる子をなんとかしてあげて」

「誘拐犯は止めない?」

「誘拐犯以外の何物でもないでしょう?人には許せることと許せないことがあると思うの。あなたは私の世界に突然呼ばれて聖人ですから誘拐じゃないですと言われて納得できるの?まず、それを考えてから口を開いて」

「ごめん」


「あなた達にどんな理由があろうと、この先、私が笑うことがあったとしても、あなた達のことを許すことは決してないわ。それだけは忘れないで。責任者にもきちんと伝えておいてね」

 ハンサムと誘拐犯の子供がしおらしい顔をした。


「わかった。きちんと伝えておく」

「まず、聖女って何?私の世界にはそんな人いないんだけど」

 いや、厳密にはいたかな?マザー○○○とか聖女って言われてたよね?

「聖女がいないのか?」


「私の知る限りではいないわ」

「聖女とは闇を払い魔を弾くと言われている」

「言われているって・・・この世界にも聖女はいないんじゃないの?」

「そう言われればそうだね。現在はいない」


「遥か昔にはいたんだよ」

「それは実話?伝承?」

「伝承だね」

「いないのと同じじゃない」

「そう、かも?」


 ハンサムのほうが大人なのに、子供のほうが私に説明している。

 その補足をハンサムがしている感じだ。

 子供同士、仲良くなればとでも考えているのかしら?

 私中身、アラフォーだからね!!

 子供と気が合うことなんてありえないから。



「とりあえずお腹空かない?朝ごはん食べよう」

「顔を洗って着替えたら?」

 そう言えば私、子供服を着ている。体を抱きしめた。

「誘拐犯が幼児の服を脱がした」

「ち、違う、僕じゃない」と慌てて手を振りながら女性の方を振り返る。

「あの、私がお着替えをさせていただきました」

 背中トントンの人が手を上げて言った。

「この世界の人は名前は告げないのね」


「いや、ごめん。そんなことないよ。私の名前はルカ」多分十七〜八歳。ハンサムが言う。

「僕はスルツだよ」と誘拐犯の子供。十四〜五歳だろうか?この子は昨日居なかった気がするんだけど。

「私はナイカと申します。これから聖女様のお世話をさせていただきます」背中トントンの女性が話した。三十代後半だろうか。


「私は竹中美咲、この世界では美咲・竹中かも?」

「ミサキ仲良くしてね」

 スルツが頭を撫でた。

「仲良くできると思っているの?」

 なぜ仲良く出来ると思っているんだろう?

 三人が「グッ」と詰まった声を上げた。 


「取り合えず着替えます」

 ルカが抱き上げて下ろしてくれた。変態と言おうかと思ったけど止めた。

 クローゼットの中に二十着位吊るされている。

「昨夜の今朝でこれだけのドレス用意できるの?」

「ごめん、僕の妹が着ていたドレスなんだ」

 納得。どれも華美過ぎる・・・。

 汚したら弁償できない。


 気分的に華やかな物を着る気になれなくて黒に淡いピンクが重ねられた比較的質素なワンピースを選んだ。

「着替えを見てる気?」

 慌ててルカとスルツが出ていった。

 顔を洗い、着替えさせてもらう。

 仕方ないの。背中に釦がズラズラと並んでいるので一人では着られなかった。


「ありがとうナイカさん」

「ナイカとお呼びください」

「私の世界では年上の人を呼び捨てにする習慣はないの。呼び捨てる時は余程仲がいいか、相手の悪口を言っているときだけなの」

 ナイカさんは凄く困った顔をしていた。


「朝食はどこで食べられるの?」

 部屋の外に案内され、廊下の広さから考えても普通の家じゃないよね。昨日の天井の高い部屋から考えても。

 


 案内されて入った部屋は私の住んでいたマンションの二階部分までは全部入るほど、天井が高くて、とても広いダイニングだった。

 ルカとスルツ、後、知らない人が十五人ばかり座っていた。


 昨日周りを取り囲んでいた面々を思い出す。

「あっ、集団誘拐犯」

 広い部屋によく声が響いた。

「あっ、いや、その・・・」と色々聞こえるが自分達を正当化する声ばかりだった。

 案内され席につく。


 出された朝食は日本の洋食の朝食と変わり映えしなかった。

 単純な食べ物だったので、美味しくも不味くもなく普通で、食事中は皆、無言だった。いえ、気まずそうだった。さっきの声が響いたからね。

 (ざま)を見ろ。

 

 食後、部屋を移動させられ、四人掛けのソファーが三つ置かれ、一人掛けのソファーが三つ並べられ、一人掛けの右端のイスに座るよう勧められ、腰掛ける。席が埋まり、一人掛けの真ん中の空席を一つ残して、座れなかった人達は後ろに並び立った。


 空いた席に誰が来るのか首を傾げた。

 ドアが開き、私以外の全員が席を立った。

 あーーもしかして王様系?私も立った方がいいの?

 私は空気を読める日本人ですもの。立ちませんでしたよ。


 全員がちょっとだけ膝を曲げ、後から入ってきた人が腰掛けたら全員が座った。


「聖女様、本当に申し訳ないことをした」

 後から入ってきた人が口を開く。

「聖女様に誘拐だと言われるまでそんなこと考えたこともなかった。許されないことは理解した。だが帰っていただく方法がない以上ここで生活の基盤を整える責任が私達にはあると思っている」


「帰る方法がない?」

「はい。呼び寄せる方法はあるのですが、帰っていただく方法は見つかっていません」

 四人がけに座った一人のオジさんが答える。

「それなのに呼んだの?」

「はい・・・」


 スルツが気分を変えるように横から口を挟む。

「ミサキはここに住むのと教会に住むのとどっちがいい?」

 昼ごはん、洋食と和食どっちにする?みたいに聞いてくる。

「それ今必要な選択なの?それに、それ以外の選択肢はないのですか?」

 頭の中は帰れないと言われたことでいっぱいだ。


「守れなくなるから」スルツが言う。

「何から守るの?」

「魔物に悪意ある人間、それに善意を押し付ける人間」

「魔物がいるんですか?」

「聖女様の住んでいたところにはいなかったのですか?」

「いないわ。とても安全な国だったわ」


 席に座る人が思い思いに話す。

「私は何のために呼ばれたのですか?」

「聖なる魔法を使っていただきたいと思っております」

 私は首を傾げる。


「あの、魔法も聖なる力もない世界から来たのに魔法が使える訳がないと思うんですけど」

「なんとっ!」

「そんなっ」

「魔法がなかったのですか?」

「ないわ」

「では聖女様も魔法を使えないと・・・?」

「だから、使えないってば」

「・・・・・・」


 どうするんだろ。この人達。最悪、私、放り出される?

「測定器持ってきて」

 とルカが言う。

 立っていた若い人が走って部屋を出ていく。


 目の前にスープ皿みたいな形の陶器の上に丸い半透明のボールが置いてある。その「陶器に触れてみて」とルカに言われ、ちょっとビクビクして陶器に触れてみた。


 上に置いてあったボールが宙に浮いていく。

 そのボールは天井にあたって上がれなくなり、天井にあたっては少し下がり、また上がっては少し下がるを繰り返し、黄金色のキラキラしたものが半透明のボールから、部屋中に降り注いだ。


 それは昨夜自室のベッドの上に降り注いだものと似ている気がした。私はその光を浴びようと体を光の下にずらした。

 キラキラした光はなんだか暖かくて、ほんのり体温が上がった気がした。


「もう、手を離してもいいよ」

 とルカに言われたが、帰れるかもしれないという希望が胸の中にあり私は手を離さなかった。

 ルカがそっと私の手を取り、皿から手を離させた。

「もう十分です。大量の癒しの光をありがとうございます」

「癒しの光?」


「普通、魔力測定器は魔力を測るだけなのですが、聖女様は癒しの力を上乗せしたみたいでこの部屋全員に癒しがかけられました」

「そう、なのですか・・・?」


 ってことは私、魔力があるってことになるのかな?

 ちょっと困った状況になってない?

 私、強制労働に突入してない?

「魔力があることは判明したけど魔力を認識できた?」


 スルツが聞いてくるが、そんなもの何も認識できていない。

 何かが流れ出た気もしなかった。

「わからない。陶器をただ触っただけだもの」

 ボールがまだ天井に浮いている。私の視線を追った知らない人が「まだ浮いています」と指差した。

 全員の視線がボールに向き、ただポカーンと見上げていた。

次回19日にUP予定です。

全5話予定です。

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