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今日も俺はミレッタ王女からの使いとして、王宮のユリウス王子の居室を訪ねてきている。
もっとも、ユリウス王子自身は王都近くの町の視察へ出かけていて、今は留守だが。
その村は、近年、異世界から取り寄せた様々な作物をいち早く育てて、王都へ売り込みをはかり、今や巨万の富を築き上げた町だった。
数年前までは、どこにでもある単なる寒村だったというのに、今や、表通りに立派な建物が立ち並ぶ、にぎやかな町へと変貌していた。
以前、ユリウス王子にその町のことを紹介したことがあり、王子もその町を見てみたいと希望されていたのだが、ただでさえ公務で忙しい王子の身、なかなか日程の都合がつかず、ようやく今日になって実現したのだ。
本来なら、王子に同行して俺も訪問するはずだったのだが、当日の朝になってミレッタ王女に呼び出された。
「あ、お兄様にメッセージを届けてくれない。大事なメッセージなの。お兄様のお部屋の方へ直接お届けしてね」
「大事なものなら、視察先へ追いかけて行こうか?」
「あ、大丈夫よ。お兄様のお部屋でいいから」
「でもなぁ 大事なメッセージなんだろ? 返事をもらってきた方が……」
「大丈夫だから。お兄様のお部屋に届けるだけでいいから。返事は後日でいいわ。お兄様が直接こちらへいらしてくれて、その麗しいお口で聞かせていただけたら、なおいいわ」
「で、でも、視察先へもっていけば、一刻でも早く返事を聞け……」
「だから、お兄様のお部屋へ持って行って頂戴!」
「しかし――」
「ええいっ! しつこいっ! さっさと行けっ!」
蹴飛ばされてしまった。
仕方なく、そのまま離宮を後にしようとしたのだが、その背後でミレッタ王女がつぶやいているのが聞こえてきていた。
「ホント、気の利かないわね。だれがあんたなんかをお兄様と二人っきりでお出かけなんてさせるものですか!」
ともあれ、ミレッタ王女の指示に従って、ユリウス王子の居室のある王宮へ向かう。
王子と親友(?)となった俺は、これまで何度もここを訪問しているので、すっかり顔なじみになったターズ護衛官に挨拶して、居間へ通してもらう。
預かってきたメッセージカードをテーブルに置いた。
その後、その一部始終を監視していた護衛官とともに、部屋をで、礼を言って笑顔で別れた。
しばらく、王宮の中の廊下をすすみ、角を曲がり、すばやく壁ぎわに身を張り付けた。
まわりに人がいないことを確認する。廊下のすこし先に人が歩いているが、こちらに背を向けて遠ざかって行っている。
俺は、こっそりと影の中へ忍び込んだ。そのまま影伝いに移動して、さっきの王子の居間まで戻ってきた。
そこでは、さっきまで俺と行動をともにしていたターズ護衛官が居室に忍び込んでいて、俺が置いたばかりのメッセージカードを眺めている。そして、手帳を引っ張り出し、口の中でなにごとかをとなえた。
かすかに手帳が光った。
一連の作業を終え、メッセージカードをもとにもどすと、何食わぬ顔をして、居間を出ていった。
王子の居間にはもうだれもいない。そこにいるのは影に潜む俺だけ。
早速、影からでると、メッセージカードを本来のミレッタ王女からのものとすり替えて、そっと王子の居室を離れた。
後日、中央神殿では、内々に大規模な粛清が行われた。
厳密には無実とは言えないが、火あぶりにまでするほどではないはずだった男に、大勢の神官が寄ってたかって罪をなすりつけ、結果的に火刑に追いやった不祥事が発覚したのだから。
もちろん、中央神殿のメンツにかかわることなので、公にされることはなかったが、関係した神官たちには、それぞれに重い罰が下された。
そして――
「ザマー見なさい! 私を毒殺しようとした報いよ! 魔神様からの天罰よ! オーホッホッホ! いい気味だわ!」
若干一名の者が大いに留飲を下げたことは言う必要もないだろう。




