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「どうせ、もう行くあてもないでしょう? なら、一緒に来てもらいますよ、エスパル神官」

「ん…… ああ……」


 エスパル神官は胸の前で手を組み、刑場の方へ向かって祈りをささげてから、俺の後ろについてきた。

 途中で待機していたスミス商会の馬車に乗り込み、出発する。

 俺の中で、これでようやく終わったという安堵(あんど)と、そして、なにものも埋められない穴がぽっかりと開いていた。

 馬車は海沿いの道を走り、やがて、ビーモント公園の端で停車した。

 俺は馬車を下りることなく、窓から海の方を眺めた。

 心地よい海風が吹き付ける公園。潮の匂いが、俺にまとわりついていたいがらっぽい煙の匂いを吹き散らしていく。

 公園の中では、夕日を浴びながら、五、六歳ぐらいの少年がその母親に手を引かれ、眠っている小さな妹を抱きかかえた父親とともに散歩しているのがみえる。たのしそうに笑顔を浮かべて、少年は熱心に母親たちに話しかけている。

 母親は少年の話に耳を傾けながら、ほがらかに笑い声をあげていた。そんな二人を父親はいとおしそうに見つめている。

 四人の影は、もうすぐ西の山々へ沈んでいきそうな太陽に照らされて、海の方へ向かって、長く、長く伸びていた。

 とてもおだやかで、いとおしい情景だった。俺が狂おしいほどに(ほっ)して、そして、もう二度と手に入れることができない景色。

 向かいに座るエスパル神官が声をかけてきた。


「お知り合いですか?」

「いや、ただ海を眺めていただけです」

「そうですか……」


 そうして、俺の合図で馬車はふたたび進み始めた。

 すぐに親子の姿は遠く小さくなり、見えなくなった。




 エスパル神官は、その後、地球へ連れて行かれ、新しく作った神社の神主を務めてもらうことになった。

 信じる神も宗派もしきたりも、なにもかもが違う。

 それでも、すぐに地元に溶け込めたのは、現地にいる聖女たちのおかげだろうか。あの二人には、感謝の言葉しかないな。





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