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その日、ミ・ラーイの町は朝から快晴だった。
すでに広場の中央では、油を染み込ませた大量の薪の上に設けられた十字架に三人の男たちが縛り付けられている。
先ほどまで、その三人の男たちへ向かって処刑見物に集まっていた群衆たちが石を投げつけていたが、今はもう槍を持った衛士たちに遠ざけられていた。
しばらくして、脇に待機していた小役人と衛士長のサムが進み出てきた。
小役人は、十字架に掛けられている男たちがこれまでに犯してきた凶悪犯罪行為の数々を読み上げる。
「衛士長サム・ウィルソン。ここに書かれている罪状には間違いがないか?」
一瞬、サムは躊躇したようだ。だが、結局は真実を明らかにし、異議を唱えることはなかった。
「はい、ヨアキン書記官どの。間違いはございません」
「うむ。では、これより、国王ヨーゼフ三世の命に従い、これら三名の極悪人どもの処刑を執り行う」
宣言をしたのち、小役人とサムは脇へと退き、代わりに火のついた松明を掲げた衛士たちが現れた。
見守る群衆たちの間で興奮が一気に高まる。
『殺せ! 殺せ! 殺せ!』
大合唱の中で、衛士たちは松明を大きく振りかぶり、薪の山へ向かって放り投げた。
途端に群衆の興奮が最高潮に達する。歓声がどっと上がる。
ボワッ――
唐突に薪の山が大きな炎に包まれた。
火に焼かれ、薪の上の男たちが苦悶にのたうち回る。だが、拘束されていて逃げ出せない。
やがて、全身を炎に舐められながら、男たちは動かくなくなったころ、三本の十字架もろとも薪の山は崩れた。
火あぶりの刑を見届けて、興奮がまだなお収まらない様子で大声でしゃべりあいながら、群衆は広場から三々五々去っていった。おそらく、その中の大多数はこのまま近くの酒場へと足をのばし、さっきみたばかりの囚人たちが焼け死ぬ様を肴に酒を飲むのだろう。
一方で、刑場では、ミ・ラーイの役所に雇わている下人たちが、まだくすぶっている薪に水をかけて鎮火していく。山積みになっている炭を片付けていく。
黒焦げになっている遺体を見つけたのか、下人たちは静かに帽子をとり、胸に手を当てながら、死んでいったばかりの受刑者たちの冥福を祈っていた。
ずっとそれを俺は広場の奥の建物の陰から見守っていた。と、背後へ誰かが近づいてくる。どうやら、二人の人間が俺の背後に立っている。
「どうだい? ちゃんと報酬分の仕事はしただろ?」
「ああ、そのようだな。ご苦労だった」
「けっ。けった糞わるい仕事だった。いけすかねぇやつだったが、それでもあたしが一度は主人として仕えてたわけだしな」
心底不愉快そうにこぼしている。
それへ向かって、肩越しに後払いにしていた報酬の残りを放り投げる。
「たしかに受け取った。毎度ありだ。だが、あんたの仕事は二度とご免だぞ」
フッ……
自然と笑みがこぼれた。俺の背後でもかすかな笑い声が聞こえた気がした。
そして、背後にあった気配の一つがどこかへと消えていった。
まだ、もう一人いる。
俺は振り返った。
そこに立っていたのは、数週間のコーナン監獄での囚人生活でずいぶんやせ細り、やつれた男だった。
「エスパル神官。ひさしぶりですね」
「ロジャー・スミス殿。こ、これは、一体……」
「先ほどご覧になられていた通りですよ」
「……」
王都にある中央神殿に仕えていたエスパル神官は、トムが失踪した直後に、多額の寄付金の横領が発覚して、コーナン監獄に入れられていたのだ。
もちろん、神殿での寄付金の横領なんて日常茶飯事なこと、寄付金に関わるどの神官であれ、なにかしらの横領行為をしていたのだが、他の神官たちはオーシャン・ホエールだとかフリューゲルスの後ろ盾があった。
だが、ファブレス商会からの寄付金の主な窓口になっていたエスパル神官には、ファブレス商会が崩壊したあとでは、もうその後ろ盾になってくれるものが何もなくなってしまっていた。
その途端、他の神官たちから様々な告発を受け、逮捕されてしまったのだ。もちろん、ファブレス側からの寄付金の一部を懐へ入れていたのは事実。だが、罪に問われたのはエスパル神官自身にとってはまったく身に覚えのない他の商会からの寄付金の横領だった。
つまりは、この機会に他の神官たちの悪事も押し付けられたってわけだ。
そうして、数週間コーナン監獄へ収監された後に、今日、ミ・ラーイの広場へ連れ出され、前のミ・ラーイ市長らとともに火あぶりの刑に掛けられることになったのだ。
だが、コーナン監獄からミ・ラーイへ移送される途中の森の中、檻車の馬車がとまり、エスパル神官だけが、外へ連れ出され、薬物を使われたのか意識がもうろうとさせられている男が代わりに馬車へ乗せられたという。
そして、そのまま火あぶりの刑が実行されたのである。
おそらく、衛士長のサムは十字架に掛けられている男の一人を見上げて、大いに驚いたことだろう。
なにしろ、元神官としか知らされていないはずの見知らぬ囚人ではなく、よく見知った男が十字架に掛けられているのだから。
上からの圧力で迷宮入りさせられた三年前の殺人事件のあきらかな実行犯であり、それ以前にもあったいくつもの犯罪行為を親のカネとコネでもみ消し続けたかつてのミ・ラーイのゴロツキが、その横領犯の元神官として十字架に掛けられていたのだから。
さすがに、良心にしたがって人違いとして声を上げるかと思われたが、サムは結局なにも言わなかった。今ここで声を上げなければ、三年前にはしたくてもできなかった正義を行使できることに気がついたからだろう。
そうして、ミ・ラーイの元市長とともに俺をハメ、人生をメチャクチャにし、火あぶりにして殺した元凶のトム・ファブレスは、俺と同じように他人の罪をかぶってミ・ラーイの広場で火あぶりの刑にされて焼き殺されたのだった。




