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目が回るような忙しさがずっと続いてやっと日が暮れて暗くなりだしたころ、ようやく押し掛ける女性たちの姿がまばらになってきた。
「みなさん、おつかれさまです。今日もご苦労様でした」
「「「おつかれさまです」」」
フロンちゃんがやってきて、巫女さん全員にねぎらいの言葉をかけていく。あと、差し入れの甘いものも。
「そろそろ終業時間なので、片づけをお願いします」
「「「はい」」」
「それと、みなさんの分のご神水はあちらにご用意してありますので、よければお受け取りください」
「「「うわーーーーい!!!!」」」
一斉に歓声が上がった。
バイト代よりも、友人たちにとってはこちらの方が目当てなのだろう。
フロンちゃんは朝にちょっと顔を見せた後、それからずっと姿を見せていなかった。
さすがに、毎日こんなに混むようになったのでは、ご近所の女性たちの参拝に支障がでるようになっている。この前は事前に近くに取材が来ると嗅ぎつけていて、いろいろ協力してもらったのに、折角仲が良くなった途端、ご近所の人たちとそれで疎遠になるのは悲しいというので、フロンちゃんは朝からご近所さんを訪問し、神水を配って歩いていたようだ。もちろん、やさしいフロンちゃんのこと、神水を配り歩くだけにとどまらず、近所のお年寄りたちの話し相手にもなっていたから、こんな遅い時間になったようだ。
「フロンちゃんもご苦労様。一緒に食べよ」
「はい、ありがとうございます」
パッと顔を輝かせて、差し入れられた甘いものをわいわいとつまんでいる私たちの輪の中へ入ってきた。
「「「か、かわいい~♪」」」
たちまち、私の友人たちに囲まれ、抱きしめられたり、頬ずりされたり……
「ちょ、ちょっとフロンちゃんは私のものなんだからね!」
「私のよ。はい、フロンちゃん、お姉さんが食べさせてあげる。あ~ん」
「お肌ピチピチ~♪ いつまでも触っていた~い♪」
フロンちゃん、困ったような顔をしていたけど、どこかうれしそうだった。
「ちょっと私の大切なうちの娘なのよ。大事に扱ってよね」
「「「はーい」」」
みんなよい返事。うむ、善きかな善きかな。
「私、アイリさんの娘じゃないのだけど……」
社殿の脇の社務所の雨戸を閉じ、中をかたずけて、私服に着替え終わった巫女のアルバイト全員でスミス商会の一階へ移動する。
一階にはこのビルの前のオーナーがやってた洋食屋さんが入っていたけど、スミス商会がビルごと買い取ってから、改装されて『ブロンティ』グループの店舗が入っている。
『スエイトじいさんのキッチン』
なんて名前の店。経営しているのはその名の通り、スエイトさんというおじいさん。給仕をしている奥さんとともに、細々と店をやりながら、ビルに出入りしている人たちのまかないを作ってくれていた。
けれど、今はこんな状態。当然のようにスエイトさんのお店も毎日お客さんであふれるようになった。
とてもじゃないが、高齢のスエイトさんだけで切り盛りできないから、何人かのコックさんやアルバイトの子を雇っている。
で、私たちの仕事あがりには、そのお店で夕食のまかないを出してくれるのだ。
そのお味は、若干エスニック寄りで癖があったけど、でも、とてもおいしかった。その癖の強さが病みつきになり、たとえば、講義で板書をとっているときなど、なにかの拍子でパッと食べたくなると、どうしても我慢するのが難しかった。
私の友人たちも大いに気に入っている様子だ。
「こないだ、ゼミの発表のとき、急にここのお店のお料理食べたくなって、困ったのよねぇ お腹がグーグー鳴って」
「あ、私も! お昼ごはんのサンドイッチ食べているときに、我慢できなくなった」
「私はお風呂に入っているときだったなぁ」
どうやら、病みつきになっているのは、私だけではないようだ。
まかないの夕食を取り終え、早い時間に終電が来る駅へ向かう友人たちと別れ、愛車のバイクを止めてある近くの駐車場へ移動する。
たった三年前、私がこの場所を初めて訪れたときには、さびれたシャッター街だったこの小さな商店街。今は終電の時間まで様々な店が開いているようになった。
それもこれも神水を求めて大勢の人たちが神社へやってくるようになったからだ。
すっかり活気のある風景。
かつては暗くどよ~んとしていた町の人たちの目も輝いている。そして、私の姿を見かけるたび、声をかけてくれる。
「巫女の嬢ちゃん、今日もおつかれさま。君たちのおかげで、この町がよみがえったよ。ありがとうよ」
その笑顔を見ているだけで、こちらも元気をもらって笑顔になってしまう。
うん、ここへきてよかった。本当にあのとき、気まぐれで聖女のアルバイトに募集してよかった。
フロンちゃんもターレさんも、それから他のみんなも、私に出会ってくれて、本当に本当にありがとう!
去年の春、高校三年生になり、この一年間、大学受験を頑張っていた純。無事第一志望の大学へ合格したって連絡がきた。
三年前からずっと東京の私大を受けるんだって言っていたけど、この町の最近の賑わいを目にして、考えを改めたみたい。
突然の志望変更でもなんなく合格できたのは、この三年間、ターレさんをはじめ、とても頭のいい人たちとずっと一緒にすごして、感化されていたからだろうな。
私も三年前の自分と比べて、成長しているのを実感しているし。
そして、春からは、純は私の後輩になる。
お祝いはどこへ連れて行ってあげようかな。私のバイクに乗せて。




