49
翌日ビルの裏をのぞいてみると、倒壊していた社はすでにかたずけられていて、その代わりに真新しい社殿が建っていた。
「すごい! 一日で……」
さすが魔法が普通にある世界の人たちがすることだ。こっちの常識とはかけ離れてて、あっという間の早業だ。
新しくなった社殿の前では、何人もの異世界の屈強な男の人たちが座り込んで休憩をとっている。完成したばかりなのだろう。
その男の人たちに交じって、ターレさんもおり、リーダーらしい人と談笑しているようだ。
「トドロキ、ご苦労様。前の残骸の方は、そちらで処理できますか?」
「おう、分かった。任せておけ」
「助かります」
「それより、こっちの飲み物は、俺たちのところのものより、味が薄いな」
「こっちではこれが普通ですよ」
「そうなのか? これでカネを取るって言われたら、カッワ・サキーなら暴動になるぞ」
「あははは…… かもしれませんね。ですが、このスポーツドリンクというものは疲労回復に効果があるんですよ」
「そうなのか? へぇ~ ポーションみたいなものか」
「はい」
「だとしたら、今度は甘すぎだな」
「普段、我々が飲みなれているものに比べたら、そうかもしれませんね」
「だな。ガハハハ……」
二人は朗らかな笑い声をあげて、ぐいっとスポーツドリンクを飲み干した。それから、男の人たちのリーダー(トドロキさん?)は休んでいる男の人たちを見回した。
「さて、十分休んだな、お前ら?」
「「「へい」」」
「そんじゃ、お前ら、撤収すんぞ!」
「「「おう」」」
男の人たちは一斉に立ち上がり、境内の隅へぞろぞろと歩いていく。そこに設置されていた大型の転移門の中へ飛び込んでいった。
「ターレさん。お社完成したのですか?」
「ああ、アイリ様。ご覧のとおりです。完成しました」
「すごいですね。昨日の今日だったのに」
「ははは、新しい社殿自体はあらかじめカッワ・サキーで組み立ててあったので、あとは転移門と浮遊魔法のおかげですね」
「な、なるほど……」
社殿に近寄って、見上げてみる。
うん、どこからどう見ても、こっちの世界の神社そのものだ。正面に太い綱のついた鈴がぶら下げられており、ご丁寧に賽銭箱まである。
さっそく、鈴を鳴らし、五円玉を出して、賽銭箱の中へ。
チャリン――
それから二礼二拍手一礼。
とはいえ、なにお願いしようか? そうだ!
――どうか、フロンちゃんが幸せになりますように。フロンちゃんに新しいママができますように。それから、その人は……
「熱心にお参りですね」
「えへ。これって、私がこの新しい神社の最初の参拝者になったってことですよね」
「ええ、そうです」
「やったー!」
顔の前で両手を軽く合わせて、ほころぶ口元を隠す。そんな私をターレさんもニコニコと笑いながら見ていた。
「あ、そうだ。アイリ様、よかったら、こちらもご覧になさってください」
ターレさんに案内されたのは、社殿の隣。足元に石で囲われた小さな池が掘ってあった。池には奥の樋から水がチョロチョロと流れおちている。
池の水は清潔に澄み、吹き抜ける風に、かすかなさざ波がたっている。
「池ですか?」
「池です。よかったら、手を浸してみてください」
「はい……」
言われたとおりに、池のほとりでしゃがんで手を浸けてみると、キーンと冷たい水。
「地下水? 湧き水ですか?」
「ええ、朝のうちにゼルビー様に近くの山から水脈を引っ張ってきてもらいました」
「へぇ~ 冷たくて気持ちいい~」
「どうですか? 肌の方は?」
「肌?」
池から手を出す。ハンカチを取り出して、手を拭いて、まじまじとその手を見つめる。いつも見慣れた私の手なんだけど……?
ふと見ると、ターレさんもさっきの私と同じように池に手を浸してから、手を拭って、私の前にかざした。
その手は、スベスベで、よく手入れされていて…… 私の手と似たような肌のつやをしていて……
「男の人の手って、もっとガサガサしてるのに、ターレさんの手って、まるで女の人の手のようにみずみずしいんですね…… あっ、これって……!?」
「ええ、その通りですよ。あの樋の上をよく見てください」
「えっ?」
視線を向けると、樋の水の出口の上に、どこかで見たような黒い物体が取り付けられている。あれは……
「この水って、魔法の水なんですか?」
「ええ、その通りです」
「うわ~」
思わず、奇声を上げながら、両手を再び池の中に浸した。
「し、染み込む~」
「あははは…… そうでしょう。そうでしょう」
ふと疑問に思う。
「どうして、この池の水を魔法の水にしちゃったのですか?」
なんの意味があるのだろう?
私の質問にターレさん、にやりと悪い顔で笑った。
――こんな顔もするんだぁ~ 素敵♪
乙女のときめきは脇に置いておいて、
「以前、この世界には薬機法などの法や規制があって、魔法の水差しなどを化粧品や化粧用具として売ることができないのは、お話ししましたよね?」
「はい、覚えています」
おかげで、大学の友人たちにちゃんとした説明ができなくて、いまではすこし険悪な雰囲気になりかけている。私自身は本当のことしか言っていないのだけどなぁ~ 本当に、私が使っているのは高級化粧水なんかではなく、タダの水だけなんだけど……
「陛…… ロジャー様と私たちは、それでもなんとか抜け道はないかといろいろ探してみたんですよ」
ロジャー様というのは、ロジャー・スミスさんというスミス商会のオーナー兼会長のことだ。その下に最近新しい人が社長に就任したらしい。まだ会ったことがないけど。あ、もちろん、神殿に信者さんとして出入りしていた可能性までは否定できない。これまでにたくさんの人が来ていったしね。
「それで、その抜け道が神社の池なんですか?」
「実はそうなんです」
「どうつながるんだろう?」
考えてみても、ちょっとわからない。魔法の水と神社の池。飛躍しすぎていて、つながらない……
ハ・テ・ナ?
トドロキ:カッワ・サキーの魔王の護衛隊長。最初にロジャーに斬りかかりってきた。




