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「神社を再建なさるのですか?」
さっきから境内の中央で倒壊したままになっている社の残骸と手に持った図面とを見比べていたターレさん、私が声をかけたら顔を上げた。
「はい。そうですよ」
私にむけていつもの優し気な笑顔を向けて来る。その笑顔がちょっとまぶしい……
「あ、そうだ。アイリ様に一つお願いがあるのでした」
「はい? なんでしょうか?」
「この神社を再建した後、巫女を雇おうと思っているのですが、適当な人が決まるまでの間、聖女としての仕事がないときだけでも結構ですので、アイリ様も入っていただけませんか?」
もちろん、即決だった。
「はい、いいですよ。私、普段からいつでも空いているんで」
「そうですか、助かります」
「なんなら、いつでも声をかけていただいてもかまいません。遠慮しないでいいんですよ」
「はい。ありがとうございます」
二人して笑みを交わしあった。
うん、あの美少女フロンちゃんのお父さんなだけあって、すごく格好いい笑顔。おかげで、胸の奥がドクンと打った。
いつものことだけど……
そして、そのいつものことは、私のちょっとだけ大胆になった発言が華麗にスルーされるのも。はぁ~
フロンちゃんの話では、フロンちゃんのお母さんはすでに亡くなっているらしい。
あるとき、ビルの前の通りを近所に住む野良猫が渡るのを見かけたことがある。
その野良猫の後ろをトコトコと子猫が三匹ついて行く。母子なのだろう。
母猫は、道を渡りきると、そこでじっと立ち止まった。後をついてくる子猫たちを優しく眺めている。
母猫に見守られながら道を渡り終えた子猫たち、すぐに母猫に頭をこすりつけて甘えだす。
ひとしきり甘えた後、母子はビル脇の路地を奥へと入って見えなくなった。
その一部始終を私とフロンちゃんとで近くで眺めていたのだ。
ずっとフロンちゃん『かわいい~♪ かわいい~♪』を連発していたのだけど、不意に黙り込んだ。猫たちが道を渡り終えたころだ。
急に静かになったので、隣をそっとうかがったら、フロンちゃん、すごくさびしそうにみえたんだよね。
だから、やさしくフロンちゃんの肩を抱きしめたら、おとなしく私に体を預けてきた。『そして、小声で『ママ』って私の胸に顔をうずめてきたのは、ちょっとキュンとなった。
で、その様子をターレさんはどこかで見ていたか、それともフロンちゃんから聞いたのか。
次にあったときに、
「すみませんね。こないだはうちの娘がお世話になったみたいで」
正直、すっかり忘れてて、なんのことだか思い出せなかったのだけど、
「慰めていただいたみたいで、申し訳ありませんでした」
「い、いえ……?」
こちらが困惑しているのに気が付いたみたいで、
「こないだ、猫をお二人で眺めていた時のことです」
それでようやく思い出した。フロンちゃんの小さな肩の感触や、湿り気を帯びた小声。
――ママ
ふたたび、胸の奥がキュンとなった。
「いいえ、私でよければ、いつでも」
ターレさん、私の顔をみつめて、やさしく微笑んでいた。
「やさしい人ですね」
その一言を残して、仕事をしに去っていった。
「やさしい人か……」
いままであまり言われ慣れていない言葉。それが私に…… 胸の奥がほっくりして、とてもうれしくなる。自然と笑みがこぼれる。その場でスキップしそうになる。
――私がフロンちゃんのやさしいママになってあげられたらなぁ
ついつい、そんなことを思ってしまう。
フロンちゃんが寂しいと感じた時に、いつでも抱きしめてあげられるように……
そんな未来を想像して、それがとても心地いいもののように感じていた。
そうしながら、私が一歩歩き出そうとした。その途端だった。
「あれ? それって……?」
思わず声が出てしまった。
あっという間に、脳裏で微笑んでいたフロンちゃんの姿がどこかへ飛んでいく。代わりに私の頭の中を占領したのは――
ターレさんの笑顔だった。
――フロンちゃんのママになるって、それって…… それって……
急激に顔が熱くなっていくのを自覚していた。
今はちょっと誰にも顔を合わせられない。きっと今私と出会ってしまった人は、私の顔をみるなり、風邪でも引いたのかと心配するだろう。
熱でもあるのかって。
私は、両手で顔を覆いながら、しゃがみ込んでいた。
そんな私の前を野良猫の親子が不審そうに伺いながら、通り過ぎていった。




