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私:三島愛梨――大学生。バイトで聖女をしている。アイリ。
ゼミや講義の間の休み時間、キャンパスのカフェテラスで休憩していると、頻繁に声をかけられる。
同級生や下級生だけでなく、就活に忙しいはずの先輩たちや、時には教授や助教といった教官たちまでも。
さっきもそうだ。四年生の先輩が私に話しかけてきて、なかなか内定が取れなくて焦っていること、彼氏とうまくいってないこと、サークルの中で最近素敵な出会いをしたこと、などなど散々愚痴をこぼしたり、うれしそうに話したりしていった。
話しかけてきたときには、どこか悶々とした表情をしていたけど、私のそばから離れていくときには、ずいぶんスッキリした顔をしていたな。
「ねぇ? さっきの先輩、愛梨の知り合い?」
「ううん。知らない人。どこかの講義とかで何度か見かけたことがあると思うけど、話したのは今日が初めて」
「だよね」
友人が呆れた顔をしている。
「まあ、聖女様だものね」
「やめてよ。バイトでのことじゃない」
「うん、でも、私も、たまに愛梨に愚痴を聞いてほしくなったり、いいことが起こったら、報告したりしたくなるもんね」
たしかに、この友人から何度もそんな話をきかされたことがある。
「友達なんだから、そんなのあたりまえじゃない。そんなこと遠慮しなくてもいいんだよ」
「ああ、聖女様。愛梨様」
「もう、やめてよ」
調子にのって抱き着いてくるのをなんとか押しとどめた。
すこし落ち着いて、友人は懐かしそうに思い出話を語りだす。
「ほら、一年生のとき、愛梨って結構やんちゃっぽかったじゃない? いつも大きなバイクを乗り回しててさ。私、結構怖かったんだよね」
「ああ、最初のころ、私が話しかけるといつもビクッてなってたね。声まで裏返っちゃって。うふふふ。今でもあのバイク、ときどき乗ってるわよ」
「えっ? そうなの?」
「うん、お休みの日とかに、あちこちツーリングしたりしてんだよ」
「へぇ~ そうなんだぁ」
「こないだもバイト先の子を後ろに乗せて、海までいったんだ。ほら、画像見せてあげる」
スマホにその時の画像を出して見せてあげたら、少し驚いたような声を上げた。
「バイト先、外国の子がいるんだ。なにこれ、すごくかわいい!」
「でしょ。フロンちゃんっていうんだ」
「へぇ~ 次の画像のこの子は?」
「ああ、この画像の子は純。バイトの同僚だよ。高校生。もうすぐ受験だからこないだの海には連れていけなかったけど、その前の時に、近くの天満宮まで一緒にお参りにいったときに撮影したの」
「へぇ~ でも、なんか、さっきの子もそうだったけど、この子も愛梨も、みんな肌きれいだよね。どんな化粧水使ってるの?」
「えへへへ でしょ」
「ホント、愛梨の肌って赤ちゃんのお肌って感じだよね。モチモチ~」
「ちょっと、引っ張らないでよ。うふふふ」
「なんか、ズルい! ええい、こうしてやる~♪」
「う゛…… い゛…… お゛…… う゛……」
「なにこれ、触ってるだけで気持ちいい~♪」
散々、私のほっぺたをいじくりまわして満足したのか、ようやく手を放してくれた。
「ねぇ? ホント、一体、どこの化粧水つかってるの? 私も使ってみたいんだけど」
「うふふふ。実はね……」
不意に気配を感じた。ハッとまわりを見回す。途端に、まわりの席に座っていた人たちが視線をそらした。って、教授あんたもかいっ!
ま、いいんだけど。
「ただの水で顔を洗っているだけよ」
「「「うっそだ~~~~!!」」」
友人だけでなく、まわりの席から一斉に突っ込まれてしまった。
驚いて見回したら、再び気まずそうに視線を逸らす。
「本当だって。正真正銘、ただの水」
「本当かなぁ~?」
「あ、もちろん、ただの水だけど、普通の水ではないかな。魔法で加工した水だもの」
「魔法で加工した水?」
「そそ。魔法で水を加工して肌に浸透しやすく、そこで保持されやすくしているの」
「……?」
「その水で顔を洗ったら、だれでもこんな風に赤ちゃん肌になっちゃうんだよ」
「……」
なんか、すごい疑いの目で友人から見られているのだけど。
「で、本当のところは、どこの高級化粧水使ってるの? お高いんでしょ?」
「本当だって。トータルでも水道代ぐらいしかかかってないし」
「またまた~ ここだけの内緒にしておいてあげるから、お姉さんに本当のことを言いなさい。悪いようにしないわよ」
まわりの席の人たちも同意するように一斉にうなずいている。全然、ここだけの内緒になってない!
「って本当だって!」




