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――く、くそっ! なんでいつもいつもこうなるんだ!
前回のハンバーグの時もそうだったが、今回の化粧水のときも、俺様の商売が軌道にのり、快調に飛ばし始めた途端、あのいまいましいクソ・スミス商会が現れて、俺様の商売をいつも台無しにしやがる。
――なんでだ? なんでなんだ? 俺様がなにしたっていうんだ? なんで、こんな不幸な目に合わなくちゃいけないんだ?
考えてみたら、ミ・ラーイにいた時から、上手くいかないことが多かった。
たまにうまくいきそうなときには、必ず妨害する者が現れて、俺様の邪魔をしやがった。
あの祭りの時もそうだった。首尾よくいい女を暗がりへ連れ込めそうになっていたところに、町のみじめな貧乏人ども現れて、俺様が目をつけていた女をかっさらっていきやがった。あげく、その女とねんごろになった上に、結婚だと……!?
もちろん、俺様は天に選ばれた特別な存在。そんな雑魚どもにバカにされていていいはずがない。だから、ファブレスの財力とコネをつかって、復讐してやった。徹底的にな。
おもえば、あのころから親父の頭がヘンになってきたように思う。なにかと俺様に意味不明な意見をするようになった。
『ちゃんと日々の生活を改めろ』だとか、『もっと世間様に謙虚な姿勢で接しろ』とか。俺様は天に愛され、天に選ばれた身だ。なんで今さら、そんなことする必要があるっていうんだ? わけわかんね。
で、ついには、あの日、
『お前には俺の跡を継がせない。勘当する! 今すぐここから出ていけ!』
とうとう頭がヘンになりすぎて、イカレちまいやがった。
天に選ばれた俺様にだぞ? そんな無礼な態度が許されるはずないだろ?
その後のことは、正直、あまり覚えていない。大きな水音を聞いた記憶があるぐらいだ。
気が付いたら、そばにマリナスがいて、怖い顔で俺様に部屋にもどって寝るように命令してきたので、それに従って寝た。
そのあとは例のミ・ラーイの市長の不正が発覚して、俺様のファブレスはミ・ラーイを追放されることになったが、あの市長の不正行為に加担していたのは、ロクでもないクソ親父で、跡を継いだ俺様ではなかったので、なんとかファブレス商会を取りつぶされることなく切り抜けた。
やっぱり、俺は天に愛され、天に選ばれた存在だから、最大の危機を切り抜けてこられたのだろう。
その後、王都へ本拠を移してから、ハンバーグ騒動、そして、今回の化粧水。
なんでうまくいかない? なんで天に選ばれた俺様のやろうとしたことが、ことごとく失敗に終わる?
なんでだ?
考えてみれば、ちゃんと復讐をしきったミ・ラーイの雑魚どもの時はともかく、うまくいかなかったときには、いつもそばにあのマリナスの野郎がいた気がする。
いつも俺の隣で陰気な顔をして『撤退しましょう』だとか、『潮時です』だとか、俺様の意見に逆らうようなことばかり言ってやがった。
あいつがそばにつくようになってから、俺様がやることなすこと、どんなにうまくいきそうに思えても、結局は大失敗に終わるようになった。
なんでだ?
こんな偶然って? いや、本当に偶然なのか?
親父の側近だったラウレ・ワッズがミ・ラーイの市長事件での不始末の責任をとって辞めた後、その跡をワッズの次席だったマリナスへ引き継がせたが、本当にそれが正解だったのか?
あいつは本当に、ファブレスのために働いていたのか?
なによりも、俺様の役にこれまで立っていたことがあったか?
これまでのことを思い出す。いろいろな思い出とともに、マリナスの俺様を見る冷たく侮蔑のこもった視線がよみがえる。あれは、いつのことだ? どこで目にした?
暗く冷たい空気の中で、あいつは俺を見下すようにして、じっと見つめて……
途端に、王都へ移ってからここ数年で感じた不快感がいくつも蘇ってきた。記憶の底に眠っていた怒りが一斉に飛び出してきた。
それらが、俺様の全身を駆け巡り、震えとなって、俺様の体をむしばむ。
憎悪がどうしようもなく掻き立てられる。
でも、誰に対しての憎悪だ? ことごとく俺様の邪魔をしやがるスミス商会? いや、そんなの最初から分かっている。
あいつだ。あいつがすべての元凶だ。あの疫病神さえいなければ、俺様は何をやっても大成功を収めていたのに違いない!
すべてはあいつのせいだ!
そして、快感を伴いながら、俺様は大声で叫んでいた。
「だれか、マリナスをここへ呼んで来い! 今すぐにだ!」




