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02

 昔の洋食屋の看板が掲げられている一階店舗(もちろん、シャッターは下りている)の脇にある階段を二人して上る。

『スミス商会』のプレートが掲げられている鉄の扉をノックした。


 コンコン――


「はい、どうぞ」


 扉を開いて出てきたのは少女だった。それも、()りの深い顔立ちできめの細かな肌、地毛だとすぐに分かるような金色の髪の毛。外国人の美少女だった。

 その外国人美少女が流ちょうな日本語を操って、私たちの前に現れた。


「こんにちは。バイトの面接の方たちですか? はじめまして。ワタシ、フロン・ターレっていいます。今日はみなさんの面接官を任されています」

「は、初めまして」

「初めまして。フロンちゃんは、どこからきたの? アメリカ?」

「アメリカ? どこですか? ああ、ここ地球の日本以外の国ですね。違います。ワタシがやってきたのは、カッワ・サキーという世界です」

「カッワ・サキー」


 文字に書くと、どこか耳慣れた地名に感じるけど、外国語っぽい発音だからか、まったく国内の地名には聞こえない。むしろ、エキゾチックさが際立って、不思議な感覚だ。


 どこだろう? ヨーロッパ? 地中海周辺の地名みたいだ。カンカン照りの太陽の下、乾いた風が吹き抜けるみたいな。


 ともあれ、美少女のフロンちゃんに案内されて、事務所の奥の部屋へ通される。

 アイリさんと二人で並んで椅子に腰かけ、向かいあった長テーブルの向こうにフロンちゃんが座った。


「今日は面接に来てもらってありがとうございます」


 フロンちゃんが頭を下げるのに合わせて、私たちも頭を下げる。


「それじゃあ、順に自己紹介をお願いします」


 私たちが自己紹介を終える間、フロンちゃんは今日私たちが持参してきた履歴書に目を通している。

 やがて、顔を上げた。


「ありがとうございます。では、早速ですが、お仕事の内容をご説明させていただきますね」

「「はい」」

「と言っても、求人サイトに掲載した通りなのですが。みなさんには聖女様のお仕事をしていただくことになります」

「はい……?」

「その聖女様のお仕事というのは、具体的には、どんな仕事を差すのですか? サイトの情報だけでは、いまいちわからなかったもので」

「あ、簡単ですよ。だれでもできる超ラクラクなお仕事です。具体的には、希望者がいれば、その人へ祝福を与えたり、癒しの呪文をとなえたりというのが、主な業務内容です」

「祝福したり、癒しを与える……」


 一年ほど前に経験した中学の修学旅行に思いが飛んだ。

 修学旅行の旅行先は東京で、三泊四日の日程だった。その二日目は半日班単位での自由行動が組み込まれていた。

 もちろん、自由行動と言っても、事前に自分たちで立てた計画に沿って行動することが求められるのだけど、私たちの班は学校側に提出して教師たちの承認をもらったプランとは別に裏の計画も立てていたのだ。

 それが、秋葉原の訪問。そして、折角なのでメイド喫茶ってものを体験してみようということになった。

 おっかなびっくり可愛く飾り付けられたドアを開けると、


「おかえりなさいませ、お嬢様がた」


 かわいいメイド服を着こなしたツインテールのメイドさんが出迎えてくれた。

 それから席に案内されて、メイドさんたちの給仕付きでオムライスなんかを食べたのだ。


 萌え萌え、キュン♪


 うん、たのしかったな。

 もちろん、後でバレて、先生たちにむちゃくちゃ怒られたけど……


 ってか、なんで先生までそのお店にいたのよ!


 でも、それからは心のどこかにあのメイドさんたちの姿が住み着いてしまっていた。

 いつか私もあんな可愛い衣装を着てみたいな。

 高校に入り、これといって興味を引くような部活が見つからずに、帰宅部になった私だけど、そんなメイドさんへの(あこが)れをずっと持ち続けていた。

 けれど、私のいるこの世界はさっき説明したとおりのドがつくチョー辺鄙(へんぴ)田舎(いなか)。メイド喫茶どころか、バイトを募集しているふつうの喫茶店すらもあるわけもなく……

 それでも、なにか面白そうなバイトでもないかと、求人サイトを眺めていた。


 農家の手伝い、スーパーのレジ打ち、農家の手伝い、新聞配達、農家の手伝い、農家の手伝い、農家の手伝い、農家の手伝い……


 そして、このバイト募集を見つけた。


『急募! 聖女様』


 ピンときた。これって、コンセプトカフェの募集だ。あこがれのメイドさんではないけど、聖女のコスプレをして、給仕をする人を集めているんだ!

 見つけて、すぐに応募した。そして、今、こうして面接を受けている。




「それって、『おいしくな~れ♪ 萌え萌えキュン!』みたいな?」


 フリをつけ、両手で作ったハートを押し出す。ついでに、ウィンクも。

 うん、自分でやってて、かなり恥ずかしいぞ……

 なのに、


「わぁ~ 可愛いです。いいですね。なんですか、それ? ワタシにも教えてください!」


 美少女に両手を合わせるようにして懇願(こんがん)されてしまった。

 私のフリを真似てフロンちゃんが体をくねらせ、ウィンク。


 ズッキューン!


 思わず心臓を射抜かれる。

 もし、私がクラスの男子だったら、今ので一発で恋に落ちていただろうな。


「け、結婚してくれ!」

「って、アイリさん、ずるいっ! フロンちゃんは私のものよ!」

「あ、あの、ワタシはだれのものでも……」


 ともあれ、


「いいですね。かわいいです。それ採用しましょう!」


 フロンちゃんの即決で、私の振り付けが聖女様に採用されてしまった。って、なんのこっちゃ!


「ようは、そんな感じで接客すればいいんですよね?」

「はい、そうです。信者のみなさん、きっと喜びます~!」

「なるほど聖女カフェだから、お客さんは信者さんなのか……」


 というわけで、アイリさんとふたり、私たちは無事聖女様に採用されたのでした。




 のだけど、さっきから言っているように、私のいるこの場所はド田舎。まさかこんなド田舎でそんなマニアックなコスプレカフェ開いたりしないわよね?

 当然、どこかもっと開けた都会でお店をオープンするのだよね?

 けど、この町からじゃいくらか大きな町へでるのにも、片道一時間以上かかる。そんなの、私通えないよ……

 なんて思っていたら、フロンちゃんの話では、ここから五分もかからない場所が勤務地だって……


 だれもお客なんてこないよ! 閑古鳥がなくばかりだよ! すぐに閉店しちゃよ!


 なんとか、思いとどまって、もっとお客さんの来る場所へ店をだすように、アイリさんと二人で進言したのだけど、フロンちゃんは大丈夫というばかり。


 ホント、心配だ。


 あ、うん、もちろん、フロンちゃんが用意してくれた聖女様の服って、とてもゆったりとした優雅な雰囲気のもので、これにベールを組み合わせると、すごく神聖なオーラをまとっているみたいに見えて、素敵なんだけどね。

 でもねぇ~




フロン・ターレ……ロジャー・スミスがカッワ・サキーの魔王城の城下町で最初に出会った人間の少女。ターレの娘

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