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私:ニーサン・マリナス――ファブレス商会総支配人

 我がファブレスは手ひどい敗北を(きっ)してしまった。

 これもひとえに、私の才能のなさ、力のなさが招いた結果だ。

 事前にハンバーグ競争の陰に(うごめ)く何者かの影に気が付いていて、警戒を(おこた)らないように気を引き締めていたつもりだったが、結局、トムの暴走に引きずられ、大きな損害につながる前に押しとどめることができなかった。


 トムがムキになって無謀な決断をし、無鉄砲な行動にでることを抑えることができなかった。


 私自身も、これまで何代にも渡り、ファブレスに仕え、盛り立ててきた先祖たちに、顔向けができないような失態をいくつも犯してしまった。

 もし、今私が努めている総支配人の地位を前任のラウレ・ワッズが勤めていたならば、もっと違った結果になっていたのだろうか?

 すくなくとも、オーシャン・ホエールやフリューゲルスのように、大きな損害を(こうむ)る前に撤退を決断できたのではないだろうか。

 あのとき、ああしていれば、あのとき、こうしていれば。そんな(せん)無いことばかりが思い浮かぶ。

 ああ~




 とはいえ、そんな後ろ向きのことばかり考えていても、仕方ない。

 すくなくとも、今回の人員整理で発生した大量の解雇者の多くは他の商会が引き受けてくれた。とくに、スミス商会は、移籍してきた従業員たちの給料を移籍前の水準と同程度にすることさえも保証してくれたのだ。オーシャン・ホエールとフリューゲルスへ移籍した者たちは、給料が三分の一以下になったというのにだ。

 あらためて、ロジャー・スミス殿には感謝だ。

 ま、もっとも確証はないが、ハンバーグ競争の陰にいたのは、そのロジャー・スミス殿だったのではと疑ってはいるのだが。

 手際といい、大胆さといい、並みの人間には無理だろう。それに、結果的に、ハンバーグ競争はスミス商会の一人勝ちで終わったのだから。

 ともあれ、かつては王国の三大商会として、威勢を誇っていたファブレス商会は、今やファブレスという歴史ある金看板も色あせ、王国内に無数にある中堅商会の一つに過ぎなくなっている。さて、ここからどう巻き返していくべきか。

 まあ、規模が縮小したおかげで、商会が関わる事業の隅々にまで目が届くようになり、経営しやすくなったのは確かだ。

 おそらく、ミ・ラーイで創業間もない二百年前ティム・ファブレスが率いていたころにはこのような感じだったのだろうか。あのころは、オリジナル10の起点となる祖先たちが周りにいて、だれもが夢をもって働いていた。

 今、残っている従業員たちも、それぞれに未来への夢を抱いていて――


「これで二度目だよ。危機的状況になるのってさ。そのたびに、どんどん事業を縮小して。ついにここまで落ちぶれちまった。ミ・ラーイにいたころは、肩で風を切るように歩いていたのに、今や王都の片隅で人の目を気にしてこそこそするしかないってよ。ホント、どうなってんだよ!」

「だよな。どうしてこうなった? 上の人らはなにしてたんだ? 寝てたのか?」

「上の連中には、俺たちのことなんか見えていないのさ。みんな自分の身がかわいいばっかりで、保身にばかり走って。それで、いざ本当にファブレスが危ないってなったら、さっさと逃げだしやがった」

「だな。オリジナル10とかいって『俺たちはお前たちとは違うんだ』みたいな態度取ってたくせによ。みんなさっさとよその商会へ移籍しやがって!」

「オリジナル10で今でも残ってるのって何人いるよ。ったく。あいつらはみなオーシャン・ホエールやフリューゲルスに親戚がいて、そいつらに泣きついて移籍したんだぜ」

「だな。俺たちにはそんな立派な親戚なんていなかったからよ」

「くそっ! なんて世の中不公平なんだ!」「くそっ!」「くそっ!」


 はぁ~ だれも夢なんて抱いていなかった。クソッ!


「ほら、お前ら、つまらないことをくっちゃべっていないで、仕事しろ」

「「「へーい」」」


 部下たちは渋々のように自分たちの仕事へもどっていく。


 ――もし、この先、マリナス商会ができたら、俺たち喜んでついて行きやす。


 だれかのつぶやきが風に消えていった。





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