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 ここからは、ちょっと難しいことを考えてみる。


 たとえば、俺たちの世界ヨックォ・ハルマでは、モノやサービスの価値を表したり、取引手段として用いられる貨幣(かへい)というものは金貨や銀貨などのコインであり、宝石だ。だから、金持ちになる、あるいは、金持ちを目指すというときには、自分が所有している金貨や銀貨、宝石などを集め、たくさん(たくわ)えることを意味する。

 だが、聖女のジュンやアイリたちの故郷である地球では(もちろん、補助的に硬貨や紙幣も流通してはいるが)貨幣とは、銀行という機関に登録されている『口座残高』というスコアなのだ。このスコアをできるだけ大きくすることが金持ちになるということなのだ。


 奇妙な世界だ。


 そんな奇妙なスコアを大きくすることを人々が目指すわけだが、そのスコア自体が公正公平なものであるという保証はどこにもないだろうに?

 口座残高というスコアはただのデータにすぎないし、数字の羅列(られつ)にすぎない。金貨や宝石のように、そこちゃんと価値そのものを表す実物が手元に存在しているわけでもない。貨幣の価値は実体を持たない。

 たしかに、政府などの公的機関(実際には日本銀行など中央銀行)がそのスコアは価値をもつと保証してはいる。そして、人々はその保証が正しいと信じ込んでいる。でも、それ以上ではなく、それだけでしかない世界なのだ。

 そのスコアが実際の価値とガッチリとリンクしているという保証はなにもないのだ。

 それで世界がキチンと回っているだなんて…… 本当に奇妙だ。

 大体、そんな実体経済との関連が怪しい世界ならば、詐欺し放題、いかさま(・・・・)し放題になるだろうに?

 結果、だれもがだまし(・・・)の腕を競う世界。腕のいい詐欺師・いかさま師ほど社会の成功者になってしまう。正直者ほどバカをみる(・・・・・・・・・・)

 当然、そんな世界では、人々からの社会システムへの信頼を維持するなんて難しくなる。そして、その人々からの信頼がなければ、『口座残高』のスコアなんてもの自体が成り立たなくなってもおかしくない。

 だというのに、地球では社会が崩壊することなく動いている。

 おそらく政府によってスコアと現実の価値とがしっかりとリンクしているんだと強固(きょうこ)に洗脳・教育されているおかげだろうな。

 ただ、最近の動きを見ていると、それもとても危ういように思う。

 SNSの発達によって、だれもが本音で発信するようになり、だれの目にも社会的成功者たちの行っているいかさまや詐欺の実相(じっそう)が目に見えるようになってきた。しかも、彼ら自身ももうそれを隠そうともしなくなってきている。

 結果、選挙での投票率の低下などで表れているように社会的信頼関係が急激に低下してきているように見えるのだが……?

 このままでは洗脳が解け、口座残高の虚構性が認識されるようになり、貨幣としての価値を(うしな)い、人々の富が失われてしまいかねない。そして、ついには地球の社会が崩壊してしまわないといいのだが。




 一方で、ヨックォ・ハルマでは、人々が社会的成功者として金持ちを目指せば、金貨や銀貨、宝石などが個人の手元に大量に蓄えられることになる。だが、それらの社会全体での流通量は最大量があらかじめ決まっており、簡単には増やすことができない。過去から現在までに砂金として採取された量と鉱山から掘り出された量以上に増えることはないのだから。

 そこで、もし金持ちによって金貨などが大量に集められて、秘蔵(ひぞう)されてしまうと、経済に回るお金がそれだけ減少することになる。

 このときに、しっかりと経済システムが働いていて、十分なスピードでデフレが起き、モノの価値が調整されるのであれば、問題はすくないが、実際には、様々な慣習や制約があって、調整は十分には行われない。

 結果、経済に回るお金の量が減少すると、それに比例するように商品の売り買いがしにくくなり、モノの流通量が減少し、逆にインフレが起こり、景気が低迷することになる。

 そして、その状況になんの手も打たずに放置し続けると、やがては人々の不満が高まり、社会不安へと発展していって、民衆蜂起(ほうき)、暴動、革命、社会の崩壊へとつながっていってしまう。

 だから、それを避けるには、金貨などを大量に()めこんでいる社会的成功者(金持ち)たちから、その貯めこんだモノを吐き出させることが重要になって来る。

 一番手っ取り早い方法は戦争を起こすことだが、それでは社会がさらに疲弊(ひへい)し、混乱がますだけで、一番の悪手といえるだろう。

 その代替手段として、ノブレス・オブリージュという概念が盛んに喧伝(けんでん)され、金持ちたちが公共事業を起こしたり、慈善事業を支援するように仕向けられるのだ。そうして、自発的(半強制的)に多額の金貨などを吐き出させられる。

 また、定期的に盛大なパーティーを開催させるのも、同様の効果があるだろう。主催する者はもちろん、それに出席するものたちも、着飾ることで、多額の金貨を市中へばら()くことになるのだから。




 結局、なにが言いたいかというと、貨幣や富という(きわ)めて基本的な社会的概念が違うというだけで、社会を安定化させる手法ですらまったく別物になるってことだ。

 一方では、人々を洗脳し、信じて疑わせないようにすることであり、もう一方ではノブレス・オブリージュの精神のもとで、公共事業や慈善事業が半ば強制され、盛大なパーティーを開かさせられる。

 こんな貨幣というもっとも基本的な概念が違うというだけで、これほどの差がでるというのに、一方の文物や思想を他方へ持ち込んだとしても、うまくいくわけがないってことは火を見るよりも明らかだろう。

 それでも、どうしても異世界間で持ち込みたいなら、しっかりと事前に考察し、研究しておく必要があるのは言うまでもない。





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