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俺様がアイリちゃんに初めて会ってから、もう数か月。
その間に、俺様のファブレス商会では、マリナスが指揮をとって、ハンバーグの再現に挑戦してきた。
そして、先日、ようやくハンバーグが完成したとの知らせがきた。
本当、何か月待たすのだ! あの無能者め! 親父のことがなかったら、あんなノロマなどとっととクビにして、もっと有能な人間に挿げ替えるのだが。
あのスミス商会のターレなんて有能そうでいいだろ。今の安月給の何倍も出すと言えば、すぐに飛びついてくるだろうしな。
スミス商会でいくらもらっているのか、知らぬが。どうせ、大したことはないだろう。
ターレを部下にして、もっともっとファブレスを大きくして……
そんなことを考えているときに、俺様も出席してファブレスの主だったメンバー向けのハンバーグ試食会が開かれることになった。
ま、もっとも、その中で実際に中央神殿のハンバーグを食べたことのある奴なんて、ほとんどいないだろうがな。貧乏人どもに、十分な額の神殿への寄付を出せるはずがないのだしな。
ともあれ、何か月もかけて、ようやく再現に成功したハンバーグ。さすがに神殿のものほどではないにしても、それなりにうまいには違いない。
俺様の前に出されたそれは、たしかに香ばしいの匂いがし、ジュージューと肉汁が焦げる音がしている。口の中で自然とよだれが湧きあがる。まさに見た目は神殿のものとそっくりだ。
ガムバが水を満たしたコップを手渡してきた。
「ああ、ありがとう」
それを一気に飲み干して、口の中をリフレッシュさせる。
――さて、どれどれ見た目と匂いは合格だが……
早速、切り分け、口の中に運ぶと……
――なんじゃ、こりゃ!
思わず、目をむいてしまった。
かすかに獣くさく、えぐみが残っている。
到底、神殿の味にはおよばない、というよりも神殿のハンバーグとはまったく別のものだった。
――まずっ! こんなものがハンバーグかよっ! マリナスめ、何か月も何か月もなにやってたんだ!
怒りを込めて、隣で試食しているマリナスを睨みすえる。
だが、そんな俺様の耳に届いてきたのは、一緒に試食会に出席している、ファブレスの主だった従業員たちの声で。
「な、なんだ、これは! こんなにうまいものを、今まで食べたことがないぞ!」
「こんな最高の美味が味わえるなんて…… 今日はいい日だ。神様に感謝せねば!」
「うまいっ! うまいぞっ!」
絶賛の嵐だった。
信じられず、まわりを見回してみると、みな心底うまそうにガツガツ食べている。あっというまに、それぞれの目の前の鉄板プレート皿が空っぽになっていった。
「最高です! 総支配人。なんて美味なんだ。このハンバーグという料理は!」
「ああ、ありがとう。お世辞でも、そう言ってくれるとうれしいよ」
「いいえ。お世辞ではありません。私の心からの感想です」
――そ、そんなバカな! こんな代物が美味だなどと。お前らの舌はバカなのか? いや、お前ら自身がバカなんじゃないのか?
目障りな老いぼれスエイトも、うまそうに食ってやがる。死ね! そのままこのまずい肉片をのどに詰まらせて、あの世とやらへ行ってしまえ!
どうなってるんだ? この試食会は?
驚いているしかなかった。
やがて、マリナスが俺様に訊ねてきた。
「みなが絶賛してくれているようで、安心しました。これなら新しく店を出すことができると思いますが、いかがですか、トム様?」
「これのどこがハンバ――」
俺様にみなまで言わせずに、マリナスめ、強引に話を引き取っていった。
「そうですか。やはりトム様もおいしいと認めてくれましたか。ありがとうございます」
「はぁ? だれがそん――」
「では、さっそくハンバーグ専門店の計画を実行に移していきます。これで、王都の人たちも気軽にハンバーグを食べることができるようになり、みな喜びましょう」
「だから、これのどこが――」
「王都の人たちがみな狂喜してハンバーグの虜になれば、ミ・ラーイで我々が遭遇した不幸な事件から受けた損失もすぐに挽回することができるでしょう! ご先代様にも、これで我々も顔向けができるようになります!」
親父のことをことさら強調してきやがった。おかげで俺様は口をつむぐしかない。
――親父とのことを今さら持ち出しやがって! 卑怯だぞ!
マリナスめ、もう俺様と目を合わそうともしてこない。
――くそっ! 覚えてろ、マリナス! いつか、その生意気な口をきけなくしてやるからな!
俺様はそう心に誓って、黙りこんだ。




