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22

 その翌朝のことである。まだ日が昇り始めて間がないころ、私は王都東門の近くでたたずんでいた。人を待っているのだ。


「おっ、総支配人、早いの」

「遅いじゃないか。どれぐらい待ったと思っているんだ、スエイト老」

「そうか、そうか、そりゃすまんかったの。じゃが、早く来すぎてもどの店もまだやっておらんじゃろ。ほら」


 スエイト老が腕を振って示す通り、私たちの周囲の店は、ようやく開店準備を始めたばかり。


「ですが、こういう交渉事は、朝一番にいって、開店準備の邪魔にならないように注意しながら相手に誠意を示せば、大抵うまくいくと私の新人時代に教えてくれたのはあなたでしょう?」

「そんな気をつかうこともないと思うがの。あいつらは気のいい奴らばかりだしの」

「それと、開店準備に気を取られて気もそぞろな間に、強引に話をまとめるって選択肢もあるとかなんとかも」

「……」


 老とふたり、ニヤリと笑みを交わしあったのは言うまでもない。

 ともあれ、老と合流できたので、早速、東市場の北の端、王都近辺の農民たちが作物をもちよって安く売っているエリアへ向かった。


「こいつはさっき収穫したばかりかの? 新鮮で、うまそうじゃ。総支配人、ちょっといって買ってくるわ。ここで待っててくれ」

「あそこにあるのは、今年の初物じゃないのか? いいのう、いいのう。早速買ってこなければ、ちょっと行ってくる」

「あれに見えるのは、今が(しゅん)の野菜じゃないか。煮込みにすると、絶品。こうしちゃおれん、買ってくる! おぬしはここで待っておれ!」


 私をおいて、あっちへフラフラ、こっちへフラフラする老人がいた。


「って、こんなんじゃ、目的の店にいつになったらたどり着けるんだよ!」

「まあ、まあ、そう怒りなさんなって、ほれ、野菜炒めくわんか? うまいぞ」


 確かに、その野菜炒めはとれたて新鮮な野菜を使っていて、シャキシャキとした食感が絶妙ではあったが。


「って、そうじゃないだろ!」


 そんな調子で、時間が多少かかったが、それでも、なんとか目的の店までたどり着いた。

 老人とその孫娘が店番をしている店。そして、すでに開店準備は終わって店は開いていた。


 ――スエイト老……


 ちょっとにらむが、知らぬ顔だ。ったく!


 その店先に並べられているのは――タマネギ、タマネギ、タマネギ……

 ついに夢にまで見たタマネギの山が私の目の前にある!


「よおっ、おはようさん」


 老の気安い挨拶に返事をしたのは、孫娘の方で、店の老人の方は、奥の椅子に座り込んでウトウトしている。


「あ、これはスエイトさん、おはようございます」

「今日もタマネギをくれないか?」

「はい、いつもごひいきにしていただき、ありがとうございます。毎度おおきにです」

「さて、タマネギも手に入ったし、さっそく帰って朝飯を作るか」


 本当にとっとと帰ろうとするし。


「って、ちょっと待った!」

「えっ? あ、そうじゃった、そうじゃったの」

「目的を忘れないでくれ」

「すまんかった、すまんかった」


 謝罪するように軽く手を上げて、


「さて、帰るか」

「おいっ!」




 さっそく、店の裏へ回り込んで、目を覚ました店の老人と挨拶を交わす。


「ほお、ファブレスっちゅうたら、ここヨックォ・ハルマでも指折りっちゅう?」

「そうじゃ。その総支配人が、こやつニーサン・マリナスという男だ」

「それはそれは。して、そんなどえらい人が、わしらになんかようかの?」


 店の老人は困惑して、首をひねっている。

 着ているものは泥で汚れてはいるが、いままで見たこともない奇妙な民族衣装を着こんでいる。言葉にも聞いたことがない(なま)りもあるようだ。


「実は、貴殿が売っているタマネギという野菜を仕入れたいと思っているのだが」

「タマネギかいな? ああ、いいぞいいぞ、いくらでも売ってやるぞ。一袋か? 二袋か?」

「あ、いや、もっと多くだ。できれが貴殿の畑全部のタマネギを買い入れたい」

「……」

「なんなら、貴殿の住んでいる村や知り合いの作っている分も全部買いとってもいい」

「そんりゃ、びっくらこいたずら。こちらとしては願ってもない話だっぺ」

「そうか! それなら……」

「じゃが、その申し出をわしらが受けるってわけにはいかないずら」

「そ、それは、どうして……?」

「このタマネギは、故郷を追われて行くところもない、おらたちを受け入れてくれた親切な王女様が育てるように指示なされたものだがや。そんで、おらたちが今売っているのは、畑から収穫して代官所に納めたあとに残ったおらたちの取り分から、おらたちでは食べきれない分を売っているのずら」

「親切な王女さま?」

「うんだ。ミレッタ王女殿下ずら」

「貴殿らは、王女殿下の領地の農民なのか? いや、だが、王女殿下の領地はたしか王都から三日以上離れた遠い場所のはず。そんな遠くからわざわざ?」

「いいんや。おらたちが来たのは――」


 老人が告げたのは、王都のすぐそばの地名。だが、その場所は――


「たしか、あの場所には中央神殿の荘園(しょうえん)があるはずでは?」

「くわしいことは、おらたちにもわからないずらが、なんでも王女殿下が神殿からの給料としてあてがわれている土地だそうだがや」

「ってことは、聖女の采地(さいち)か」

「うんだ。なんで、ここの分以上の畑のタマネギは、おらたちの一存では処分できないのだがや。どうしてもっていうなら、代官様の方へかけあってけろ」

「なるほど、分かった」





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