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 オーシャン・ホエール商会やフリューゲルス商会は、ファブレスにとっては強力なライバル商会である。そして、今なおその三商会だけでウェスト王国の経済の七割を支配下においているのだ。競い合うライバルとしてだけでなく、協力し合って王国の経済をうまくかじ取りしてきた仲間でもある。そのためもあって、各商会の当主一族同士だけでなく、それぞれに仕える主だった従業員の一族同士も政略結婚で何重にも結ばれているのだ。

 私自身、妻はオーシャン・ホエール商会の当主一族の末席につらなる家の出だし、祖母はフリューゲルス商会の大番頭を長年勤めていた人物の妹でもある。

 そんな(えん)もあり、自然と両商会の動きは私の耳にも入って来る。ハンバーグのレシピをめぐって私と同じように神殿関係者と接触を計っているのも事前に知ってはいたので、エスパル神官から話を聞かされても驚きはしなかった。

 だが、意外だったのは、この三商会の他に、スミス商会という王国経済の二割ほどを支配する新興商会があるのだが、そこからの接触がまだないという話だった。


 ミ・ラーイの市長失脚事件で我がファブレス商会が手放すことになった貿易船団だったが、そのすべてを手に入れたのがニ、三年前に設立されたばかりのスミス商会だった。

 買い取ったのがオーシャン・ホエールやフリューゲルスなら、何年かしてほとぼりが冷めたころに再び買い戻して貿易業務を再開することもあり得ただろうが、相手は我々のよく知らない新興のスミス商会。正直、買い戻す手がかりすら見つけられないでいる。

 しかも、まだ設立から日が浅く、その内情は謎というしかない。当主はロジャー・スミスというアレな名前をもつ冒険者あがりの人物のようだが、相当頭の切れる男のようだ。ただ私はまだ一度もお目にかかったことがないが。

 冒険者出身という噂が本当であるなら、本来はその日暮らしの生活をしていたはず。なのに、商会を起こしたり、貿易船団を買い取ったりした。膨大な資金が必要だったはずだ。貧乏なはずの冒険者がそんな資金をもっているはずはない。なら、それらのために必要とした巨万の富をどこから手に入れたのだろうか?

 どこかの古代遺跡のダンジョンにもぐって、古代文明の遺産でも見つけたのだろうか?

 だとしたら、その遺産発見の噂ぐらい、私の耳に入っていてもおかしくないはずだ。だが、記憶にも、記録にも、そんな発見のニュースはここ数年なかった。

 他に考えられるとすれば、冒険者としての力量を悪事につかったとか。どこかの金持ちの家へ強盗に入り、蓄えていた富を盗んだ?

 だが、そもそも貿易船団を買い占めるのに必要な資金には、大金持ちの一人や二人の秘蔵している財産では足りないだろう。何人もの大金持ちが狙われ、その財産が盗まれたならば、相当大事だし、瞬時にその噂ぐらいは()(めぐ)るだろう。だが、そんな噂は耳にしてはいない。

 相手はロジャー・スミスというとても偽名っぽい名を持っている人物だ。当然、本名は別だろう。なら、どこかの王族や大貴族が身分や家名を偽って、事業を起こしたとか?

 それならありえそうだ。ファブレスの大船団をまとめて購入するだけの資金を調達することぐらいなら、可能だろう。だが、だとしても、そういう高貴な人がそんなことをするのか? もし、正体がバレたら、どんな非難がまっているか。家名にキズがつくってだけじゃすまない。国の財産の横領が疑われるし、納税者として、それに不満をもった人々が暴徒と化し、すべてを破壊し()くすことになるだろう。


 うむ…… これも可能性は低そうだ。


 なにはともあれ、とても謎めいた人物だった。




 当主自身がそうであるが、そこで働いている者たちも、いままで耳にしたこともないような無名の人物ばかりだった。

 先日の会合で目にしたスミス商会のナンバー2はターレと名乗っていた。だが、私の記憶の中でこれまでに会ったこともない男だ。その雰囲気は、こちらをもピリッと背筋を伸ばさせるほどの、優秀な冷徹さを感じさせる人物。相当に高い知性をもつ有能な人物なのだろう。ただ、それは経営者というよりも、どこかの上級官僚といったものを感じさせる。もっとも、商売柄、これまでに様々な国の有能な上級官僚たちと面会する機会があったが、その中にターレのような人物はいなかった。

 その他にも、鎧の方が似合いそうな人物がいたかと思ったら、だれもの目を()く美少女がいたり、本当にまったくの謎商会だ。

 そして、そのスミス商会がハンバーグレシピ争奪戦に参加していない?


 信じられないことだ!


 いや、もしかして、まだハンバーグという存在に気が付いていないとか?

 そんなことがありうるか?

 私自身もつい最近、あの王家ご用達の菓子店の手代さんに連れられて、中央神殿に出向いて初めて味わった料理。設立してまだ日が浅い商会のスミス商会側がまだ気が付いていなかったとしても、もしかして、決しておかしくはないのかもしれない。

 商会の命綱といってよい精度の高い情報網がまだ十分には整備されておらず、つかめていないってこともあるのかもしれない。

 それでも、知らないままでいつづけるなんてことはない。どこかでハンバーグの存在を知るだろう。そして、この先、いつかどこかでハンバーグ争奪戦に参戦してくる可能性は十分にあるだろう。要警戒ではある。





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