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まずは、中央神殿の関係者の中でファブレス商会と縁のある人物をリストアップする。
ちょうどおあつらえ向きに、中央神殿で内向きを統括する神殿事務の長がオリジナル10の家の一つでもあるエスパル家出身者だった。
そのエスパル神官は数十年前にファブレス商会から離れ、神殿仕えを始めた人物で、これまではファブレス商会との接点がほとんどなかった。
ま、それも当然か。ファブレス商会にすれば、寄付だ寄進だなどとカネばかりたかりにくるのに、これといってメリットのない中央神殿と付き合うほどヒマではなかったのだ。
だからといって、そのエスパル神官とファブレス商会が現時点で気まずい関係にあるってわけでもないようだ。
なにしろオリジナル10の一員。調べた結果、商会を離れる状況でのトラブルは一切なく円満な形だったようだし、今でも多少なりとファブレス商会への親近感のようなものが残っているとみてまず間違いはないだろう。
早速、人をやって接触を試みるが、その目算は大いに当たっていた。
数日後、席を設け、直接顔を合わせて酒を酌み交わした。そして、快く協力してくれることになった。
ひとまず、ここまでは上出来といっていいだろう。
「ささ、一献」
「いや、ファブレスの総支配人どのに、そのようにお酌をしていただけるなんて、恐縮の極みにございます」
「そう、かしこまらずに」
「そうですか? では。あははは」
こういう席に慣れている様子。神官では、業者などから接待されること自体、さほど多いわけでもないだろうに?
私の疑問が顔にでていたのか、エスパル神官が内緒話でもするように、打ち明けてくれた。
「実はオーシャン・ホエールからも、フリューゲルスからも、話が来ているのですよ」
エスパル神官の口からでたのは、ライバル商会の話だった。
王都に本拠をおくオーシャン・ホエール商会やオリジナル10から独立し、ファブレス商会に並ぶ成功を収めたフリューゲルス商会からも、中央神殿の神官たちにさかんなアプローチがあるという。
中央神殿の名がでただけで、またカネの無心かと嫌な顔をされてきた神官たちが、いまや王都中の商人たちから引っ張りだこになっているという。
「もちろん、私もオリジナル10出身です。ファブレス商会さんには、代々の恩義がありますから、よろこんでお手伝いさせていただきますよ。ただ、私自身も神殿に仕え、戒律に縛られる身、神殿内のことをもらすことは、本来は神の御業によって封じられております。なので、今は知りませんが将来知りえたとしても、例のレシピなどを直接お教えすることはできません。それはお含みおきください」
「はい、それは心得ております」
「あ、もちろん、そちら自身のご努力だけで例の料理を再現しようと試みた結果、万が一にでも再現に成功して、そちらの関係するお店のメニューとして提供されたとしても、こちらの関知することではないのですが…… 実は、その、他の商会さんたちからも、その、私どもの方にいかばかりかの寄進をいただいておりまして…… はい……」
つまり、中央神殿が後で権利を主張してトラブルにならないように、先にそれ相応の金を払えということだ。最終的に料理の再現に成功しようが、失敗に終わろうが。
もちろん、ファブレスとしては否やはない。
「あ、いや、私どもの方もこれぐらいは考えております。あとでうちの者がお届けにあがりますので、お納めください」
「おお。ありがとうございます。さすが王国一の商会。太っ腹ですな。ファブレス様にすばらしい幸運がおとずれることを私ども祈っておりますぞ」
「いえいえ」
ふん、食えない神官だ。
でも、いい。これで言質はとった。あとはなんとかハンバーグを再現して。
グゥ~~~~
途端に私の腹がなった。
ハンバーグ食べたいな。