これまでのあらすじ
俺、ヒューゴー・グッドウィルは、幼馴染みのアルテナとの結婚式をあげているまさにその最中に逮捕され、重犯罪人が収監されるコーナン監獄へいれられた。
まったくの無実。なぜ逮捕されたかすらわかっていない中で、ひょんなことから牢の壁に転移魔法がかかっていることを発見する。その転移先は……ウエスト王国で聖女とされているミレッタ王女の部屋。
だけど、なんだか王女の様子がおかしい。王女の兄である第二王子のユリウス王子を擁立するために陰謀を巡らせ、姫の父であり、現国王のヨーゼフ三世や第一王子で王太子でもあるヘンリー王子を暗殺しようと計画しているようだ。
というか、聖女が国王や王太子を暗殺って……あんた、本当に聖女なのか?
もちろん、そんなわけはなく、自ら『魔王』だと告白してきた。
強大な力をもつ魔王。その魔王と唯一肩をならべて存在することが許される『勇者』。この世界ヨックォ・ハルマでの勇者であるとされるのがユリウス王子で、なんとか兄妹以上の関係なりたいと願うあまりの暗殺計画だという。
なら、実行すれば確実に大勢の人間が死んでしまうことが予想される計画をたてなければいいのに。とくに俺が巻き添えをくらって、ロクな目に合わないような。
しかたなく、俺はこのおバカ魔王が立てつづける計画の不備を指摘し、叩き潰しつづけている。
そんなある日、おバカ魔王が俺に三つの呪いをかけた。
一つめの呪いは、俺が経験を積んでレベルアップし、スキルを覚えたとしても、一晩寝て起きれば、すべてがリセットされ、レベル1に戻り、身につけたスキルは忘れ去られるというもの。
もっとも、リセットされるのは、スキルとレベルだけで、レベルアップに伴って上昇する能力値そのものや、覚えた知識までリセットされるわけでもない。
毎日、スキルを身につけ直すのは面倒だが、レベル1からの学び直し。急激な能力値の上昇を毎日成し遂げることができるようになり、俺のステータスはすごいことになっていった。
また、能力値の一つの知力が大きく上昇したおかげで、様々なスキルの教本を楽に暗記できるようになったし、他者が用いているスキルを見るだけで、その動きや土台となっている知識を解析し、スキルをそっくり真似できるまでになってしまった。
二つめの呪いは、俺が死んだとしても、牢の中の石のベッドの上で復活できるというもの。
直後に俺は故郷のミ・ラーイで凄腕の暗殺者として、火あぶりで処刑されるのだが、この呪いの効果で復活することができた。とはいえ、公的には処刑されて死んだ身、今まで通りではいられない。だから、これまでの古い名前を捨てて、ロジャー・スミスと名乗るようになった。
三つめの呪いは、ミレッタ王女に害をなそうとすれば、俺自身ではなく、俺が大切におもっている人物が呪いの効果で死んでしまうというものだ。
おかげで、俺は魔王であるミレッタ王女に逆らうことができなくなった。さもないと、俺が今なお大事に思っているアルテナが死んでしまうのだから。
ああ、アルテナ、今はどうしているのだろうか? 会いたいな。
そんな中で、俺は魔王のお使いでお隣の世界カッワ・サキーを訪問することになった。カッワ・サキーに入ると、なんだか様子がおかしい。カッワ・サキーの魔王や魔族が人間たちを迫害し、虐殺している。
そんな中で出会ったのが、金色鎧で全身をかためたはぐれ勇者だった。
すでにあちこちの世界で大暴れし、それぞれの世界で魔王たちを滅ぼしてきた悪名(?)高きはぐれ勇者がついにカッワ・サキーへ乗り込んできたのだ。
魔王城へ入城した俺を待っていたのは、そんなはぐれ勇者の出現にすっかり怯え、震えあがっていた魔王だった。
魔王は、はぐれ勇者と同じ人間である俺にカッワ・サキー全土を統べる王国の王位を譲るといいだした。もちろん、固辞したのだが、結局は強引に王冠や玉座を押し付けて、いずこかへと逃げて行った。それから間もなく、はぐれ勇者が魔王城へ乗り込んでくる。
仕方なく俺は召喚魔法で魔王を呼び戻した。そしたら、魔王ははぐれ勇者から逃れたい一心でか、今度は、俺に従魔の誓いを立ててくる。本当、なんなんだか?
実ははぐれ勇者はその装着している金色鎧に付加された祝福(呪い?)のせいでアンデッド化していたのだ。なので俺ははぐれ勇者をだまして甲冑の中に聖水を振りかけ、はぐれ勇者を浄霊してやった。
かの者が、天の国で探して求めていた姫君と再会しますように。
その後、混乱の末、俺はカッワ・サキーを平定することに成功したのだが、どういうわけか、あのはぐれ勇者が着ていた鎧が、ヨックォ・ハルマの勇者であるユリウス王子の手に渡ってしまっていた。
一度着用してしまうと生きている間は脱ぐことができなくなる甲冑一式。しかも、死んだとしても何度でも蘇る祝福(呪い?)までかけられている。
そんな甲冑を身につけてしまったユリウス王子。なんとか無事に鎧を脱ぐのを手伝いたいのだが、どうしたものか……?
俺は一計を案じ、コーナン監獄の塔の最上階ホールまでユリウス王子を呼び寄せた。
そして、ホールの中を水で満たし、王子を溺れさせることに成功した。
そこからは時間との闘いだ。
ホールから水を抜き、仮死状態に陥っている王子から甲冑一式をはぎとり、人工呼吸を施して、蘇生させることに成功した。
だが、直後に俺の唇は一緒にいたミレッタ王女の唇によってふさがれる。気が付いたら人工呼吸のさいの王子の唇の感触の記憶が俺から奪い去られていた。
さらに、直後に目覚めた王子が俺に告げたのは、王子と口づけを交わしたものは一生の友になるというお告げで。
ホント、なんなんだ? ここの王族たちは!?