ベルデ村を後にする
「本当に行かれるのですか」
村長が名残り惜しそうな顔をして言った。
「はい」
オレはきっぱりと言った。
この村にはもういたくなかった。
「そうですか……。リュウジ殿は別として、招福猫神様にはいつまでもいていただきたかった……」
(おい、おい、リュウジ殿は別としてとか、村長はオレに喧嘩売っているのかよ)
アンナの夜伽のことが村中に知れると、オレがホワイトウルフを使役しているのは、毎晩性的にホワイトウルフを飼いならしているからだという風評が広まっていた。
もともとアンナを救ったのはルビーという設定にしていたし、村人が尊敬の眼差しで見ているのは招福猫神であるブラックだ。
この村ではオレはすっかりダーティな変態扱いされて、居場所が無かった。
「お世話になりました」
「ではこれをお持ち下さい」
「なんですか」
「ささやかなお礼の気持ちです。見ての通りの貧村なので、これしか用意できませんが、お受け取り下さい」
村長は餞別の金員を差し出した。
この世界のお金を持っていなかったので、ありがたく受け取ると村長の家を出た。
村の出口にはアンナがいた。
オレらを見ると駆け寄ってきた。
「村を出るって本当ですか」
「ああ」
「これまで、本当にありがとうございました」
アンナが頭を下げた。
アンナだけはゴブリンと山賊を倒したのはオレだと知っている。
これでオレを変態扱いしないでくれれば、二人で愛を育むこともできたかもしれないのに返す返すも残念だった。
「ルビーさん、リュウジさんとお幸せに。お二人は、とても素敵なカップルですよ」
そういうとルビーの首を抱きしめると、涙を浮かべながら、駆けて去っていってしまった。
(いや、アンナさん、それは誤解だって)
「いい子だったわね」
ルビーが満足そうに言った。
オレは溜息をついた。
村を出て次の町に行くのも、ルビーとアンナのせいだ。
この二人がすっかり誤解したことにより、村人から変態扱いされるのに耐えかねての出立だった。
「ルビー、いい加減にしろよ」
「何がです?」
「オレらはそういう関係じゃない」
「ひどい! 私を抱いて、耳をスリスリしたのに、そんなことを言うの!」
オレはやれやれと首を振った。
確かに異世界に来てからのオレはモテていた。
この状態は異世界ハーレムものと言ってもいいのかもしれない。
しかし、期待と異なり、現実はあんまりだった。
こんな異世界ハーレムものは勘弁してほしい。
とぼとぼと歩いていると、ブラックが笑いながらついてきた。
「ところで、ブラック、どこに向かったらいい?」
「ここから西に3日ほど歩くと町があるわ。とりあえずそこを目指すのね」
「ねぇ、こちっちの経済事情に疎いんだけど、今のオレらの所持金で何日くらい暮らせるかな」
「半月ってとこね」
「半月か……。そうするとお金を稼がないといけないな」
そう言っても異世界でどうやって生活費を稼いでよいのかわからなかった。
「次の町のコリンには、冒険者ギルドがあるはずだから、そこで冒険者登録をして、クエストを達成して、報奨金を稼げばいいんじゃない」
「おおお」
(おなじみの異世界もののテンプレだが、この異世界でもあるのか)
「それはいい。じゃあ、そうしよう」
オレはデレデレしている白狼娘とツンデレの黒猫娘を連れて、コリンの町を目指した。
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