奴隷市
オレは、宿の部屋のベッドの上で仰向けになり、天井を見ながらため息をついた。
「どうしたの」
ルビーが訊いた。
「なんでない」
オレはナオミを奴隷館に送り届けた時のことを思い出していた。
「ナオミ、そんな顔するなよ」
奴隷館の前でナオミは泣きそうな顔をした。
「また次のクエストの時にはポーターとして雇うよ。すぐにまた会える」
ナオミは首を振った。
「今夜、奴隷のオークションがある。私も出品される」
「オークション?」
ナオミが頷いた。
「買われてしまうというのか」
「そう。だからもう会えない」
「でも、売れ残るかもしれないし」
言ってから失礼なことを言ってしまったと気がついた。
「私を買いたいという人が二人いるからオークションにかけられることになったの」
「そうか……。ナオミは力持ちで、ポーターとして優秀だかからか?」
またナオミが首を振った。
「そのオークションは性奴隷のオークションなの」
オレは言葉を失った。
奴隷館の玄関まで来ると、奴隷館の職員がナオミを引っ張って行った。
最後に振り返ったナオミの悲しみをたたえた深い色の目が忘れられなかった。
オレは、ルビーとブラックの様子をみた。
二人ともクエストを終えて報酬をもらい、たらふく宿の飯を食べたので眠くなったのか、目を閉じていた。
オレは二人を起こさないようにして部屋を出た。
奴隷館に向けて歩いていた。
オレはナオミを開放すると決めた。
今夜奴隷館で行われているオークションを襲撃して、ナオミを奪うつもりだ。
通りを歩いていると、右側にルビーがいた。
左側にはブラックがいる。
「どうしたお前ら?」
「水臭いわね。あの娘を助けるつもりなんでしょ」
ブラックが言った。
「どうして、それを……」
「リュウジの考えていることなんてすべてお見通しよ」
オレたちは、奴隷館の前に来た。
入り口には守衛がいた。
「何の御用ですか」
「奴隷を買いに来た。今日はオークションだろ」
守衛はオレの顔をみた。
「ああ、昼間の客か」
「そうだ。レンタルで試してみたが、よかったので、買いに来た」
「今晩のオークションのことはどのようにして知った?」
「奴隷が喋った。よかったら買ってくれと」
「オークションは招待客のみだ」
「カネならある」
オレはクエストで得たばかりの金貨をちらつかせた。
「まあ、ウチの顧客なら問題ないだろう」
守衛は通してくれた。
オレたちは地下にある会場に行った。
宿の食堂を少し広くした程度の地下室には20人ほどの男たちがいた。
真ん中にはスペースがあり、そこに4人の奴隷が並んでいた。
ナオミは右端にいた。
オレの顔を見ると驚いた表情をしたが、すぐに仮面のような顔になった。
オークションが始まった。
オレはチャンスを待った。
ナオミの番が来て、よく姿を見せることができるように、首の鎖がはずされた。
ナオミが自由になったのを見届けると、オレは躍り出て、ナオミの手を掴んだ。
「何をするの」
「逃げるぞ」
だが一つしない地下室の扉が閉められ、オレの周りを男たちが取り囲んだ。
「ルビー、ナオミを頼む」
オレは息吹をした。
気を循環させて、肩の力を抜いた。
「このヤロウ」
最初にかかってきた奴は剣を抜いてオレを刺そうした。
引き付けて、半身でそれをかわし、掌底をカウンターで顎に打ち込んだ。
倒れた男から剣を奪った。
空手は中国武術の影響を受けている。そして中国武術は手に剣を持てば、そのまま拳術が剣術になる。空手の型も、棒術や杖術にそのまま応用できる。
オレは剣を振った。
次にナイフをかざして、かかってきた相手を斬った。
剣で空手の型を舞った。
周囲に囲んでいた連中から次々と血しぶきが上がる。
(確かに剣道三倍段と言って、徒手に比べて刀剣の戦闘力はすさまじいが、それにしても弱すぎだろう)
奴隷館の用心棒たちは、そもそも体幹や足腰が弱すぎて攻撃が安定しておらず、簡単に倒せた。
オレが血に濡れた剣を突きつけると、残りの奴らは尻込みした。
(おお、連中がチキンでよかった。セーフだ)
本当は、ここから立場が逆転するはずだった。刀剣は血に濡れ、刃こぼれし、曲がると、とたんに使えなくなる。
だが、剣を持ったオレの迫力に押されているようだった。
ナオミを連れて逃げようとすると、ナオミの前に買われた少女がオレのことを見た。
オレは、残りの奴隷の少女の鎖を剣で断ち切った。
そして、みんなで外に出た。
「逃げろ」
助けた他の奴隷の3人のうち2人はお礼も言わず一目散に逃げていった。
だが、一人の奴隷だった少女が残っていた。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の★★★★★評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。
作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。