少女誘拐の謎解き
オレはまず31号のところに行った。
「おい、大丈夫か、怪我はないか」
「平気です。ありがとうございました」
「よかった」
安堵するオレのことを31号は不思議なものを見るような表情で見た。
「じゃあ、尋問しますか」
オレは倒れているオークのもとに行った。
オークは立ち上がって逃げようとしたが、膝が痛いらしくよろけた。
オレは様子を見た。
オークは足を引きずりながら逃げる。
軽いステップで前に回り込んだ。
「逃げ切れるとでも思ったか」
オークは後退りする。
「なぜ、若い女の子をさらう。その理由を話せば痛い思いをしないですむ」
オークは無視して逃げようとした。
「そうはさせない」
オレはオークが痛めている膝にローキックをぶちこんだ。
「うがああ」
オークは音を立てて倒れた。
「どうする。もっと痛い目にあうか?」
「分かった、分かったから許してくれ」
「なら話せ」
「魔王だ。魔王を探している」
「はぁ~!?」
意味が分からなかった。
「魔王を探しているだと? 若い人間の女の子をさらっておいて何とぼけたことを言っている」
オレはケリを出す予備動作をわざと大げさに見せつけた。
「ま、待ってくれ、本当だ。本当のことなんだよ」
「なら、分かるように言え」
「新魔王は人間の女だ。女子高生だという話だ」
「魔王が女子高生だと。舐めてんのかコラッ」
オレはとりあえず脇腹を思い切り蹴り上げた。
オークは息が詰まったようで、ゲホゲホしながらのたうち回った。
「嘘じゃない。魔王のデルマゴーグ様は配下の魔族に裏切られて殺された。そして、長男のアルキューレオールも、次男のオーガルゴロスもみんな死んだ。跡目争いと部下の反乱のせいだ」
「嘘だろ。魔王がそんなに簡単に殺されるか」
オレが日本のラノベやアニメで知っている魔王は桁違いに強い。
ここ本場、異世界なら、なおのこと強いはずだ。
「魔力の枯渇のせいだ。魔王が魔族の頂点にいたのは、誰よりも魔力が強く、強力な最上位の魔法を使えたからだ。逆らえば魔法で消される」
オークは苦しそうに咳き込んだ。
「いいから続けろ!」
「魔王は最上位の防御魔法と回復魔法も使えたから、あらゆる攻撃は無効化され、多少ダメージを与えても、すぐに回復する。だから誰も魔王に逆らうことはできなかった」
「それがどうして簡単に殺されるんだよ!」
「だから、魔法が使えなくなったからだ。魔法が使えなくなった魔王はただの面倒くさいジジイだった。そして配下の魔族たちが、これまでの恨みを晴らすためや、魔王の地位に自分が取って変わろうとして、魔王を襲ったんだ」
魔法が使えなくなると、そんなことになるのかとオレは驚きを隠せなかった。
「魔王の息子たちも同じだ。魔法が使える時は、魔王候補として君臨していた。だが、魔法が使えなければただの人だ。そうして魔王一族は全員死んだ。一人を除いてな」
「その一人というのは?」
「魔王が愛人に産ませた子だ」
「愛人?」
「ああ、その愛人はサキュバスと人間のハーフで美人だったそうだ」
「その子はどうしている?」
「魔王の子ということは隠して人間の間で暮らして学校に通っているらしい」
「どうしてその子を狙う」
「魔王は世襲制なので娘が新魔王になる」
「それで」
「新魔王を自分のグループの神輿にして、天下を取ろうという奴らがいる」
「ほう」
「それだけじゃない。もし魔力がこの世界に復活したら、父親や兄弟を皆殺しにした復讐をされると恐れ、魔力が無い今のうちに完全に魔王一族を根絶やしにしたいという奴らもいる」
「でもその子は人間の間で暮らしていているんだろ。魔力が復活しても、たいした魔法なんて使えないんだろう」
「魔王が世襲制なのは、魔王の血筋は、生まれながらに魔力や魔法の才能が優れているからだ。魔力が復活すれば、すぐにその子は比類ない力を発揮するだろう」
魔法の力も遺伝するのかと思った。
「さらに、サキュバスと人間と魔王の血が混ざった少女ということで、愛玩具としてコレクションしたいという奴もいる。だから新魔王の少女は、今、高値がついており、連れて帰れば大金を得たり、高い地位をもらえる。だから魔族はいまこぞって新魔王を探している」
「ひどいな、これまで世話になった主君の娘だろ。守ろうとする奴はいないのか」
オークは笑った。
「我々魔族に人間の倫理を持ち出すな。お前らとは違う。力を失った魔王を律儀に守るなんて発想はワシらには無い」
「そうか。でもこれで謎が解けたよ」
お礼にオレは頭に蹴りを入れてあげた。
オークは気を失った。
「オーク狩りと、オークが人間の少女をさらう理由が判明したからクエスト達成だ」
ビルが言った。
「このあとはどうする」
「町に戻り、ギルドに報告をする。あと、それを返す」
ビルは31号を「それ」と呼んで顎で示した。
「そうか」
オレらは町に向けて歩き出した。
町までの帰り道もオレは一番後ろを歩いた。
「あの……。ありがとう」
唐突に31号が言った。
「何が?」
「私のこと、助けてくれて」
「当たり前だ」
「その……」
まだ何か言い足りないようだった。
「助けてくれたのは私が死ぬと代金を弁償しなくてはならないからなの?」
「そんなこと考えもしなかった。だって同じパーティなんだから仲間だと思っていた」
「な・か・ま?」
「ああ」
「嘘つき!」
31号は突然怒り出した。
「なんで怒る」
「奴隷の私が仲間なわけない」
「なあ、よく聞け、俺は遠い異国から来た。俺の国では奴隷はいない。同じ人間を奴隷にすることは禁じられていた。だから、俺はお前を奴隷として見ていない」
「ほ、ほんとうなの」
「ああ。君の名前はなんて言う」
「31号」
「その呼び名じゃない。本当はあるんだろう。自分の名前が」
彼女はうつむいた。
そして、顔を上げると言った。
「ナオミ」
「ナオミか、いい名前だ。俺の故郷でもその名前は使われていた」
「本当?」
ナオミは顔を輝かせた。
「ナオミはどうして奴隷になったんだい」
訊きにくい質問だが、聡明そうなナオミがこうして奴隷をしているわけが気になった。
「借金のせい。父が騙されて多額の借金を負って、死んだの。私も母も、それで奴隷に売り飛ばされた。母は体が弱かったので、奴隷になるとすぐに死んだ。私だけ残った……」
ナオミは泣きそうな顔になった。
「そうか。大変だったんだね」
ナオミはうなづいた。
「おい、なんで奴隷なんかと話をしている。もうすぐ町に着くぞ」
ビルがオレらのところに来て言った。
ナオミは口をつぐんだ。
町に帰ると、まず冒険者ギルトに行き報告をした。
ビルたちはオークを倒した証拠として、オークから切り取った耳たぶを証拠として出した。
オークを2体退治し、何故人間の少女が狙われているかの貴重な情報をもたらしたということでギルド長に呼ばた。
ギルド長室に行くと、ギルド長から新魔王の話は誰にも話さないようにと口止めもされた。そして、秘密にする対価として、特別報酬をさらに上乗せでギルト長からもらった。
ビルは公平にそれを山分けした。
「そうだ。奴隷の返還がまだだったな」
「それならオレが行きます」
「そうか悪いな」
ビルたちはもらった報酬で早速飲み会に行こうとしていた。
オレはナオミを連れてギルトを出た。
ブラックが寄ってきた。
「ねぇ、もらった報酬でナオミのこと身請けするつもりでしょ」
「そんなことないよ」
オレはごまかした。
「ふーん」
本心ではオレはナオミの話を聞き、理不尽だと思い自由にしてあげたいと思っていた。
「私は反対よ」
ルビーがこわい顔をして言った。
「あらあら、嫉妬かしら」
ブラックが茶化した。
「せっかく稼いだお金をどこの馬の骨だかも分からないあの娘に使うなんておかしいわよ」
オレの横で、ナオミは困った顔をしていた。
ルビ―の反対もあり、とりあえず、ナオミはいったん奴隷館に返した。
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