オーク狩り
「大丈夫、重くないか?」
パーティの最後尾を歩く31号に話しかけたが、答えはなかった。
「ねぇ、あんたにはルビーがいるのに浮気をするつもり」
ブラックが31号が背負っている荷物の上からオレに言った。
「うるさいな。関係ない。お前こそ、そこ降りて自分で歩けよ」
「嫌よ」
「招福猫神様はそこにおられたままで結構です」
31号が初めて喋った。
「話ができるんだね」
「ええ」
その後も31号に話をしたが無視されてしまった。
「そろそろだぞ、注意しろ」
オークを見かけたという森に着くとビルが言った。
「ああ」
「この森を拠点にして、近隣の村や町の娘をさらっているらしい」
ジョーが剣を抜くと両手持ちした。
「いつでも来やがれだ」
生粋の剣士のジョーと槍使いのビルが2トップで前衛になり、その後をオレとサラがついて行く形になった。
荷物持ちの31号は後方だ。
茂みが揺れた。
「何か来るぞ」
「うがあああああああああああああああ」
咆哮をあげて棍棒を手にしたオークが出てきた。
ジョーが向かってゆく。
オークは棍棒を横に振り払った。
ジョーはそれを剣で受けたが、体ごと横にふっとばされた。
「ジョー!」
ビルが槍でオークを突いた。
オークは嫌そうにビルの槍を棍棒ではらった。
しかし、ビルは槍を引いてかわした。
そして棍棒が通過した後、また槍で突いた。
穂先は2回ともオークの体をとらえていて、オークが出血した。
ジョーが立ち上がった。
「いくぞ」
サラと連携して両脇から斬り込んでいく。
ビルは正面から槍で突こうとした。
その時、後方から悲鳴が起きた。
振り返ると、別のオークが31号をつかんでいた。
「もう一体いたのか」
ビルが苦々しげに言った。
「後ろの奴はオレにまかせろ」
オレは31号をつかんでいるオークに向き合った。
「なんだ、貴様、武器も持たずに俺に勝てるとでも思っているのか」
「ちゃんと話ができるんだな。豚顔の下等生物なんで言葉なんて喋れないかと思っていたぜ」
「舐めるな」
力任せに棍棒を振った。
それを伏せて避けた。
そして立ち上がると、手刀をオークの小手に撃ち込んだ。
オークは棍棒を取り落とした。
さらにオークのみぞおちに肘撃ちを入れた。
オークは31号を放した。
「大丈夫か?」
31号は小走りにルビーの元に走って逃げた。
大丈夫のようだった。
オレはオークに向かった。
「貴様、死ね」
伸びてきたオークの手を払うと、オークの膝にキックを入れた。
「うおおおおお」
オークが呻いた。
オレの頭には日本にいた時にユーチューブで見た新日本プロレスの伝説となっている試合、前田日明対アンドレ・ザ・ジャイアント戦が浮かんだ。
この試合は格闘技マニアの間ではレジェンドとなっている。
身長2メートル以上の巨人族のようなレスラーのアンドレとUWFを立ち上げた前田日明が、プロレスのシナリオではないセメントマッチで闘った一戦だ。
なぜ、不穏なセメントマッチになったかは都市伝説のような謎の一つだが、大事なことは、この試合で、前田日明がローキックでアンドレを追い詰めたということだ。
何をいいたいのかと言えば、でかいヤツの弱点は膝関節だということだ。
関節は鍛えられない。
しかも体がでかいとそれだけ膝にかかる負荷も大きい。
その関節をキックで攻撃するのは、ガチンコのセメントでは有効なのだ。
あまりに危険なので、空手や総合格闘技の試合では膝関節を狙ったキックは反則になっている。
だが、ここは異世界だ。
反則など関係ない。
「ソリャ」
関節を蹴った。
「セイ、セイ、セイ」
前田日明が異世界転生したかのように、オークの膝を蹴りまくった。
オークは足をかばうようにして逃げた。
だが、逃さない。
足を破壊すれば、すべての攻撃に力が入らず、戦闘不能状態になる。
オレは全体重を乗せて、足の裏で踏み抜くようにオークの膝関節を蹴った。
メキッっという嫌な音がした。
オークが絶叫した。
完全に膝をやったようだ。
オークの巨体が地響きを立てて倒れた。
すかさず腕を取り、腕ひし逆十字固めをした。
さすがにオークの腕は人間サイズでは無く苦労したが、なんとか極めた。
シュートだ。
オークは悲鳴を上げてタップするが、これは格闘技の試合でもプロレスでも無い。
殺るか殺られるかの実戦だ。
そのままオークの腕を折った。
オークは泡を吹いた。
立ち上がるとビルたちを見た。
まだ、闘っていた。
オレは、次のオークのもとに駆けて行った。
出血しているオークをまだ倒せないでいるようだった。
オークの棍棒を避けて懐に入った。
斜め下から手を振り上げ、指先で眼球を叩いた。
死角からの目潰しだ。
体格差の著しい相手は急所を攻めるのが有効だ。
目が見えなくてよろめくオークの背後に回った。
肩をつかむと後ろに引いた。
背中から真後ろに肩を引かれると、バランスを崩してあっけなく倒れるのは二足歩行をしている生物なら皆同じだ。
オークは倒れた。
「今だ! 剣と槍で急所を突け」
オレの叫びに、ビルとジョーとサラは我に返ったような顔をして、オークに剣や槍を突き立てた。
彼らは急所をピンポイントで突くことができず、何度も何度も突いていた。
だが、そのうちオークは動かなくなった。
オークが2体とも動けないでいるのを確認すると、ビルはオレのところにきた。
「お前、本当に素手でオークを倒しちまった。すごいな。いったい何者だ」
「そんなことより、まだやることがあるだろう」
「なんだ」
ビルはオークがもう一体隠れているのかと勘違いして、あたりを警戒するように見回した。
「そうじゃない。尋問だよ」
「尋問?」
「なぜ、人間の若い女の子をさらうのか、その理由をききだすことだ」
「そうだっな」
オレは膝と肘を破壊したオークの方に歩いていった。
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