奴隷館
「では、装備を整えて町を出て、はぐれオーク討伐へと向かいましょう。そうそう申し遅れましたが私は槍使いです。魔法が使えた時は、回復魔法系の魔道士でした。ジョーは剣士です。サラは攻撃魔法が専門の魔道士でしたが、今は剣士に転向しました」
「よろしく」
「リュウジさんは武器は何を使いますか」
彼らの持っている剣を見たが、焼きも入っていない華奢なものだった。
通販で売っている模造刀よりもダメなやつだ。
「オレは素手でいい」
あんな刀剣なら無いほうがマシだ。
「でも、相手はオークですよ」
だが、この世界でオレが使える適当な武器を知らなかった。
「とりあえずは、これで闘う」
オレは鍛えた鉄拳を示した。
「分かりました」
「では、まずはポーターを雇いましょう」
「ポーター?」
「荷物持ちです。魔法が使えた時は、テントも食器も装備品はすべて魔法で収納して武器以外は手ぶらで歩けました。しかも、身体強化魔法をかけ、疲労も魔法で癒やしていました。でも、今はその全てが使えないので、毛布やテントや携行する食料をポーターを同行させて運ばせるんです」
「そうでしたか。それでそのポーターというのも冒険者ですか」
「とんでもない。奴隷です」
「奴隷?」
「ええ、奴らは子供の時から魔法を使うことは許されず、肉体労働をしてきたので、体力だけはあります。連中は身体強化魔法も回復魔法もかけてもらったことはありません。なので、ある意味、魔法が失われても、もっとも影響を受けない者です。さあ、奴隷市場に行きましょう」
「はあ」
ギルドの酒場を出ると、バザールのある広場の方に向かった。
「なあ、奴隷って、やっぱり亜人とか獣人なのか」
オレは小声でブラックに訊いてみた。
日本にいた時に『なろう』で読んだ異世界ものでは、こういうシチュエーションで出てくる奴隷というのはたいてい猫耳で尻尾が生えている美少女系のキャラだったからだ。
「何、わけの分からないことを言ってるの。人間に決まっているでしょ。異種族が人間に隷属するなんて、よほどのことが無いとありえないんだから」
(えー、じゃあ、オレとルビーはありえない関係なのか)
そうこうしているうちに、ビルはバザールの奥にある店の前にオレらを連れて行った。
「ここです」
それは表の広場の市場から裏路地に一本入ったところにある陰気な感じのする洋館だった。
オレはその洋館の中に足を踏み入れた。
「ようこそいらっしゃいました」
口ひげをはやし、顎が長くて尖っている男がオレたちを迎えた。
「私がこの店の主のアーバインです。今日はどのようなものをお探しですか」
「ポーターの奴隷をレンタルしたい」
ビルが言った。
「ポーターのレンタルですね。かしこまりました。こちらへどうぞ」
アーバインが2階に案内してくれた。
「男性と、女性どちらを希望されますか」
「もちろん、女性に決まっているさ」
ビルがいまさら何を訊くという風に答えた。
「ビルさん、どうして女性なんですか、男性の方が力持ちなんじゃないんですか」
「持久力や耐久力が違うんだよ。男は重いものを単純に持ち上げるだけなら強いが、一緒に何日も遠征で行動して荷物を運んでもらうには女性の方がもちがいいんだよ」
そういうものなのかと思った。
確かにドーバー海峡を横断する遠泳とかでは男性より女性の方が活躍していたのを思い出した。
オレは奴隷商のアーバインの方を向いた。
「ところで、亜人とか魔物とかは奴隷にしないんですか」
「前は、そうでした。しかし、魔力が枯渇した今、奴らを隷属させる魔法が使えなくなりました。それで、今では奴隷は人間だけです」
「同じ人間がどうして奴隷になるのですか」
「金ですよ。借金を返せなくなった者が、自ら奴隷になったり、自分の子を奴隷として売るからです」
21世紀の現代日本から来たオレにとって、同じ人間を奴隷にすることには抵抗感があった。
だが、アメリカでは19世紀半ばまでは奴隷制度が存続していた。
今からほんの約160年程度前の話だ。
決して大昔の話ではない。
異世界に転移したオレがここでどうこうできる問題ではなかった。
奴隷商はオレらを2階の奥の部屋に招いた。
そこには6人ほどの女奴隷がいた。
「どれにしますか」
ビルは一人一人の口を開けさせて歯と舌を見た。
「何をしているんですか」
「健康状態の確認だよ。歯と舌を見ればだいたい分かる」
ビルは一人の女奴隷の前で止まった。
「よし、こいつだ。こいつをレンタルしたい」
「31号ですね。かしこまりました」
こうして、女奴隷31号がパーティにポーターとしてに加わった。
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