初クエスト
「それで、リュウジさんにご協力を願いたいクエストというのは、はぐれオーク退治です」
「分かりました。詳しく説明して下さい」
「オークが町中に侵入してきて、若い娘を物色して、拐うという事件が多発しているんです。オークは集団ではなく、単体で襲撃を行っているので、私達はそのオークを『はぐれオーク』と呼んでいます」
「どうして、オークが人間の若い女性を拐うのだ」
ブラックが訝しげに訊いた。
(そんなの決まっているだろう。カマトトぶって)
「それが私どもにも分からなのです」
ビルが真面目な顔をして言った。
(みんな、何、とぼけているんですか。目的は一つでしょ)
「あのう……」
「なんですか、リュウジさん」
「ここに来る前に、村の娘をゴブリンが拐ったのを助けました。オレが助ける時、ゴブリンたちは娘を犯そうとしていました。オークも同じ目的ではないでしょうか」
「くそう、ゴブリンめ、そんなことを」
「あっ、でもオレらが助けたので娘は無事でした」
「それはよかった。だが、そういう事件に遭遇したのなら、リュウジさんが疑問に思うのも分かります。でも、リュウジさんも知っての通り、基本的に異種族交配はしないんですよ」
(えっ、そうなの。知らなかった。ネットではそういう企画モノのエロ漫画やエロゲーが氾濫していたが、本物の異世界ではそうではないのか)
「ご承知のように生殖は、種を残すためにします。異種族では原則として子が生まれないので、そもそも性的に惹かれたり、恋愛することも無いんですよ」
「でもゴブリンが……」
「あれは人間の真似をしているだけです。魔法が使えなくなり、これまで雑魚の魔物だったゴブリンの地位が急上昇したことにより、人間に取って変わろうと人間の真似をしているんです。それに彼らが人間を犯すのは、自らの残虐性を満足させるためなんです」
「残虐性?」
「そうです。奴らの残虐性は凄まじいです。しかも、今までは魔法攻撃で雑魚として人間に敗れてきました。彼らは人間が強者として自分たちを大量虐殺してきたという意識が強いんです。だから、その報復のために人間に対する残虐性がマックスになっている状態です」
そう言うとビルはためいきをついた。そして話を続けた。
「彼らが人間を犯すのは、人間が絶望し、泣き叫ぶ姿を見て満足するためなんです。若い娘を狙うのは人間が若い娘を犯すことが好きだからそれを真似ているんですよ。彼らのサディステックな復讐心を満足させることができるなら、対象は中年男性でもいいんです。私の仲間の中年男性は、ゴブリンに捕まり、陵辱されて殺されました」
ビルは苦々しげに顔を歪めた。
「知りませんでした」
「精霊と山ごもりをしていて世間に疎いリュウジさんが知らなくて当然です」
「いえいえ」
「だからこそ、さっきは本当に驚きました。まさか、リュウジさんがホワイトウルフと異種族間交配をされていたとは。もっともご自身が異種族交配愛好者なら、ゴブリンやオークも同じだと思われても当然ですな」
「は?」
話がおかしな方向になってきた。
だが、ビルの話を聞いて、ベルデ村の村人がオレを変態扱いして避けていた理由がよく分かった。
この世界では異種族間交配はありえない行為だったのだ。
「だめよ、ビル、そんな言い方をしたら」
さっきドン引きしていたはずのサラが言った。
「サラさん、ありがとう。ルビーのことは誤解だって分かってくれたのかい」
「もうそんな風に隠さなくてもいいの。私たちは仲間なんだから」
「は?」
「さっき、初めて聞いた時はすごく驚いたけど、もう大丈夫。ルビーさんとリュウジさんは本当に愛し合っているのね。たとえ赤ちゃんが生まれなくても、世間から白い目で見られても、一緒にいたいという純愛なのね」
サラはやさしい声で、全てを受け入れて、理解しているという態度で言った。
「ありがとう、サラさん。あなたは素晴らしいわ」
ルビーが涙声で言った。
「だから、この話はもう止めにしましょ」
サラがそう言うとビルは頷いた。
(いや、やめないで、誰かオレの無実を晴らして)
オレは慌てた。
だが、議題はオークのことに戻った。
「そういうことですので、オークが若い女性を拐うのは強姦目的や結婚目的ではありません。現に拐われたけれども命からがら逃げて戻って来た娘は犯されていませんでした」
「でも人間の若い娘以外は見向きもしないのね」
「はい」
「すると、目的は何?」
「そうなんです。謎です。だからそれを調べることもクエストの一つです」
なんだか難しいクエストになりそうだった。
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