デスゲームは昼飯前に。
【あらすじ】
青年は、殺風景な個室で目を覚ます。どうやらこれから、デスゲームなるものが始まるようだ。
でもちょっと待って!? 何だかこのデスゲーム、ちょっと変!!
一体全体、これからどうなってしまうの!?
ハイテンションデスゲームコメディをお楽しみください。
【キャラクター】
・ナオ:ツッコミに生きる青年。
・メグ:謎多き女性。GMと兼ね役。
・GM:ゲームマスター。おちゃらけた性格。メグと兼ね役。
・サダナシ:正体不明の男。またの名を、逆転パンツマン。
・シューコ:寡黙な少女。ひたすらしりとりしてる。
【配役表】
・ナオ(♂):
・メグ/GM(♀):
・サダナシ(♂):
・シューコ(♀):
【台本について】
・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ Twitter: @samoedosan
・台本上映の際は、営利、非営利を問わず作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。
・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。
・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。
【本編】
ナオ:ん……、うう……。俺、寝てた……? なんか顔めっちゃゴワゴワする。って、なんじゃこりゃぁっ!?
顔面に被せられた布ぶくろを取る
ナオ:麻布の袋……? なんでこんなもん被せられて……。っていうか。どこだここ。真っ白な部屋に、モニターかな、テレビみたいなのが一つ。あとは、男の人? が1人と女の人? が2人。皆、顔に布ぶくろ被せられてる。既視感覚えるんだけど、このシチュエーション。
サダナシ:ん、うぅん……。
メグ:んん……、うわ、これ近っ! なにこれ!?
シューコ:…………覚醒。
ナオ:あ、みんな起きた。
メグ:あぁもう邪魔。……って、何処ここ。真っ白な部屋に、モニターかな、テレビみたいなのが一つ。あとは、男の人が2人と女の子が1人。皆、顔に布ぶくろ被せられてた。既視感覚えるんだけど。このシチュエーション。
ナオ:いやそれさっき俺が言ったのよ! 気持ちはわかるけども!
シューコ:意思疎通。
サダナシ:あのー、すまない。どうやら手を拘束されているみたいだ。外すのを手伝ってくれないか。
メグ:しょうがないな。
シューコ:迂闊。
サダナシ:ありがとう。…………ふぅ。いやぁ、突然眠らされたかと思ったら、急にこんな所に連れ込まれて。全く、驚きが隠せないでいるよ。かぐわしいパンツでも嗅いで落ち着くか。スーハースーハー。
ナオ:いやいや。……いやいやいやいや! こっちが驚きを隠せないわ!
シューコ:追求。
メグ:何故君は、その……。頭に女性用下着を被っているんだい……?
サダナシ:……知りたいかい?
メグ:ええ、切実に。
サダナシ:それはね……。
ナオ:それは……?
GM:やぁやぁやぁ! ハローハロー! 皆様方、やっと起きてくれたかな?
ナオ:いやタイミング! いつ来るかなとは思ったけども! タイミング!!
GM:「何故、自分達がここに」? 今、皆様方はそう思っていることだろう。知らない場所で目覚め、周りは見知らぬ男女! さながら映画のような展開だ。ふむふむ、わかる。わかるよその気持ち。…………だが。心当たりのあることが1つや2つ、あるのではないかな? 例えばそう。後ろめたい事、とかね……!
シューコ:後ろめたい事……。
GM:誰とは言わないけどね? 元来寡黙な性格が故に学校で孤立。気がつけばいじめの対象になった挙句、駅のホームで身を投げた。しかし幸か不幸か一命を取り留めてしまう。……死に損なった、とも言えるかもしれない。何故なら、鉄道会社が被った損害を賠償しなければならなくなったのだから。
シューコ:…………。
サダナシ:この女の子、そんなことになっちゃっているのか。可哀想に。
GM:こんな人もいるなぁ? 27で出来た初めての彼氏。彼女にとっての初めての春。しかし! 幾度も逢瀬を重ね、愛を確かめ合ったにも関わらず! その男には愛する妻と3人の子供がいたっ! だが、彼女は年齢からくる焦りから、彼との不貞を続けてしまった。その結果は言う間でもないね? 彼女はそうして多額の慰謝料を背負った。
シューコ:盗難女。
ナオ:泥棒猫って言おうぜ。
GM:いやはや。罪とは。罰とは。かくも理不尽な事か。そうは思わないかい?
ナオ:……いやいや。おっもぉ……。
GM:勘のいい人ならこの時点でもう気づいているかもしれない! 集められた4人には、明確な共通点が存在する!! その身に浴びた罪の代償ーー。多額の借金を背負っていると言うことだっ!! あはははっ! 悲しい!! 悲しいねぇ!!
ナオ:いや……、あのぉーー。
ナオ:……俺、そんな借金した事ないんすけど……。
メグ:……借金、ないの……?
ナオ:ない。
メグ:一円も?
ナオ:一円も。
GM:……さぁ! そんな君たちに行ってもらうのは、殺し合いだ!! 1人死亡する度に1億!! 最後に生き残った者は総額3億円を手に入れることができると言うわけだ!
ナオ:いやいやいや待て待て待て勢いで誤魔化そうとすんなっ! もしかして俺間違えて連れてこられたんだろっ!! そうなんだろっ!!
サダナシ:そんなっ! 殺し合いだなんて!!
ナオ:無視すんなっ!!
シューコ:情け容赦なく殺して……?
ナオ:あんたはそうなっちゃうんだよな!! デスゲームとして成立しねぇのよこの子は!
メグ:3億……! それだけあれば、全てを清算して、あの人といられる……?
ナオ:愛が重い!
メグ:普段は何も言ってくれないのに、ベッドの上でだけ、愛していると言ってくれる、あの人。
ナオ:いやもうクズなのよ! “あの人”ダメな人なのよ!!
メグ:バンドマンの、あの人。
ナオ:やめとけっ!! 曲にされるぞ!!
シューコ:天国に、これで行ける?
ナオ:いけん!! 現世で幸せになって!? ってか誰が連れてってくれるのよ!?
シューコ:ルンバ。
ナオ:ルンバっ!? 重量オーバーだろ流石に! 生きて帰って美味しい物でも食べて!?
シューコ:馬肉。
ナオ:チョイス!
シューコ:車海老。……び、び。ビフテキ。キムチ。
ナオ:ははーんさてはお前ずっとしりとりしてだろ!? そうなんだろ!
シューコ:違う。
ナオ:嘘つくな。
シューコ:嘘じゃない。
ナオ:好きな動物は?
シューコ:イルカ。カメ。メダカ。
ナオ:やっぱ1人しりとりしてんじゃねーかっ!
サダナシ:逆転パンツマァァァンっ!!!!
ナオ:急にどうしたっ!?
サダナシ:おぉぉかげさまで逆転パンツが今、すごいことになってるんです!! ムムッ!! 今なんと! ……あっ増えた。8秒に1人! 吸っているんですっ!! さらに逆転パンツは心臓がDOKIDOKI跳ねるぅ! クゥゥゥ〜〜ッッ!! 絶好調〜〜〜〜ッッッ! ビシュイィィィン(謎の効果音)!! 逆転パンツマァァァン!!!! 年会費! 無料! 今なら、ぐぉせんプァンツ!! プレゼントッッ!!!!
GM:……さて。それではまず最初の殺し合いだがーー。
ナオ:いや無理無理! 無理よこの流れじゃ!
GM:まずは定番、ド定番といこう。その名も、ロシアンルーレット!
サダナシ:ロシアンルーレット……!?
ナオ:聞いて?
GM:これから現れる銃は、毎度おなじみリボルバー式の物だ。装弾数は6発。その中に弾が1発だけ入っている。だが、普通にしては面白くない。そこで、ひとつルールを追加する。引き金を引いた人が、次に引き金を引くものを選ぶ、と言うものだ。
シューコ:神に運命を選ばせない……?
ナオ:さっきメダカって言ってたからね。「か」から始まったね。
サダナシ:ひとつ、いいだろうか!
メグ:……?
サダナシ:私からも、提案させてもらいたい。
サダナシ:今からでも……。スーハー(深呼吸)。ここをセッ○○しないと出られない部屋に変えてもらえないだろうか?
ナオ:言い訳ねぇだろ!! ふざけんなバーカバーカっ!!
シューコ:嫌、絶対。
GM:(無視)まずは最初の挑戦者だが。それは流石に公平にしよう。この6面ダイスを振って、1が出たら少年。2が出たら少女。3が出たら女性。それ以外の目が出たら逆転パンツマンが引き金を引く。
ナオ:逆転パンツマン!!
サダナシ:よかろう。
ナオ:いいの!?
サダナシ:しかし、この銃は相当年季が入っているようだ。正しく作動するのかね? 最初の一発だ、流石に空発だろう。動作チェックをさせてもらってもいいかな?
ナオ:やめとけ逆転パンツマン。
サダナシ:引き金よいしょっと。
シューコ:ばぁーん♡(効果音)
ナオ:おおお、お前何してくれちゃってんのッ!?
サダナシ:おお。まさか最初の1発目がハズレだったとは。こりゃラッキーだったな。
ナオ:ラッキーだけれども! デスゲームとしては無茶苦茶なのよ!
シューコ:いちゃもん希望。うじむし。しね。
ナオ:女の子バチくそキレてんじゃんっ! どうすんのこれ!
GM:ででででは、つつつ次のゲームに移るとしよう。
ナオ:GMも動揺しまくってるし! とりあえず詫び入れとけ詫び!
サダナシ:すみま千手観音。
ナオ:しね!!!!
GM:次のゲームは、先ほどよりもさらに残酷で、スリリングなものを用意しているよ。
ナオ:別に残酷でもスリリングでもなかったけどな。
GM:ゲームを始める前に、まずは準備といこう。皆様方、今から出てくる椅子に座ってくれたまえ。椅子にはそれぞれ番号が降ってあるが、今は気にしなくて大丈夫だ。
サダナシ:おぉ。また下からせり上がってきたな。なかなか頑丈そうだ。
ナオ:うわー。なんか絶対ありそうなやつじゃん。普通に座るの嫌なんだけど、俺。
サダナシ:仕方ないよ、少年。借金のためだ。
ナオ:いやだから借金背負ってねーのよ俺。
メグ:つべこべ言ってても仕方ない。座ろう。……あ、意外と座り心地いいね、これ。
シューコ:……寝床?
ナオ:んなわけねぇだろ無理矢理なんよしりとり縛りは。
シューコ:(無視)こっぶた♪ たーぬき♪ きっつねっ♪ ねーこ♪
ナオ:もう隠す気無くなったなおい!
GM:さて。皆様方席に着いたかな? それでは、ゲームを始めよう!
サダナシ:ぬおっ!?
ナオ:ちょっ! いきなり手と足がべルトで縛られたぞ! あとなんか変なヘルメットも!
シューコ:……拘束。
GM:次のゲームは、やりながら説明しよう。まずは、皆様方の右手にあるテンキーで1から100までの好きな数を入力してほしい。……終わったかな? 少年が55、女性が77、女の子が9。そして、パンツマンが69。
ナオ:ひでぇな。何がとは言わんけども。
GM:そして。僭越ながら、6面ダイスを振らせてもらおう。このダイスには、大か小としか書かれていない。出た目と、入力した数値によって、このゲームの親が決まる、と言うわけさ。はい。コロコロー。
サダナシ:出た目は、“大”。そうなると、この麗しき女性が親というわけか。
メグ:あ、拘束が解かれた。……何をさせる気?
シューコ:口笛。
ナオ:ちょっと黙っててもらっていい?
GM:皆様方の椅子の横に、青と赤と黄色、三種類のカードがあるだろう? それぞれを内容を見ないように一枚づつ引きたまえ。青のカードは3枚。自分以外の椅子の番号が書いてある。黄色のカードは10枚。これには使う道具が。そして赤の32枚のカードには、体の部位が書いてある。ーーもう、お気づきの皆様方も多いだろう! これは、権力を手に入れた者が、拷問する相手と箇所を選べるゲーム! 名を与えるとするならば、そうーーーー!! 殺戮!! おうしゃまゲェェェッム!!!!
ナオ:こいつ大事な所で噛みやがった!
メグ:まずは、青のカード……。(カードをめくる)3番。
サダナシ:む。私か。だが、まぁ最初だからな。そこまで深刻なものは来ないだろう! はっはっはっはっ!!
ナオ:あんた最初のアレでよくそんなこと言えるな!
メグ:(カードをめくる)黄色のカードは、ナイフ。
サダナシ:なななナイフかぁ……! ぶ、部位は32枚!! どどどどんなのがあるんだねGMくんっ!!
GM:1番軽い物なら髪の毛だねぇ。生死に関係ナッシング。大当たり枠さ。あとは、指とか足とかお腹とか? 一撃必殺の大外れは32枚中2枚だけ! 何になるか、祈っておいて……!
サダナシ:髪の毛だ! 髪の毛を引くんだ麗しき女性よ!! あ。でも小指ぐらいなら痛気持ちいいかもしれない! やっぱり小指だ麗しき女性!
メグ:赤は……。(カードをめくる)………………心臓。
サダナシ:オワタ。
ナオ:最初っからクライマックスじゃねーか! やばいじゃんどうすんの!?
GM:さぁ! それでは拷問タイムスタート!! ……あ。ちなみに、パスはできないので悪しからず。3分以内に拷問が完了しないようなら、拷問者のヘルメットに高圧電流が流れる仕組みになってるので。
サダナシ:オッフ詰んだ。
シューコ:延命不可能。
メグ:そんな。
メグ;……無理。……無理だ! 私に人は殺せない!
サダナシ:でも、そうすると君が……。
メグ:無理なんだ! 確かに私は、できることならお金が欲しい! ……でも、わかってるんだ。いくらお金があったって、あの人の心は私に向くことはないって。
サダナシ:……。
メグ:一度だけ、相手の女性の顔を見たことがある。ひどい顔だった。ショックで何日も眠れていなかったのだろう、顔も浮腫んで、クマもくっきりと浮かんでいた。…………それでも。それでもやはり、心の奥に泥のようにこびり付いた罪悪感は、拭うことができなかった。相手の大切なものを奪ってしまった私が、……もし。改めることができたのならその時は。せめて誰かの幸せだけは、奪いたくないんだよ……。
サダナシ:……そうか。
メグ:だから、私は、貴方を殺さない。
サダナシ:……少しだけ、私の話をさせて欲しい。……GM! 3分を超えてしまうが、多めに見てもらえないだろうか?
GM:許可しよう。
サダナシ:ありがとう。子どもの頃、私の家は貧しくてね。2ヶ月に1回、ファミレスで食事することが精一杯の贅沢だった。私に許された娯楽は650円のお子様ランチだけ。おもちゃやゲーム、遊園地や水族館、ましてや旅行なんて、叶うもはずもない理想の贅沢だった。毎日のご飯だって節約続きだ。調味料だってそう。おかげで、うす……、うす……。
シューコ:薄味?
サダナシ:そう。ほとんど味のしない毎日だったよ。それでもまだマシだったのかもしれない。さらに苦しくなったのは、父か突然死んでしまってからだ。トラックに轢かれて、即死だったそうだ。
シューコ:事故死?
サダナシ:そう。ただでさえ苦しい家計が、余計に回らなくなった。神の恨みでも勝ったのかと思ったよ。容赦のないさまとは、まさにこのことだ。
シューコ:シビア?
サダナシ:そう。
ナオ:おまえら実は仲良いだろ? そうなんだろ?
GM:そうして、彼は幼少期に満たされなかった金銭欲と自己愛を求めるようになった。そんな彼に、転機が訪れる。
ナオ:転機?
GM:そう。それはーーーー。
サダナシ:逆転パンツマァァァンっ!!!!
ナオ:おいっ!!!!
サダナシ:おぉぉかげさまで逆転パンツが今、すごいことになってるんです!!
ナオ:待て。
サダナシ:ムムッ!! 今なんと! ……あっ増えた。8秒に1人! 吸っているんですっ!!
ナオ:待てって。
サダナシ:さらに逆転パンツは心臓がDOKIDOKI跳ねるぅ! クゥゥゥ〜〜ッッ!! 絶好調〜〜〜〜ッッッ! ビシュイィィィン(謎の効果音)!! 逆転パンツマァァァン!!!! 年会費! 無料! 今なら、ぐぉせんプァンツ!! プレゼントッッ!!!!
ナオ:ちょいちょいちょいちょい。スキップできないやつすんのやめて? ユ○チュ○ブじゃねーのよ。
GM:ユ○チュ○ブではないがね。某ニッコニコな動画サイトでたまたま投稿した歌が注目されることになる。それから、少しづつ彼は人気を集め始めた。
シューコ:アンチコメしとこ。
ナオ:仲悪い?
サダナシ:そこから私の人生は、まるで生まれ変わるかのように変わった。ただただ歌を投稿するだけで、身の回りの備品を貰えたり、ファンを食べちゃえたり、生活費を負担してもらえたり、ファンを食べちゃえたりできるようになった。
ナオ:クズ畜生のそれ!! ひっでぇ話なんよいい話空気だしといて!? ファンのくだり2回も言うしさぁ!!
サダナシ:騙されたと思って最後まで聞いてくれ少年。荒んだ生活をしていた私だったが、1人の女性と出会って変わることができた。それが、アケミだった。彼女は私の荒んだ心を癒してくれた。彼女のおかげで私は、初めて愛を知ることができたんだ。今でも覚えている。東京タワーの屋上で、プロポーズをしたあの日のことを。そうして私は、所帯を持つことができた。
シューコ:婚姻おめ。
サダナシ:ありがとう。それからは幸せだった。初めて手に入れることができた、真っ当な生活。不自由のない生活は、とても甘美で、夢想的だ。欲しいものは大概は手に入れることができた。……嫁と、ファンの金で。
ナオ:……ん?
GM:そうして彼は我欲に溺れた生活を続けることになる。が、次第にその生活にも飽きてしまう。そんな彼は、インターネットで1人の女性と出会う。与えられる幸せしか知らぬ彼は、ついに与えることで満たされる欲求があることを知った。そうして、妻が身重になったタイミングで、所帯を持ちながらも、別の女性と肉体的な付き合いをする生活が始まった。
サダナシ:新たな扉を開けてくれて、ありがとう……! スーハースーハー。
ナオ:ひっでぇ話だなっ!? 何が騙されたと思って最後まで聞いてくれだ! ふざけんなッ!!
シューコ:目に余る蛮行……!
GM:あとは想像通りの展開だ。浮気がばれ、多額の慰謝料と養育費を支払う羽目になってしまったというわけさ。
サダナシ:アケミィィィィィッッ!!
ナオ:途中から最後まで全部自業自得じゃねぇか! 何の感慨も湧かんのよ!!
シューコ:打首獄門に処す……!
サダナシ:私が悪かった、アケミィ! だから離婚を取り消してくれぇッ!!
ナオ:未練タラタラだな! だから元嫁のパンツ被ってんのか!
サダナシ:いや、これは浮気相手のパンツだ。
ナオ:ゴミ畜生めっ!
メグ:ちょっと待ってッ!
シューコ:……?
メグ:……もしかして。もしかしてとは思っていたけど……! その、薔薇の刺繍が施されたラズベリー色の下着……!
サダナシ:やっぱり、わかっていたか。
ナオ:……えっ、ちょっと待って。まさか……!
サダナシ:そう。君の勝負下着だよ、メグ。
メグ:やっぱりあなた……。サダナシ……ッ!
シューコ:素晴らしき、邂逅。
ナオ:素晴らしくないわっ! っていうかメグさん、何でこんな人好きになっちゃったんですか。
メグ:顔が良かったから。
ナオ:面食いかっ!
サダナシ:君には、本当にすまないと思っている。メグ……。スーハースーハー。
ナオ:嗅ぐのは辞めろ。
シューコ:うわ、ドン引き……。
GM:さぁさぁ! お膳立てはこれで十分かな? それでは、拷問の時間といこう!
ナオ:そうだった! そういえばデスゲーム中なんだった!! ……でも、メグさん殺さないって言っちゃったし……。一体どうすーーーー。
メグ:死に晒せぇっ!!!!
ナオ:ストレートに行ったァァァァッ!!
シューコ:(効果音)バッキーン♪(エコー)
ナオ:……なっ!!
メグ:ナイフが、折れた……ッ!!
サダナシ:スーハースーハー。私の肉体は、金属をも上回る……!
ナオ:無茶苦茶かっ!!
GM:ーーーーそれでは、拷問対象を拷問出来なかったので、ヘルメットに電流を流すとしましょうか……。
メグ:何で!? 私はちゃんと刺したぞ! 強度が足りなかった、そちら側のミスではないか!
GM:いかなる弁明も受け付けません。この理不尽こそ、デスゲームの醍醐味でしょう……?
メグ:そんな……っ! こんなクズ男のせいで、死ぬなんでごめんだ! まだ私は、誰もが得られる幸せすら得られていないというのに……!
GM:それでは、刑を執行します。さようならーーーー。
ナオ:ちょっと待ったァァァァーーーーッ!!!!
メグ:……っ!?
ナオ:前からずうぅぅぅッと思ってたんだけれども! GMとメグさん!! 声一緒なんだよなぁっ!?
メグ:べっ……っ! べべべべ!! 別にそんなことないんだからね!
ナオ:そんなことあるんだからね! 瓜二つじゃん!
GM:(テンション高く)さぁ、これで1人、死んでしまいました……! 生き残った皆様方は、賞金を獲得します!
ナオ:……これ、録音じゃね?
メグ:いや……、そんな……!
サダナシ:あっ、私のセリフが。
GM:はははっ、ウケる。
ナオ:なにがっ!? やっぱ録音じゃん!
シューコ:キリン。
ナオ:そして唐突にしりとりが終わったっ! いやまぁ今後普通に喋ってもらえるから嬉しいんですけれども!
シューコ:ンジャメナ。
ナオ:はーっ!! 続けんのっ! あーそう!!
メグ:あーあ。バレてしまったな。さて、どうしようか。
ナオ:GM本人がゲームに参加する展開は往々にしてあるけれども! 雑なのよバレ方が!
シューコ:何もなかったことにする。
ナオ:いやもう無理なのよ。
GM:はははっ、ウケる。
ナオ:だから何が!?
メグ:ふむ。興が覚めてしまったな。予定より少し早いが、お暇させてもらうとしよう。
シューコ:ルーム、退出。
ナオ:いや、えっ!? 全然状況が掴めないんですけど! あぁっ、床が一ヶ所開いて……!
メグ:それでは少年、また会う日まで。さらばだ!
ナオ:さらばって何!? また会う日までって何!? 意味不明すぎなんですけど!?
サダナシ:少年。シーユーネクストタイム! バイバイ。
ナオ:ユ○チュ○バ○か! っていうかサダナシさんまで!?
シューコ:ツッコミくん、ありがとね。バイバイ。
ナオ:何の感謝!? あっ、床が閉まったっ! えっ、もう開かないじゃんこれ!!
ナオ:えっ。…………これ、俺どうやって帰るの……?
ナオ:誰かッ! 誰か助けてくださいッ!! 誰かァァァッ!!
ナオ:助けてー! 逆転パンツマァァァンっ!!!!
シューコ:パターン16。検証終了。皆さん、お疲れ様でした。
メグ:はー! 疲れたー! 毎回思うんですけど、VR用のヘッドギアって結構重いんですよね!
サダナシ:お疲れ様です。飲み物入れてきますね。何がいいですか?
シューコ:ココア。
メグ:ミルクティーおねがーい。砂糖増し増しで。
サダナシ:はいはい。
メグ:今回検証した感じ、結構良くなかったですか? VR専用自動ツッコミAI、ナオ君。
シューコ:そう。確かに、ツッコミのバリエーションも増えてきた。会話としても違和感なく続くようにはなってきたように思う。検証データはどう?
メグ:はいはーい。……んー。それぞれの脳波データの推移を見る限り、シューコ博士の想定通りの結果が出せているのではと思います。幸福感を得られた時に分泌されるドーパミンも、検証前や検証序盤と比較しても有意に上がっていますし。この様子だと、お披露目まで間近って感じじゃないですか!?
シューコ:焦りすぎ。まだこのAIは発展途上。通常会話だと発言が極端に少なくなっているし。もっとツッコミのバリエーションも増やしていかないといけない。キャラクターも、もっとキャッチーにした方がいいと思う。
メグ:えー。そうかなぁ?
シューコ:私が目指しているのは、一緒にいて幸福感を得られる友人のようなAI。人を笑顔にさせる人口知能達なの。そのためには、“お笑い”の検証データを蓄積させ続ける必要がある。
サダナシ:ははは。博士はストイックですねぇ。次はもっと日常会話を織り交ぜられるようなシチュエーションを考えておきます。なので、今は暫し、休憩されては? ……どうぞ。
シューコ:ありがとう。
メグ:さんきゅー。
サダナシ:VR専用自動ボケAIファーニちゃんの開発も並行して行っていますし、こんを詰めすぎるのは得策ではないかと。
シューコ:むー。
メグ:ああん。ふくれっ面の博士もまた、ス・テ・キ!
サダナシ:とにかく。休憩の意味も含めて、一度お昼にしましょう。何か買ってきますよ。メグさんも、ついて来て下さい。
メグ:えー! 私もぉー!? 適当になんか買ってきてよー!
サダナシ:何言ってるんですか。メグさんが1番好き嫌い激しいんですから。自分が食べる分は自分で選んでください。
メグ:ちぇー。じゃぁ博士、私行ってきますから! すぐに戻ってきますからね! 寂しかったらすぐメッセージ飛ばしてくださいね!!
サダナシ:わかりましたから。ほら。とっとと行きますよ。
メグ:あぁーん! 待っててくださいねー! はかせぇぇぇーっ!!
研究室の扉が閉まる。
シューコ:………………。
シューコ:人を笑顔にさせる人工知能達、か……。
デスクの上に伏せられている写真立てを手に取る。
シューコ:本当は、そんな愁傷な心掛けじゃないんだけどね。
シューコ:…………。
写真には、1人の青年。お笑いショーで獲得したトロフィを、嬉しそうに掲げていた。
シューコ:……早く。早く会いたいよ…………。
シューコ:おにいちゃん…………。
ーーーーーー終ーーーーーー