第14話 日常~試験
今日は、報せが来る日だ。だから、家族一同待っている。僕も居間で一緒にいる。
そうしないと、両親が不安になるからだ。もう少しメンタルを、強くした方がいいかな。
父は、自主休業だ。こういう時、自営業は、融通が利く。
「お茶は、どうかしら。龍善。お父さん。」
「大丈夫だよ。お母さん。」
「……もらおうか。」
こうして、3回目となる、淹れ直されたお茶を、受け取る父だった。
冷めかかったお茶を下げる母。当事者より緊張するのは、保護者の常なのだろうか……
時間だけが過ぎて行く。そんな重苦しい沈黙を破ったのは、ドアチャイムの音だった。
「あなた……誰か、誰かきました。」
まず、落ち着いて下さい。母に、そう言うべきなのだろうか。
「母さん、落ち着きなさい。私が、行って来る。」
足腰に小刻みな震えが、見られる父だった。そして、インターフォンのスイッチを入れる。
「どちら様でしょう。」
「郵便でーす。書留ですので、判子かご署名をお願いします。」
ドアを開け、応対する父。しばらく、郵便配達員の制服を着た来訪者とやり取りする。
「龍善。手紙だ。」
来訪者が立ち去り、ドアとカギを閉めた父から受け取った物は、書留速達だった。
ハサミで、封を開け、中身を取り出す。そして、書かれた『結果』を両親へ見せる。
「合格か! やったぞ! 龍善! よくやったな!」
「本当……よかったわ……龍善、よくがんばったわね……」
「大袈裟ですよ。これは、小学校に一度も通う事無く、中学に進学する許可を、貰えただけです。それより、お父さんが、人脈を駆使して今回の『特別入学試験』に、漕ぎ着けたお陰です。」
両親に深々と礼をする。
「お父さん、お母さん、本当にありがとうございました。」
「確かに、私の同期や後輩には、文科省などの国家公務員が多数いる。役人や校長に、頭を下げて回った。でもな、我が子の為なら、何の苦も無い。それが『親』だ。龍善。」
「そうよ、今回の試験に合格する為に、毎日猛勉強したでしょ。龍善の成果よ。」
「ありがとう、お父さん、お母さん。」
「そうそう、お祝いしないと、龍善のリクエスト通り、すき焼きの材料買ってあるのよ。」
こうして、いつもの、暖かい一家団らんが、始まる。
* * *
次回予告
第15話 幕間2
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