第10話 『お父さん』……『お母さん』……
それからが、大変だった。何度も検査され、『科学的』に『医学的』に『検証』された。
だが、朗報もあった。僕の『能力』、『完全言語』と『完全記憶』は、機能している事だ。
更に、僕が、13年分の記憶を持ち合わせていない事が、病気……『記憶喪失』とされた。
本当に、助かる。だが、毎日やって来ては、不安そうな貌や、時には涙さえ見せる大人達。
彼らを、『お父さん』『お母さん』と、呼べるのか。練習しておくべきだろう。
* * *
徐々に鳴らしていき、『透明な天幕』……『無菌室』から、一般病室に移るその日だった。
あれには、驚かされた。
「まったく、驚きだ。龍善君。私も、長年医師をやって来たが、君程完璧に治った例は、存在しないよ。安易だが、『奇跡』としか言いようがない。本当に凄いな。龍善君。」
「『奇跡』……ですか。」
妙だ。『奇跡』とは、『神』や『特に神の寵愛に恵まれた者』にのみ可能な『業』だ。
どれ程高度でも『魔法』は、『技術』に過ぎない。ここまで言う事もないだろう。
が、1つ分かった事がある。この人達は、『魔法』を知らないのだ。或いは、『この世界』には、『魔法』が存在しないのかもしれない。これは、より『慎重』に行動しないとな……
そうこうしている内に、看護師の手で、『車椅子』に乗せられ、一般病室へと運ばれる。
「龍善ぃっ!」
ここで、ようやく医師から許可され、『両院』が、近づく。抱きしめる事は、医師から止められているので、手をとる。母親は、滂沱。父親は、優しく僕の手に手を乗せる。
「『お父さん』……『お母さん』……ありがとう……。」
「龍善……。」
涙ぐむ両親にはどいてもらい、看護師が車椅子を押して、一般病室へと運んでくれた。
こうして、一見着実に、回復傾向を見せている。が、僕を苦しめる拷問の如き問題もある。
それは、『リハビリ』だ。
ドナーが見つからなかった為、6年もの間、ベッドの上で過ごして来た弊害で、僕の肉体は、すっかり虚弱化してしまった。
確かに、延命処置だけしてベッドの上で数年放置したなどと言う事例は、聞いた事が無い。
故に、初めての『リハビリ』が、これ程苦しいとは知らなかった。
何とかして、効率化の『魔法』を開発しなければな……
* * *
次回予告
第11話 幕間1
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