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 第 三 話

 やはりこの真相を知るためには三佳村さんに聞くしかありません。これまでに話を聞いてきた人も曖昧なことを言うばかりで、どこか「実験中に消えた生徒」という存在を面白がっているように感じました。

 少なくとも三佳村さんにそんな気持ちはありません。彼の話を聞いたあの日、僕は彼女から確かに慈しみの気持ちを感じたのです。

 放課後の、例の実験室。切り出したのは斗森でした。

「あの、三佳村さん」

「何?」

「あの、この間の坂下さんの話ですけど」

 彼女はクスリと微笑みました。

「聞き回っているんだってね、彼のこと」

 ぎょっとしました。ばれていた。でもそれは大学構内のあらゆる人に聞き込みをしていたので仕方なかったのかもしれません。

「それで気を使って私自身に今まで聞けなかった」

「す、すいません」

「だから、なんで謝るのよ」

 僕らはとても申し訳ない気持ちになったのです。入ってはいけないエリアに踏み込んでしまった、そんな気がしました。

「二人とも、ついてきて」

 三佳村さんは突然立ち上がり言いました。

「あの、どこへ」

「言ったでしょ、また今度話すって」

 僕と斗森が連れられたのは、校舎を出て裏手に回った場所にある古びた倉庫でした。だいぶん歴史を感じさせる佇まいです。

「入ろうか」

 三佳村さんは懐から鍵を取り出し、ドアノブに挿し、ひねりました。この時代では網膜認証のロックやカードキーが一般的に使われているので、「鍵」という物自体の物珍しさに驚かされました。

 ですが、倉庫の中に入った時の衝撃はその比ではありません。

 倉庫内にはポツンと一台の鉄の箱が置かれていました。表面には開くための取手と、なにやら数字を入力するためのダイヤルがついています。

「これなんだと思う?」

 斗森はその形状に見覚えがあったようで、自信を持って答えました。

「冷蔵庫でしょう、これ。一人暮らし用の。また古風な代物ですね」

「そう思うよねえ」

 斗森の言葉を聞き流しながら、三佳村さんはそのダイヤルをキリリと回し始めました。チンっと音が鳴って箱が口を開きました。その中はビビットカラーの光が渦を巻いています。

「入って。話はそこから」

 三佳村さんは強引に斗森の手を引き、その光に吸い込まれて行きました。

「ちょ、ちょっと!」

 戸惑いましたが、後を追うようにはこの中へ入って行きました。その中は本当に気持ちの悪い空間で、自分の周りがサイケデリックな色合いで埋め尽くされており、どこが上でどこが下なのかも分からない浮遊感がありました。

 しばらくその空間にいさせられた後、僕は投げ出されるようにその箱から飛び出しました。二人がそばに立っています。

「正解はタイムマシンでした〜」

 僕たちが降り立ったのは山奥にある学校のグラウンドのど真ん中でした。周りを見渡すと、あまり栄えているとは言えませんが町が一望できます。綺麗に整列された電柱が特徴的でした。

「急展開すぎてついて行けそうにありませんよ」

「ゴールはすぐそこだから、もう少しがんばってね」

 三佳村さんはぐいぐい進んで校舎の中に入っていきます。廃れ具合からしてもう使われていない学校のようです。

「どう思う?」

「わからない。でもおそらく、とんでもないことに足を突っ込もうとしているのかもしれない」

 斗森は冷静に言って見せました。校舎内にはサークルの研究室とは比べものにならないくらいの量の実験器具が立ち並んでいました。乱立しているメスシリンダーや試験管立てが目をひいて、まるで学校全体が科学室になってしまったようです。

 連れられたのは宿直室でした。三佳村さんが硬い引き戸を開けると、中からとんでもない大きさの丸底フラスコが僕らを出迎えました。中はなんだかよくわからない液体で満たされています。

「ここがゴール。ここに全てが詰まってるわ」

 三佳村さんは言いました。

「やっと人に話して楽になれる」

 この話を聞いたときから、もしかしたら悲劇は始まっていたのかもしれません。

「坂下裕人は頭のいい学生で、とても美人な恋人がいました。それが私」

「まあ、そうでしょうね」

「あら気付いてた?でもその時はミカムラなんて名前じゃなかったのよ。きっと」

 また人のナイーブなところを突いてしまった、と僕は思いましたが、でも彼女の話はそんなチャチなものではなかったのです。

「私は坂下裕人によって人工的に作られた人間なの」

 彼女はそこにあった一冊の手記を手に取り、語り始めました……。

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