第12話「名の無き種族」
「彼の名前はね、無いんだよ」
「…、え…?」
寮の名前が無い…そんな事って
「彼は名の無い種族。その姿は、大きい猫だと証言者は言っている」
「…」
「スピードは風のごとく、能力は崩壊並」
「世界を、潰せる力…ってことだよね」
「そう。その名の無い種族に語った一人の若者」
「…」
「その人はこう言った」
『人間になりたいか、名の無い種族達よ。ならば争え、戦え。生き残った一人が、人間となれる』
「名の無き種族は人間になりたいといつも願っていた。…皆から化け物扱いされるから。怖がられるから」
「それで、その男の人の言う事に耳を傾けたのね」
「うん。生き残った最後の一匹、それが人間となれた。その男は、彼に名前をつけたよ、人間界で生きる名を。…それが」
「春伊、寮…」
「そう言うこと。怖かっただろうにね、種族同士の争い。子猫のような、赤ちゃんですら巻き込まれて死んでいった」
「…もしかしたら」
――寮が猫嫌いだったのも、トラウマがそれだったから…といえば合う
「名の無き種族…。大人しい種族だったからね、いきなり争えって言われて…きっと大混乱だったと思うよ」
「…、大人しい種族…か。そうよね、怖かった…よね」
私は思い出した。あの時の力強い寮の言葉
「…俺等だって…普通の人間として。一人の人として生き続けてるんだ。それを軽々殺すなんて…俺等だって死はこえぇんだよ!」
その言葉を思い出すと、今一度胸が苦しくなる
「種族を滅亡させた一匹の猫は…人間にしてもらい、春伊寮という名で旅立っていった。彼が生まれて、まだ5ヶ月ちょいって所かな」
「…」
「5ヶ月の間で彼は必死に、人間になろうと勉強し続けた。少しでも人間に近づきたいってね」
蘇生の言葉は胸の奥にズキズキと突き刺さる
私は今、寮にどうしてあげるべきなのだろうか
「…そして。…今の彼がある。たった5ヶ月の知識で。封印さんに近づき、オルフェリトを倒そうとした。君を守って、世界を守りたいって思った」
「…私、寮の事何もわかって…なかったのね」
「それは、全オルフェリトに広まったよ。君は、5ヶ月しか生きていない彼に…どう接する?」
「…」
「それは君の運命を変える。…じゃ、蘇生させるね」
そして寮とルインに術を掛けた
「これでよし。…ねぇ、封印さん」
「え、あ…何?」
「僕を封印して」
「…え?」
自ら封印を頼む蘇生…
「…僕の能力、もう必要ないよ。だから…ほら」
蘇生は私の手を取り、封印を発動させた
その瞬間、何だかよくわからない…物凄い力を手に入れた気がした
「…、うっ…」
「…!ルイン!」
「…。美里…、あれっ…蘇生?…殺傷と増加と霊魂がいない…」
「じゃ、僕は失礼するよ。じゃあね」
「…寮…」
「…!寮っ!美里、これは一体…」
「だっ、大丈夫だよ。蘇生さんがちゃんと…」
「違うんだ!っ、蘇生なんか掛けても寮の場合は…!」
「え?」
「…崩壊。それはどういう意味です?」
「君はちゃんと聞いてなかったの!?そのっ」
「名の無き種族の話は彼女にしました。ご遠慮なさらず続けて」
「…、名の無き種族は人間じゃない。君の術は人間のみしか発動しない。元々人間じゃない寮に掛けても、奴を呼び覚ますだけだ!」
「…!そうだったんですね。あぁ、あの時ちょっとウトウトしてまして」
「くっ…なんてこと…」
黒い霧が寮を包む
そして、大きな猫へと変形していったではないか
「…ルイン、蘇生さん。あれ…」
「名の無き種族だよ。美里、蘇生から聞いたでしょ?寮に名前は無い。…化け物なんだよ」
「あちゃぁ、えらい事になりました」
「蘇生。君が責任を」
「僕は嫌ですよ」
そして隣から、男が現れた
寮とそっくりの。いや…同じ、顔…
「…君達が、起こしたの」
「お前は…」
ルインが聞き返すと、男は名乗った
「ルヴィリット・デュプレ・イレイド」
「な、名前長い」
「美里さん、そう感じるのも仕方ないでしょう。ふふ」
「俺は君たちの名前も知っているぞ。封印の、凪灘美里。蘇生の、ルカ・イリューゼ。崩壊の、ルイン・ド・フレイアス」
「あらぁ、個人情報はいけませんよルヴィさん。美里さんにだって教えた事ないんですからー」
「何故、俺達の名を?」
「俺は何でも知っている。石化のディート・ルアン。増減のルーベ・イルマス。殺傷のグライト・インダース。霊魂のスティウス・アルマ・リュド。魅了のビュティ・ルイサ」
オルフェリトの名を、全部語って見せた男
そして、別の話に口を開く
「…彼は種族の中でも性格がクールなタイプだった。…もちろん、活発なのもいる。そんなのが勝ち残っていたらどうなっていただろうか…ふふ、想像しただけでも面白いぞ」
まったく自分の世界に入り込んでしまっている。
そこで、蘇生…、ルカさん…?が、ルヴィに言う
「貴方、もし僕が寮さんに蘇生をかけなかったらどうするつもりだったのです?」
「どうだろ。その時はその時かな…、封印も全て揃ったわけだし」
「え、美里全部揃ったの!?」
「うっうん。…蘇生さんが、自分の能力を封印して…って頼んできて」
「…ルカ、ルイン。その子を渡せ。彼女は神に君臨するのだ」
「嫌ですね。僕、彼女に惚れちゃいました」
「俺もルカに同意」
「ただそれだけの理由?」
「…彼女は寮君が必死に守ろうとした掛け替えの無い人だから。僕もその意思継ぎます」
「俺が美里を殺そうとしたのに。…美里は死を拒絶する俺に優しく手を差し伸べてくれた。だから守るって決めたんだ。恩返しがしたい」
「ルイン、ルカさん…」
「…わかった。…じゃあここで死ね!行くのだ、名の無き種族…」
「…」
「どうした、というのだ。今のお前はもう人間でないのだぞ!さぁ、行け!」
「…、ミャーォッ」
「否定すると言うのか、愚か者!」
「ふふ、あはははっ、あははっ」
ルカさんが突然笑い出した
「何がおかしいというのだ!」
「いやぁね、貴方が人間に触れさせてしまった事で、人間の気持ちがわかっちゃったんですよ。この5ヶ月で」
「…人間の気持ち?所詮化け物は化け物ではないか」
「…そうですね。でも貴方こそ、人の気持ちを知りえない無知な野朗じゃないです?」
続いてルインもルカに賛同
「そうだ。所詮高見の見物をして、利用してきた。無知な野朗」
「崩壊、蘇生。神である俺に逆らうつもりか?化け物が情を持ってどうするというのだ!」
私はつい、口出ししてしまった
「化け物、化け物って…何よ」
「その通り。奴は化け物にすぎないのだ」
「寮は…、寮は一人の人間としてこの世を生きたの!化け物なんかじゃない…立派な人なんだから!」
「あっはははは!何を言うかと思えば封印よ。それは愚かと言う物だぞ」
「寮は人間だよ、化け物なんかじゃないんだよ!」
「ふふ、ははっ…神になる物がそんな甘い言葉出してんじゃない!」
「…!」
私は咄嗟に、技を繰り出した
――崩壊の術
地面は棘に変わり、ルヴィを刺した
だが奴は顔色一つ変えず、術で私を突き飛ばした
「美里!」
「美里さんっ!…貴方は一体何者だ!神の名を名乗って…」
「俺?俺は封印のオルフェリト」
「なっ…」
「ふ、封印のオルフェリトは美里だけだ!この世に二人も同じオルフェリトが生きているはずなんて…」
「それが、崩壊。生きてるんだよ。俺は封印だ…、美里も封印だ」
奴は宣言した
この世に各オルフェリトは、一人しか居ない物。
しかし、封印は二人居るのだと
続く




