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84.休憩中の街での話2

「どうかした?」


 急に黙ってしまったわたしを不審気にロブダム軍曹が声をかけてきた。

 わたしは何でもないと明るく振る舞いながらも、どこか不安な気持ちが押し寄せていた。

 閣下に何を言ったのか、わたしのただの思い過ごしなのかを確認したかった。

 ただ、今は余計な心配をさせたくなくて、適当な話題で誤魔化す。


「なんか外の空気吸うのは久しぶりな気がして」

「確かにね。ずっと病院にいたから」

「教会の人が動いてくれれば、ここまでにはならなかったと思うんですけどね」

 

 誤魔化した言葉ではあっても、それはずっと思っていた事ではあったので、嘘ではない。


「聖王国側が何を求めてこんなことしているのかは分からないけど、自分たちの首を絞める事になりそうなのにな」

「外交上強みとしている法術を禁止すると、かなりのリスクだと分かっていないのか」


 聖王国は法術を使える司祭を他国へ派遣することで強い外交力を誇っている。

 それが失われれば、聖王国だって今後の外交に差し支える筈なのに、一体何が狙いなのか、政治家たちも困惑しているとロッテルダーム中尉が言った。


「国境の聖騎士たちもまだ軍を引いていないという話だし、本当に戦争でも仕掛けてくるつもりなんじゃないんですかね?」

「そうだとしても政治的話し合いも宣戦布告もなく、いきなり襲い掛かってくるような真似はしないだろう」


 野蛮な常識もない国ならともかく、一国としての立場があるし周辺国の目もある。それに法術があったとしても国力差は無視できない。

 物量という意味において、リブラリカ皇国に勝てる国はないのだ。


「お、噂をすれば…」


 ロブダム軍曹の視線の先には、一人の女性。

 修道女の着る地味なワンピースと髪を隠すようなベール。その装いだけで彼女がどういう身分の者なのか分かる。

 正直、かなり街の住民からの悪意に晒されている教会の人間が、こんなに堂々と歩くのはいかがなものかと思ってしまう。

 側に護衛のように領軍が着いているので、そこまで何か起こるとは思えないけど、何があってもおかしくない。


「断られているな」


 店先で、品物を買おうとした彼女は店主に断られている。 

 それに腹を立てながら、言い返しているが、店主は譲る気がないようで追い払おうとしていた。

 彼女は領軍の人に何かしら言っているけど、領軍の人は首を横にふり応じる気がないようだ。

 顔を赤くして、一連のやり取りを見ていた通行人に睨みを利かせながら、こんな事したらただじゃ置かないと言い残して、踵を返す。

 そして、わたしたちの方へ向かってくる。

 余計な争いはごめんなので、道を譲るように開けると、すれ違う瞬間わたしの前に立ち止まり忌々しそうにわたしを睨みつけた。


「あなた、信者が言っていた不届きものね?」

「え?」

「なんでも、神の許しなく法術を使って人民を欺いているそうじゃない。男を侍らせて、汚らわしい」


 突然の出来事に呆然としていると、即座にロブダム軍曹とロッテルダーム中尉が前に出てわたしを庇う。


「一体何を言っているのか理解しかねる、何を根拠に言いがかりをつけているんだ?」

「あなた……そのような女にいい様に使われて恥ずかしくないのですか?精神的支配を受けているのなら、教会が助けになる事でしょう。すぐにいらしてください。わたくしが神の名のもとにあなたを救って差し上げますわ」

「は?何を言って――…」

「さあ、こちらへいらしてください」


 いつの間にかわたしたちは注目の的だった。

 これだけ騒いでいれば当然だけど、その視線は面白がっているというよりも、この空気の読めない教会の人間への冷たい視線だったのが救いだ。

 傲慢で、自分勝手。

 教会の人は全員がこうではないのに、今の状況と合わせると聖王国から派遣されている教会の人間が全員こういう人間性のような感じに見えてしまう。


「話が通じない女だな――…」


 呆れを通り越したようなロブダム軍曹の声。

 絡まれているロッテルダーム中尉は、貴族のせいか自制心がロブダム軍曹よりも強いようで、苛立ちながらも一応手荒な真似はしていなかった。


「そもそも、私は洗脳も精神支配もされていない。勝手な思い込みは――…」

「次期聖女のわたくしが言っているのですから間違いありません!ああ、お気の毒に。神への祈りがきっと足りないのですわ。でも、安心してくださいませ。わたくしがそこの女からきっとあなた様をお助けしてみせます!」


 キッと目を吊り上げてわたしを睨むと、指を突き付けてきた。


「あなた!神聖なる法術を勝手に使用するなど、神を冒涜する行為です!それに、精神支配は違法です!!そこのあなた、そこの女は違法な手段によって男達を誑かす異常者ですわ。すぐに捕らえなさい!!」


 後ろに控えていた、領軍の軍人がため息を吐く。

 とっても疲れていそうだ。ずっとこんな感じならば、疲れもするので同情する。


「早くしなさい!」


 自分の言っていることが正しいと思っている女程厄介なものはない。

 何を言ってもヒステリックに叫ぶだけで、なんの解決にもならないので、困ったように軍人が宥めようとした。

 現在、ただの役立たずと化している教会だけど、その身の安全は国際法で守られているせいで、軍人も無下に出来ない。

 しかし、そんな彼女に油を注ぐかのように、聞くに堪えないと言うように周囲から暴言が飛び出した。


「お前たちの方がよっぽど頭がおかしいだろうが」


 一人が言えば、誰もが我慢していた思いが噴き出していく。


「肝心な時に助けてくれない神なんて信じるに値しないわ」

「もともと膨大な寄付金を積まなくちゃいけない金の亡者が!」

「そっちのお嬢さんの方がよっほど聖女にふさわしい」

「その通りよ。教会に断られて死にかけてたわたしの夫をお金も取らずに助けてくれたわ!」

「法術を盾に取っていい気になりやがって!」

「次期聖女がこんなんでは、聖王国に未来はないな」

「助けてくれない役立たずは、さっさとこの国から出て行ってほしいわ!」


 悪意が押し寄せると、さすがに彼女も怯むが、自分の身の安全が保障されているのが分かっているのか、それでも強気だ。


「あなた方、全員異常者ですわ!神を否定し、罵倒するなど――…これは神が与えた試練なのです!そのように上から言われておりますのよ!この危機を自分たちの力で乗り越えられた時、神から祝福が――…」

「面白い冗談だ」


 この喧騒の中で、良く通る低い声が彼女の声を遮った。

 自然と人垣が左右に分かれ、堂々とした足取りで騒ぎの中心であるわたしたちの前に姿を見せた。

 誰もがその姿に一瞬言葉を忘れる圧倒的支配者の圧が、暴動になりそうなその場の空気を一気に変えた。

 言いがかりをつけ騒いでいた彼女も、みんなと同様に言葉が出なくなっている。


「それで?信者でもない人間が神からの祝福が与えられるとするなら安っぽい神なのか?それとも祝福の大盤振る舞いで慈悲深い神なのか?」

「か、神は慈悲深く――…」

「そんなことはどうでもいい」


 バッサリと相手の言葉を切ると、不快に思っているとあからさまな態度に出しながら、この場の支配者は腕を組む。


「これ以上の混乱は無用だ。やる気のない無能な人間は必要ないという事が、議会の全権一致だ。帰国許可は下りているので、すぐに聖王国へ帰還する事をお勧めする。今の現状で、教会の行いは目に余るというのが結論だ」


 周囲の人間も驚きの顔で今の言葉を吟味している。

 つまり、聖王国との外交問題に発展し、聖王国との契約を切るという事だ。聖王国の主神として崇めている神の布教を自由に許している代わりの見返りに法術が使える司祭を教会に派遣するという取り決めを、切られたという事だ。

 もの凄い速さでの決定に唖然とする。


「な、なんですって?」

「ここは国境だからすぐに帰れるだろう。流石に国境までの身の安全は保障するが、都合のよい事に国境には聖騎士が待機しているので保護してもらうと良いだろう。案内してやれ」


 自分の部下でもないのに、領軍にいい様に指示を出し、連れて行かせる。

 喚いていても、議会で決定されたのだから、領軍も彼女のわがままをいい様に聞くことはしない。

 晴れ晴れした様子だ。


「ふん、これで余計な出費が減ったな」


 不穏な言葉を吐きながら彼女の連れて行かれる姿を見送る支配者たる彼――閣下に、わたしは恐る恐る聞いた。


「えーと…いつこちらに?」

「つい今だ。この件の中心部に向かう途中に寄っただけだが、ちょうど良かった。元気そうで何よりだ」

「あ、はい…閣下も」


 完全に毒気を抜かれたようになっているわたしだけど、周囲にいる市民も同じようだった。

 その隙を見逃さず、領軍が集まっていた民衆を散らしている。暴言を吐くこともなく、その指示に従って、続々と集まった人たちは散って行く。

 突然現れて、全ての視線を自分に集めた人物である閣下は、流石としか言いようがない。

 声を張り上げているわけでもないのに、一言で全てを支配し、流れを変えた。

 

「あの、あれ本当なんですか?」

「あれ?聖王国を切ると言う話か?」

「そうです」

「明日には各社の新聞社が一面にするだろうな。まあ、正確には自由な布教の廃止と教会の司祭の強制帰国だが」


 同じことだ。

 ただ、法術はかなり優れた魔法なので、それを完全に切るのは大丈夫なのかと心配になる。


「どちらにしても、最近の教会はやり過ぎだ。多少の寄付金は仕方ないとしても、最近その値段が跳ね上がって来ていて、そこそこ金のある中級階級ですら法術を頼むのは躊躇うレベルのせいで、近年教会への法術依頼は縮小傾向だ」

「はあ…」

「今回の騒動前から、どうするかの議論はされていたんだが、これが決定打となったな」


 近年の聖王国は司祭を派遣してやっているんだという態度が大きくなってきていて、外交交渉も尊大な態度らしい。

 要求も年々拡大し、その分負担が大きくなっていたリブラリカ皇国だったけど、法術は国民にとっても必要だと考え我慢していたが、最近は教会の存在自体が害悪になって来ていた。

 その身の安全のために予算を割いて軍人を警備にまわしたりしていたけど、国民からも法術を受ける事が出来ないのに、そこに予算を割かれる意味がわからないと声が大きくなっていて、各地で教会への弾圧がすごい事になっている。

 結局、前々から議論されている内容が、今回の件もあって一気に教会排除に動いた。


「いいんですか?」

「今年初めの調査では、教会は必要ないという意見が多かったという調査結果が新聞に載っていたな」

 

 世論的には、むしろ歓迎ムードらしい。


「一部の信者が騒いでいるが、圧倒的少数だな――…さて、少し場所を変えよう。話したいこともある。今はどこに?」

「あ、今色々とあって病院の一室に……」


 その色々を病院まで戻る間に少し説明する事になった。





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