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83.休憩中の街での話

 それから、ジェイドさんは素晴らしい速さで対応してくれた。

 領軍も揃って、この街にある病院の中でも一番大きいこの病院に魔獣に負わされたケガ人の中でも重症患者が次々と運ばれて来た。

 中には命に関わるような怪我を追っている人も数人いて、留まって良かったと思う。

 これから向かうはずだった場所は一番被害が大きかったところだったので、法術を使える領軍の軍人がいたこともあって許可が下りたのだけど、そうでなかったらこの街は見捨てられたという住民の思いが大きくなっていたと思った。

 そしてなにより、こういう時に魔力が多くて助かったなと思う。

 おかげで教会の司祭以上に治療し続けることが出来ていた。もちろん、閣下からもらった誕生日プレゼントのおかげもある。

 翌日の出発は延期になり、落ち着くまでここに留まる事になり、三日経つと落ち着いてきた。

 病院が宿から少し離れている事もあって、病院内に部屋を借りてそこで寝泊まりしているのもあって、病院ですれ違うスタッフもわたしの姿に数日で見慣れてきたのかすれ違うと頭を下げてくれる。

 それに、患者の家族にも。

 教会が治療に応じてくれないせいもあって、まるで救世主のように見られている。当然のことをしているのに、必要以上にお礼を言われるのはなんとも変な感じだ。


「明日には他の領地より法術の使える人が派遣されてくる予定です。本当にありがとうございます」


 ジェイドさんがそう言って頭を下げる。

 予定外とはいえ、わたしが与えられた仕事だから気にしないでほしい所だ。


「教会はまだ動かないんですか?」

「聖王国側からの指示なのか、全く動きを見せませんね」

 

 ジェイドさんが険しい顔をしながら言った。

 暴動とは違うけど、かなり雰囲気は悪くなってきていた。

 いつ教会に暴徒と化した住民が押し寄せてもおかしくない、そういう所まで来ていたけど、今はわたしのおかげか膠着状態だ。

 教会は一種の治外法権のような場所で、国際法によってその身の安全が保障されているので、領軍が一応警備に当たっているが、正直やりたくなさそうだと聞いた。

 上からの指示でも、隣国が困っているところにダメ押しのようなこの騒動は、西部地方だけでなく、各地の教会も非難され始めている。しかし、国としても強く出られないのは、法術が素晴らしく有用で強力な力だからだ。

 もちろん、国としても他国にばかり頼っていられないので、法術の使い手の育成には力を入れているが、そもそもその力というのは聖王国の専売特許の知識で、各所からの横やりもあってなかなか進んでいなかった。

 国民を守るために法術は必要なので排除できないけど、国民の感情というものも理解できる。

 対応がなかなか難しいようだ。


「戦争になったりでもしたら、どちらの国でも大変でしょうに」


 国力的にはリブラリカ皇国は一強だけど、聖王国には法術というものがある。

 それによってリブラリカ皇国に反感をもつ国に同盟を募るのも難しくはない。


「流石にそれはないとは思いたいですが…」


 とはいえ、どうなるかなんて誰にも分からない。

 戦争なんていう生産性のない争いを取るという選択肢はないとは思うけど、今の聖王国はなんだかおかしい。


「ひとまず、司令部より新たに指示がありますので、明日には移動する事になると思います」

「分かりました、準備しておきます」


 ジェイドさんが部屋を出て行くと、ロッテルダーム中尉が飲み物を渡してくれた。

 そして感心したように頷いた。


「大したものだな本当に」

「そうですか?」

「正直、若すぎると不安だったが、ここまで法術を使いこなせるとは思っていなかった」

「まあ、魔力に物言わせた力技なときもありましたけど」


 詳しい知識や技術があれば魔力消費は抑えられるけど、専門的知識が少ないわたしでは、時々力技で解決していた。

 魔力が多いとこういうことも出来るけど、そのぶん消費も大きい。

 魔力の消費は体力の消費にも近い。

 とにかくやたらとお腹が空く。覚悟はしていたけど、とにかく魔力の回復には食べて寝る事が一番なので、少ない物資の中融通してもらっていた。そのせいで、大食漢だと認識されてしまっている。

 間違いじゃないけど、間違いだ。今だけなのだ。

 しかも、それがなぜか周囲に知れ渡り、治療した家族から差し入れとかをもらうようになった。

 たった三日しかたっていないのに、情報周るのが早い早い。

 物流が滞っているのに、貰うのは気が引けたけど治療費だと思って貰っていた。あまり断り続けるのも悪いというのもある。

 それを賄賂だのなんだと言う人がいないのは有難い。


「今、頼まれた治療がないので、少し外に出たいんですけどいいですか?」


 この三日間病院に缶詰状態だったので、落ち着いている今のうちに外の空気が吸いたくなる。

 わたしの状態を知っているロッテルダーム中尉は一応許可をもらってくると部屋を出た。

 入れ違いにロブダム軍曹が入って来る。


「お、中尉はどこに?」

「外出許可の確認です。ちょっと病院の外に出たくて」

「あー、流石にずっと病院の中だと疲れるな」


 わたしに合わせてほとんどを病院内で過ごしていた二人だけど、常に一緒という訳ではなく、交互に休憩を取っている。

 街の方で情報を集めてもいるようで、時々街の状態や西部全体の事も教えてくれていた。

 今は新聞を読む暇もないし、そもそも新聞が入っても来ない。


「そういえば、司令部の方では何か大掛かりな作戦が立案されたらしい。その中心が少将閣下だそうだ」

「閣下が?」

「頭がいい人の考えは良く分からないけど、かなり有効性がある作戦らしい」


 具体的にどんな内容なのかは知らされていないらしいけど、近く発表があるようだ。


「何か聞いてない?」


 それは閣下からという意味だ。


「何も聞いていないですよ。軍内部の作戦事項を話すような人じゃないし、今はお互い忙しいので連絡も来てないです」

 

 そもそも、話す事もここ数日していない。

 もしかしたら連絡が来ていたのかも知れないけど、治療中の時はコンバイルは邪魔になるので鞄の中にしまっている。

 わたしから連絡するのも躊躇われるので、別れてからずっと声を聞いていない。


「あー、ごめん。変なこと聞いて」


 全く連絡の来ないわたしに気を使ったのか謝って来た。

 おそらく、ロブダム軍曹は時間がある時に家族に連絡しているのだろうことが窺えた。まあ、子供が生まれたばかりだし、心配するのは当然だ。


「別に気にしてないですよ。普段から忙しい人なのは知ってますし、今は時間も合わないですからね」


 流石に何日も経つと夜の街道の移動は無くなった。

 魔獣の脅威が次第に浸透していった上に、厳しく移動制限がかかったおかげだ。不満もあるけど、そうでもしないど被害は増える一方だ。

 ただ、どこにでも自分は大丈夫だと考えるやつは一人二人いるので、領軍も大変そうだなと思った。

 しばらくロブダム軍曹と雑談していると、ドアのノック音がして返事をするとロッテルダーム中尉が入って来た。


「構わないそうだ。ただ、すぐに戻れるくらいの距離にいてほしいと言っていたが、どうする?」

「じゃあ、少しだけ」


 落ち着いてるとはいえ、何があるか分からないので、わたしはその言葉に頷いた。

 病院周辺でも十分気分転換にはなる。


「お二人はどうしますか?」

「俺は一緒に行くけど、中尉は?」

「私も同行する」


 二人はわたしに護衛として付けられているけど、二人しかいないので休憩も交代だ。

 考えてみればハードスケジュールにもとれるけど、ロブダム軍曹に言わせれば、やる事がないので暇らしい。

 わたしに気を使ってそう言ってくれているのかは分からないけど、今のところ病院内に引き込もっているわたしの護衛は簡単のようだ。

 そのせいか、二人一緒にいる事は珍しい。

 どちらも病院内にはいるけど、二人も側にいるとただでさえ軍人は圧力あるので、治療を受けている患者の家族が怖がる可能性もあって、離れている可能性もあるとは思っている。

 そんな二人が揃って一緒に行動する事になって、なんだか新鮮だった。

 街に出ると、時間が経つにつれ、解決の見込みのない現状に不安と不満が増している事が分かった。

 領軍の不甲斐なさ、国の対応、教会への不満、あまりいい雰囲気とは言えない。


「窮屈な生活のせいでたくさん不満が出始めてますね」

「魔獣を何とかできさえすれば、一気に色々進むんだけど、むずかしいから……」

「各所に散らばった魔獣を討伐することほど難しい事はない」


 それでも、通常の魔獣なら街道に出てくることはほとんどない。

 獣なりにきちんと危険だという認識があるからだ。

 迷宮の魔獣だからこそ苦戦している。


「生態系を壊しかねませんからね」


 わたしがポツリと言った。

 それに反応したのは、ロッテルダーム中尉だ。


「生態系を壊すとは?」

「魔獣の生態系ですよ。この一帯に分布しているであろう魔獣を食らって縄張りにしたりする迷宮の魔獣がいる筈です。すると、今までそこで生活してきた魔獣はその脅威を避けるために移動するはずです。それによって、様々なところで魔獣の被害が増える可能性があります」


 迷宮の魔獣全てがそうではないけど、一般的に外の魔獣よりも魔力の影響を受けているので同種の魔獣だとしたら迷宮の魔獣の方が強いのが特徴だ。

 場合によっては今まで狩って来た下位と思っていた魔獣が外の魔獣を食らうこともある。


「魔獣の強さに関してあまり考えたことなかったな…魔獣は魔獣だ。それ以上でも以下でもない。でも、言われて見ればその通りかもしれない」

「長引けば、そういう弊害も出てくると言う話ですよ。一気に色々変わる事は無いとは思いますが、長い時間をかけて生態系を変化させることはあるかも知れません」


 むしろ、もしかしたらもうすでに始まっている可能性もある。

 街道に出てきている魔獣が迷宮の魔獣だとどうやって判断できるのか。もしかしたら、住処を追われた魔獣の可能性だってある。


「有益な話だな…司令部の方にも言っておいた方がいいかも知れない」

「それはお任せします。あくまでも可能性の事なので、絶対ではないですよ」

「分かっている。後で、知らせておく」


 有益かどうかは分からないけど、わたしの話が少しでも役に立てばいいなとは思う。

 そういえば、閣下が何か作戦を立案したと言っていた。

 この件を一気に解決するのに一番有効なのは魔獣を討伐して脅威を消し去る事だ。それには、魔獣をどうにかして集めて一網打尽にするしかない。

 ふと、列車の中で閣下が店長と何かを話していたのを思い出した。

 迷宮協会と教会の事を聞く以外に、もし魔獣の集め方なんて事も話していたら?

 店長なら、何か方法を知っている気がした。あれほど迷宮の事を解明したのだから、迷宮の魔獣についても詳しい筈だ。

 それが危険な方法でも、一番有効なら手段を選ばないかも知れない。

  

――嫌な予感がする……


 なぜか、わたしは閣下が発案した方法がすごく気になった。





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