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81.5.閑話での話:イザナ視点

「本当に、良く来てくれたな」


 本部として使用されている領軍の会議室で、再会を喜ぶように再びアレクサンダーが言った。

 もともと俺とは高等学院時代からの友人であり、名前が似ている事もあったせいか身分が違っても未だに親しく付き合っている。

 士官学校に行くように勧めてくれたのも実はこいつだ。


「お互い忙しすぎてなかなか会えないからな。仕事にかこつけて会いに来てやったわ!」

「ふん、給料泥棒で訴えてやろうか?」

「やれるものならやってみろ」


 この程度の軽口はいつもの事だ。

 現在この会議室にいるのが気心の知れている信用できる面子というのもあって、ついつい再会を楽しんでしまったが、そろそろ本題に入らないとキレそうな怖いやつが後ろから圧力をかけてきている。

 一刻も早く事態を収拾して帰りたいと思っているのは丸わかりだ。

 どうやら、アレクサンダーも気付いているようで、おやっという顔をしていた。

 普段あまり顔に出るタイプの男じゃないだけに、珍しいものでも見たという様子だ。


「なんだ、バルシュミーデの倅は不機嫌そうだな」

「そのような事はありません。早く終わらせたいとは思っていますが。私も忙しいもので」


 確かに忙しいだろう。

 それは誰もが知っている。

 だけど、今の不機嫌さは忙しいだけではない。そもそも、今日に限って言えば、予定が全て白紙になったので暇とも言える。

 そんな事を言った日には、さっさと彼女を連れて帰りそうなので言わないが。


「何かあったのか?」


 アレクサンダーが俺に聞いてくる。

 仕事に対してなにか思うような人間ではないので、道中で何かあったのだと思ったようだが、それは違う。

 今回に関しては、珍しい事に仕事の横やりに不機嫌になっている。もちろん、もともと顔立ちが整っているせいであまり表立ってそうは見えないが、そこそこ付き合いのある者が見ればなんとなくいつもと違う程度には気づく。

 しかも、自分の仕事に大切な存在を巻き込む形になったのだから色々と思う所はありそうだ。


「タイミングが悪かったとしか言えんな」


 二人で声を潜めて話してはいても、広くない会議室では相手にも聞こえている。

 ピクリと片眉が上がったのが見えたが、何も言わずにこちらを睨むように見ていた。


「再会を喜ぶのはよろしいですが、そろそろ仕事の話に移ってもらっても?」


 案の定とも言える催促が来た。

 この男が仕事人間なのはここにいる全員が知っているので、不自然に思わないが、今はとにかく早く終わらせたいという気持ちが見え透いている。

 なかなかに珍しい光景に、思わず揶揄いたくなるのが大人というものだ。


「仕事仕事では人生楽しみがないぞ?いや…今はその楽しみがお預け状態だったな。なるほど、早く終わらせたいわけだ」


 事情を知らないであろう人間は、俺の意味あり気な言葉に、腕組みをしながら俺たちを見ている少将の方を見た。

 キラリと目を光らせ追従してくるアレクサンダーが、更に面白発言で会議室を湧かせる。


「ほほお?そう言えば、確か先日シュトーレン殿に会った時に面白い事を言っていたな。末の息子がようやく結婚する気になったとか何とか……」

「お、そこまで話が進んでいるのか?」

「相手が未成年だと言うのは、今や社交界で知らない者はいないから、結婚は成人を待ってからになるだろうな」


 そこまでアレクサンダーが言うと、心底嫌そうに少将が口を挟んだ。


「……私の結婚の事など心配してもらう必要性はありません。生産性のない話をこれ以上続けますか?」


 ピリリとした殺気にも似た威圧に、これ以上の揶揄いは止めた。

 なにせ、この男を本気で怒らせると命さえも危うい。


「とりあえず席に着こう。話はそれからだ」


 アレクサンダーの指示で、今この会議室にいる全員が席に着く。

 メンバーはアレクサンダーを筆頭に、次期領主の跡取り、領軍の指揮官数名、それに俺と少将という顔ぶれだ。


「まずは、こんなに早く軍務局が対応してくれたことに感謝する」


 アレクサンダーが礼をのべるところから会議は始まる。


「もう知っていると思うが、この領地にある迷宮で魔獣が溢れて街を襲う事件が発生した。魔獣が溢れた事は仕方がないとしても、その事実を迷宮協会が隠蔽しようとし、結果対応が遅れ、多数の魔獣を討伐出来たものの、被害も広範囲に広がってしまった」


 ここに迷宮協会の人間がいないのは、おそらく締め出されたか、有益な情報を何一つ持っていないからに違いない。

 もしくは、あまりの対応の杜撰さにアレクサンダーが共同で事に当たる価値がないと判断したか。おそらくどちらもだろう。


「迷宮協会に所属する協会員は、どいつもこいつも腕が素人並みで使えん奴らばかりだ。魔獣の大多数は領軍で始末したが、未だに取り逃がした魔獣がどれほどなのか把握できていない」

「領軍によって街道の見回りの強化、周辺領地への警告なども実施しておりますが、迷宮の魔獣は通常の魔獣とは違い、人の生活圏にまで姿を現します。そのため、小さい村や町などにも領軍を警備に当たらせている状況です。そのため、かなりの人手不足と言っても良いでしょう」


 今回軍務局への支援もその人手不足のためでもある。

 迷宮の規模を考えると本来ならば、領軍だけでも十分だったはずだ。

 ただ、その場で大体が討伐されるので、ここまでの被害はここ近年全くない。

 領軍の総指揮官だろう壮年の男が、どこにどれだけ人を付けているのか資料を配る。

 大領地であるから、街だけでなく村や小さな町なども多数あった。

 そこの全てを気にかけるのはかなり無理がある。


「少し気になるのが隣国の対応の早さですね」


 少将が静かに指摘した。

 その通りだ。

 魔獣の件が発生してからまだ一日ほどだ。

 こちらの国に対しての非難と教会への指示はまるでそうなる事が分かっていたかのような対応。しかも、そもそもの不手際は迷宮協会にあるのに、そちらへは一切何もしていないらしい。


「かなり不自然な対応に、我々は迷宮協会と何かしらの裏取引があったのではないかと疑っている」


 アレクサンダーの発言に、ゾルデファンドの面々は頷いている。

 それに対し、少将が爆弾発言をした。


「裏取引かはどうかはともかく、教会と迷宮協会が親しい(・・・)間柄ではあるようですよ」

「何?」

「私も聞いた話ですので詳しくは分かりかねますが、少なくともなんらかの忖度はありそうです」


 さらりと追加する見解に、思わず唸ってしまった。


「それを早く言え」

「聞かれなかったもので」


 聞かれたこと以外はあまり自分の意見を言わない事も多いが、今回のは半分以上、先ほどの仕返しな気がした。

 

「性格悪いな、お前」

「誉め言葉として受け取っておきます」


 顔色一つ変えずに嫌味を言う男に、これ以上何を言っても無駄だ。


「報告では、国境沿いに聖王国の聖騎士とその下の騎士団が集結しているとの事でしたが、それは国軍で対応しておいた方がいいでしょう」

「それはこちらから頼もうと思っていた。流石に向こうの正規軍が国境にいるのなら、領軍では難しい」


 アレクサンダーが重々しくため息を吐く。

 魔獣の件だけでも厄介なのに、隣国の不穏な動きは頭が痛い問題だ。


「一つよろしいですか?」


 少将が資料をめくりながら再び口を出す。

 アレクサンダーが発言の許可を出すと、静かに確認した。


「私の領地もかなりの数の街や村が存在しています。ですので、領軍だけで魔獣を討伐完了するまで警護するのはいずれ破綻する事が分かります。その辺の事はどの様にお考えなのですか?」

「確かにその通りだ。ただ、現状打つ手がないのもまた事実。魔獣はそこら中に散らばってしまい、後を追う事も不可能だ。しばらく現状維持をしつつ、何らかの方法で魔獣の討伐を行わなければならん」


 一網打尽にするチャンスは、迷宮協会のせいで失われた事が窺えた。

 もし対応が早ければ、魔獣が迷宮から出てくる前に対策来た。


「……私から一つ提案があるのですが」


 ふいに少将が言った。


「危険ではありますが、魔獣を呼び寄せ討伐する事を提案いたします」


 会議室が静まり返る。

 俺自身も、魔獣を呼び寄せるという事に疑問が湧く。

 そもそも、魔獣を呼び寄せる手法というものはない。それなのに、少将は確信を持って魔獣を呼び寄せる事が出来ると発言しているのだ。


「一体、どうやって?魔獣を呼び寄せるなど、未だかつて聞いたことがない」

「正直申し上げて、私自身やったことがないのですが、聞いた話によりますと魔獣を呼び寄せる事は比較的簡単にできるそうです」


 驚きの事実をはっきりと言った。

 魔獣を集める手法、そんなものがあれば軍で使っている。


「一体、どうやるんだ。そんな方法聞いたことがない」


 領軍の総指揮官が唸るように言った。

 言葉が素に戻っているあたり、信じがたい事なのは分かる。


「魔獣の性質を利用するんだそうです。特に迷宮の魔獣には有効だそうですよ」

「魔獣の性質?」

「はい、魔獣はそもそも魔力を食らう生き物です。弱肉強食の世界で、自分より弱い魔獣の核を食らい進化していく。そのため魔力には敏感だそうです。真っ先に街を襲ったのは、街では魔道具かかなり使われているためだと思われます。魔力が集まっている、という状況です」


 言われればその通りだ。

 魔獣は魔力を食らう。その魔力の集まる地点に向かうのは理解できる。


「各地に魔道具がある以上、魔獣はそれを狙って散らばったままになってしまいますが、一時的に高威力の魔力を集めれば、そこに向かって魔獣が集まってくるようです」

 

 少将の提案に対し、ざわつく会議室。

 理論だけ聞けば、かなり有用な提案だ。ただし、問題もある。


「それだけの魔力をどうやって集めるのか、原案はあるのか?」


 これが出来なければそもそも提案自体しないだろうが、詳しい事を一切省いた説明に、疑問は残る。


「飽和した魔鉱石を利用しようと思います。飽和状態の魔鉱石を壊し、魔力爆発によって高威力の魔力があるように見せ、集まってきた魔獣を一網打尽にします。この領地だけでなく、他所に逃げた魔獣もおびき寄せるにはかなりの威力が必要になりますので、周辺領地や隣国への通達も必要でしょう」


 おそらく、すでに頭の中にはその提案自体が具体的になっているのだろう。

 むしろ、初めからこの方法を考えていたのではないかと思える程だ。


「魔鉱石の扱いに関してはこちらに任せていただけたらと思います」

「まあ、バルシュミーデの倅ならば魔鉱石の扱いは我々の中では一番巧みだろうな」


 問題もあるが、一考するに値する方法ではある。

 アレクサンダーもそう感じているに違いない。

 正直かなり乱暴な手だが、上手くいけば一番早期解決が見込まれる。

 

――まさか、それが狙いか?


 ちらりと顔見れば、何を考えているのか分からない無表情で資料を読んでいた。

 私情を挟む男ではないが、それでも疑ってしまう。

 今日が彼女の誕生日だと思うと尚更に。


――さっさと片付けてクロエ嬢の誕生日を祝い直したいとか思っているかも知れん……


 まあ、それが原動力と言うならば大いに期待したいところだ。

 恐ろしい程効率よく事態を収束させてくれる事だろう。





 


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