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81.軍人たちと馬車での話

 わたしが乗り込んだ馬車にはロッテルダーム中尉とロブダム軍曹も同乗する。

 どちらも軍人というだけあって、閣下ほどではないにしろ背も高いし、ガタイもいい。

 一応四人乗りだけど、二人が一緒だと少し狭く感じるのが新鮮な感じだ。


「初めにどちらに行く事になるのでしょう?」


 行ってほしい所があるとは言われたけど、どこに行ってほしいかは聞いていない。

 もしかしたら二人は知っているのかも知れないと思って聞いてみた。

 

「申し訳ありません。実は我々もどこに連れて行かれるのかは把握していないのです」

「リデオン嬢は、軍とは全く違う活動を行うので、軍務局預かりの民間協力とは言っても、実際は現場の人間……この場合は領軍だけど、その指示に従う事が多くなる関係で、俺たちもあまり詳しい事は分からないんですよ」

「刻々と事態は変化しますので、昨日の状況と今日の状況では変わっていきます。特に怪我を負う人は一定の場所にはいませんからね」


 一番情報を持っているのは当然領軍だ。

 何か問題が起これば、司令部となるご領主様の本邸の領軍本部に話が行き、そこから必要に応じて人や物資が各地から回されるのだ。

 わたしの場合は、怪我などの治療要員なので、一番必要としている場所に行く事になるけど、随時その場所というのは変更していく。

 結果、わたしの護衛として一緒に回る事になる二人も情報という観点においてはわたしとあまり変わらないようだ。


「ただ、馬車に乗る前にどこに向かうのかは聞いておきました。とりあえずは、魔獣の被害の一番大きかった街に向かうようです。ご存じですか?」


 一番被害の大きかった街というのは、迷宮に一番近かった街の事だ。

 街の事はあまり詳しくなくても、迷宮の事に関して言えば、おそらく二人よりもわたしの方が詳しい。

 その延長線上で、近くの街の事も多少の事は知っている。


「少しだけなら知ってます。西部の大領地にある迷宮は一つしかないので、その近くの街の事なら、多少調べたことがあるので」

「へー、もしかして迷宮好きなの?」


 いきなりロブダム軍曹の口調が砕けた。

 それを見咎める様にロッテルダーム中尉が睨む。


「軍曹――…」

「あ、いや。申し訳ありません。ついうっかり」

「あの、話しやすい様に砕けた口調でもわたしは構いませんよ。年下ですし……」


 年上のしっかり軍人として働いている二人に丁寧な口調で話されると、何とも言えない申し訳なさがある。

 わたしが、そう言うとロブダム軍曹が明るく笑って言った。


「お、そう?俺はそっちの方がありがたいな」

「軍曹、規定の事を忘れるな」


 ロブダム軍曹の距離感が一気に縮まった感じがするのに対し、ロッテルダーム中尉は真面目にロブダム軍曹に注意の様な警告をする。

 規定というのは軍内部の既定の事で、民間協力の民間人には敬意を持って接するように記載されているらしい。

 つまり、一応わたしは二人よりも上の立場の人間という事になる。

 

「わたしが構わないと言っても、困らせるだけなんですね」


 規定で定められている事を否定するような事を言えば、困るのは二人だ。

 だけど、ロブダム軍曹はわたしの気持ちを汲んでくれたようで、ロッテルダーム中尉に規定を持ち出して反論した。


「でもですよ、中尉。協力してくれている民間の人間が望むなら、快適に過ごせるようにするのも規定にありますよ」

「それは、そうだが……」


 相反するそれに、ロッテルダーム中尉の言葉が詰まった。

 ロブダム軍曹を見ると、任せろとでも言うようにウインクをこっそり飛ばしてきた。


「我々の態度のせいで、彼女が軽くみられることを懸念しているのは分かります。なので、折衷案としては、我々しかいない時は軽い口調にしてもいいのでは?」


 なるほど。

 軍務局の人間が、わたしに対して気安く接していると領軍の方も、そういう風にわたしを見るという事だ。

 わたしはあきらかに未成年の風体だし、軍務局の扱い如何ではなんでも頼んでも問題ないと無理を押してくる可能性もあるという事だった。

 そういう事から守るために、ある程度わたしの存在自体を上位の存在だと思わせる必要があるのは分かった。そのための、敬意を持って接するという規定なのだ。

 でも、年上の人たちから敬語で話されて続けるのは、少し肩が凝る。

 ロブダム軍曹はその辺のことも分かっているようで、だからこその提案だ。

 イザナ中将は良い人選をしてくれた。

 あきらかに真面目が服を着て歩いているようなロッテルダーム中尉と、少し不真面目そうだけど要領がいいロブダム軍曹。だいぶ性格が違うけど、だからこそいい感じに調和するのかも知れない。

 結局、ロッテルダーム中尉はロブダム軍曹に言い負かされて、三人の時だけならばと、口調を直してくれることになった。


「すみません、わがままを――…」

「いいんだよ!俺はその方が楽だからむしろありがたいくらいだし」

「軍曹…調子に乗り過ぎだ」


 一々注意する真面目さに、少し笑ってしまった。


「そういえば、さっきの質問だけど。迷宮好きなの?」


 ロブダム軍曹から言われた事に対して、わたしは頷いた。

 迷宮は好きだ。

 好きだからこそ、迷宮の謎について解明したかった。ただ、非公式とはいえそれを店長が解明してしまった。

 ある意味将来の目標が失われてしまったけど、それでもやはり迷宮が好きだという気持ちに変わりはない。


「いつか、迷宮協会に所属していろんな迷宮を回りたいと思ってます」

「かなり危険だと思うが……バルシュミーデ閣下はご存じなのか?」


 そこでなぜ閣下の名が出てくるのかと思ったけど、一応彼らからしたらわたしは閣下の婚約者。

 バルシュミーデ総領息子の婚約者がそんな危険な事をしても許されるのか否かとの質問だ。

 はっきり言えば、良い顔はしないと思う。だけど、応援はしてくれるとも思う。

 そんな感じだ。


「わたしの将来については話したことないですけど、あまり賛成はされないかなとは思いますよ。ただ、薄々は気付いている気がしますが」

「まあ、まだ若いからね。色んな事に挑戦するのは良い事だと思う。ただ、危険なのは間違いないけど。実はさ、俺も一時は迷宮協会に所属しようかなと思ったんだけど、現実的に考えても、それで食ってくのは無理があるなと悟ってさ」


 自分の事を良く分かっているんだと感じた。

 迷宮は強ければそれだけで生き残れるというものではない。随所にトラップもたくさんあるので、それを解除できるスキルを身に着けるか、もしくはそういう人とパーティーを組むか。他にも、様々な面で必要になる技術は多く、それを乗り越えてもなお食べていけるほどになるのは限られた人だけだ。

 夢だけで食べていく事は出来ない。


「身体を動かす事だけは好きだったし、あんまり勉強もしたくなかったら自然と軍属になったんだけど、一応今は満足してるよ。この選択に。おかげで結婚も出来たし、子供もいるし」


 そういえば、若いけど二人の子持ちだった。

 ちょっと複雑だ。


「趣味で潜るのは賛成できないけど、なんか君強そうだし…、法術だって使えるなら危険は少ないだろうから、浅い階層なら余裕そうだね」

「それは実際行ってみない事には分かりませんけど……でも複数の下位魔獣程度なら問題なく立ち回れます。これでも皇都ロザリア高等学院の実践授業では成績一位ですので」


 それに反応したのはロッテルダーム中尉だ。

 貴族階級の彼は、それがどれだけ凄いのか良く分かっているらしい。


「君は皇都ロザリア高等学院の学生だったのか。実践授業で成績一位とはなかなかだな」

「すごいんですか?」

「すごいどころの話じゃない。おそらく今すぐ軍属になったとしても実力は中層以上だろうな」

「マジっすか?」


 学生ではあるけど、元貴族学校の実力はすごいものがある。

 基本的に学力の高さがネックになっては来るけど、他にも貴族としての義務を果たせるようにと、実戦的な授業はそれこそ軍養成校並だと言われていた。

 ちなみに士官学校は、いわゆる指揮官を育てるための養成校的な位置づけなので、実力だけで見れば軍養成校よりは劣る。劣ると言うだけで、閣下のような化け物クラスの人間が少なからずいるわけだけど。

 もちろん下に舐められない程度の腕は必要だ。


「もしかしたら、我々は護衛というよりも、彼女の容姿をカバーするためだけに付けられた可能性もあるな」

「腕は俺達以上って事ですか?いやー、上には上がいるんすよね」


 感心され、褒められてはいるけど実際の所、殺し合いに発展した場合わたしが勝てるかどうかは分からない。

 今のところ魔獣を殺す事は出来ても、人を殺したことのないわたしでは、実戦経験が豊富な軍人と渡り合っても、逃げに徹するしか出来ない気がした。

 それは覚悟の問題だ。

 殺されるという極限の状態でなら、出来るかも知れないけど、今はまだそんな覚悟がない。

 ただ、これがもしロイとかルードヴィヒなら初めから覚悟が決まって人を殺す事も止む無しと命を刈り取る事が出来る気がした。

 

「実戦ではわたしの方が劣りそうなので、護衛はよろしくお願いしたいです」


 ここで戦うのは人ではないけど、実戦経験豊富な人の動きはとても勉強になるので、ぜひ見てみたいものだ。


「機会があれば、ということになるな。まあ、今街道は領軍がかなり頻繁に見回りしているので、そうそう機会は訪れないとは思うが」


 それもそうかと思う。それに、危険は少ない方がいい。


「それよりも、どれ位で街に着くんですかね?」

「――…軍曹は少しは地理の勉強をした方がいいな」


 呆れたようにロッテルダーム中尉が言った。

 勉強嫌いとは言っていたけど、それは本当のようだ。


「領都からですと、馬車で一日以上かかりますよ。騎馬なら一日かからない位だと思いますけど」


 わたしがロブダム軍曹にそう言うと、感心したように頷かれた。


「詳しいね」

「先に言っておくが、軍人が皆軍曹のようだと思わないでくれ」

「ひどいですね」

「事実だ」


 一概に軍人と言っても色々な人がいるのは分かっているけど、こうして二人を比べてみると、本当に性格が全く違うのが分かる。

 それに、閣下の様な完璧軍人もいるし、イザナ中将のような現場に好かれるような指揮官もいる。


「この速度だと、被害の大きかった街に行く前に、一度その手前の街か村で一泊する感じになりますね。さすがに危険でしょうから野宿はないでしょうし」


 危険でないなら野宿する事もあるけど、今の現状でそれは危険すぎる。

 おそらく騎馬ではなく馬車なのもそのせいだ。


「手配はされているだろう。何かあったら、連絡すれば対応してもらえるだろうから大丈夫だ」


 頼もしいロッテルダーム中尉の言葉にわたしは頷いた。

 ロブダム軍曹はうんうんと頷いていて、全部ロッテルダーム中尉に任せるようだった。

 適材適所、という事だろう。





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