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74.誕生日一日前の教室での話

「なるほど…誕生日プレゼントか――…」


 後ろから抱きしめられたまま、全てを白状させられたわたしは、顔を両手で覆ってうぅと小さく唸った。

 子供っぽい考えに閣下が呆れているような気もしたけど、わたしにとっては大いに困る事なのだ。

 なにせ、れっきとしたお付き合いしている彼氏様は天文学的大金持ちの企業経営者。わたしがもらうであろう誕生日プレゼントがそれはそれはすごいものだと、次に来る閣下の誕生日に渡せるものがない。わたしに買える物など閣下が持つものに比べたら、下の下の下だ。

 しかも、閣下は鑑定こそ出来ないが、それこそ生まれた時から良いものに囲まれて育っているので、審美眼も一級品。

 見れば大体のものの値段がばれてしまう。


「クロエがくれる物ならなんでもうれしいが――…」

「そう言われるのが一番困る事、知ってます?」


 振り返りながらわたしがそう言うと、閣下が苦笑して謝った。

 プレゼントを考えるこっちの身にもなってほしい。


「まあ、ありきたりかも知れないが欲しいものはあるな」

「え!なんですか?わたしにでも買えますか?」


 プレゼントは自分で考えて渡すからこそ意味があるけど、相手の欲しいものを把握するのも大事な事。

 好みに合わない物を渡してもしょうがない。

 あげるのならば喜んでほしいのは、誰でも一緒だ。


「買えると言うか、持っているというか――」


 そう言うと、閣下が後ろから頬に軽くキスをした。


「なん――」

「クロエ自身」


 なんですか?と問おうと後ろを向こうとすると、間近の閣下の視線と合う。

 そして、にこやかに言われた。


「………冗談ですよね?」


 その顔を見れば分かる。

 本気ではないけど冗談でもない。どちらかと言えば、冗談寄りの提案。

 思わず唇を尖らせて、半目でじとーと見てしまった。


「半分以上は本気だが、それを要求するとな……」

「わたしが許可しても犯罪者ですね」

 

 結婚もしていないのに、未成年に大人が手を出すのは絶対悪ではないが、結構タブー視されている。

 犯罪として取り扱われる事もあるのだ。

 わたしの犯罪者扱いに、閣下はため息をつきながら、弁解をする。


「……一応言っておくが、片一方が未成年でも同意の元、自身の欲求を満たすだけの行為でなければ問題ない」

「ちなみに、自身の欲求を満たすだけの行為じゃないとはどうやって判断するんですか?」

「……お互いの気持ち――…」

「わたしが閣下に身体を要求されて従った場合は、どちらにも取れますよねぇ?」


 わたしの反論に、閣下が首筋に顔を埋めてきた。

 閣下の髪が首筋にかかり、少しくすぐったくて、身を捩る。


「成人するまで待つと言ったが、反故にしたいと言ったら怒るか?」


 思いがけない閣下の真剣な声と懇願に、わたしはどこかでそれを感じていた。

 たぶん、近い将来そうなってもおかしくないと。

 ただし、色々と障害もあるけど。


「怒りませんよ……でも、一応通すべき義理というものがありますので……」

「……ああ、東国の兄君と母君にはきちんと挨拶しに行こう」


 別にわたしの人生だし、一応産みの母親公認ではあるけど、留学費用も学費も払ってくれているのは獅子堂の家だ。

 遊びに来ている訳ではないし、結婚相手を探しに来たわけでもない。

 一応勉強しに来ているのだ。

 好き勝手していい年でもないし、保護者も良い顔をしない。 

 前に琉唯に言った、怖いとかそういう気持ちも多少残っているけど、閣下がわたしを大事にしてくれている気持ちは良く分かっているので、いまではそんなに怖くはない。こういうことは緊張するし慣れないけど。


「閣下の誕生日までに、色々片付いていたら……まあ、考えない事もないですけど――…ただし!それとこれとは違うんです!」

「いい感じに話がまとまりそうだったに、そこに戻るのか?」


 閣下が呆れたように言ったけど、わたしにとっては重要項目なのだ。

 適当に終わらせてしまえば、後々困る。

 実は、その事で考えていたことがあるので、それを提案してみた。


「お互い、プレゼントは手作りにしましょう!」

「はぁ?」

「手作りなら、気持ちも籠っているし、そんなにお金もかからなくていいじゃないですが……まあ、材料費は必要経費という事で見逃します……」


 物凄い質のよさそうな材料を閣下は手に入れそうだけど、要は何を作るかだ。

 お互いのセンスが試される。

 それに、高い材料費がかかっていても、手作りだと素直にもらえる気がした。


「手作り…ね。それは、明らかに俺が不利じゃないか?クロエの誕生日は間もなくだし、せめてハンデはあっても良いと思うが?」

「……多少職人の手を借りるのは良いとします」

「例えば?」

「主要部分は自分でやるとか…でしょうか?」


 何かを考えるかのように、閣下が黙り込む。

 そして、なんとかなると思ったのか、頷いた。


「よし、それでいい。クロエから言い出した事なんだから、そっちも問題ないな?」

「ありません。今から楽しみです!」

「俺も楽しみだ、クロエが俺に何を作ってくれるのか」


 正直言えば、まだ閣下がすごい事をたくらんでいそうで怖いけど、お金をかけたプレゼントに比べたら断然ましだ。

 別にお金をかけたからと言って、そこに気持ちがないという訳ではないけど、受け取る側としては気後れする。

 閣下がわたしの提案を飲んでくれるか分からなかったけど、とりあえず納得してくれたのでよしとする。

 今から閣下に渡すものを考えて作り始めれば、それなりの物が出来る筈だ。

 わたしが頭の中で何を作るか考えていると、閣下がそっと手首に触れてきた。


「あっ」


 すっかり忘れていた腕輪を閣下が外してくれた。


「試作品だが、なかなか調整はいいようだ。このままで進めよう」

「なかなかいいどころか、すごいですよ。これ考えた人は天才だと思います」

「それを聞いたら、バルシュミーデの主任研究員は狂喜乱舞するな。作り手に取って、作った物の性能を高く評価されることほどうれしい事はないだろうからな……今度会わせよう」


 閣下がうれしそうに笑って、わたしをぎゅっと抱きしめた。




*** ***




「誕生日おめでとう、一日早いけど」


 はいこれ、と教室でシャーリーに渡されたのは、趣味のよさそうなティーカップ二脚。お嬢様のシャーリーが選ぶものは、センスがあって使いやすいのでありがたい。


「一日早いけど、誕生日おめでとさん」

「お誕生日おめでとう。これわたしとロイからねぇ」

「ありがとう、シャーリー、リリノール、ロイ」

 

 双子二人から貰ったのは、お茶葉とおいしそうなお茶菓子セット。

 シャーリーもそうだけど、わたしがお茶好きだからそれに関連するものが多い。


「じゃ、これ僕から。誕生日おめでとう。いつもだったら食事する店で渡すんだけどね」

「ありがとう、ルードヴィヒ」


 ルードヴィヒに渡されたのは、数種類のジャム。

 紅茶に入れてもよし、パンに塗ってもよし。結構高そうなジャムなので、貴族御用達のお店なのかも知れない。


「一日早く渡すのって変な感じね」

「仕方ないね、明日休みなんだから。さすがに明日会うのは遠慮しないと」


 分かってるわよと言いたげに、シャーリーが肩を竦めた。

 そうなのだ、なんだかんだで明日わたしの誕生日が来る。

 そして、明日は休校日なので、こうしてみんな一日早くプレゼントをくれた。


「結局、明日のご予定はどうなっているのかしらぁ?」

「すげー、計画立ってんのか?」

「さあ?何も聞いてないけど、予定を空けておいてほしいとは言われたかな」


 あの晩、閣下からそう言われた。

 どこに行くとかそういうことは何も言われていないけど、なんとなくどこかに行くような感じだ。

 と言っても日帰りだろうから、そんなに遠くではない筈だ。

 皇都内か、それとも近隣領地か。


「あれだけの方が練る計画とかちょっと気になるけど…僕は何をプレゼントするのかも気になるよ」

「それね。わたしも気になるわ」

「俺も」

「わたしもよぉ」


 何て言ってもお金持ち。

 スケールが違うだろうことは四人とも分かっている。

 だけど、わたしはそれを防止するために閣下に提案したのだ。

 プレゼントの内容を。

 それを四人に説明すると、全員が呆れた顔になった。


「え、何その顔?」

「何その顔?じゃないわよ!あんた、本当にそんなこと言ったの!?」

「言ったけど…?」


 シャーリーがはあと盛大にため息を吐き顔を手で覆った。


「流石クロエ……言う事考える事、時々突拍子ないよね」


 と評価するのはルードヴィヒ。


「俺、彼女にそんなこと言われたら、どうすればいいか分かんねーよ」

「わたしもぉ、困っちゃうかも」


 双子の意見は否定的。

 むしろ、全員好意的な発言じゃない。


――あれ?


「ちなみに聞くけど、わたしは嫌よ。そんなこと言われたら。すっごい面倒くさい男だと思ってさっさと別れるわ」

「シャーリーに同意。まあ、いきなり別れはしないけど、やんわりと既製品を買い合う方に持ってくかな」

「ぜってー無理。女が好みそうなもん手作りするとか、地獄すぎ」

「時は金なりよぉ。お互い手作りが好きならいいけど、そうじゃないなら時間の無駄よねぇ」

「え……そうなの?」


 わたしの驚きに、むしろ驚かれた。

 それ、本気で聞いてるのと言っている。

 シャーリーが四人を代表して言った。


「クロエは確かに器用だし、色々細かい芸もできるからいいけど、普通に考えたら面倒くさいわよ。言っておくけど、超面倒くさい女と思われてもおかしくない!むしろ、わたしだったら別れる!それくらいありえない提案よ!」


 びしっと指を突き付けてはっきり言った。


「そ、そうなの?」

「むしろ、なんでそれがいい考えだと思ったのか、そっちの方が謎なんだけど。いいじゃない、プレゼントぐらい高いもの貰ったって。相手はクロエにそんな高価なもの望んでないでしょ。むしろ、考えてくれたものだったら何でもうれしいはずだから」

「プレゼントなんて高い安いじゃないだろ。気持ちだって、いっつもシャーリー言ってんじゃん」

「ロイにしてはまともな事言うわねぇ。でもその通りよ。お忙しい方だって分かってるのに、間近に迫るクロエの誕生日に突然手作りのプレゼントって言われてもねぇ」


 四人にごもっともな事を言われ、わたしは縮こまった。

 そして、反省した。というか手遅れなその事実に猛省した。


「うぅ…でもそれで良いっていうから……」

「そりゃ、自分から好きになった相手に――…しかも年下の彼女にそんな事言われたら大人として期待に応えたくなるでしょうね」


 言われて気付かされる。

 プレゼントは気持ちで、高くても安くてもそこには何かしらのメッセージが込められている。それにけちをつけるのは、結局プレゼント事態を侮辱しているのと同じだ。

 それに、リリノールも言っていたけど、閣下は本当に忙しい人なのに、そこにまた面倒くさい仕事が増やされたわけで…。

 その時は、良い案だと思っていたけど、こうして冷静に考えると、いかに自分勝手なのか良く分かる。


「そんなに落ち込むなよ。人は誰だって失敗するのは仕方ない事だろ」

「そうよぉ、それにいいよって言ったんでしょう?出来ない事をいいとは言わないわよぉ」


 ロイとリリノールが慰めてくれる中、シャーリーとルードヴィヒがお互い目で会話していた。

 なんとも微妙そうな顔で。


「なに?まだ何かある?」

「……あのさ、クロエって知らないんだっけ?」

「わたしに聞かれても分からないわよ。わたしだって、ちょっと話聞いたことある程度だし。でも、あれって本当のことなのね。ルードヴィヒがそんな顔するって事は」


 ますます分からない。

 双子二人も困惑顔だ。


「何?知らないって、どういう事?」

「いや、まあ貴族社会でもあんまり知られていないんだけど……あの方、実は魔鉱石の加工技術持ってるんだよね……つまり国が認めた魔鉱石技士なんだけど……知ってる?」


 魔鉱石技士というのは、魔鉱石を加工して魔道具を作ったり開発したりする専門職だ。魔道具は今や人々の生活になくてはならない物なので、それを扱う専門職は人気職であるのと同時に、その資格の合格率はなかなか低い。

 そして、閣下はそんな資格を持っているとの事だ。

 全く知らなかった。

 ただ、バルシュミーデのトップとして魔道具について詳しいのだと思っていた。


「知らなかったけど…、でもそれが何?」

「クロエ、魔道具好きでしょ?で、手作りのプレゼントって言ったわよね?」

「……まさか……」

「そのまさかかも知れない…。魔鉱石は北部の産出がメインだから、良い品質の魔鉱石を手に入れる事は難しくない。そして、すでに頭の中に描いている魔道具があるのなら……安全確認、動作確認の時間が少なくとも個人に渡す物なら、法律違反じゃない」


 そこまで言われてわたしは啞然とした。


――そうだ、わたし材料費は必要経費にするって言った……


 そんなわたしに、シャーリーが楽しそうに笑った。


「良かったわね、色んな意味ですごい(・・・)もの貰えそうじゃない?」


 すごすぎて、本気でお返し考えないといけない気がしてきた。

 今更ながらに、手作りと言ったことを後悔した。





魔道具作りは閣下の趣味だったけど、趣味が高じていつの間にか大企業になっていたという話。

今でも発案開発はしているので、クロエの意見は大変役に立っている模様。


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