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73.閣下の寝室での話2

 手始めに閣下はわたしの手を頭上で一纏めにして拘束したあと、足に体重をかけてきて完全にわたしが抵抗できないようにした。

 魔力が――…身体強化ができないわたしは、体格が絶対的に勝っている閣下に力で敵う訳がなく、あっさりと動きを封じられてしまう。

 しかも、閣下方は片手で悠々とわたしの両手を拘束しているので、もう片方の手は自由でそのまま顎を固定され、唇が重ねられる。


「んっ――…」


 軽く触れられる程度のものだけど、わたしはそれだけでも心臓がいつも早鐘のように打っている。

 それなのに、閣下の鼓動はいつも穏やかで力強いので、なんとなく悔しい。


「少しは何か気付けたか?」


 いつもならこのまま次第に深くなっていく口づけなのに、わたしに考える猶予を与えているのか、すぐに離れていった。

 頬を撫でる優しい手の感触と、物足りなさ。このまま何も分からないと言い続けるのもありか――…とか思考が解け始めていると、こちらの考えは分かっているのか、閣下が困ったような呆れたようなため息を吐いた。


「考える気もないのか?それとも、もっとしてほしいのか?」

「か、考えております!」


 一瞬、もっとしてほしいなとか考えていた事実を必死に隠しつつ(言ったが最後、不味い所まで行きそう)、再び思考の渦の中に行こうとすると、閣下がいつもよりも体重をかけて、わたしに身体を密着させた。

 その瞬間、驚きと困惑で、落ち着きかけていた心臓が、さっきよりもバクバクと盛大な音を立てて鳴り始めた。

 絶対自分の顔も赤くなっている。というか、信じられなくて驚愕して閣下を見上げた。


「なんだ?今更か?」

「え!ええぇ?あ、あの……そそそそ、それは――…じょ、冗談……ではないですよね?」


 わたしの慌て具合と混乱具合に、閣下は心底うれしそうに、そして何か悪だくみを考えているような顔でふっと笑った。


「意識させないようにしていた努力を褒めてほしいものだが?……前にも言ったが俺は聖人君子ではない。待つと言ったから待つが……チャンスを棒に振るうのも最近はもったいないなと思い始めているところだ」

「そ、そそそ、それは――…」

「忘れていないとありがたいのだが、俺は健康な成人した男なんだ。そういう(・・・・)欲は人並みにはある」

「ははは、はい。そ、その通りでご、ごごございますが?」

「つまりそう言う事だ」


――どういう事!?


 いや、どういう事じゃない。

 でも、なんとなく自分とのそう言う事に対してわたしが意識していなかったというだけの事。

 ただ、全く意識していなかった訳じゃない。ただ、待つと言ってくれた閣下の事を信頼して、先送りにしていたのは事実で…


――ま、まままま待って!本当に待って!!だ、だだだって今まで一度もそんなそぶり見せなかった…訳ではないけど、留まってくれていたし!!なに?場所?場所なの!?場所がそういう気持ちにさせるの!?そもそもチャンスを棒に振るっていうのは一体何!?


 大混乱のわたしの頭の中を良く分かっているだろう閣下が、更に身体を重ねるようにわたしに寄せてくる。

 そうすると、さっきよりもリアルに閣下の熱が伝わって来た。


「や…、あ、ああああの、あのですね!」

「なんだ?」

「い、いいい、一体いつから!?」

「どう言う意味だ?これ(・・)がいつからこうなのかと言う意味か?それともいつからこういう反応をするようになったのか、と時期を聞いているのか?」


 具体的な言葉に、言葉で返すことも出来ずに、こくこくこくと頭を振る。でも、今日の閣下はいつも以上に意地悪で。


「いつからだったと思う?」


 と返された。

 何が何でも今日は色々とわたしに考えさせたいようだ。

 それなのに、思考を乱すようなこともしてきて――…


――これは完全に拷問だよ!!


 とても楽しそうな閣下に涙目のわたしが対照的だ。


「危機感を多少与えた方が、人は必死になるものだ。そう思うだろう?」

「ど、同意しますけど……で、でもですね!?」


 にやりと笑って、閣下が鼻先が触れ合うほど近くに顔を寄せてきた。


「同意は肯定。つまり、クロエもこれは有効な手段だと認めたな?」

「いえ!否定!否定します!!」

「却下。知っての通り、ここは俺の私的空間で、ここでの出来事の裁量権は全て俺にある」

「ひ、卑怯ですよ!法治国家の名が泣きます!」

「ここでは俺が法だから問題ない。さて、だいぶ時間も与えたし――…色々と分かっていないであろう相手に少しは分からせてやるのも、法を司る者の役目だな」

「ち、ちが――――…ん!!」


 法を司る者は罪人を罰することであって、拷問めいた尋問を行うのは違う人の仕事。そもそも、今時戦時中でもないのに、拷問も尋問も人道主義に反しているので認められてもいない。

 そう言いたくても、言葉は全て吸い上げられて、息つく暇もない程攻め立てられる。


「ま、ま…て――…か、考えられな――…」

「頭を空っぽにするのも、一つの手かも知れないな」


 最近の閣下のスキンシップは、時々際どい所まで行く時がある。

 その度にクラクラして、でもどこかで自制もあってなんとか押しとどめていた。

 閣下も、どこまでがわたしの限界ぎりぎりの許容範囲なのか良く分かっているようで、そこを超えて来る事は無い。

 今のところは、閣下もそれで満足してくれている。本気で言えば、止めてくれる理性を残しているから、まだまだ余裕があるのだと……そう思っていたのはわたしだけなのだと、今日知った。


「あっ!だ、だめです!!」

 

 胸元の制服のリボンを解かれ、ボタンを手際よく外していく。

 片手なのに、とても器用な手つきだ。むしろ慣れていると言ってもいい。

 制服のシャツが完全に開かれ、下の肌着のしたに手が潜り込む。

 夏でもひやりと冷たい閣下の手が、今はすごく熱かった。

 その熱にびくりとし、身体をねじって逃げようとすると、手のひらが直にわたしの肌を撫でまわす。


「あ、か、閣下!」

「……前にも言ったが、ベッドの上くらいは名前で違和感なく呼ばれたいな……やはり慣れが必要か?練習か訓練か、それとも躾けるか」


――し、躾!?


「躾には、やはりそれなりの手技と手腕も必要だが…どう思う?教育システムの構築は必須そうだが、どういう教育を施せばいいのか、少し悩むな」


 どんな躾――いや教育なのか、聞きたくない。

 怖すぎる。

 流石にちょっと涙目になった。

 閣下はわたしの目じりに溜まる涙を舐めとりながらも動きを止める気はないようで、肌を撫でながらわたしの反応を楽しんでいた。


「まあ、それは置いておこう。そろそろ本題も考えてもらわねばならないしな」

「は、ははは、話をしましょう!今すぐに!頑張ります、頑張って考えますので!!」

「――…名前……名前で呼ぶなら、少し猶予を与えてもいいが?」


 リップ音を立てながら、わたしの胸元に吸い付く。 

 同時にようやく与えられた譲歩にわたしは飛びついた。


「あああ、あの!クリフォード様!!待ってください!」

「もう十分待ったが?」

「もうちょっと!もうちょっとだけ!」


 わたしの必死さが伝わったのか、閣下が仕方ないなという態度で、一度わたしの拘束を解いてくれた。

 閣下の身体が離れると、即座にがばりと起き上がり、外されたボタンを付け直す。

 その様子を隣で眺めていた閣下が、ふいに言った。


「ちなみに、好きな女性に触れていれば自然とこう(・・)なる」


 不意打ちのように言われ、ぎくりと身体が硬直する。

 本音で言えば、余裕がある閣下がそんな風になっているとは思っていなかった。


「流石に引き返せないほどになる前に止めているのは約束もあるからだが……だからと言って、煽られれば取り返しのつかない所まで行くかもしれないので、煽るのはほどほどにしてくれ」

「……努力いたします…」


 そもそも、いつも始まりは閣下からで、煽っているつもりはない。でもそれしか言えなかった。

 下手な言い訳は出来ない。


「それで?少しは考えたか?」


 慌てれば何もいい考えは浮かばないけど、こうしていれば多少の余裕と共に考えも浮かんでくる。

 閣下の身体の事情をあまり考えないようにしながら、もしかしたらと思う事を口にした。


「その…誕生日のことでしょうか?」


 何もしていない事に思う所があって、直近でそれが起こることと言ったら、それしか思い浮かばない。

 ルードヴィヒとの会話も思い出す。

 でもどうやら正解だったようだ。


「ようやく思い至ったか」

「ええと……確かにいった事は無かったですけど……」

「聞かなかったこっちにも非があるが…わざと隠していたな?」


 確信ある言葉に、ギクッと身体を揺らす。


「クロエの性格上言い出しにくいのも分かる……だが、それ以上に何かあって意識的に隠しているとも感じたが、間違いではないようだ」


 正解を当てた喜びのような笑みで、一度は解放してくれたのに再びわたしを抱き寄せて腕に閉じ込めた。


「で、その理由は?」

「そ、それは――…特に理由はないんですけど…」


 ぎくりと身体を揺らした時点で、白々しい言い訳にしか聞こえなかったが、とりあえず言ってみた。


「なるほど?……やはりもう少し身体に聞いてみた方が良かったか?」


 ぐっと少し痛いくらい身体を抱きしめられて、だいぶ冷めてきたと思っていた閣下の身体を背中に感じた。

 ただ、やはり一部完全には熱が引いていないようで――…


「人を欺くにはまだまだ人生経験が足りていないな。素直に言えば、このまま放してやらない事もないんだが?」

「あっ!」


 耳を甘噛みされ、声が漏れる。

 ゾクリとしたものが背に走り、身体が揺れた。


「ほら、言ってしまえば楽になるぞ?」


 今度は嬲るように舐められ、ひえっと悲鳴に近い声が飛び出た。


「……言わないのなら、どこまで耐えられるか、本気で身体に聞いても良いぞ?」

「い、いいい言います!今すぐに!!」

 

 一段と低く、色気の増した声音で脅され、その本気度が伺えた。

 さっきから熱の引かない閣下に流石に危機感が募る。

 閣下も言っていた。

 引き返せないところまでいったらやめられないと。

そして、強情に話さなかった場合、約束を反故にしてもいいんだぞと態度で示している。


「あ、あああ、あのですね!」

「うん?」


結局わたしは全部話すしかなかった。


 

 


ちょっと際どいか……という話。

ムーン行きか悩むところ。

これぐらいは、許容範囲?


気が向きましたらブックマーク、評価よろしくお願いします。




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― 新着の感想 ―
[一言] 閣下、健康な大人のオトコだものねぇ……クロエ、がんばれーー! 閣下、もう少し、もう少し我慢!!お預け!!! あ、とても、とても、面白いですーー(*ゝ`ω・)☆
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