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70.治療帰りの馬車での話2

「知ってるんですか?」


 流石、バルシュミーデの跡取り。他国情報もお詳しい。とは言っても。これくらいは序の口だ。

そもそも他国の事でも、聖王国の枢機卿は十二人しかいないので、全員の顔と名前は一致しているらしい。


「枢機卿は基本的に実力ではない。いわゆる政治力がものを言う。そこで勝ち得たものが枢機卿となり、さらにその先の法王の頂に上ることが出来るのを知らない他国の上層部は皆無だ」


 一般的には、神の御意思とか言われているけど、本当に出来レースのようだ。

 

「その、最有力候補は一番法王になってほしくない性格の持ち主だ。本来なら枢機卿にさえなれないような人間だが、金の力は偉大だ。そして、やりたい放題できる。一番好戦的性格なのもやつだ」


 デッドリック枢機卿が法王になるのは確定路線なだけに、対策に追われそうだと閣下がこぼす。


「ところで、今の法王の任期が歴代一位なのは聖女殿のおかげなのではないんですか?」

「あら、やっぱりわかるかしら?その通りよ、逃げ出してクロエを産んで戻った直後に取引したの。すべての害悪から守るから、出産したことを漏らさないようにとね」

「どういう事?」


 なぜ自分の身体を狙っていた相手を守る選択をしたのか分からなかった。母様の性格なら、むしろこっそり毒殺ぐらいしそうな気もする。意外と好戦的で行動力がある人だ。


「早晩、わたくしの身体を見れば子供を産んだことがバレるわ。聖女が子供を産むとなると、聖者のシステム上絶対に法王の子供でしかありえない。歴史上そういう聖女もいたにはいたけど、病死するのよ。聖者も法王もね」


 病死――その意味が分からない程馬鹿ではない。

 その意味はつまり――…


「毒殺、もしくは暗殺」

「そうよ。法王の地位を望む人間は、法王の子供なんて望んでない」


 ある意味最高の邪魔者となる可能性があるからだ。


「むしろ、法王の任期が基本的に短いのは毒殺、もしくは暗殺されるから。誰もが一度はこの地位に立ってみたいのね。常に命の危機にあるのが法王という者なの。それを知っているのに、権力に取り憑かれた人間は、狂った様にこの地位を求め、守るのよ」


 命以上に大事なものはないのにとは母様の言葉だ。

 生きているから好きな事が出来るのに、死んでしまえば何も出来ない。

 でも馬鹿に何を言っても無駄だ。そして、そういう人間とは価値観も違い過ぎて、理解も出来ない。


「とにかくどうやって自分の命を守るか――、これが法王たちが最も頭を悩ませる問題。でも、わたくしは歴代でも一位二位を争う使い手。味方に付ければこれほどいい命の保証もないわ。あっさりとこちらの提案を飲んでくれた。だからこそ、老衰まで生きられる。むしろ、表立った死因はともかく、近年では珍しい老衰の死亡者なのは間違いないわ」


 ここ数年は特にひどかったようで、母様は少し疲れ気味だ。

 でもそれも全てわたしを守るためだと思うと、何も言えなくなる。


「嫌なことまで思い出させて申し訳ありません。でもご教授ありがとうございます。おかげで法王と聖者の事も知る事が出来ました」

「いいのよ、どうせ年越せるかどうかも分からないのだから。わたくしがここまでこれたのも毒殺も暗殺も警戒しなくていいからというのがあるわ。どっちにしろもうすでに意識がないのだから、早いか遅いか、その違いよ」


 母様の心はすでに聖王国を離れている。

 いや、もともと忠誠心というものを持ち合わせていなかったものが、やっと全てから解放される喜びに傾いているようにも思えた。


「もし任期が明けたら、どうなさるおつもりだったんですか?」

「一応規則では、就任式を見届けて、次代に譲り渡す儀式を行ってから自由になれる筈だけど…まあ、自由になる事は無いでしょうね。なにせ、聖者は多かれ少なかれ、聖王国の中枢情報を持ってしまっているのだから」


 だからこその結婚なのだと気付いた。

 聖者を引退したら、おそらく用意された信者との監視付きの結婚生活が待っているとそう言う事だ。


「しばらくはこの国に滞在されたらいかがでしょうか?もしお望みなら国籍取得の手続きも進めておきますが?」

「あら~、こういう時権力者の未来の義理息子(むすこ)は頼りになるわね」

「ちょ!母様!!」

「ぜひお願いしたいわ。わたくしの故郷ですし、適当な身分で、自活できるまで面倒見てもらえるとありがたいのだけど?」


 母様の図々しい願いも、閣下は笑顔で了承する。

 そんなに簡単な事ではない。

 どうやって国籍を作るのかものすごく気になる。


「何か危ない事考えていそうだが、違法性は皆無だからな」

「そうよクロエ、クリフォード君に失礼よ。それに多少の違法性は母様妥協しちゃうわ」

 

 それこそ閣下に失礼だ。そしてそこは妥協したらだめな案件だ。


「ちなみに、父様には頼らないの?」

「あの人に頼るくらいなら、獅子堂のアヤメ様に頼った方が効率的ね」


 的確な指摘に何も言えなかった。

 アヤメ様というのは、獅子堂のお母様の事で、わたしの育ての親でもある。

 すごくしっかりした出来た人で、ママの生んだ兄様たち三人も教育した人だ。

 逆に父様は、女好きでいつも他国をほっつき歩いているので、実質獅子堂の家を守っているのはお母様だった。ちなみに今は一兄様が継いでいる。

 そんな父様に頼ったところで、実際手続きしたりするのは絶対お母様の仕事だ。


「それに、今どこにいるのかも知らないわけだしね」


 それは確かに。


「そう言えば、クロエの姓は聖女殿の本名ですか?」

「ええ、そうよ。本当は獅子堂の家に正式に入れた方がとも思ったんですけどね……、獅子堂の家がとにかく女の子が生まれない家で、クロエを正式に娘としてしまうと政略結婚に使われてしまうとアヤメ様に言われて。とりあえずわたしの姓で出生届を東国で出したのよ」


 東国は鎖国しているわけではないけど、内情を調べるのはなかなか困難なくらいには他国の人間は目立つ。


「クロエは東国の人間との間の子供だったから簡単に出生届は受理されて、国籍もできたのだけど、わたくしはそうもいかないから、アヤメ様に後見人になってもらって、そのままお預けしたのよ」


 正直、まだ物心つく前はいつも側にいるお母様の事を実母だと思っていたし、一兄様を実父だと思っていた。

 いまでもネタにされるその話題を母様が口に出すと、閣下はなんとも微妙そうな顔になった。

 今度挨拶に行くと言っていたので、色々思う所があったのかも知れない。

 

 その晩は、生まれて初めて母様と一緒に寝た。

 人生で一番母様と一緒にいた瞬間で、もっと話していたかったけど、わたしも母様も疲れていたので、早々に眠りについた。

 そして翌日、母様は名残惜しそうな顔をしながらも、閣下に再びわたしをよろしくと挨拶を交わしてあっという間に聖王国へ帰って行った。




*** ***




 結局その後、怒涛の日々からの疲れからなのか、ほっとした安心感からなのか、久しぶりに熱をだして倒れてしまった。

 邸宅でいつも以上に気を使われ、それこそ指一本動かさなくてもいいかというくらいの手厚い看病を受けて、熱はすぐに下がった。

 ただ、心配性な閣下がしばらく学院は休むように言い、まあ、実際まだまだ回復しきれていなかったので友人関係に連絡してそのままさらに休む事三日。

 結局、あの誘拐されて以来学院に登校出来ていなかったので、七日ぶりの登校になった。

 わたしが休んでいる間、シャーリーやリリノールが何度か連絡をくれた。

 その中で、登校したら覚悟しておくのねとシャーリーに脅しかけられて、またカフェテリア辺りで会議が開催されるのかと思って、苦笑交じりではいはいと軽く流していた。

 しばらくぶりの登校日、心配性の閣下に送ると言われたけど、馬車は目立つので嫌だと断ったら、せめて私設護衛隊の人を一人は必ずつけろと言われ、そこは譲歩した。

 もともと貴族学校だった皇都ロザリア高等学院は、馬車やお付きの人と登校する学生は珍しくないので、それくらなら珍しくもない。

 まあ、閣下にも色々心配かけたし、それで心の平穏が少し出来るなら別にいいかと思ってしまった。

 学院に近づくにつれ、なぜか視線が多くなってきた。

 もともとどちらかと言えば目立つ容姿ではあるけど、貴族の令嬢でもないので、ちらりと見られたらすぐに視線がそらされるくらいの事は良くあるけど、今日は違った。

 ガタイの良い護衛と一緒だからかとも思ったけど明らかに違う。

 わたしが通るとひそひそと話も聞こえてきた。

 わたしに対する良くない噂でも流れているのかと思ったけど、それならそうといつもつるんでいるみんなが連絡の一つも入れてくれそうなものだけど、そんな連絡は一つもない。

 ただ、お大事にと言われ、いつ登校するのか確認されたくらいだ。

 校門前で護衛と別れて中に入ると、いきなり腕を取られた。

 驚いて身構えるも、相手が分かるとすぐに構えを解く。


「シャーリー、驚かさないでよ」

「ここでわたしが待っていたことを感謝するのね」

「どういう事?」

「……あんた、最近新聞読んでないの?」

「まあ、最近意識なかったり寝込んでたし……何かあったの?」


 はあとため息を吐かれぐいぐいと引っ張って人気のない所に連れて行かれる。

 鞄の中から新聞を数部渡された。

 皇都新聞を筆頭にそこそこ有名な新聞社のものが取り揃えられていた。

 呆れた様子のシャーリーに事情を聞くよりも先に押し付けられた、新聞を読み進める。一面になっているのは、やはりあの事件の事。

 そして――…


「えっ!?」


 その一文を目にした瞬間、驚きの声が漏れ、人気がない廊下に響いた。


「知らされていなかったの?今、学内じゃその事が噂で持ちきりよ。あんた、よくも悪くも目立つから」


 いや、確かに聞いていた。

 忘れていたけど、閣下がそんな事言っていた。だけど、あの事件が収束したので、それもなくなったと勝手に思っていた。

 だけど、さすが閣下。

 有言実行どころか、即時行動……


『バルシュミーデ跡取り、クリフォード・ゼノン・バルシュミーデの婚約者は未成年の少女!』


――うん、これ…間違ってるけど?あれ?事件に巻き込まれ、救い出された婚約者の元に毎日会いに行っている?


 間違っていないけど、間違ってないか?

 婚約者じゃないんだけど…と思いながらもすべての新聞がそんな風に書かれていた。

 でもこれではわたしだとは判断できないと思っていたら、続いてシャーリーに三流新聞を渡される。

 嘘も誠も、読み物として人気の新聞というか娯楽紙。


『婚約者の正体は、東国からの留学者』


 とあった。

 ああ、これは確実に限定されるやつだ。

 やっと納得できた。

 でも一つ訂正したい。


――付き合っているけど、婚約はしていない!


 と。





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[気になる点] 聖女様視点の産まれからここまでの話で書籍2巻位作れそうな濃密な人生歩んでそう…自国に負の感情しかない聖女とかワクワクがとまらないですねぇ
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