65.薄暗い店の中での話2
店長の魔力に影響され、天井のライトがパンと破裂した。
わたしたちが座るカウンターの頭上ではないから被害は無かったけど、にじみ出る魔力はなおも増え続け、店に置いてある魔道具のいくつかが影響を受けていた。
「私としたことが…」
ふーと息を吐き、店長が自らを律するように落ち着かせる。
ただし、すでに本音は外に漏れていた。
これほどの殺意を持っていた事に驚き、それが閣下に向けていたものだと知りさらに驚愕の事実だった。
「クロエ君は驚いているようですが、別に物凄い仲の良い友人という訳ではありませんよ。まあ、頼れるなら便利かなぐらいの関係です」
「そうだな」
確かにずっと閣下は言っていた。
知り合いだと、友人ではないと。その時は、単なる同類に見られたくない照れ隠し的な感じかと思っていた。
だけど、本当はかなり根深い所でお互いを拒絶しているようだ。いや、もしかしたら閣下の方はそうは思っていないのかも知れない。だけど、店長がそうやって閣下を拒絶しているから、閣下自身もそう言ってあげている、そんな気がした。
「いつから、気付いていたんですか?」
それは純粋な興味だった。
店長もそれを知りたいのか、閣下に視線を向けた。
「ヴァルファーレが、この店を俺に任せて迷宮に行ったと聞いた時から疑っていた」
それには店長も驚きに目を見開いた。
「そんな前から?」
「窃盗事件もヴァルファーレの仕業だと気付いたのは、クロエに言われた時だが。おかげで色々気付かされた」
「どうして気付いたんですか?そんなそぶり私には見せなかったではないですか…」
閣下は肩を竦めて当然だろうと言う。
「どれだけ付き合いが長いと思っている?どう言い繕ってもお前が俺を許す事は無いし、俺はそれに対し後悔もない。俺の事を心底嫌っている人間が、自分の店を任せると言ってきた時点で、おかしいと思うだろう?」
閣下はこの店を訪れて、わたしの渡した手紙を見て、初めから疑っていた訳だ。
全く気付かなかった。
「どうしてこの店を、クロエを守らせようとした?そこまでしようとした相手をなぜ巻き込んだ?」
理解できない店長の行動原理を問い詰める閣下に、店長はふいと視線をそらせた。
カウンターに肘をつき虚空を眺めると、ポツリと言う。
「君と…付き合いだしたからでしょうか……」
「何?」
「クリフォード自身も認めていたでしょう?許すわけがないと……だから味わってほしかったんですよ。大切なものを守れない無力感を虚無感を……それでも変わる事がないのか見てみたかったんです」
自分勝手な言い分なのに、悲しそうな店長。
閣下も苦しそうだ。
「俺のせいだったか…」
「あなたがリアムド・ローレントの件で店に来るのは分かってました。店は開けなくてもいいと言っても、真面目なクロエ君なら店を開けるはずです。そして、店にやって来たあなたなら、クロエ君から私の事を聞いたら、たぶん自分の保護下に置こうとするだろう事は想像がつきます」
当初はわたしに危害を加える事は考えていなかった事がその話から窺えた。
リアムドさんの件で巻き込む可能性があったから、閣下を護衛につけようとした。閣下の保護下なら、第一皇子も簡単には手が出せないから。
「まさか、あなたがクロエ君の事を好きになるなんて誰が想像つきますか?」
苦笑の漏れる店長に、それはわたしも思う事。
いや、店長やわたしだけじゃなく、閣下を知ってる全員が一度は思う事かも知れない。
というか、もしかしたら閣下自身も思っている事の様な気がする。
「そこから少し計画が変わりました。せっかくですから、順を追って話しましょうか。クリフォードもきっと気になっている事でしょうしね」
クリフォードが言っていた通り、私は教会が禁書にした迷宮を人工的に作る研究の資料を偶然手に入れたんです。
ここは、本当に偶然だったんですよ。
むしろ、クリフォードがなぜそんなものを読んだことがあるのか、そちらの方が知りたいですが――…まあ、いいでしょう。
もともと人工的に迷宮を発生させる方法を研究してはいたんですが、その研究資料を読んでなるほどと納得させられました。
そして、それを引用する形で実験を始めました。
その第一の実験結果が、砂漠の迷宮です。
少し、魔力的に弱くはありましたが、ちゃんと迷宮でしたよ。
ただ、そのままにしておくとそのうち誰かが解明しそうだったので、核を破壊し今ではもうありません。
とにかく実験は成功、結果的には満足しました。
次に私がしたのは目的にあう迷宮を作り上げる事です。長年の研究で迷宮にはそれぞれ傾向というものがあり、その傾向を決めるのが迷宮の核です。
力の源になる魔力と感情、これが迷宮の正体ならば、楽しい感情やうれしい感情、神聖な空気と厳かな空間…、それによって私の目的とする迷宮が出来る可能性が高かった。
一番近い所で、バーバリア領の祭りだと考えました。
実はバーバリア領の迷宮産魔道具の事は以前から知ってました。
あそこの領主は俗物なので、自分たちの利益になるのなら手段を選ばない事も。案の定あっさりと私の話を信じ、そしてそれを利用しようと考えたんです。
大勢の人を集められて、そこから魔力をむしり取れ、さらには作られた事とはいえ神聖な場でしたから。
カールハイツ様がいらっしゃったのは予想外でしたが、そのおかげでクロエ君を違和感なく送り出せました。
まさか、クリフォードまであとを追いかけるとは思いませんでしたが…。
結局、あの事件は未遂で終わり、次の手を考えなければなりませんでした。
その時、狂信的なやつらがいると思いだしたんです。そうです、あの絵を盗んだ奴らですよ。
クリフォードは絵の窃盗も私の仕業だと思っているようですが、そこだけは否定しますよ。私ではありません。まあ、関わっていないかと言えば嘘になりますが。
この店に来た彼らは盲目的に悪魔というものに取り憑かれた奴らです。実際、魔道具の力によってそれぞれが呪われていましたが…。
そうですね……、初めてこの店に来たのはもう五年ほど前でしょうか。
迷宮産の悪魔絵を探していると言うので、教えてあげました。絵を何に使うかは聞きませんでしたが、当時は本当に荒んでいましたからね、あの抜け道も教えてあげました。
絵が盗まれたと知った時、すぐに彼らだと思いました。
なぜ今なのかとは思いましたが、もしかしたら地下通路へ下りる手段を探していたのかも知れません。
なにせ、クロエ君も知っての通り、あそこの道を空けるのは相当大変です。
簡単に出来るクロエ君が少し規格外なのですから。
まあとにかく、私は悪魔なんかには興味の欠片もありませんでしたが、利用できると思ったんです。悪魔召喚で起こる騒動は、私の目的とする迷宮とはかけ離れた存在ですから、集めた魔力だけをいただこうかと思いまして。
しかし、ここでまた想定外の事が起こりました。
クリフォードが誘拐事件を捜査するとすぐに露見することは分かっていました。そのため裏から手を回して外させたのはいいんですが、まさか窃盗事件の担当になってしまうとは思いもよりませんでした。更に、クロエ君がクリフォードに地下通路の事を話してしまった。
知っているかも知れないとは思っていたので、なんとか早く追い出したかったんですけどね…、間に合いませんでした。
まあなんにせよあれはまずかった。
なにせ、あの地下通路の一角で準備を行っていたのですから。
そのせいで計画を早めなければならなくなった結果、少しのずれから芋づる式にクリフォードに知られてしまったという事です。
店にカーティス殿下と入って来た時には、流石に覚悟を決めたんですけど、司法取引を持ち掛けられたのは少し驚きました。時間がないと言うのも知っていたのでしょうね。
正直身内にだって厳しいクリフォードが、クロエ君のために私を見逃すくらいならどうってことないと判断したのは驚きましたが…、現時点で私が黒幕だという証拠もなかったというのもあると今は思ってます。
まあ、今は殿下の影が私を監視していますので、下手な事は出来ませんので安心してください。
話し終えると、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
大体の事件のあらましは分かったけど、分からない事がいくつかある。
そもそも、なぜ店長はここまで迷宮にこだわるのか。しかも、望んだ迷宮を作り出す事にこだわっていたのかだ。
もともと、好きな分野ではあったと思うけど、ここまでするのは何かわけがある筈。
「わたしはなぜ店長が迷宮を作り出す事に固執するのか良く分かりません…しかも自分が欲しい迷宮とか。一体どんな迷宮ならいいんですか?世界にはたくさんあるのに、それのどれも違うんですか?」
「そうですね…、もしかしたらクロエ君も薄々気が付いているかも知れませんが、迷宮によって産出される品が偏っています。魔剣が産出される迷宮は、魔剣が多く、攻撃系魔法が組み込まれ魔道具ならそれ系が多くなります。さらに、今はなきルメリードはそれこそ呪われた魔道具や絵画が多く産出されました」
それはわたしも最近気付いた。
店長の店で色んな迷宮産魔道具と関わるからこそ、迷宮によって産出される物が偏るのだと。でも、そもそも魔道具自体の産出は少ないので誤差範囲とも思える。だけど、色々統計を取ってみると、明らかに偏っていた。
「迷宮協会も気付いていますよ、さすがにね。でもそれを公表してしまうと、迷宮探索の人数が偏るでしょう?」
それはそうだ。
魔剣や、便利な空間魔法付与されたような魔道具が産出される迷宮は人気が出て人が集まるけど、そうでない迷宮は人が閑散としてしまう。迷宮内の魔獣を討伐してくれる協会員がいなくなれば、迷宮内の魔獣が溢れてしまう結果管理出来ないと判断され、迷宮を破壊するしかなくなる。
しかし、魔道具の産出はゼロではないので迷宮協会は迷宮自体を壊したくない。その結果公開しない事にしたようだ。結局大人の事情と言うやつだ。
もちろん、そこそこ名の知れているような人たちはわたしの様に薄々察しているようだけど。
「話を戻しますが、私が欲しいのは最高級の治療薬です。今のところ、世界中探しても私が求めるレベルのものは一本しか産出されていません。そして、この治療薬は産出された瞬間に協会で管理されます。私でもどうすることも出来ません。それこそ自分で迷宮で手に入れるしか方法がないのです。それだったら、自分で迷宮を作った方が確実だし早いという結論になりました」
つまり、治療薬が産出されやすい迷宮を作る事が目的であるという事だ。
でも、更にそこで疑問がわく。
どうして、治療薬がほしいのか。誰かが必要としているのは分かるけど、店長が犯罪を犯してまで尽くすような人物に心当たりがない。
「誰に使いたいのかって顔ですね?……まあ、ここまで話したら同じでしょうね」
どこか諦めに似た顔で店長が言った。
「私の婚約者です――…もう十年時が止まってしまっていますが……」
そう話す店長の顔は、悲しみに満ちた笑みだった。
一応伏線がんばって回収しているよって話。
伏線回収し忘れていたら、ごめんね、ご都合主義だからで終わる話…TT
ちなみに、まだ伏線回収?は続きます……
気が向きましたらブックマーク、評価よろしくお願いします。




