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59.高等学院の図書棟での話

「おはようございます、旦那様、クロエ様」


 何か所かある使用人用の出入り口で待っていたのサラとロイドさんだった。

 お仕着せを着たサラしか見たことがなかったので、制服姿は新鮮だ。


「ロイド、俺が引き付けるからその隙に行け」

「心得ております」

「クロエ、あまり無茶はするなよ」

「分かってますよ」


 そんなに注意されなくても問題行動は起こしませんよ。わたしを暴れ馬か何かだと思っているのだろうか。


「閣下も気を付けてください」


 離れていく背に向けてわたしが言うと、軽く手を挙げて反応を返してくれる。

 しばらくすると外がざわつき、邸宅の正面玄関の方で騒ぎが大きくなった。

 わたしたちが邸宅を出やすい様に分かりやすく外に出たようだ。


「行きましょう」


 ロイドさんが通用口を開けると、数人の記者がたむろっていて、こちらに注意が向く。

 未成年少女の拉致監禁疑惑が浮上している邸宅から高等学院の制服を着た少女が二人出てきたら、それはもう注目の的だ。

 記者が近づいてきて話しかけようとしたけど、そこは流石ロイドさん。

 記者を威嚇し、近づけさせない。

 流石に武力行使はしなくても、その眼光だけで素人ぐらいは押さえつけられる。


「早く行こう」


 少し怯えているサラの手を取り、記者の間を抜けていく。

 流石に邸宅から離れればわたしたちが無関係と思っているのか追いかけて来る事もなかった。


「申し訳ありません、クロエ様……こういった事には慣れていなくて……」

「大丈夫、何かあってもわたしとロイドさんで守るから」

「本来ならば、わたしの方がクロエ様をお守りしなければならないのですが……」

「適材適所だから。わたしはこういう荒事慣れてる方だし、問題ないよ」


 にこりと笑うとサラはホッとしたように微笑む。

 ここから近いのはわたしの通っているロザリア高等学院だ。そこで別れて、ロイドさんはサラの通っている学院まで送る予定。

 わたしはまだ少し震えているサラの手を取ったまま、ロザリアまで歩いて行った。




*** ***




 学院に着くと、朝の早いシャーリーがもうすでに来ていた。

 わたしに気付くと席を立って小走りで近づいてくる。


「おはよう、シャーリー」

「おはようじゃないわよ!ちょっとこっち来て!」


 鞄を置く暇なく、シャーリーに引っ張られていく。

 シャーリーの心配というか聞きたいことは嫌というほど分かっているので、素直にそれに従う。

 シャーリーが途中でコンバイルで誰かに連絡していたけど、たぶんいつものメンバーの誰かだ。


「今クロエ捕まえたから、そっち行くわ。今日ぐらい授業さぼっても問題ないでしょ」

「えっ?さぼ――…」

「うん、分かってる。そっちは?――……うん、よろしく」


 どうやら授業をさぼること前提の会議が開催されるようだ。

 まあ、わたしの方からも話したいことがあったからちょうど良かったと言えるけど、まさか授業をさぼる事になるとは思わなかった。

 確かに世間的には重大事件だけど、シャーリー達がここまで反応するとは考えていなかった。

 引っ張って連れてこられたのは、学院内にある図書棟の最奥だ。

 さすがに授業があるのにカフェテリアの個室は使えない。

 使っていたらさぼりだとすぐにバレて、教師から呼び出しを食らう。一応、そう言う事には厳しいのだ。

 ただし、成績が全てのこの学院では授業に出なくても勉強しているという建前があればそこまでうるさく言われなかったりする。

 その建前が成立するのが、この図書棟だ。

 そしてこの図書棟には大小様々な個室がある。

 よくさぼって寝ている学生もいるのは暗黙の了解だ。


「ああ、来たね。おはよう、クロエ」

「おはよう、クロエ、シャーリー」

「はよー」

「おはよう、ルードヴィヒ、リリノール、ロイ」

 

 思っていた通りのメンバーが勢ぞろいだ。

 空いている席に座ると、シャーリーもすぐに席に着く。

 なんとなく二日前のカフェテリアでの配置を思い出した。


「さて、単刀直入に聞くけど、これどういうこと?何か聞いてるんでしょ?」


 バンとシャーリーが今朝の皇都新聞を叩きつける。

 一応防音だけど、もう少し静かにお願いしたい。


「と、言われてもね……わたしだって何がなんだかよくわからないんだよ。これ、本当」


 きっかけはあったけど、だからってなんでこんなに話が増長しているのか本当に分からない。天下の皇都新聞が不確かな事を記事にした理由をこっちも知りたい。


「この間言った、記憶がない人が全員バルシュミーデ卿の名前を出したってところが、完全に裏があるよね…それを確かめないで記事にするなんて皇都新聞じゃあありえない。三流新聞ならともかく」

「俺はあんまり新聞読まねーけど、流石におかしいとは思うぞ。大半がそうじゃないのか?」

「それが、そうでもないのよ。信用ある皇都新聞が出した記事よ?信用に値するって考えるでしょ、普通。特に、今は貴族階級者に対して世論が厳しい情勢だし」


 最近貴族階級者の不祥事が続いている。どれも細かい事件ではあったけど、そのせいで、貴族階級に対する世間の目が厳しい所に、バーバリア領での事や、上層部が貴族階級が多い軍務局が事件を隠していた事が知れ、追い打ちをかけた。そんな時にこれだ。

 真面目な人こそ事件の当事者になると、それが嘘でも人々は信じていってしまう。

 

「この匿名ってぇ、どうせあの政治家でしょお?声高に軍務局を非難してた…」

「たぶんね…閣下が言うには大分前から皇都新聞とは繋がっていた可能性があるって……」

「だろうね。そうでなければこんな記事はでないよ」


 わたしのせいではないと閣下は言ってくれたけど、やっぱり少し責任を感じる。

 もしわたしがあそこで何も言い返さなければ、少しは違っていたんじゃないかと。


「実は、ここだけの話なんだけど。その政治家が、昨日邸宅に来たの。その理由が、娘を助けてくれたお礼だったんだけど…完全にそれは建前だったよ」


 昨日のやりとりを軽く話す。

 それを聞いて黙り込む四人に、わたしはため息を吐いた。


「実はそれで、わたしにもやっぱり責任あったかなって思ってさ…」

「いや、それはないね。さっきも言ったけど、こんなことするならそれ相応の準備って必要だから。昨日今日で出来る事じゃないよって言っても、昨日今日の話だけどさ…」

「それ言うと、初めからその女の件も怪しさしかないけど?」

「あのさ、良く分かんねーけど。初めからそいつが犯人なんじゃねーのか?」


 ロイの発言に全員がロイを見た。


「馬鹿なの?政治家がなんで誘拐事件なんて起こすのよ」

「知らねーよ。でもこういうのって言ったもん勝ちなところあんだろ?しかも先に言った方が怪しいことなんて良くあるし」

「本読まないけどぉ、本の読み過ぎじゃないのぉ?推理小説じゃないんだからぁ」


 シャーリーとリリノールから反論され、ロイはぶすっとして黙り込む。

 しかし、それにルードヴィヒが何か思いついたように言った。


「いや、あながち間違いじゃない可能性もあるよ」

「はぁ?」

「だからさ、ロイのいう事を元に考えれば、それはあながち間違いじゃないかもって事。一先ず動機とかは置いといて、もし仮にその政治家が犯人とすると、全部仕組めるよね?」


 誘拐に見せかけて一時的に失踪してもらう事も出来るし、その後記憶がないふりをしてもらうことも出来る。そして、タイミングを見計らって証言してもらう。

 確かに仮に犯人だとすれば、無理ではない。

 いくら何でも荒唐無稽すぎる推理だけど。


「この事件は夏の長期休暇中に起こっていた事だし、学業に支障もないだろうしね。もしかしたら家族ぐるみの可能性だってあるよ」

「政治家で、しかも実家は金持ち。金をちらつかせれば、出来ない事はない……で?動機は?」


 完全にネタの様な推理にシャーリーがため息を吐きながら聞く。


「さあ?バルシュミーデに対する恨みとか?」

「あのねぇ、それだったらもっと手っ取り早い方法だってあるでしょうよ。なんでそんな回りくどい事すんのよ」


 正論なシャーリーにルードヴィヒが肩を竦めた。


「ふと思ったんだけどぉ、その政治家さんって大丈夫なのぉ?」

「どう言う意味?」

「操られてないかって事よぉ」


 それこそ普通なら頭のおかしい発言を疑われる。

 ただし、ここにいるメンバーはそうは思わない。なにせ、魔法という存在をきちんと肯定しているからだ。


「どうなのぉ?」


 リリノールがわたしを見て聞いてくる。

 少し考えてわたしは答えた。


「確かにそういう魔法はあるけど…、でもそうだったら会ってたら気付いてると思うけど……」

「魔法じゃないとしたら、じゃあ呪われた魔道具関係は?」


 間髪入れずにルードヴィヒが質問する。

 呪われた魔道具とは、迷宮産魔道具の中でもかなり悪質なものだ。

 人の心に語りかけ、意識を乗っ取っとたりする事がある。

 自分の意思ではなく、魔道具の意思が優先され、その魔道具の目的を達成するために人の身体を意のままに操ったりする危険な魔道具。

 ただし、産出された瞬間に危険魔道具として迷宮協会に破壊される。

 少なくともわたしは見たことないし、店長の店に持ち込まれることもなければ、店長が持っているのも見たことがない。


――だけど…もし本物があったとしたら……


 存在自体はしているのだ。

 リブラリカ皇国では保有しているだけで犯罪だけど、隠しているのならバレる事もない。

 そして、目的がはっきりしなくても、本人の意思ではないのなら考えるだけ無駄だ。


「まあ、正直どれも口に出したら頭を疑われるような推論だけど、どれもなくはないと言えばそうじゃない?」


 ルードヴィヒの言った通り。

 すべての可能性を考えるなら、無くはない。


「とりあえず、店長に聞いてみるよ」


 迷宮産魔道具の事なら店長に聞くに限る。

 ただし、コンバイルで連絡しても連絡がつかない事が多いので、実際に店に行った方が早い。

 とりあえず、連絡を入れてみたけど、案の定出る様子はなかった。


「お店行った方が早いんじゃない?」

「そうなんだけど、色々とあって一人での行動はダメなんだよね」

「あー、まあそうか…」

「とりあえず、話はしてみるよ」


 閣下に話しておけば、もしかしたら調べてもらえるかもしれない。

 実際閣下からしても荒唐無稽な話ではあるけど、可能性の一つとして参考にしてもらえればそれでいい。

 わたし一人では思いつかない事を色々意見してくれて、みんなの意見はすごく参考になった。




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