44.カフェテリア個室での話2
「それで?二人の馴初めと状況は分かったから、なんでバルシュミーデ卿の邸宅にお世話になる事になったのか教えてほしいんだけど?」
ルードヴィヒ的にはわたしと閣下の進展具合はあまり興味ないらしい。
その方がありがたいけど、また答えづらい質問が来た。
「僕は、付き合ってるから同棲してるのかと思ったけど、どうも違うみたいだし…」
「ど、同棲!?」
「付き合ってる男女が一緒に暮らすならそう言うでしょ?」
「そ、その時は付き合ってなかったし!」
「ふーん、じゃあ同居でもなんでもいいけど。とにかく、自分の邸宅に入れる位にはクロエを好ましいと思ってるのは分かるけどさ、だから?初対面に近い女性を自分の家に招くかな?」
それはわたしも思った。
だけど、それは閣下の親切だと思って割り切っている。それに、契約の事もあったからだとも。
それを説明すると、なるほどねとルードヴィヒは納得しながらも、まだ不思議そうだった。シャーリーも同様で、そう言う事もあり得るのかしらと呟く。
どうやら、貴族階級と上級階級の二人が知ってる閣下とわたしの話す閣下とのイメージがかけ離れているようだ。
「でも、ルイージュ様のお店に通うようになってもう四年?結構入り浸ってるイメージあるけど、よく今まで会う事なかったね」
「うーん、でもか…、バルシュミーデ卿って忙しい人だし、学校卒業しちゃったらそんなものじゃないの?」
「まあ、ありえなくはないか……深く考えてもしょうがないな」
ルードヴィヒはなんか色々知りたがっているけど、わたしに話せる事なんて大してない。
「そう言えばぁ、バルシュミーデ様ってマダムの事ご存じなのぉ?」
リリノールがふと思い出したかのように言った。
その事はお付き合い当日にちゃんと報告してある。
「言ったよ。驚いてたけど、それだけだったかな…?」
いや、ちょっとやらかしたと思ってる感じの顔はしてた。
「一応わたしは気にしないって言ったんだけど……まずかったかな?」
男二人の意見を聞いておこうとそう言うと、ルードヴィヒが閣下に同情的になった。
「クロエ…バルシュミーデ卿の心抉って来るね……すごいよ、逆に」
シャーリーも呆れたように男二人に聞く。
「理解示されるのって、男としてどうなのかしらね…?」
「僕は気まず過ぎるよ…」
「俺も嫌かもな」
「え!そうなの!?」
いや、普通に昔の女性関係は気にしないって、良い事なのかと思ってた。
でも男二人の反応を見る限り、そういう事でもないらしい。
「まあ人それぞれだし、今の彼女にそう言ってもらえてほっとする男もいるかも知れないけど、裏を返せば、お前の過去知ってるぞって事なんだよ?ちょっと脅しっぽくない?」
「俺は単純に少しくらいは気にしてくれてもいいな。だって俺に興味ないって風にも感じるし…だからと言って気にされ過ぎるのも面倒だけど」
「あんたの答えが一番面倒よ」
「ルードヴィヒはぁ、ちょっと裏読み過ぎじゃなぁい?」
知らなかった。
そしてとってもためになった。こういう時男友達は参考になる。
「そりゃ一概には言えないけどさ、まあバルシュミーデ卿ぐらいの人だとそれなりに女性関係はあるの分かってるんだから、そこは素直に何も言わない方が良かったんじゃないかな」
「でも、ママの事あったし…。わたしが過去を気にする面倒くさい女みたいに感じられたらやだなって思って…」
「あんたとバルシュミーデ卿は出会って二か月だもんね。お互いの性格把握するには、まだ時間が足りないから…」
「これから少しずつ知っていけばいいだけでしょぉ?二か月でバルシュミーデ様は決断したんだからぁ、いろんなリスクは考えているでしょうしぃ」
リリノールの言う通り。
まだまだお互いを知るには時間が足りないし、これから努力すればいい事だと思う。
閣下の場合、忙しいからそんなにわたしに構ってる時間があるのか謎だけど。
「リリの言う通りね。まあ、困ったことがあったら相談しなさいな。少しくらいは力になってあげられるから」
「ありがとう!実は男の人と付き合ったことないし、どうしたらいいのか分からなかったんだよね!」
「かわいいわねぇ。でも逆に大変かもねぇ?」
「何が?」
「もしもよぉ?もしもこれで別れるなんて事になったらぁ、次クロエって誰かと付き合えるのかしらぁ?」
わたしとロイ以外の全員がリリノールの言いたいことを理解して、不憫そうな顔で見られた。
わたしとロイは顔を見合わせて意味分かる?分かんねぇとアイコンタクト。
「むしろ、その後のクロエの付き合う彼氏に同情が一票だよ…」
「審美眼磨かれまくっちゃうだろうからね…」
「初めての彼氏が最上級彼氏だとぉ、見比べちゃうわよねぇ……」
しみじみ言われて、わたしはそんな事は無いと言いたいけど、何となく分かる。
良いもの知ると、戻れないのが人間だと。
「というか、なんで別れる前提で話が進んでんの?」
「仮定の話だから、気にしないで。まあ、相手が大人で忙しい人だってクロエも分かってるから、そんなに迷惑はかけないでしょうし。そこらへんは弁えてるでしょう」
「男の仕事の話に首突っ込む女は嫌われるからね、一般的に」
「面倒だとは思うな」
それはわたしの立場だって嫌だと思う。
好きな事とか、仕事の事をとやかく言われるの好きじゃない。でも、閣下はわたしの話はちゃんと聞いてくれるし、的確なアドバイスもくれたりするので、そういうのは嫌いじゃない。
ただ、わたしが閣下の仕事にアドバイス出来るのかと言えば、まず無理だ。
まあバルシュミーデの試作品を試して感想言うくらいは出来る。
「とてもじゃないけど、仕事に対して何か言うとかムリだから。仕事は仕事だし。知識も経験も劣ってるの理解してるし」
「じゃあ、連絡もあまりとってないの?」
「コンバイルの連絡先は知ってるし、好きな時に連絡していいって言われてるけど…。朝も夜も仕事の時あるし、わたしからは連絡取りづらいよ」
「それはそうねぇ。わたしでもためらうわぁ」
朝は基本的に邸宅にいるけど、時々朝まで仕事の時もある。
わたしは閣下の予定を把握している訳ではないので、好きな時にと言われてもちょっと気兼ねしてしまう。
「それじゃあ、あまり連絡とってない感じ?」
「そう言ったら、向こうから連絡するって言ってきて……まあ、一応毎日話してる……」
最後はちょっと赤くなってしまった。
結局、毎日閣下からは夜に決まった時間に連絡が来る。なんだか慣れないので、ちょっと戸惑いはするけど。
「あの激務なバルシュミーデ卿がここまでクロエを優先するとは思ってもみなかったな……」
「まあ、愛されてるわねぇ」
生ぬるい視線が集まって、わたしは身を縮めた。
わたしだって、そこまでされて閣下を疑う事はない。
「もういいでしょ!この話はこれで終わりにしようよ!」
「ま、しかたないわね。これくらいで勘弁してあげるわよ」
わたしが叫ぶと、やっとこの話が終わってくれた。
まだ聞きたいことはありそうだったけど、流石に一気に聞きすぎたと思っているのか、遠慮してくれた。
「じゃあ、話変わるけど、二人の事はともかくとしてあの裁判は結局クロエは巻き込まれたわけ?」
たぶんルードヴィヒは、わたしの恋愛よりこっちの方が聞きたかったから、ここまで付き合ったんだろうなと感じた。
わたしの恋愛も興味はあったのかも知れないけど。
「ああ、あれは……結果的にはそうなるかなぁ?でも流石にそれ以上は言えないよ。一応法廷規約に書いてあるし」
法廷規約を持ち出せば、納得してくれた。
実際は予想してたみたいだから、そこまで突っ込まれなかった。ただ、そのあとにこりと笑って爆弾発言。
「ふーん、でもさバーバリア領でも活躍してたみたいだね?実は、ちょっと用事あってそこに居合わせたんだよ。バルシュミーデ卿といい雰囲気で、あの時の衝撃は言葉には出来なかったな。しかも、もう家族ぐるみなの?」
お茶を吹き出しそうになった。
どこまで見られていたのだろうか。閣下に自分からキスしたことは見られていないと信じたい。
「ほほぉ?なんだか、まだまだ聞きたいことが増えたわね?」
「そうねぇ」
「もう終わるっていったじゃない!ルードヴィヒも!」
話が戻ってきそうでわたしは強制的に終わらせた。
ルードヴィヒは楽しそうに笑っていて、一番の愉快犯なのが分かる。
「ま、じゃあしばらく忙しかったクロエと、皇都にいなかった女性陣二人にちょっとした話なんだけど、夜はしばらく気を付けてね」
急にそう言いだすルードヴィヒに全員が不思議顔だ。
「なんで、女だけなんだよ。男には関係ないのかよ?」
「騒ぎになるとまずいからって上が情報統制してるんだけど、実は最近皇都で女性が行方不明になる事件がちょこちょこ起こってるらしい」
その不穏な情報にさっきまでの桃色空気がどこかに行った。
「上が情報統制しているってことは軍の方でってことでしょう?なんであんたが知ってるわけ?」
「ちょっとした伝手かな?流石に情報源はいえないよ。分かってるでしょ?」
ルードヴィヒはどこから情報を仕入れているのか、とにかく情報通だ。
顔が広くて、色んな所に潜り込んでいるらしいけど、実際のところどうやって情報を手にしているのかは全員知らない。
時々わたしに言ったような爆弾発言もしてくるので、ルードヴィヒに隠し事は出来なかったりする。もちろん、言っていい事と悪い事は分かっているので、手に入れた情報をむやみに言いふらす事はしないし、友達を売るような外道でもない。
「皇都で行方不明とか、正直言えば今更なんだよ。スラムの方とかではそんなのは日常茶飯事だしね。ただ、今回は少し様子が違う。なんでも僕らぐらいの年代が狙われているらしい」
「それは…」
「おかしいでしょ?こんな事件が新聞に載らないなんてさ。だから、何か世間に知られたら不味いことでも起こってるんじゃないかって思うのはおかしい事かな?ちなみに、今のところ、五人行方不明になって三人戻ってきてる」
「それって、ただの家出じゃないの?」
面白くもなさそうにシャーリーが口を挟む。
わたしたちの年代はいわゆる思春期で親とぶつかる事も多い。衝動で家を飛び出して友達のところにいたりする場合がある。
「でも、その子たちが全員、行方知れずになっていた時の記憶がないっていうのはおかしいと思わない?」
「嘘言ってんじゃなくてか?」
「それも考慮されていたけど、戻ってきた三人全員が口裏合わせないと成立しなさそうだよ。ただ、その三人には共通点がないみたいで、そのせいで軍も公開するのは戸惑っているみたいだね。連続誘拐事件と言っても三人は戻ってきてるし、本当に誘拐かどうかも分からない」
どういう事情にしても、事件性があるかないかの判断がつきかねているらしい。
「一般には出回ってない話だから、とりあえず心の隅にでも留めておいてよ。まあ、クロエは強いし、リリノールにはだいたいロイがついてるし、シャーリーは送り迎えは護衛付きの送迎者だから大丈夫だとは思うけど」
「なんでそこでわたしは自分で自衛できるから大丈夫って感じになるわけ?」
「事実だからでしょ」
「本当の事だからねぇ」
「クロエが負けるんだったら俺も無理だわ」
「教師に何も教える事がないとかそうそうに言われてるクロエだったら、軍人でも簡単に伸しちゃいそうだしね」
それは閣下にも言われていたので、わたしはなにも言い返せなかった。
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