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43.カフェテリア個室での話

 手際のいいリリノールの手配の下、わたしは学校終わりに二人に引き連れられて、カフェテリアにやってきた。

 後ろからはもちろん、ロイとルードヴィヒも一緒だ。

 シャーリーとリリノール二人の勢いに押されていたけど、わたしの恋愛事情には興味があるらしい。

 カフェテリアは学院内にある施設の一つで軽食や飲み物などを手軽に楽しめる場所だ。

 他にもしっかり食事をとるなら食堂もあるけど、カフェテリアは個室もあって、グループ学習などで使われていたりする。

 個室は予約もなく使えるけど、予約しておけば優先的に使用できるので便利だ。

 カフェテリアで働く人に声をかけて、個室に通してもらう。

 わたしの正面にシャーリーとリリノールが座り、右隣にロイ、左隣にルードヴィヒが座る。

 まるで尋問される犯罪者のような布陣だ。

 昼食も兼ねてなので、各々食事を選び注文する。

 注文したものが来るまで、にこにこと怖いくらい微笑んでいる二人を見るしかない。ちなみに、助けを求めるように両隣を見てもロイは肩を竦めるだけ、ルードヴィヒは諦めなよって顔でわたしを見てた。

 注文の品が来て、食べ始める。

 食べ始めてから、する会話はなんとも無難だ。

 早速聞かれると思っていたけど、食べる事を優先するらしい。

 大体が近況報告で、長期休暇に何していたかを話していた。わたしは何か言えば墓穴を掘りそうだったので、ひたすら黙って聞く。

 シャーリーは北の領地へ避暑に行っており、ロイとリリノールは実家に戻って実家の手伝い。二人の家は大農家で、今の時期夏の収穫が忙しいらしい。ちなみに、ルードヴィヒも実家に帰って、実家の手伝いだ。

 そういうわけで、長期休暇の時に全員が集まる事はまれだった。

 食事ひと段落して、それぞれ手元に飲み物が配られる。

 わたしを含めた女性陣はお茶だけど、ロイは冷たい飲み物で、ルードヴィヒはコーヒーだ。


「さあ、お腹も満たされたことだし?クロエが夏休みに何やってたか、みーんな興味あるから、ぜひ楽しいお話をお願いね?」


 シャーリーが肘をつきながら楽し気に言うけど、目は笑っていない。


「今日の議題わぁ、クロエの彼氏についてねぇ」


 リリノールもにこにこ微笑んではいるけど、逃がす気はない。


「あのさ、僕違う事も聞きたいん――……うん、ごめん。なんでもないや……」


 口を挟んだルードヴィヒが二人の女子にギロリと睨まれて言葉を撤回させられた。


「さて、クロエ?隠さす話した方が身のためよ?」


 どうせ、もう分かっているのだからいちいち確認しないでほしい。だけど、女子がこういう話が好きなのはどこも一緒なのは分かっている。

 しかも、相手が知り合い――というか友人と、超有名な人との恋愛(コイバナ)なら食いつかない方がおかしい。

 一応、話さないとなとは思ってた。

 ここのメンバー口は堅いし、何と言っても気心の知れている友人だから黙っておくのは忍びない…というよりもたぶんそのうちバレるだろうし。そうそうにバレるとは思わなかったけど。

 さすが我らメンバーの情報通、ルードヴィヒ。その情報網に死角なし。

 全員の視線がわたしを向いているのに気付いて、ちょっと肩身の狭い気持ちになりながら、わたしは覚悟を決めてみんなに話した。


「……その、なんて言っていいか分からないんだけど……か、彼氏が出来ました?」

「……なんでそこで疑問形?」

「……彼氏じゃなかったらなんなのかしらぁ?」

「お付き合いしてる人?それとも……まさか婚約した?」

「してないよ!婚約なんて!!」


 そこは即座に否定した。

 防音の個室で助かった。そうでなかったらわたしの叫び声は外にまで聞こえていたはずだ。

 ふうとシャーリーが息を吐いて、続けた。


「で?お相手は?わたしたちはね、そこを聞きたい訳わけよ。クローディエ・リデオン?」

「そうなのよねぇ。お付き合いしてる人がいる事なんてクロエ見てたら分かるからぁ、知りたいのはそこなのよねぇ?」


 そんなにバレバレな顔してるのかと思いながら、男子二人が気付いてないところを見ると、女子特有の恋愛感知能力で察知したようだ。


「もう分かってるでしょ?」

「分かっていても、聞きたいのよ。ちゃんと。」

「クロエ、そんなに言いにくいのかしらぁ?それとも内緒にするように言われてるぅ?」

「ああ、そうね。考えもしなかったわ、内緒にするように言われていてもおかしくないわよね」

「ううん、別に話しても良いって許可はもらってる」


 むしろ、閣下は大々的に知られても問題ないと思ってる。

 ただ、わたしにその覚悟がないのも分かってくれているので、ゆっくりわたしを待っていてくれているだけだ。


「そうなの?じゃあ、お願い」

「もし何かあったらぁ、相談乗れるでしょぉ?」


 確かに、相談に乗ってもらえるならありがたい話だ。

 貴族階級のことは貴族階級か、それに近い人でしか分からない事もある。

 わたしは息を吐いて、覚悟を決めた。


「……わたしのお付き合いしてる人は、クリフォード・ゼノン・バルシュミーデ様です!……すっごい恥ずかしいんだけど!!」


 いざ改めて口に出すと、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 しかも何かの話の合間で話すのならともかく、こうして尋問めいた雰囲気の中では特に。

 

――しかもわたしの事だし!みんなの暴露大会とかじゃないし!


「おぉ!分かってたけど、すごい人物捕まえたもんだわ!」

「そうねぇ、察してはいたけど改めて言われると驚きしかないわねぇ!」

「いやー、なんか女友達の彼氏告白って、いたたまれないね。そういえば、これって父上に言ってもいい案件?」

「やっぱりさ、クロエより超強いって事か?」


 シャーリーとリリノールは華やかな歓声をあげて、ロイとルードヴィヒは冷静な判断。

 というか、ロイはなんかズレている。


「やっぱりコイバナは、こうでなくちゃね!それで?どっちから告白したの?というか、前から知り合いだった?」


 楽し気にシャーリーが問い詰めてくる。

 この際全部話した方が後々楽だと悟った。下手に隠し立てしても、そのうち上手く聞きだされて、そのたびに頭を抱えそうだ。

 それだったら、最も恥ずかしい告白をして、現在恥ずかしい思いをしているのだから、今ならなんでも答えられそうだった。


「知り合ったのは、長期休暇(なつやすみ)入ってからだよ。それまで、全く知らなかったんだから。店長とバルシュミーデ卿が知り合いだって」

「ということはルイージュ様のお店で知り合ったのね。でも、知らなかったの?結構有名だと思ってたけど…」

「興味なかったし……たしかに同じ年だし、同じ高等学院だけど、店長あんな性格だし。か…バルシュミーデ卿とは性格合わなそうじゃない?」

「ま、クロエは二人が卒業するころにここ来たし、知らなくてもおかしくないかもね」


 ここにいる四人は全員リブラリカ皇国生まれでリブラリカ皇国育ちだ。

 領地は違えど、わたしよりも噂の人物に関しては詳しい。


「じゃあ、偶然店で出くわしたって事ね」


 シャーリーがそうまとめた。

 間違いじゃないので頷く。


「むしろ、それ以上の接点はないというか…」

「他に接点といえばマダムの店だけど、流石にマダムのお店で鉢合わせ、とか言われたらそっちの方が驚くわよ」


 それはそれで気まずそうな出会いだ。

 ちなみに、ここの四人はわたしの後見人のママの事は知っている。

 知っても偏見な目で見ずに今も付き合ってくれているありがたい存在だ。


「でも、そうすると出会って二か月ほどで付き合う事になったって事だけど…そんなに気が合ったの?」

「うん、まあ…」

「どっちから告白したのかしらぁ?やっぱりバルシュミーデ様?クロエから言うとは思えないしねぇ」

「そ、そうだよ」


 話題がだんだん深くなっていく。

 これで終わりにしてくれないかなとか思っても、個室の予約時間はまだまだある。


「ふーん、つまりバルシュミーデ卿に言われて自分の気持ちに気付いたって感じか。僕からしたら、なんでクロエなんだろうとは思っちゃうけど……バルシュミーデ卿にはクロエを好きになる何かがあったんだろうね」

「わたしだって良く分からないよ。好きだとは言われたけど……どこが好きなのかとか聞いてないし」


 閣下には好きだって言われたけど、わたしのどこが好きになったのか実は良く知らない。

 具体的に言われたことないし、わたしも聞いたことがない。色々一杯過ぎて、そこまで考えたこともなかった。


「そういや、クロエって自分より弱い男とは付き合わないとか言ってたけど。それってつまりバルシュミーデ卿はクロエより強いって事?」

「ロイ、あんた何聞いてんのよ」

「だって気になんだからしょうがねえだろ」


 シャーリーが呆れたようにロイに言うけど、わたしとしたらそっちの質問の方が答えやすい。


「強いよ。少なくとも、魔法を剣で切れちゃうくらいには……」

「えっ、それ人なの?」

「すげぇ!まねしてぇぇ!!」


――そうだよねルードヴィヒ、そう言う反応だよね…。そしてロイ、なにか間違ってるよ……


 ルードヴィヒはかなり引いているようだけど、ロイはすげぇすげぇと騒いでいる。

 シャーリーとリリノールは流石ね程度なのが、男女の温度差なのかも知れない。


「ちょっと、話がそれてるわよ!それで、結局クロエも好きだから付き合ってるわけだけど、出会って約二か月、急展開にもほどがあると思うんだけど、その辺クロエ的にはどうなの?」

「どうって言われても…、そりゃあ、す、好きだし。時間は関係ないっていうし…」

「そおよねぇ、わたしでもあんな素敵な人に好きだ付き合ってとか言われたらよろめいちゃうわぁ」

「無理やりとか、別に流されたわけじゃないのよね?」


 シャーリーのどことなく真剣な問いに、心配されているのだと感じた。

 たぶん、シャーリーは貴族階級との付き合いで、上級階級だからこそ、力づくで抗えない関係というのもよく理解しているんだと思う。


「うん、それは違うよ」

「それならいいわ」


 それなら、とシャーリーにこりと微笑む。

 なんだか嫌な予感だ。


「ぶっちゃけ、バルシュミーデ卿とはどこまでいったのかしら?」


 その言葉に、ルードヴィヒが噴き出す。

 そしてわたしは一気に赤くなった。


「な、何を聞いてるんだ!」

「な、何聞いてんの!?」

「やだ、あんたこそ何考えてんの?しかも、クロエちゃん、あんたはなんでそんなに真っ赤なの?」

「い、い、いいでしょ!わたしたちの事なんて!」


――女子トークならともかく男もいる場でそんなこと言えるか!


「僕もクロエとバルシュミーデ卿の事なんて知りたくないよ!社交の場であった時気まずいだろ!!」

「やあね、ちょっとした冗談よ。どうせ、最後までしてない事くらい分かってるわよ。だって、クロエまだ初々しいし。なんだかんだでバルシュミーデ卿は真面目そうだから」


 ルードヴィヒの嘆きに、シャーリーがさらりとあしらう。

 わたしはどれもこれも本当の事で何も反論できない。

 そして、閣下が真面目なのも本当だ。


「ふーん、じゃあバルシュミーデ卿を待たせてんのか?ある意味すげぇな」

「まあ、そうよねぇ?あのお方なら、クロエを舌先三寸で言いくるめて、いい様にできそうなのにそうしないって事は、待つって事なんでしょうねぇ。クロエが大人になるまで」


 あからさまな言い様に、うっと言葉が詰まる。

 全くもってその通り。

 



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