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42.皇都ロザリア高等学院での話

 夏の長期休みが終わり、今日から高等学院が始まる。

 この二か月の間、かなり濃密な時間を過ごしていたわたしは、なんとなくやっと日常が戻ってきた感じがしていた。

 もちろん、始まった事での厄介ごとを思うと今から憂鬱ではあるけど。

 校門をくぐると、ちらちらと視線を感じる。

 一か月は経つので多少なりとも新聞の記事は落ち着てきてはいるけど、やはり皇室と関りのある裁判だっただけに、人の記憶から完全に消える事は無い。


――あー、見られてる。


 覚悟はしていたけど、ちょっと鬱陶しい。

 教室に入れば多少なりともましかと思って、足早に校内へ入ってく。

 廊下でもすれ違いざま、あの子とか法廷でとか聞こえてきた。

 教室のドアを開くと、すでに仲の良いグループで固まって、夏休み中の事を楽し気に話していたり講義の事を話していたりしていた。

 わたしはいつもつるんでいるメンバーを見つけてそっちに寄って行く。

 女二人男二人のそのメンバーは、実は中等学校からつるんでいる仲間だ。気心が知れている上に、お互いの事を良く知っている。


「おはよう、早いね」


 わたしの声に四人が顔を上げた。

わたしもいつもよりだいぶ早く来てたのに、いつも遅刻ギリギリで来る友人も来ている。

その友人四人はわたしを見て驚いていた。思いがけない反応に、わたしは首を傾げた。


「あ、あんた一体どうしちゃったの!?」


 一番初めに、声を張り上げたのはシャーリー。皇都生まれの皇都育ちで、大きな食品店の社長令嬢。生粋のお嬢様なのに、堅苦しいのは嫌っている変わり者。


「一番チビだったクロエが、急成長じゃねーか!」


 口悪く言うのは、ロイだ。赤毛で肌の濃い彼は、南の領地出身で、わたしたちグループのなかで一番背も高ければガタイもいい。

 いつも小さいわたしを揶揄って来ていた。


「ほんとねぇ、びっくりしちゃったわ。もしかしてわたしが一番小さくなっちゃたかしら?」


 のんびりとロイに同意したのはリリノールだ。フワフワの赤毛でロイと同じ濃い肌。ロイの双子の妹だけど、どうしてここまで体格差が出たのか不思議になる兄妹。


「君たちさ、もっと他に言う事ないの?」


 呆れたように眼鏡のブリッジ部分を押したのは、ルードヴィヒ。

 彼は北の領地の領主一族で、将来はその領地を継ぐ可能性のあるゼノンの名を持つ長男だ。


「例えば?クロエの胸がいつの間にか立派に成長してるとか?」

「げほ!な、なななんてところを見ているんだ、君は!!」


 真っ赤になって叫ぶルードヴィヒに、にやにや笑うシャーリー。

 というか、ルードヴィヒがシャーリーに突っ込んだけど、本当ならわたしが突っ込むところだ。


――でも、本当にどこ見てんの、シャーリー。


「まあまあ、実際クロエが全体的に急成長したのはまちがいないんだからぁ」


 二人を仲裁するリリノールは、にこにこと笑っていた。


「でもよ、たった二か月でこうも成長するもんか?」

「ロイは成長してたよ?」

「男と女とじゃ違うだろ」


 至極真っ当なロイの意見に、全員の視線がわたしに集まった。


「いや、なんていうかさ…、栄養改善された?みたいな感じ?」

「どういう理屈よ…」

「食えばでかくなるって事じゃねえのか?」

「それはあんただけよ」


 突っ込み属性のシャーリーが口達者に言葉を返していく。


「でも、あながち間違いじゃない。食べれば大きくなるっていうのは成長の観点で別段おかしい話じゃない」

「ルードヴィヒはそう言うけど、女子の成長は大体十五歳ぐらいで止まっちゃうのよ?男子だって似たようなもんでしょ?」

「例外もいる」

「それはそうだけどさ…」


 唇を尖らせながらシャーリーが尻すぼみになっていく。


「でもそれはともかく、わたしはクロエの雰囲気がガラッと変わった原因の方が知りたいわぁ。シャーリーもそっちの方が知りたかったんでしょう?」

「あ、そうそう。ロイが先に身体的成長を口にしたから話が逸れたわ」


 リリノールの核心を突く言葉に、わたしはどきりとした。

 なんか、わたしを知ってる人全員に言われてる。

 その思い当たる理由が分かっているからこそ言いづらい。


「なんか変わったか?」

「変わった?僕は身体的特徴以外良く分からないんだけど…」


 男子二人の声が被る。


「これだから男の子は~」

「あんたたち、鈍すぎて女にモテない理由が分かるわ」


 今度は女子連盟の呆れた声。

 別に気付いてほしいわけじゃないので、わたしはシャーリーもリリノールも男子二人のように鈍くても良かった。

 ただ、たぶんこういうのは女子の方が好きで適性もあるんだと思う。

 いわゆる、人の色恋沙汰というものは。


「で?クロエちゃんはどうしちゃったのかしらね?」

「そうねぇ、クロエちゃんはどうしちゃったのかしらぁ?」


 面白がっている口調に、バレバレなのは分かっている。

 否定したところで、追及がやむとは思えなかったので、ぼそぼそと打ち明けた。


「そ、その~。男の人とお付き合いする事になって……」

「まじかよ!?」

「それ本気?」


 教室中に響き渡るような男子勢の声に、わたしは睨みつけて黙らせた。

 一瞬シーンと静まりかえる教室に、何でもないという風にシャーリーが誤魔化す。


「あんたたち、もっと声下げなさいよ」

「でもよ、このクロエを落とすって、どんな猛者だよ。超気になるじゃん!」

「そうだよ、色気皆無な子供体型のクロエに告白するとか少女趣味(ロリコン)なのか気になるよ」


 散々な言われようだ。

 それに、今は有難い事に子供体型からだいぶ脱した。

 そもそも、それ以前から、そこまで子供体型じゃない。背がこのリブラリカ皇国の平均身長に比べたら低かっただけで。


「というか、二人は良く分かったね」


 わたしがそう言うと、当然と言う風にシャーリーが胸を張った。


恋愛話(コイバナ)は乙女の必須話題よ?雰囲気で悟るのは当然よ。むしろ鈍すぎるクロエがおかしいのよ」


 暗に過去に告白してきた相手への断り文句について言っていた。


「そうそう、わたし初めて聞いた時は、冗談とか遠回しのお断りかと本気で思ってたわぁ」

「あれ、本気の回答だからすごいわよね」


 過去の黒歴史を引っ張り出して大笑いしている四人にむくれた。


「しょうがないでしょ。だって、同年代何て子供みたいなものだし、それがいわゆる男女のお付き合いへのお誘いだなんて分かるわけないでしょ」

「あんたも大概子供よね」

「つーかさ、あれ以来こねーよな。クロエへの告白…」

「ああ、自分より弱い相手とお付き合いできませんって言って、ボコったあれかぁ」

「あれは一番可哀そうに思ったわぁ」


 あれは仕方がなかった。

 そう言ったら、じゃあ手合わせしろと言ってきたので、負ける訳にはいかないし、諦めてほしかったからちょっと手痛い感じでやり過ぎた。

 そのあと、ちょっとした報復があって、それに対して正当防衛を主張しつつ、相手を完膚なきまでにノしたのはただのおまけの話だ。

 それ以来、煩わしい告白に付き合わなくて良くなったので初めからこうしておけば良かったと思っていた。


「見ためで寄ると猛毒持ちと、全生徒に知れ渡った瞬間だよなぁ」

「まあ、そんなクロエがお付き合いする事になったんだから驚くのも当然だよね」

「少なくともクロエより強いって事前提だと、学院生じゃないわよね?」

「それに、年上とみたわぁ」


 どうしてそうやってビシバシ当てていくのか知りたい。そんなに分かりやすいだろうか。


「クロエより強くて学院生じゃない年上の男…対象が広過ぎよ」

「しかも、色気もありな女性慣れした、女遊びが得意な男よぉ」

「ああ、分かる!クロエの雰囲気見てたら、遊ばれてますって感じだもんね!」

「そうそう、お金も持ってそうねぇ」

「うんうん、肌艶すごくいいもんね。この時期のクロエ髪も肌も疲れてるのに、そうなると手間暇かけてクロエを磨いてる――、うんこれ結構絞れそうだわ」

「もう!いいでしょ!!」


 いい加減止めておかないと丸裸にされる。


「あらぁ?何かしら、赤くなっちゃって」

「べ、別に何でもない。ちょっと暑いだけ!」

「そう?まあ、クロエが話したくないなら、別に無理やり聞きださないけど」


 あっさりと引くシャーリーとリリノールに、わたしはほっと溜息を吐いた。

 このまま推理されていたら、全部バレそうだ。

 別に言ってもいいと言われているので話してもいいけど、なんとなく恥ずかしい。

 

「ところで、あんたこの二か月一体何やってたの?新聞に載ったと思ったら連絡途絶えるし、聞きたいことは山積みなんだけど?」


 恋愛話(コイバナ)から一転、シャーリーが聞いてきた。

 それにはルードヴィヒも興味があるようで、身を乗り出してくる。


「僕はあの裁判の事ちょっと聞きたかったんだよね。あれは結構大々的に各新聞社で取り上げられていたから。クロエの名前見つけた時は驚きすぎてお茶吹き出しかけたよ」

「わたしもよぉ?心配したんだからぁ」



 権力者と知り合っても、それがいい方に傾くとは言えない。

 現に第一皇子には散々な扱いをされたのだから。

 そう言う事も含めて心配している様だった。


「詳しくは言えない、やっぱり皇室の問題だから」


 想定内の答えだったのか、ルードヴィヒはだよねとあっさり引き下がる。

 しかし、その目はまだ何か企んでいた。


「でもね、僕はもう一つぜひ聞きたいことがあるんだよね?」


 ルードヴィヒが言葉を切って意味ありげにわたしを見た。


「なんでバルシュミーデ様の邸宅にお世話になっていたのか…とかね」


 その言葉に、キラリを通り越してギラリと目を光らせたシャーリーが、へぇぇぇと唸った。


「それはとぉぉぉっても楽しそうな話ねぇぇぇ?」

「本当ねぇ、わたしも是非聞きたいわぁ…」


 たぶんその瞬間、二人は理解したんだと思う。

 そして、終わった話が舞い戻ってきたことに気付く。


「ふふふ、クロエより強くて年上で…」

「色気があって、女性慣れした男性?」

「そうそう、あとお金もってそうな男…」

「あの方のお屋敷なら、さぞや優秀な侍女さんは揃っているわよねぇ?」


 ポンと両手を合わせながら、リリノールもニコリと圧を強め、シャーリーと同調する。

 その勢いに、男子勢が若干引いていた。


「あら、今更だけどここじゃあれね。ぜひお茶をしながらゆっくり語り合いましょう?今日は学院開始日で半日だもの、お仕事あっても時間あるでしょう?」

「あ、わたしさっきカフェテリアの席予約しておいたのぉ。ちょうど個室よ?」


 がしっとわたしの片方の肩を掴んで逃がさないわよとでもいうような気迫のシャーリーに、準備万端なリリノール。


「流石、リリ!分かってるわね」

「え、ちょっと待とうよ…」

「やあねぇ、なにビクついてるのかしらぁ?大丈夫よぉ?ちょーっとお話しするだけだからぁ」


 ぽんともう片方の肩をリリノールに叩かれ、そのままぎゅっと掴まれる。


「あんたに拒否権はないのよ?」


 そう言ったシャーリーの目はまるで肉食獣の如くわたしを丸のみしそうな勢いだった。




オトモ達連合が登場したよという話

クロエはそれなりにモテてるよという話


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