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41.5.閑話での話:ヴァルファーレ視点




 まだ残暑の残る暑い日、私はいつも通り自分の店のカウンターに座りながら、新しく手に入れた迷宮産魔道具の手入れをしていた。

 この夏、迷宮協会(ギルド)から依頼があり、それを受ける事にしたそれは新しい迷宮の調査依頼だ。

 夏の暑い時に砂漠に行くと言うと、かなり変な目でクロエ君には見られたが、実際には砂漠は年中暑く砂と埃が舞う劣悪な環境だ。夏も冬も関係ない。

 その目的は新しく発生した迷宮に潜る事だ。

 正確にはまだ迷宮かどうかは認定されていないので分からない。

 迷宮協会(ギルド)からの依頼があったというのもあったが、迷宮である確信があったので砂漠くんだりまで行ってきた。

 クロエ君なら、店を任せられるので信用して行ってきたが、まさかその間にクリフォードと知り合いになって、彼の邸宅(ロードリア)に滞在する事になっていて、リアムド・ローレントの件に巻き込まれているとは思わなかった。

 まあ、リアムド・ローレントの件は完全に私の責任でもあったので、お詫びも兼て休暇と給料の上乗せをしておいたが。

 そんなクロエ君は、再び厄介そうな案件に巻き込まれ、先日帰ってきたようだ。

 ご丁寧にも、今日訪ねてもいいかと連絡が来たので了承しておいた。

 カランと店のドアに取り付けられている鈴が鳴り、顔を上げればクロエ君が入って来る。

 その瞬間、おやっと思った。


――雰囲気変わりましたか?


 もともと留守にしていた一か月強の間に、クリフォードと何かあったようで、まだまだ子供だと思っていたクロエ君が少し女性らしい雰囲気になっていたが、今日はそれに増して落ち着いた雰囲気を放っていた。

 たぶん、クロエ君を子供の頃から知っているので、そう感じるのだと思う。

 

「こんにちは」

「こんにちは、店長。これ、バーバリア領で買ってきたお土産です」

「ありがとうございます。おや、焼き菓子ですね?」

「なんでも有名な焼き菓子らしいです」


 なんともクロエ君らしい気遣いだ。

 どこかに行くといつも律儀にお土産を買って来てくれる。大体が、消費ものなのでありがたくいただいていた。


「バーバリア領で大変だったみたいですね」


 大体の事は新聞で読んだ。

 きっと大変だっただろう事も想像できた。


「はい、とっても大変でした」


 カウンターに座り、バーバリア領での事をクロエ君が詳しく話してくれた。

 新聞では分からなかったことを詳しく知り、眉を寄せる。


「閣下はこれからしばらくその事で色々忙しいみたいです。それに、バーバリア領の事もあるから閣下のお父様も忙しそうで…」

「そうですね、しばらくあの領地周辺は荒れそうです。対処できるなら早めに対処した方がいいでしょう」

 

 領主一族による大量虐殺容疑なんて、貴族への格好の攻撃理由だ。

 領地をもつ一族が貴族の称号を持つのがこのリブラリカ皇国だが、近年ではその貴族への民衆の圧力が溜まっている。

 貴族階級の廃止が叫ばれ続けていた。

 しかし、貴族階級は何も悠々自適な税収生活を送っているわけではない。そんなことを知らせずに世論を操作しているのが貴族階級に敵意をもつ上級階級の人間だ。

 金も権力も持っていても、決して貴族になる事が出来ない人間。

 貴族になるには領地をもらうしかないのだが、今のリブラリカ皇国にそんな領土はない。若干皇室所有の領土はあるが、それは本当に功績を残した人物に下賜される物で、ここ三百年は新しく領地が増える事は無かった。

 ではどうやって領地を得るか。

 借金地獄に陥っている領地への政略結婚により乗っ取る方法しかないが、そんなあからさまな方法は貴族社会では歓迎される事はない。

 しかも、そういう貴族が増えれば結局リブラリカ皇国という国自体が揺らぐ事になる。

 だが、今回の件はある意味貴族の存在、その在り方を全国民に考えさせることになっただろう。

 上級階級が喜びそうなことだ。

 権力争いに興味のない私は、ゼノンの名を持ちながら、領地を継ぐこともなく、その替え玉になる事もなく、自由に生きていた。

 だけど、知っている。貴族が清廉潔白であるべきというのは理想だ。

 領地を守る為なら、少しくらいは汚い事はやっている。

 あの本質が不正を嫌うクリフォードとて例外ではないだろう。領地を守る為なら、一つ二つの不正を揉み消す事ぐらいするはずだ。


「そこで、魔法士に会いました」


 クロエ君が真剣な目で私に問いかけた。


「店長は何か知りませんか?店長と同じ攻撃系統魔法士で、かなりの使い手です。少なくともわたしは店長並みの腕を持っているのではないかと思いました。自身の魔力性質を悟らせませんでしたから」


 魔力性質とは、人によって異なる魔力の性質だ。これは個人で異なり、同じものを持っていることはない。

 クロエ君はその魔法系統的にそういうのを感じ取るのが得意だ。それによって個人を特定する事も。

 そのクロエ君に悟らせないという事は、自分の魔力を変質化させ、様々な性質を魔法に組み込んでいたという事。


――全く、この子は…


 本当に油断ならない子だ。

 襲われている間でも、それで相手を特定しようとするとは…。


「店長?」

「ああ、すみません。少し考え事を――…、先ほどの質問ですが一人います。東の領地に仕える人物ですが」

「東?」

「ええ、なのであまり大ぴらに知り合いだと言うのは疑われる原因になるので、ここだけの話にしてください」


 一応、カーティス殿下の学友で友人と位置付けられている私が殿下と敵対関係にも近い領地の人間と知り合いとなれば、困る事態にもなる。

 正直、どうでもいいかとも思う時があるが、まあ、東の人間は気に食わないやつらが多いので親しく付き合う予定もない。


「なかなかの腕の持ち主ですよ。私ほどではないと思いますが、全方位攻撃魔法が得意だったと記憶しています」

「……そうですか」


 何か思い悩むことがありそうだけど、クロエ君はこうなったら教えてくれない。


「ところで、ずっと聞きたかったんですけど、なんでリアムドさんに協力してあげたんですか?店長の性格的に、ただで協力するような事はないと思いまして…」

「結構酷いですね、私だって時には同情して手を貸したりすることもあるんですよ」


 あの日、クリフォードに引きずられ、カーティス殿下と三人で飲んだ時にも同じ質問をされ、同じように返した。

 明らかに疑っている二人の目と同じ目をクロエ君はしていた。


――失礼ですね、全く……


 自分の行いのせいだという事は分かっていたが、そのあからさまな目に苦笑が漏れた。

 まあ、あえていうなら――…


「第一皇子が嫌いだからですよ」


 その答えに、クロエ君は驚いたようだった。

 そして、どこか納得している様でうんうんと頷いている。


「だと思ってました。だって、絶対店長が嫌いそうだなって思いましたし」


 その返しに、逆に私の方が驚いた。


――ああ、やはり気付かれていましたか。


 私が全て知っていた事に。

 その事を尋ねると、クロエ君はあっさりと笑った。


「だって店長、迷宮産魔道具の事なら他国の国宝だって知ってるじゃないですか。それなのに、あれを知らないとか思いもしませんよ」


 本当に驚く。

 場合によっては他国の争いに介入したと見えるのに、クロエ君が全くそう思っていない事に。

 ただ、第一皇子が嫌いという言葉で全てを悟って、信じた。


「わたしも店長と同じです。黙っていました、中のものを」

「リアムドは、中身が入ったままでクロエ君に鑑定を?」

「はい。たぶんですけど、わたしがそこまで正確に鑑定できるって知らなかったんじゃないでしょうか?」


 確かに、クロエ君のことをリアムドには話していた。

 そして、その鑑定の腕の事も。

 でも、中身まで鑑定できるような人間である事は話さなかった。そもそも、なぜここに来たのかも分からない。

 目的は達成したのだからそんな必要はないだろうに。


「店長のこと、疑ってたんだと思いますよ?」


 私の考えを読んだかのようにクロエ君が笑った。


「店長は性格悪いですからね」


 意地わるそうに、生意気な口で答えた彼女の頭を苦笑しながらぽんと叩いた。


「失礼ですよ、クロエ君」


 自分でもあまり性格がいいほうでないのは知っているので、それくらいに留めておいた。

 他人から見れば理解できない行動理由も、一応私なりに理由があるのだと理解してくれる人は少ない。

 別に理解してもらうつもりもないが、いくら言っても聞かないような人間を相手にするのも面倒なので、クロエ君やクリフォードのような相手は楽でいい。


「じゃあ、わたしそろそろ行きますね」


 そういえば、入ってきた時にも思ったが、今日は少しいつもよりかわいらしい装いをしている。

 いつもクロエ君が買わないような質の良い服を着ていたので、クリフォードかと思って聞くと、カールハイツ様が買ってくれたものらしい。

 しかし、そんなお洒落をしてどこに行くのかと思いながらも、もしかしてと声をかけた。


「クリフォードとデートですか?」


 別に揶揄うとかそんな意味は無かったのだが、クロエ君は分かりやすく顔に出た。


「そ、そうですけど?」


 なんとも初々しい反応が返ってきた。


――ああ、これは……

 

 こっちが恥ずかしくなるような付き合いたての反応。

 クリフォードが私の店でクロエ君にちょっかいをかけている姿を見ていたので、もしやとは思っていたが、そのもしやは真実だったようだ。

 ただ、クロエ君は戸惑っている様だったし、付き合っているようでも無かった。少なくとも、バーバリア領に行くまでは。


――なるほど?つまり、旅行先で進展したと…


 訳知り顔で頷くと、クロエ君はさっさと店から出て行った。

 クロエ君の事は中等学院の頃から知っている。あの頃は、本当に子供だった。ただし、やはり将来が楽しみな美少女であったことは否定しない。

 ついこの間まで、その子供の雰囲気が抜け切れていない感じだったのに、まさかここまで変わるとは驚きだ。

 恋は人を変えると言うが、まさにその通り。


――子供の成長は早いものですね…


 しみじみそう思う。

 ただ、クロエ君を変えたのがクリフォードだと思うと、ちょっと思う所もある。

 新しい事への柔軟性があるにも関わらず、どこか頑固なクリフォード。そんな彼が選んだのはまだ子供も同然な相手。

 まあ、真剣なんだろうとは思う。

 そうでなければ、クロエ君を選んだりはしないだろうから。


――幸せなのは良い事です。


 そう思いながら、静かになった店内で、再び迷宮産魔道具の手入れの続きをする。


――そういえば…


 あの服はカールハイツ様が買ったものだと言っていた。

 別にクロエ君が誰に買ってもらったものを着ようと私は構わないが、クリフォードは嫌がりそうな気がした。

 クロエ君自身の家族ならともかく、自分の父親が買い与えたものを身に付けて、それが非常に似合っていたら……。


――クロエ君には分からないかも知れないですね。そういう男の心情と言うのは。


 まあ、願わくば今日のデートが平和に終わる事を願っています。



 


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

12月は毎日更新を目標としがんばってきました。

1月からはしばらくゆっくり更新予定です。

暇つぶしに読んでいただけたら幸いです。


気が向きましたらブックマーク、評価よろしくお願いします。




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