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41.舞台の上での話3

今年はお世話になりました。

読んでくださっている方々、ありがとうございます。

来年もよろしくお願いします。



 水の中は別世界だった。

 熱くもなく冷たくもなく、穏やかな流れ。ゆらゆら揺らめく、不思議な世界だ。

 光が一点から全周囲に拡散しているのは、この水が魔力伝導の良いせいかも知れない。


――どこに…


 光の差す方向へ向かうけど、結構深い。

 水を分解して酸素を確保しているけど、泳ぐのはちょっと大変だ。

 裾を短くしているとはいえ、足に纏わりつく布はどうやっても取ることは出来ない。

 だからと言って、裸で水の中に入るのは嫌だ。


――あそこ!


 やっと見つけた光の収束地点、砂に埋もれるように魔石が輝いていた。

 凝縮した魔力の塊が今にも爆発しそうなエネルギーを感じる。

 そっと触れると、あの瞬間なぜ爆発しなかったのか気付いた。


――この水が…


 魔力で出来た水との親和性で、多少なりとも衝撃が緩和されていたようだ。

 そしてわたしが施した結界で外にあふれ出る魔力が押しとどめられている。

 湖の外に出せば押さえつけられてる魔力が爆発する可能性がある為、ここで魔力を放出するしかない。


――少しずつ……


 店長のような攻撃系統魔法に素質がある人には出来ない細かい操作を行う事が出来るのが無系統魔法だ。

こういう時自分が無系統魔法の方に素質があってよかったと思う。

 ゆっくりと魔力を流していく。しばらく集中すると、次第に光が落ちついていく。

 これだけ魔石の魔力を安定させれば問題ない。


――よし!


 わたしは魔石を持って浮上する。

 満月で明るいので、魔石の光が薄くなっても結構明るい。

 ざばりと水の中から顔を出すと、舞台の上では閣下が待っていた。

 わたしの姿を認めると、すぐに手を差し出してくる。


「大丈夫か?」

「はい…」

 

 手を重ねようとすると、閣下はわたしの腕を掴んでぐっと引っ張り上げてくれた。


「あ、服――」


 濡れますよと言おうとして、閣下が自分の上着を脱いでばさりと肩にかけてくれた。

 しかもご丁寧に前も留める。


「あの?」

「いいから」


 良く分からないまま、ありがたく借りておく。

 水の中は特に熱くも冷たくも無かったけど、いざ上にあがってみると身体が冷えていた。


「どうだった?」

「大丈夫です、これ」


 件の魔石を閣下に渡す。

 だいぶ魔力を放出させたので、普通の魔石のように扱えるはずだ。


「ああ、すまない」


 閣下が受け取り、ポケットにしまい込む。

 少し疲れて座り込んでいると、閣下が心配そうに声をかけてきた。


「すぐに休めるように父に言ってある。俺はまだこの事態の収拾がつかないからここから離れられないが…」

「はい、実はかなり疲れました…」


 湖の水面に結界を張って、水の中に潜って、魔石の中の魔力を外に出して…。

 さすがに色々と消費していた。魔力も体力も。

 たぶん、今日はそれ以上に精神的にも限界が来てたかもしれない。


「今馬車に――…」


 閣下の言葉が不自然に切れて、なんだろうと閣下を見れば、いきなり立ち上がり鞘に納めていた剣を抜く。

 一体何事かと思えば、急に周囲が明るくなった。

 すごいスピードで舞台の上にいるわたしと閣下に迫りくる飛来物。

 それは勢いよく迫る熱の塊。

 わたしはそれをすぐに理解した。


――魔法!


 すぐに障壁をはろうとしても、身体から力が抜けて思うように魔力を集中できなかった。

 その間にもせまるそれの衝撃にぎゅっと目を瞑る。

 しかしその直後、物凄い風圧がわたしの身体を通り過ぎた。

 痛みはない。


「大丈夫、これくらいならなんてことはない」


 そんな事を言う閣下に、わたしは唖然としてぽかんと見上げることしか出来なかった。

 再び、飛んで来る魔法を閣下は、自分の得物で一気にかき消す。いや、切って消滅させたと言った方がいいかも知れない。

 驚きすぎて、声が出なかった。しかも閣下はなんてことない顔で正面を見据えていた。

 魔法は一回だけではない。

 次々と襲い来るそれに、全て対応していた。

 その早い飛来物を、一つも逃す事無く消滅させていく。


――け、剣筋が見えない…

 

 閣下が最強だと口々に言われる一端を見た。

 恐らく、世界には魔法を切れる人くらい何処かにはいる。むしろ、一兄様とかできると聞いたことがあるけど、実際にそれを見たのは初めてだった。

 早すぎて今のわたしには目で追えない。

 全てを叩き切り、静けさが支配した。

 誰も何も言えず、ただその場に居た全員が閣下を見ていた。


「気配が消えたか…」


 一点を睨みながら閣下ば剣をしまう。


「逃げられた。たぶん、あの親子が言っていたあのお方の可能性があったが…」


 仕方がないと、首を振る。

 わたしは未だに固まったまま、おそるおそる閣下に聞いた。


「あの、魔法…切りました?」

「まあ、切ったな。意外と慣れればそうでもない」

「……慣れれば?」

「慣れたな、ヴァルファーレのおかげで」


――店長のおかげ?


「学生時代、ヴァルファーレの魔法に散々やられた。向こうもまだ未熟だったおかげでなんとか勝てていたが、そのうち限界が来ると分かっていた」


 そういえば、店長は学生時代に魔法を使いまくっていたと聞いた。

 閣下はそれでも勝っていたとなると、その時からかなり強かったのが窺える。


「だから、無効化する方法を考えた結果、ああなっただけだ」


 だいぶ説明を省略された。

 だけど、説明されても理解できるか謎だ。おそらくかなり感覚でやっている。

 なので――


「そ、そうですか…」


 としか言えなかった。

 閣下は肩を竦めて、わたしを抱き上げた。


「クリフォード…」

「すみませんが、クロエをお願いします。少し調べる事が出来ました。疲れているようなので、休ませてあげてください」

「あ、わたし自分で――…」


 全身濡れているので、申し訳なくてそう声をかけたけど、閣下がそのままお父様にわたしを渡す。

 お父様は心配そうに閣下を見ていたけど、すぐにわたしを馬車に連れて行った。


「疲れているだろうけど、少し待っててもらっていいかな?濡れるとかそういうことは気にしなくていいから、楽にしてていいからね」


 わたしはお父様の言葉に甘えて、背もたれに背を預け目を閉じた。

 思い出すのはさっきの魔法だ。

 一発一発の威力は低そうだったけど、まるで自由自在に操るかのような動きはかなりの腕の持ち主のはず。

 しかし、そんな人がいれば噂ぐらいにはなりそうだ。


「待たせたかな?」

「あ、大丈夫です。すみません、ご迷惑かけて…」

「いや、むしろ迷惑かけたのはこっちの方だ。お礼を言わなければならないな」


 お父様が申し訳なさそうに頭を下げる。

 わたしは慌ててお父様を止めた。


「そんな、大丈夫ですから!大事に至らなくて良かったって思ってます」

「うんうん、もしかしたらヴァルファーレ君は何かあるかも知れないと勘づいていたのかも知れないね。だから君を送り出してくれたのかな…」

「それは、分かりませんが…」


 どちらにしても、店長にはちょっと色々聞きたかった。

 戻ったら、知りたいことを聞いてみようと思う。


「別荘に戻ったら、すぐに湯につかるといい」


 お父様にそう言われてわたしは素直に頷いた。

 その夜、別荘に戻ったわたしは熱を出していた。

 お風呂に入る時に、別荘の侍女に言われて気付いたのだ。

 だるいとは感じていたけど、勝手に疲れていたからだと思っていた。

 ベッドの中に入ると、お父様が部屋に入って来て、大丈夫かと聞かれる。

 ぼんやりしていて、なんて答えたのかは定かではない。

 遠くで、医者を――とか暖かく――とか聞こえてきたけど、夢うつつのわたしの耳にはそれが現実なのか夢なのか判断が付かなかった。

 うとうとしていると、ふと冷たい何かが頬に触れる。

 それが気持ちよくて、くっつくように身を寄せた。

 頬の次には額に冷たいものが触れて、なんとなく目を開ける。

 ぼんやりする視界に、誰かが映ったけど、なぜか閣下だとすぐ分かった。


「閣下……きもち、いです……」


 いつもひんやりしているその手が、今はもっと冷たく感じて、手にそっと触れた。

 その手をぎゅっと握りこんで丸まると、ほっと安心する。


「本当はダメだが……許してくれるだろう。今日くらいは――……」


 閣下が何か言っていたけど、わたしは閣下の手の冷たさに気持ちよくなってそのまま朝まで眠っていた。




*** ***




「いい加減、機嫌を戻してくれないか?」


 熱を出してから二日後、わたしは閣下と向き合って魔鉱石列車に乗っていた。

 閣下が困ったようにわたしの機嫌を取ろうとしていたけど、この二日間ほとんど口もきかないくらわたしはむくれていた。

 なにせ、あの熱を出した翌日、すっきりした気分で起きると、ベッドのふちに閣下が腰掛けて目を閉じていた。

 しかもわたしは閣下の手を自分の手に抱き込んでいたのだから、驚きすぎて変な声が出た。

 そして、朝お父様の意味ありげな目も、別荘内の使用人の生ぬるい目も気まずすぎて、そもそもなんで閣下がわたしの部屋にいたのかも謎過ぎて、頭が混乱していた。

 その結論が、わたしが徹底的に閣下を避けているということになった。

 たぶん、告白の返事をする前よりも。

 お父様は、このあと領地の後始末や今後の事もあってすぐ自分の領地に戻るとの事で、閣下と一緒に皇都に戻る事になったけど、わたしは怒ってますと言う態度を変えずに、つーんとそっぽを向いていた。

 閣下は降参だとでも言うように、わたしに謝った。


「何に対して謝ってるんですか?」

「俺が、勝手に部屋に入った事、朝までいた事に」

「そうです!寝てる間に女性の部屋に入るなんて、絶対ダメです!たとえ付き合っていても、礼儀は必要です!」


 わたしの勢いに苦笑しながら分かったと頷いた。

 それに少しだけわたしも態度を軟化させる。


「本当に、分かってます?」

「分かってるさ。父にも流石に言われた」


 どうやらあの朝にお父様から小言があったらしい。


「分かってるならいいです……」

「だけど、あれは動けなかったのもあったんだが?誰かさんが俺の手を握って離さないから」

「う、うるさいですよ!そもそも閣下が入ってこなければよかっただけです!」

「分かった分かった、もうやらない。約束するから。ほら、こっちに来てくれないか?」


 手を広げられて、わたしを誘う。

 二人きりだけど、二人きりではない。

 でも、仲直りのつもりで従ってあげた。

 閣下に軽く抱きしめられて、その腕の中でわたしは疑問に思っていたことを尋ねた。


「そういえば、閣下はいつから自分で身体強化出来るようになっていたんですか?」


 それにちょっと曖昧に笑った閣下に、わたしは悟った。

 たぶん、リアムドさんの件が終わる頃には出来ていたんだと。そして、それを黙っていたのが、わたしとの時間を過ごすためだと。


「わたしが緊張してたの気付いてました?」

「分かっていたが……それがうれしくて、止められなかった」


 素直に認めた閣下に、それ以上何も言わなかった。

 だけど、これで朝の魔力訓練は必要なくなった。


「それじゃあ、わたし夏休み終わる前に家に戻ります」

「別にこのままでよくないか?」

「適切な距離感は必要だと思います。付き合っていますけど、あまり世間体はよくありませんので」


 別に成人した男女なら同棲もありえるけど、わたしは学生なので、適度な距離感は必要だと思っていた。

 なんでも頼り過ぎるのは良くない。


「別に俺は構わないんだが…」

「わたしが構うんです。友人と気軽に遊べなくなるのも嫌ですし」

「そっちが本音か?」


 そりゃあ、閣下と一緒にいるのも楽しいけど友人と遊ぶのとはまた違う。

 閣下の邸宅(ロードリア)にいるとそういうのは気を使う。気を使わなくて良いと言われても、今はまだ無理だ。

 流石に閣下もそれを理解してくれているのか、ため息を吐きながらもしょうがないと言ってくれた。


「俺とも会ってくれるな?」

「それは、まあ……お付き合いしてますし――…」


 今までみたいに毎日会えるわけじゃないけど、お互いの連絡先は知っているし、何かあったら連絡できる。


「しばらくはそれで我慢するか」


 皇都に戻れば、数日後には長期の休みが終わった高等学院が始まる。

 なかなか濃い二か月間で、色んなことがおきた。

 正直その中でも一番の驚きが、自分が誰かと付き合う事になったという事かも知れない。

 その相手が同年代ではなく、大人で超有名な人だというのも驚きだけど。

 なんだか、友達には根掘り葉掘り聞かれそうな感じだけど、どこまで話していいのか悩みそうだ。

 だけど、今は少しだけこの腕の中で何も考えないで甘えていようと思った。

 

 


閣下はクロエの寝室に忍び込む(?)事を当たり前だと思っている節があるという話

クロエが閣下に怒って甘える話


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